Project17
「竹原から全部聞いたよ」夏樹を抱きしめたまま高遠が話す。
「全部、ですか?」最初からかな?
「うん、全部。高遠先輩が私に会いに来てくれるのって嬉しいってところも」
あ゛ー、由紀、私そんなこと言いましたか?しかも先輩声色作るしー。
「俺の顔知らないで手紙を下駄箱に入れたってのはへこんだ。」深いため意とともに告げた。
そこも知られてしまったか。でも高遠の態度は夏樹が考えていたものといい意味で違っていて少しホッとしていた。
「すいません。・・・ってか何してるんですか?」
かなりさりげなく高遠は夏樹のブラウスのリボンを解いていた。その手の作業を両手で押さえて止めさせた夏樹は後ろを見上げて、小さな子供を叱るような目で高遠を見た。
「・・・話したいことがあるんです。」
高遠の顔に笑顔はない。夏樹の瞳のその奥にある夏樹の心見ようとしているようだ。
どう言ったらいいんだろう?
夏樹は俯いてしまった。
由紀が話してくれるとは思わなかったので、夏樹は二宮の下駄箱に手紙を入れるところから話すつもりでいた。その辺りが既に高遠の知るところとなると、どこから話していいのか迷ってしまった。
それでも意を決して夏樹はもう一度高遠を見た。
「・・・・・・好きになっちゃったんです。」
迷った挙句発した台詞だった。
「えっ!誰を?」高遠の顔が強張った。
「あっ、高遠先輩ですけど・・」
何か日本語がおかしかったかな?夏樹はさらにじっと高遠を見た。それに応えるかのようにいつもの麗しげな笑顔を夏樹に見せて来たので、夏樹はクラクラしそうになった。
「ありがとう。んーでもどこが?あんまりいい噂聞かなかったでしょ?」
はい、ろくでもない話ばかりでした。でも、大事なのはそんな過去のことじゃない。目の前にいる高遠の存在が大事なのだ。
「多分、最初に日に・・・こんにちは夏樹ちゃん、ご飯食べられた?って言ってくれたところから」
高遠が静かに微笑んだ。今までみたことのない笑い方だったが、心が満ち足りている感じがした。
「嬉しかったですよ。模試の後で会いに来てくれたのも」
「そりゃぁ、ずっと好きでしたらかね」
えっ?
一体?どうやって?
「だって先輩と全然接点なかったじゃないですか?」
夏樹最大の疑問だった。付き合うことになってから高遠から感じる夏樹への好意はどのようにして生まれたものなのか夏樹は理解できていなかった。
「あるよ、去年俺も保健委員だったの!」
高遠がふてくされて答えた。
「はーいー?」いたっけ?
委員会で教室に集まると出欠を兼ねて指定された席に座る。夏樹は1年3組だったから最前列左から5番目と6番目。
あれ、高遠は2年生のとき何組だった?いやそれよりも、後ろの列に高遠先輩いた?
「本当に興味なかったんだ・・・」夏樹が去年の記憶を探っていると、高遠はブツブツ言いながら夏樹のボタンを上から順に外していく。
そして3つほど開けたところで、薄くなりつつある胸の印に指先でそっと触れた。夏樹の胸は熱くなり、瞳からは涙が零れた。
「もう、そばに、いられないかっ、思ったん、からっ」
高遠と連絡が取れなくなったことで生まれていた不安を夏樹は高遠にぶつける。高遠は夏樹を自分の正面に向けて背中を擦りながら抱きしめた。
「大丈夫、俺はそばにいるよ。だから夏樹ちゃんもそばにいてね。」
夏樹は黙ったまま、けれども高遠にちゃんと伝わるようにしっかりと頷いた。