西方の守護獣
『冥虎─か…』
少し違和感を覚えた名前だった。どこかで聞いたことがあるようなないような、そんな名前だった。
冥虎は鋭い目でこちらを睨んでいる。
目に注目していると、冥虎の姿が一瞬にして消え、気ずけば背後から大きな爪を振り下ろしていた。
俺は振り下ろされる爪を軽々と避け、反撃の準備をする。
『─フロスト《凍てつく氷》─』
これは相手に命中すれば身体機能を低下させられる能力を持つ魔法なんだが…そう上手くは行かないか。
冥虎は魔法をヒョイっと避けてしまった。
冥虎は少し距離をとった、そしていきなり近ずいてきて、俺を攻撃してくる。
((大きな爪は一度当たれば深い傷になりかねない、もし当たったら勝機はなくなるか……))
冥虎は右手左手と、腕を振り下ろし攻撃してくる。
だが、俺も負けじとその攻撃をかわしてゆく。
すると冥虎は後ろ足を引いて勢いよく振り上げてきた。
その足は俺のみぞおちに直で当たってしまい、俺は地面に倒れ込んでしまう。
『ぐぉえ──』
口からでた血は地面に飛び散った。
((クソ─普通の魔法じゃ勝てない!この体にまだ俺の魔法が完全に使える程の魔力がない──))
((ここで何もせずに死ぬよりは、一か八かこの魔法に賭けるしかないか───))
そんな事を考えてる最中冥虎の影から無数の触手が現れた。
その触手はアラクスに向けて一直線に進んで行く。
『─讃歌─カツフート《扉の跳躍》─』
アラクスはまるで風のようなスピードでこちらに飛んでくる触手を華麗に交わしていく。
一つ二つ三つと、何個何個も避けてついに冥虎の近くまでらってきた。
((ここまで来たらもう充分か──))
全てをこの1発に賭ける
『
原שָׁלו魔שאִירֶא─シャルヴァーツ─ 《眠れる魂の門》』
魔法を唱えると大きな扉が現れた。扉が開き無数の手が冥虎を覆う。
悲劇のヒロインのような冥虎の悲しい声がダンジョン内に響き渡る。
冥虎の身体から黒い蒸気のようなものが扉へと吸い込まれていく。無数の手は冥虎にまるで何かついてるかのように皮膚をえぐりとる。
何度も響く冥虎の鳴き声、見てられない程の悲惨さ。
"バタン"と扉がしまった。
目の前にはさっきいた冥虎の姿はなく、スレンダーな小柄体型の白髪の美少女が立っていた。
すると少女は口を開く。
「貴方が私に取り付いていた悪霊を取り払ってくれたのね!」
『あぁ、一か八かだったけど、成功してなによりだったよ。まさか悪霊を祓う"西方の守護獣"が悪霊にとりつかれるとはな』
「もう!しょうがないでしょ─悪霊を祓いすぎてその悪霊達に足をすくわれたの!
というか、私の事を知ってるのね。」
『当たり前だろ、五行の金に属し、西方の守護獣として、他の三神と一緒に天地のバランスを保つ存在、
その名を"白虎"そうだろ?』
「そうそう!私を知ってるなんて中々居ないからびっくりだよ~
私を救ってくれたお礼に何かしてあげたいんだよね。
んー何にしようかな──」
「あっ!そうだ、これ受け取って!」
ウィンドウから文字が現れた。
───白虎からの贈り物が贈られました───
●白虎の星痕(神星)
──能力───────
・白虎の力を一部使うことができる
──────────────────
●称号"白王(神星)
──能力───────
・西に関係があると"基礎体質"が上昇する。
・季節が秋になると"基礎体質"が上昇する。
──────────────────
●スキル─白夜(固有神唱)熟練度0%──
──能力───
・熟練度が上がると解放されます。
─────────────────────
『なぁ白虎、この"神星"って何なんだ?』
「んー、人間界では星の力を階級で現してるじゃん?
でも、世界を守っている守護者はその階級から外れて神星っていう階級になるの!
例えば、東西南北の守護者、四神は神星だし、
神だと森の守護者"アルテミス"とか、
悪魔だったら、時間の歪んだ街の守護者"クロノス"
とかそういうのが神星だよー!」
『なるほどな、だが星痕をくれるとは思わなかった』
「私は星だけど、今まで眷星を作らなかったから星の力が有り余ってたの、だから恩人でもある貴方に私の力あげちゃおっかなって思ったの!」
「星痕はね、凄いんだよ!
星痕は神星だけが人間に与えられるんだけど、その人を守護する証って意味なの!
眷星とは違って主の星もいないし、神星の星がそもそも少ないからまず星痕ってのがレアなんだよ!」
誇らしげに白虎は喋った。
『そんな物を貰ってしまっていいのか?』
「当たり前じゃん!私を助けてくれた貴方には星痕を貰うには充分じゃない!」
『そうかな─ありがとうな白虎、こんな良いものを与えてくれて。』
「んー与えるってよりかは譲渡って感じかな?
与えるってなんか上からじゃない?」
白虎はクスクスと笑っていた。
『たしかにな、じゃ、そろそろこいつを連れて外に出るよ。』
俺も顔を明らせて言った。
「わかった。君、名前はなんて言うの?」
『アクラ・ハイヴィだ』
「ハイヴィね、分かった!
これから君が進む道には私の守護がついてる回ることを覚えておいてね!」
『あぁ、ありがとう。
白虎から貰った力は良い方法で使うことにするよ。』
気絶しているルナをおぶってダンジョンポータルから外に出る。
『それじゃ、またな!』
「うん!バイバイ!」
そう別れをつげて、ダンジョンから出ようとする。
──階級──神星級──
──纏わる霊の主──クリア──
─ダンジョンから出ますか?─
───はい───いいえ───
"はい"を押す。
身体が粒子のように消えてゆく。
消えてくアラクスを見て彼女は囁く───
「これから貴方の道に私の守護があらんことを」
ピロリン♪
───称号獲得───
︎︎
・西方の守護