5話 お兄様とその人達
ラズウェル 人間
19歳 ♂
HP 1163
MP 1032
力 1228
体力 1100
器用 998
敏捷 915
魔力 1002
魔防 1005
【! スキルの鑑定に失敗しました!】
すごいパラメータだ。ちょっと気になって鑑定してみたんだけど、お兄様と比べたら、私なんて豆柴みたいなもの。100以上の人すら私以外に見たことないのに。
「お疲れ、ラズ」
欠伸混じりに背の高い男性が近寄ってきた。
日焼けしてるみたいに色黒だ。 私より年上で、たぶん日本だったら大学生ぐらいじゃないかなって思う。
「ランキス、また昼寝していたのか」
「いいじゃねぇか、今日は完全オフだし」
「お前は最近だらけすぎだ、筋肉が落ちている」
何だかよくわからないけど、お兄様の目が厳しい。脂肪が付いてるの?
服の上からでも解る位ガッシリとしてるし、太ってる感じはしない。むしろマッチョで筋肉ゴリゴリな感じ。
体脂肪率とか0に近そう。お兄様の言い方だと、元はどれだけ筋肉の塊だったのか。パラメータ的にはどんな感じかな。
ランキス 人間
22歳 ♂
HP 1647
MP 711
力 2407
体力 1632
器用 786
敏捷 665
魔力 606
魔防 535
【! スキルの鑑定に失敗しました!】
うわぉこっちも凄い。お兄様に負けず劣らずの抜きんでた能力値だ。
お兄様がバランス型だったのに対して、ランキスさんはより前衛型でとくに力の値が抜きんでている。
ナルシュ君とか色々こっそり鑑定してたけど、奴隷商にいた誰よりも強い、どころか桁が違う。
背負ってる大きくて太くて立派な剣は、きっと切れ味も抜群なんだろう。格好だけなら何か山賊みたい。
ランキスさんが茶髪なのも、印象を強くさせるみたいな。たぶん地毛なんだろうと思う。髪染めなんて洒落たものないだろうし。
学校に通ってた頃、あんな感じの不良がいたな。
私自身スクールカーストの下位だったから。そういう系の不良が、弱い生徒を苛めてる光景をよく目にする機会があった。
ランキスさんが不良だなんて思わないけど、やっぱりちょっと不真面目そう。
ちょっと失礼なのかもしれない。でもそういう印象が浮かんじゃったからなあ。
人を見た目で判断しちゃいけないのだろうけど。実際はそういう見た目を自分から選んでるのだから信憑性はかなり高いと思う。
お兄様が言ってる通りなんか眠そう。徹夜してたのかな。
それから隣にいるのは妹さんかな、外見的に血の繋がってる感じは無いけど。
隣の妹さん?は一言で言い表すとエルフの美少女。
乙女ゲーの主人公。もしくは至高のヒロイン。世界は彼女のために存在している、そう断言してしまえるほど可愛い。
「で、好みの奴隷は見付かったか」
色黒お兄さんはしゃがみ込む、私と視線を合わせてじーっと。
「へー可愛い奴隷だ、なんなら俺が飼い主になってやろうか」
近くで見ると本当に人相がアレな雰囲気な感じ。ああなんだろ、学校でのちょこっと嫌な思い出が微妙にフラッシュバックしてくるような。
あっ、お兄様がすごく怒ってる。
「冗談だよ。ラズ本気にすんな」
「冗談なの」
「リリファも真に受けんなよ」
エルフの美少女はリリファさんって言うんだ。すごく可愛い子だな。
「俺はランキス、ラズの相棒やってんだ。んでこっちのエルフはリリファ、俺の奴隷だよ」
奴隷、なんだ。当たり前のように紹介されたけど実感ないな。
「……困り事なら幾らでも頼っていいぜ。俺達は世界最強の傭兵だからな。料金はラズの奴隷なんだからサービスするぜ」
「御主人様。随分とその娘を気に入ったのですね」
「マジになるなよリリファ、身の毛よだつからカサカサすんの止めろ」
カサカサって何。耳を澄ますと微かに聞こえるような、なんの音だろ?
リリファさんを見る。非日常的な美しさみたいなのが漂ってた。背は私より少し高いくらい。もし日本に彼女がいたなら中学生くらいかな。
エルフを見る機会があるなんて。
透き通るような白い肌に、パッチリと開いた大きくて宝石みたいな蒼い瞳。太陽のように輝く金色の髪。
色々とくすんでいる獣の私なんかとは全然違う。
リリファ エンシェントエルフ
13歳 ♀
HP 323
MP 1000
力 241
体力 154
器用 676
敏捷 523
魔力 1202
魔防 1143
【! スキルの鑑定に失敗しました!】
す、凄すぎる。お兄様やランキスさん程ではないけど、それでも圧倒的。
魔力と魔防はわずかに上回ってるし、一番低い体力ですら奴隷商にいた誰よりも高い。これで私と同い年だなんて。
目が合っちゃった。緊張してしまう。
「私はリリファ、ランキス様の奴隷」
声も透き通ってて綺麗。内容は若干アレだけど、微妙に誇らしげな表情してる。
もしかしてこの世界じゃ、奴隷はいやらしい意味じゃ無いのかも。
私が勘違いしてるだけで、本当はメイドとか執事みたいな、一般的な職業なんじゃないかな。
きっとそうだ、じゃなきゃお兄様が私を奴隷にしたいなんて言うハズ無いし。
「私はアリス。お兄様の、その、奴隷してます」
「貴女は奴隷の見習いかしら」
微笑んでくれた。やっぱり勘違いだったんだ。Hな職業なんて最初から無かったんだ。
「私の主な仕事は、ランキス様の性の処理。貴女はどんなことが出来るの」
ド直球だ、ド直球に奴隷だった。
「ちょっと待てリリファ、俺は一度もそんな命令してないぞ」
ランキスさんが慌ててるけど、まあ公衆の面前で性生活を暴露されちゃったら恥ずかしいよね。
にしても、うわぁ。一見すると普通な感じなのに。平然とそんな性的発言してるのが信じられない。
とか勝手に驚愕してたら目が合った。なんだろ。ズイっと近付いてくる。
「(凄い美少女……)」
こんな娘が奴隷なんだな。
アイドルなんかの次元じゃない。どこかの国のお姫様って紹介しても、姫って言葉が負けちゃいそうな位に、神さまに選ばれた絶世の美少女。
「貴女には魔法の才能がある」
えっ魔法?
ああ魔法か。やっぱりこの世界にもあるんだ。
そりゃあ鑑定スキルなんてのがあるくらいだし不思議じゃないよね。
「獣人は本来、魔法が得意ではないけれど貴女は特別みたい」
私って特別?
この世界に呼ばれる直前にやってたMMORPGでは、魔法盗賊って職業に就いてたけど。
ネット小説でよく書かれてる、いわゆる転生チートって奴なのかな。
「エルフと獣人では術式の展開が違うから、触り程度しか教えられないけど、それでいいなら」
私も魔法が使えるようになるかな。流石に気分が高揚してくるかも。
それからちょっと気になっていたこと。さっきからお兄様は、ラズって呼ばれているのはどうしてだろう?
「ああそれはね。俺はここに来た時、記憶喪失だったんだよ」
記憶喪失かぁ。よくあるシチュエーションだよね。
こんな未知の世界に飛ばされたら、精神的にどうにかなっちゃうのは当然かも。
「途方に暮れてた所をランキスに救われたんだ。ランキスがいなければ俺は死んでたと思う」
「お前って出会った頃は、常識とか全然知らなかったもんな。俺がいなきゃ騙されて野垂れ死にだったぜ」
そう言ってランキスさんはけらけらと笑ってる。私が来る前どんなに大変だったかは知らない。
私は深々と頭を下げた。彼がいたからこそ、お兄様も私も救われたのだから。
「俺って何で感謝されてるの?」
「とても可愛い子ね。私とっても気に入ったわ」