Project11
昨日の雨はあがり、青空が広がっていた。
夕べなかなか寝付けなかった上に、朝早く目覚めてしまった夏樹は、初めて高遠の分も弁当を作った。
この弁当が無駄になってはいけないと思い、早過ぎる気もしたが、高遠に「先輩の分もお弁当あります。」とメールした。まだ起きてはいないのか返信はなかった。
それでもまだ時間があったのでいつもより早めに登校したら、由紀はすでに教室にいた。
「由紀おはよう。」
「おはよう。あれ、日直って明日じゃない?」
「あっ・・・」
明日夏樹は日直だった。明日は間違いなく早起きしなくてはならない。毎日遅刻ギリギリの夏樹は「今日が日直だったら楽勝だったのにぃ」と思った。
「ところで夏樹、昨日大丈夫だった?」
「うん、雨は大丈夫だったよ。あっ高遠先輩がバスに乗った頃は降ってたんじゃないかな」
「あっそうじゃなくて、っていう意味だったけどその言い方だとすぐに帰ったみたいね」
「う~ん、次のバスに乗せられたよ」
不服そうな口調で話す夏樹を見た由紀は少し考えてから夏樹に話しかけた。
「夏樹、私がこんなこと言える立場じゃないけど、いいと思うよ高遠先輩。夏樹に対しては以前の噂とは違うし、ちょっとスキンシップ多かったみたいだけど、最近落ち着いたみたいだし・・・・・」
真剣な眼差しで見られていると、由紀には夏樹気持ちが丸見えのような錯覚に陥った。
「好きなっても間違いじゃないよ」夏樹から視線を外して由紀は呟くように言った。
「・・・分かった・・・」
夏樹の今の気持ちをどう表現していいのか迷った末の一言だった。
「おっはよー」
吹奏楽部の朝練を終えた里子と菜穂子が教室に入ってきた。
光南の吹奏楽部はかなりの大所帯だ。練習もハードで、個人練習やパート練習は朝練で、放課後は全体合奏と流れが決まっている。どちらも毎日ではないようだが、里子と菜穂子は朝早くから学校にいることが多い。
「昨日、由紀と映画に行くって聞いてたけど、デートだったみたいじゃない?」特攻隊長よろしく、里子がいきなり切り出した。
ゲホゲホとせき込む夏樹、由紀も目を丸くしている。
「部活の1年生がショッピングモールでお茶してる二人を見たって、今朝大騒ぎだったから」菜穂子が付け加えた。
あぁ~、それはそれは、お騒がせしました。
大所帯が故に、「音楽好き」な色々なタイプの部員が集まっている。その所為か校内の色々な噂も集まりやすいし、その裏付け情報もきっちり集まって来る。そして今朝の「高遠&夏樹」情報は里子をかなり楽しませていた。
「由紀のこと振っちゃったの?」
「違うって」
ニンマリ顔で聞いてくる里子の発言を呆れた顔で否定した。最近里子達とは名前で呼び合うようになった。夏樹が高遠とお昼を食べるときは、由紀は里子達と食べているらしい。
「由紀と映画見た後、先輩から電話来てショッピングモールで合流したいって、連絡が来て、でも由紀は家の用事で先輩が来る前のバスで帰っちゃったの。」
大したことではないと夏樹は言いたかったが、顔は真っ赤だった。そんな夏樹を里子と菜穂子がニヤニヤ見ている。
「コーヒーショップでしゃべってただけだよ。本当にちょっとだけいてすぐに帰ったよ。20分くらいで着くって言われたけどけっこう待たされたんだから。」
夏樹が文句を言った後、3人に目をやると、3人は必死で笑いをこらえている表情だった。
「な、何よ・・・」
「夏樹はもっと一緒にいたかったんだぁ?」里子がニヤついて聞いてきた。
「そんなことは・・・そりゃぁ、模試が終わって、自分に会いに来るっていうのは、うん、嬉しいよね」
最後の言葉は半分は自分に問いかけるように言ったものだった。それは夏樹の素直な本心だった。由紀が穏やかな笑みをして夏樹を見ていた。
「そっか、そっか」
「いいなぁ」菜穂子が呟く。
「菜穂子は本腰入れて頑張らないとね!チャンスがあったら修学旅行前でも告っちゃうんだよ」
里子は菜穂子にはっぱをかけた。
そっかぁ、私嬉しかったんだ。夏樹は一つ答えを見つけた。




