Project10
日曜日の朝、昨日ほど雨は降ってはいなかった。居間のTVの天気予報では午後には一旦雨は上がるものの、夕方ところによりにわか雨があるともと言っていて傘の携帯をお天気キャスターが勧めていた。
由紀が急な用事で早めに帰ることになったので、夕方には家に戻っているだろうと考え、夏樹は荷物を小さくするべく折りたたみの傘にした。
雨が小降りだったこと、夏樹の家からバス停が近いということで傘はさほど濡れていなかった。映画が見終わった後、傘が乾いていることを確認した夏樹はそれを自分のバッグにしまった。午前中は映画を見て、その後ショッピングモール内のファミレスで一緒にお昼を食べた。それから二人はショッピングモール内のお店を見て歩いていた。
由紀の家の方にいくシャトルバスと夏樹の家の方に行くシャトルバスは交互に運航しているので夏樹は由紀が行った後のバスで帰ることにしていた。
夏樹や由紀が好む服を扱っているお店で、二人は夏の服を見ていた。
夏休みはバイトでもしようかなと夏樹は思った。部活に入っていないので、時間は割とある。来年は受験勉強だろうから今年は有意義に過ごしたいなと思っていた。
夏樹の携帯が鳴った。ショッピングモールに行っていることを知っている母が夏樹に買い物でも頼みたいのか?他に心当たりがない夏樹は携帯の画面を見てびっくりした。
「高遠先輩だ」
「えっ」由紀もつられてびっくりした。
「もしもし高遠です・・・・・夏樹ちゃん、もう帰っちゃった?」
「いえ、まだショッピングモールで由紀も一緒で服見たりウロウロしてます。」
「さっき模試が終わって、今からだとバスに乗れば20分くらいでそっちに着きそうなんだけど、まだ帰らなくても大丈夫?」
「大丈夫です。」夏樹の家の門限はあまり厳しくないし、3時を過ぎたばかりの今、まだまだ家に連絡を入れる必要もない時間帯だ。
「じゃぁ今から行くから入口側のコーヒーショップにいてもらってもいい?竹原にもそう言っておいて、あとで」
バスが既に来ていたのか高遠は話しを済ませると夏樹の返事も聞かず通話を切ってしまった。
「どうしたの?」
「高遠先輩が模試が終わったからこっちに来るって、由紀とコーヒーショップで待ってって」
「夏樹・・・私次のバスには乗らなくちゃならないんだけど大丈夫?」混乱しつつも夏樹をフォローできない由紀が言ってきた。
「多分、大丈夫かな?」自信はすごくないが最近の高遠なら、それにここは人目も多いショッピングモールだ大丈夫だろう。
由紀はバスに乗って帰って行った。夏樹は高遠から指定されたコーヒーショップへ行った。コーヒー専門店だが紅茶も美味しいと評判のお店だったので、夏樹はアッサムのミルクティを頼んだ。
窓から外を見たら少し雲が厚くなっているように思った。予報通りにわか雨がくるかもしれない。
運ばれたミルクティを口に運んで夏樹はこんな風に誰かを待つなんて初めてだと気付いた。
なんかデートの待ち合わせみたい?
バスで20分くらいと聞いていた夏樹にとってこの20分が異常に長く感じていた。
「夏樹ちゃんお待たせ!」後ろを振り返ると軽く息を切らした高遠がいた。
コーヒーを頼んで高遠は夏樹の向い座った。
「竹原は?気を使われちゃった?」
「用事があるんでさっき帰りました。もともとその予定だったので。」
「今日はいつもと髪型が違うんだね。」
夏樹は今日はいつも三つ編みはしていなかった。横分けにしてサイドの髪を編みこんでいる。赤い小花柄のコットンのキャミソールの下に白のパフスリーブのカットソー、ボトムはジーンズ素材のサブリナパンツにサンダル。制服とは雰囲気の違う格好だった。
高遠の方もジーンズもシャツも黒でまとめる格好だった。制服姿のときより一段と妖しい「色気」のようなものを醸し出しながらコーヒーを飲んでいる高遠の姿に慣れるまで夏樹は直視できなかった。
高遠は本当に模試以外には用事がなかったらしく筆記用具や模試でもらった問題を入れたA4サイズの半透明なプラスティックのケースを持っているだけだった。
高遠と夏樹はコーヒーショップでお茶をしながら、夏樹は今日見た映画のこと、高遠は模試の様子を話しただけだった。夏樹が帰るバスの時間になったので、二人はシャトルバスの来るバス停に行った。
夏樹が帰るバスが来た。ほんの一瞬、夏樹は乗りたくないと思って高遠を見た。
にわか雨というよりも小雨といった感じの弱い雨粒が落ちて来た。
夏樹の後ろにバスが止まった。夏樹は動けなかった。高遠をじっと見つめ続けた。
「乗りなさい。でないと帰したくなくなるから。」夏樹の肩にかかった髪にそっと触れた高遠が困ったような優しい笑顔で言った。
バスの方へ進もうとしたとき、空を見上げたらさらに厚い雨雲が周囲を暗くしていたことに気付いた。これから雨は降り続けるようだ。
夏樹はもう一度高遠の方へ振り返ってかばんの中の折りたたみ傘を渡した。
「夏樹ちゃんが濡れちゃうよ。」夏樹の意図を理解した高遠が夏樹を気遣った。
「家、バス停から近いんです。今のうちなら大丈夫そうだから。」
「ありがとう。じゃぁ借りようかな。」嬉しそうに高遠が傘を胸元で握りしめた。高遠が抱きしめたのは傘なのか自分なのか夏樹は一瞬分からなくなった。
自分が心の中が高遠に知られるのではないかと思い、夏樹は急いでバスに乗り込んだ。
窓際に座りバスの中からバス停の屋根の下に立つ高遠を見ていると、高遠は右手で受け取った夏樹の傘にそっと唇を当てた後バスの中の夏樹見た。
夏樹はまるで自分がキスでもされているかのように思い恥ずかしさのあまり高遠から視線を外して俯いた。
バスが静かに発進した。
夏樹は後ろを振り返り見送る高遠を見えなくなるまで見ていた。