3話 オークション
どれくらい歩いただろう。不意に明るい場所に辿りつく。そこは一段高くなっていた。
急かされるままに登らされた私達を待ち受けていたのは沢山の人間。
ジロジロとこっち見てる。値踏みされてるみたいで不快な感じが止まらない。
「大変長らくお待たせ致しました」
司会の太った醜男が声だけは立派に張っている。
豚を擬人化したかのように、並べられた奴隷の誰よりも醜くて気色悪い。
壇上から見下ろすと、そこには大量の人間がいた。
私達を値踏みしたり蔑んでたり。誰も彼もが下品な金持ちの典型というか、纏ってるガワだけ立派で、体格も知性も貧相そう。
一言でいえば醜さが凝縮された集団だ。なんか胸糞悪いな。
こんな感情は久しく感じてなかった。学校に通ってた頃はクラスメートや教師からずっとぶつけられ続けてたけど。
改めて思う。人間ってこんなにも醜いのか。
こういう人達は大抵、正義の主人公に駆逐されるのが物語の常。
でもそんなヒーローこの場所にはいやしない。だってこれは現実なのだから。
ああ始まるみたい。最初に呼ばれたのはリスのような大きい尻尾を持つ、がっしりした獣人男性だった。
けど目が死んでる。彼もまた全てを諦めてるんだろな。
どうやら最初から買う人は決まってるらしい。
落札したのは、いかにも悪い貴族って外見してる男。
外見で人を判断してはいけないと誰かから教えてもらった記憶はあるけど、それを当て嵌める必要はなさそう。だってきっと中身もクズに違いないから。
満悦のクズ男は立ち上がり、聞かれてもないのに奴隷の使い道について喋り始めた。
コロシアムに転売。その後は死ぬまで魔物と闘わせる。毎日5戦ずつやらせて、どれだけの日数を生き残るかを酒の肴に楽しむのだそう。
買った目的を宣言するのがルールみたい。なんて胸糞悪い話だ。
オークション形式の茶番劇はどんどん進行していく。
次の商品は竜の子供だ。落札したのはシェフの格好してる老人。
そんなにジャラジャラ指輪を嵌めて、どうやって包丁を握るんだろう。
貴族とかを相手に商売してるらしい。なにやら自らの経営してる店の宣伝もしてる。
この仔竜を明日のスペシャルメニューとして提供するらしい。
屠殺するんだ。
仔竜は檻を破ろうと必死に暴れてるけど、頑丈でびくともしない。
よく見てみると両手足の腱が斬られてる。あれじゃ満足に動けないだろう。
最初から食肉加工用として捕らえられたのかな。
近い将来に殺される、名も知らぬ仔竜に同情の視線を向ける奴隷は私だけみたい。
そりゃそうか。だって自分達も同じ立場なんだし。
もうすぐ私の順番。
次にステーシに並ばされるのはさっき話し掛けてくれた、私と同じ猫型獣人の男の子ナルシュ君。
筋骨隆々で、とてつもなく人相の悪いおじさんが落札して、カーテンの向こう側へと消えていった。
ナルシュ君はこれからどうなるの。さすがに食用じゃないはずだろうけど、きっともう会えないし、話も聞くことはないだろう。
そうこうしてる内に、ついに自分の番が回ってきた。
さっきのナルシュ君もそうだったけど、獣人の価値はどうやら低いよう。人間の半分以下、だいたい牛や豚みたいな家畜とほぼ同じ値段で買い叩かれている。
人間よりも頑丈な男獣人は、鉱山や戦場など過酷なところで働かされるらしい。外見の整った女獣人は娼館みたいな所で、奴隷として働かされるらしい。
この国は人間至上主義。地球にもあったな、そういう差別っぽいの。きっとこれから私は死ぬまで悲惨な一生を過ごすんだな。
他人事みたいにフワフワと考えてて。ふと周りを見渡すけど参加者達は手を挙げない。
当然だろうな。ガリガリに痩せてる獣人なんて役に立たないし。
売れ残った奴隷はどうなるんだろ、殺処分かな?
どうでもいい。所詮こんな人生か。
お兄様がいなくなってから、もう私は死んでるも同然。
諦めよう。どうせ日本に留まってても酷い人生だし。
――――微かに風が流れた。
1人の男性がゆっくりと立ち上がる。
ただそれだけの動作で、この場にいる全員の注目を集めた。
百人近くの参加者がひしめいてる観客席で、彼だけはひときわ輝いてる。
いま世界はその人のために存在しているかのよう。例えるなら彼は勇者で、絶対的な主人公みたいな。
「その子は俺が買う」