Project7
6月に入った。
夏樹と高遠は公認のカップルになっていた。
驚くべきことだが先日クラスの女子たちが語っていたように「ここ1年高遠に彼女がいなかったのは、夏樹に恋焦がれていたためで大学受験に本腰を入れる前に告白した。」という瑠璃が聞いたらさらに情熱的な心情を脚色しそうな壮大な恋物語なっている。
夏樹はもう否定も肯定もしなかった。というより周りの盛り上がり方が凄過ぎて何も言えなかったのだ。
音楽室でのキス以来、高遠は何かしら仕掛けてくることはあっても「あれ」以上の行為になることはしなかった。
高遠は進路面談と予備校、夏樹は委員会が忙しくなってきたので、一緒にいることが減ってきたこともその一因だ。
二人が別々に行動しているにも関わらず、「破局説」は発生しなかった。逆に二人の絆が深まっている証拠だと言われている。
高遠の面談が昼休みになってしまったので、今日は久々由紀と教室でお昼と食べていた。
いつも由紀はどうしていたのかな?1人で食べて、読書でもしてたのかな?最近自分にゆとりがなかったので、由紀のことをあまり聞いていない。それに高遠の面談も冬寧の時より回数が多いように感じる。まぁ担任の考えや志望校の決定具合によって違うのかなと夏樹は理解していた。
夏樹は今年「修学旅行実行委員」になった。
1年のときは「保健委員」だった。委員会はクラスの全員が入るわけではないが、内申書のこともあるので、冬寧から「一番楽な保健委員にでもなっておいたら」と言われていた。
ちなみに、そんな入れ知恵をした冬寧本人は3年間どの委員にもなっていない。
委員は普通各クラスから男子1人・女子1人を選出するが、「修学旅行実行委員」に限っては男子2人・女子2人であった。
夏樹と由紀は一緒にやることにした。
修学旅行は10月の最終週。2学期の中間テストが終わってからの出発だが、事前学習の関係で班決めを早々に行わなくてはならないことや、旅行のしおり作成の関係で6月に入ってから委員会が度々行われている。
班は男子3人女子3人が基本だ。部屋割はその班を2つずつ合わせて、男女を分ける。
夏樹は入学前から春翔や冬寧から聞いたいたし、先日の委員会でも同じように説明された。
「杉下さん」声をかけて来たのは先日「告白したのは夏樹の方か」と聞いてきた堂島里子だ。「修学旅行の学習グループのことなんだけど・・・・・、良かったら私を二人のところに入れてくれないかな?」
委員会で説明を受けた後、夏樹達1組の実行委員はクラスで、手っとり早く、「くじ引き」にするか「好きな者同士」で組むかどちらかにするか意見をきいた。
多数決で「好きな者同士」となった。矢野から数日間猶予を作るので自分達で調整するように言われた。もし指定の期日までに決められなかったら「くじ引き」となる。
夏樹と由紀は自分達が一緒になるためには後1人だけ必要だった。クラス内の男子は割と気のいいタイプが多かったので、余ったグループと組むことになってもいいと思った。
里子の今の申し出は大変嬉しかったが、里子はいつも一緒にいる子達とグループにならなくていいのだろうか?夏樹が不思議そうに里子を見た。
「最近、菜穂子とまどかと彩と4人で一緒にいることが多いのよね。うちのクラスの女子はきっちり18人だし、だったら学習グループの方は割り切っちゃって、杉下さんと竹原さんと一緒に6人で1部屋になれたらいいかなって。」
なんと嬉しい申し出だ。里子を始め今名前があがった3人は由紀に対しては普通に接してくれているので、もし担任の矢野が委員が同じ班になるのはやめろと言ってきたら、里子達に2×2に分かれてもらって夏樹と由紀がバラバラになることも承服できる。夏樹は由紀の方を笑顔で向いた。由紀も笑顔で頷いた。
「おっけーだよ。」夏樹が答えると里子が菜穂子達の方へ向いて右手でOKサインを作ってみせていた。菜穂子と彩が「ありがとう。よろしくね」と夏樹達に手を振った。
まどかだけは何も言わなかった。ただ何か言葉を探しているようにこちらの方を見ていた。夏樹は気がつかなかったことにした。
「あっ男子の方はこっちで手配してあるから、それでいいかな?」
「そこまでしてもらって申し訳ないです。」あっという間に自分達のグループが決まって夏樹は気が楽になった。この分だと他のクラスメートも自分達で動いているだろう。委員として調整する手間はなさそうだ。
「うん、それはこっちのというか菜穂子の都合なので、ちょっと協力してもらうことになるかもしれないけどいいかな?」
それは菜穂子の「彼」でも混ざっているということか?夏樹も由紀も詳細が分からないので答え方に困ったが、今ここで話すべきことじゃないのだろうと察した。
「今度ゆっくり話ししようよ。杉下さんには高遠さんとのことも色々聞きたいし。クスッ」
菜穂子のことより夏樹と高遠のことの方が関心が高そうな言い方だった。夏樹は苦笑いするしかできなかった。