Project12
由紀達としゃべっていたせいで、高遠からのメールの返信を夏樹は見逃していた。
昼休みに入ってやっと携帯を確認したら、朝のうちに返信があったことが分かった。
「ありがとう。天気がいいから、屋上でたべよう!」
しまった!
夏樹は慌ててお弁当の入った袋を抱えて屋上への階段を走って昇った。
「おそーい。腹減ったー」
屋上の扉を開けると陽気に笑う高遠が目の前にいた。
「その立ち方はファッションショーか何かをしているみたいですよぉ」
両手をズボンのポケットに入れて少し角度をつけて立っている高遠に夏樹はからかうように言ってみた。
「そお?それよりお腹すいてるんですけどね」早く食べさせろと言わんばかり高遠が笑顔を見せる。
歴代の彼女達のお弁当は一切拒否していたと聞いていたが、高遠は夏樹のお弁当を喜んで食べていた。
梅雨の合間の晴天だが、もう夏日と言っていい暑さだった。二人は屋上の給水塔の影に並んで座っていた。
「美味しいよ」
「そうですか。良かったぁ。」
「里芋の煮たヤツとか、ああいうのは家では食べられないから」
「お母さん作らないんですか?」
「いや、一人暮らしだから」
「えっ!?」
確か高遠は由紀と同じ行き先のバスに乗って帰っている。実家の近所に一人暮らし?
「正確には父親は今、地方で仕事していてそっちに一種の単身赴任。母親は留学中。故に家には俺一人なの」
夏樹の疑問を理解した高遠が付け加えた。
「だから気兼ねなく遊びに来てね」
そっ、それはマズイだろう・・・高遠の笑みに身の危険を感じた夏樹だったが、上手く断ることはできずに顔を強張らせたまま黙ってしまった。
「含みのある言い方にすると夏樹ちゃんは黙っちゃうからなぁ」
「・・・だって、分からないから」
「何が?」
「先輩、私のこと・・・」
夏樹は空になった弁当箱の蓋を閉じた。
「うん?」
「・・・教室戻ります。今日リーダー当たるんですけど、予習忘れちゃって」
目を合わせないように言うと夏樹は弁当箱を袋に入れ始めた。
「そりゃ、たいへんだ」
夏樹の嘘見抜いての答えだと夏樹は思った。高遠は立ち上がると夏樹の手を取って立ち上がらせ、夏樹を先に校舎へ入る扉へ向かわせた。
先輩、私のこと本当に好きですか?
夏樹はそう聞こうとしたけど、そもそも自分はどうなんだ?と考えてしまったら続きが言えなかった。
「夏樹ちゃん」
夏樹が階段を下りようした時、後ろから高遠が夏樹を呼び止めた。
少しだけ首傾げて振り返った夏樹を高遠はのまま引き寄せしっかりと抱きしめてきた。
ドクン、ドクンと高遠の鼓動の速さに夏樹は驚いた。自分と同じいやそれ以上の速さかもしれない。
数十秒後高遠は腕の力を抜いて夏樹から体を少し放してから夏樹を見つめた。
「大好きだよ」
そっと静かに告げた、その顔はいつもと違い今にも泣き出しそうなものだった。
これまでの夏樹ならそんな言葉を耳にしたら顔を真っ赤にしてうつむいていただろう。
けれど夏樹はそうしなかった。
少し照れはあったもののうつむいたりはしないで、高遠の頬に自分の唇を一瞬だけ触れさせた。
そして高遠の視線の先に夏樹の視線を戻して夏樹は静かに瞳を閉じた。
高遠は夏樹の頬に両手で触れてそっとゆっくり唇を重ねた。
屋上へ出る扉にあるA4ほどのすりガラスとその反対側、階段下の踊場側一面のガラス戸から入るやわらかな光だけが夏樹達を穏やかに照らしていた。
静かな甘い時間が過ぎていった。
ついばむようなキスを繰り返す高遠は夏樹の制服のリボンをそっと解くとゆっくりボタンを外していった。夏樹は抵抗することはなくキスに応え続けていた。
高遠の唇が夏樹の頬耳朶首すじを通り過ぎ開かれた胸元へたどり着いた。
「んっ・・・」
崩れ落ちそうになった夏樹が声を出した。
高遠は片腕で夏樹を支え残りの手でブラウスの上から夏樹の胸に触れていた。
「はぁ・・・・」
そして胸の真ん中に深く熱い口付けをした。
夏樹の体から力が抜けていくようで、高遠の支え寄りかかっていた。
しばらくしてやっと高遠の唇は夏樹の胸から離れ、彼は丁寧に夏樹のブラウスのボタンをかけてリボンを元に戻した。
夏樹は早鐘のような自分の鼓動を感じながらじっと高遠の手元を見ていた。
ブラウスに隠れてしまった高遠から贈り物の位置を忘れないようにするために。
「夏樹・・・」
高遠は夏樹を静かに抱き寄せて囁いた。
夏樹はあの手紙を出した経緯を高遠には絶対に知られたくないと思っていた。