13話 まずは獣毛プレイについて話し合いましょう
ニャーン。
歩いてたら小さな黒猫とすれ違った。雰囲気がナルシュ君に似てるかも。おいでって言ったら私たちに近寄ってきた。とっても人懐っこい。
「首輪をしてるからきっと飼い猫ね」
そうなの。
黒猫に聞いてみたら、そうだよって返事してくれた。名前はトリガーっていうらしい。
猫かあ。お兄様に飼ってもいいか聞いてみようかな。でもどうしよう。ただでさえ養ってもらって迷惑かけてるのに、ペットまで飼いたいなんてワガママすぎるかな。
止めとこう。そもそも私がもうペットみたいな外見なんだし。
背中を撫でてあげたらとっても気持ち良さそうな表情で身体を寄せてくる。可愛いなあ。
***
「ランキス」
「なんだラズ」
「黒猫の格好をしたらアリスは俺を撫でてくれるだろうか」
「知るか。あと俺はいつまでストーカーに付き合えばいいんだ、そろそろ周囲のヒソヒソ声に耐えられねえ」
「俺とアリス、今後の生活に大きく影響する重大な話なんだ。相談に乗ってくれ」
「OK了解した。だからお前はもう喋るな」
「アリスとにゃんにゃんプレイが出来るかもしれない千載一遇のチャンスなんだ!」
「牢屋にブチ込まれる前にその口を閉じろ。そして小一時間ほど喋るな」
「素晴らしいアイデアを思い付いたんだ。股間に猫のイラストを施したらアリスはにゃんにゃん」
「喋るなつってんだろ変態野郎、今すぐ去勢してやろうか」
「ランキス静かにしろ! アリスに見守りが気付かれるかもしれない」
「こ、こいつ……。見守りってかストーカーだろが。ったくなんでこんなのに付き合わされなくちゃならねえんだ」
***
裁縫は得意、そう思ってた時期も私にはあった。
練習してみて解かったんだけど、獣人は針仕事にすこぶる向いてない。
指に肉球みたいなのが生えてて針を上手に扱えないし、糸も上手く掴めない。そうとう慣れないとすぐ怪我しそう。
器用のパラメータ高いのになんで。ステータスなんて飾りなの。ちょっと、いやかなりショックな感じ。
「安心なさい、貴女には貴女の魅力があるわ」
木陰のベンチで休憩中。ちょっとやさぐれ気味の私に話しかけてくれた。リリファさん、励ましてくれてるのかな。
「まずは獣毛プレイについて話し合いましょう」
もうマジ引っ込んでてくれないかな。
もう話題を変えよう。そうだ、ずっと気になってたことがあるんだった。昨日リリファさんに言われたコト、私に魔法の素質があるって。
「貴女のステータスを鑑定させてもらったの。随分と魔力や魔防が高いのね」
鑑定って私以外でも使えるんだ。転生特典とかじゃないありふれたスキルなのかな。
「転生特典って? それはともかく鑑定スキルはありふれてないわよ。ただ鑑定スキルを持っていなくても鑑定石を使えば誰でも鑑定が使えるわ。まあ非常に高価だから誰でもって訳じゃないけど」
そうなんだ。
ところでリリファさんはどうして、喋りながらちょっと暗い表情してるんだろう。
「ごめんなさいね。実は鑑定石にいい思い出がないの」
なんだか微妙な話題を振ってしまったよう。話題を変えたほうがいいかな。でも何を話せばいいんだろう。
「そうそう。ステータスの覗き見はマナー違反なんだけど、まあお互い様だから問題ないでしょ」
バレてたんだー。鑑定ってチートスキルっぽいし、なんらかのデメリットがあるとは思ってたけど。こりゃうかつに使えないな。
リリファさんに教えてもらったんだけど、なんでも魔防が、相手の魔力を上回っていたら鑑定拒否できるそう。
前は特別にパラメータだけ見せてくれたそうだけど、凄腕の魔法使いとかだと簡単にばれちゃうらしい。
てことはお兄様やランキスさんも知ってるんだ。
また今度謝らなくちゃな。
それはともかくさ! 魔法と聞いて興奮しない日本人なんかいない。
魔法とか使いたい、大魔法でモンスターを一網打尽にしたりカッコイイ召喚獣呼び寄せたり。私もそういうのが出来るんだ。
「それは無理。 貴女は獣人にしては適性あるほうだけどせいぜい中の上くらいだわ」
えっ。でもパラメータは魔力寄りだったし頑張ったら強力なのとか使えるんじゃ。
リリファさんと比べたら大したことないかもしれないけど、でもちゃんと修行すれば出来るんじゃないの。
「初歩的なのはともかく上級魔法を習得するのは奨めない。本気で目指すなら魔法使いに弟子入りして何年も修行しないと。でもその年月は体術の強化に充てるべき、その方が効率良いから」
なんという無情な宣告。リリファさんクラスの人が言うんだから間違いないんだろう。
いやまだ希望を捨てちゃいけない。魔法が駄目なら物理系はどうだろうか。力のパラメータは低かったけど敏捷と器用は中々だったし。
スピードとテクニックで翻弄して敵を倒す倒すファイター、うんカッコいいし私の好みだ。お兄様も剣を使ってたし、きっと私にだって才能があるはず!
「貴女、武器を扱ったことあるの」
……ないけど。
喧嘩すらしたことないけど。
でも器用のパラメータが高いからなんとかなるんじゃ。
「貴女は確かに器用そうだけど、だからといってそれだけで達人になれるほど甘くはないわよ」
えっ駄目なの。
「器用は高ければ高いほどいいに越したことはないけどそれだけじゃないの。もし貴女に才能があるなら、普通の人より上達は早いでしょうけど」
現実が厳しすぎる。
ファンタジーの異世界なんだから魔道書みたいなので簡単に戦い方をマスターするみたいなのってないのかな。
「そんなのがあったら私が教えてほしいくらい。どんな武器にせよ習熟にはすごく時間が掛かるわ。最低でも1年は頑張らないと無理ね。ちなみに私は教えられないわよ。だって私も武器なんて持たないもの。人によって戦闘スタイルはまちまちだけど。貴女の場合は素手でいいんじゃないかしら」
素手。
異世界転生したのに素手って。いくらなんでも他に選択肢あるんじゃないかな。
リリファさんは私の体毛でびっしり覆われた両手をじっくり観察してる。
私の手は、普通の女の子よりちょっと小さいし、指もやや短め。代わりに猛獣みたいに太くて鋭いツメが生えてる。
「人間用の武器は難しいわね。貴女に特別に作らないといけないし、持つとしてもせいぜいナイフ程度でいいんじゃないかしら」
凄まじくガッカリしちゃってベンチにうなだれた。
「……魔法の初歩的なものならコツを掴めばすぐに習得、出来るかもだけど。身体強化とか」
ガバッと起き上がる。簡単なのだったら私も魔法が使えるの?
バフ系なら実践ですぐに役立つだろうし。教えて、何でもするから!
「貴女は本当におしゃべりね。まぁ保障はしないわよ」
日常生活じゃ私はあまり魔法を使わないのだけど、魔法よりも便利なのがあるから。
言うやいなやリリファさんは、私の身体を抱き寄せてぐっと密着してきた。
「まずは魔力の流れを感じなさい」
魔法の練習してるんだよね。なのになんで顔が、唇がこんなに凄く近いのかな。
腰に回してきたリリファさんの掌が熱を帯びてる、まるでカイロみたいに。
撫でられた部分が熱を持ってる。ドキドキと同時に体の芯が融けていって体内を不思議な液体が流れてる。
【魔力操作スキルを習得しました!】