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12話 お前、あの時の

 ここなら望む服が手に入る、そう言ってリリファさんが案内してくれた洋服屋に辿りついた。

 ショーウィンドウに飾られてるこのワンピース、作りがとっても丁寧だ。

 中世っぽいこの街って、文明は遅れてて品物とか粗雑なイメージがあったんだけど。

 

「良さがわかるの」


 ふふんリリファさん。私を単なる毛むくじゃら娘と思わない方がいいよ、裁縫に関してはちょっとうるさいんだから。

 日本にいた頃、というより人間だった頃は裁縫が得意だったもんね。

 

 まあ得意というか親が何もしてくれなかったから自分で作るしかなく、必要に駆られて上達したんだけど。

 学校で必要な雑巾やエプロンは自分で縫うしかない。スーパーで買うお金も無かったし。あれ悲しくなってきた。

 まあそれは置いといて。リリファさんはここに来たことあるの?


「いいえ。街に着いてからも仕事とかで忙しかったから。ちゃんとした買い物は今日が初めてね」


 ただ御主人様がおっしゃるには、この店で売ってるのは全て最高級品。一般人には手が出せない物ばかりなんだとか。

 そこに飾られてるセーターも結構な額らしい。

 

 値札が付いてるけどまだこの世界の文字はちょっと勉強不足で読めない。ただリリファさんが言うには一着で平民の家が建つくらい高価らしいけど。

 さすがに誇張だよね。いくら私でも冗談だってわかるよ。

 でも高いのは事実なんだろうな、外来品の最高級シルクをふんだんに使った贅沢品らしいし。

 

 日本製みたいに作りが丁寧だなーとか勝手に評価してたけど。もうちょっと早く気付くべきだったろうな。

 そういえば。獣人はともかくとして他に街道を歩いている普通人も、どちらかというと、やや粗末な服を着ている印象だ。

 

「何をお探しです」


 陳列されてるのを眺めてたら店員さんが店員らしからぬ、ぶっきらぼうな声で話しかけてきた。

 あれ聞き覚えある声だな。

 

「お前、あの時の」


 向こうも気付いたみたい。

 奴隷商に囚われてた頃にちょこっと交流を深めただけの仲だったけど、しっかり覚えててくれた。

 

「アリス。元気してるみたいだな」


 ナルシュ君もとっても元気そうだ。あの頃より毛並みも良くなって健康そう。

 奴隷商で一緒だった人達とはもう一生会うことは叶わないと思ってた。こうしてまた会えたのは、きっととっても幸運なことなんだろう。

 

「お前を買った主人はいい奴か」


 私を買ってくれたお兄様はとっても優しいの。服を買っておいでってお金も渡してくれた。

 

「そうか、なら待遇はいいよな。俺も恵まれてる方だぜ。俺を買ったのはここの店主なんだけど店員やらせてくれたんだから」


 店員、か。

 あそこにいた奴隷の人達は鉱山で働かされたり、性のはけ口にされたり。あの仔竜は食材にするって言ってたからもう殺されてるだろう。

 1番の幸せ者は私だろうけど、ナルシュ君もすごく幸運な方だと思う。

 

「俺の飼い主はアリスも知ってるよな、すんげー強面のおっさんだよ」


 顔は覚えてないけど物凄い大男だったのは覚えてる。とか考えてるとナルシュ君の後ろに大きな人影が迫った。

 あっ見覚えがある、と思ったのもつかの間。右腕にぐっと握りしめてそれをナルシュ君の頭上に、そして拳骨が振り下ろされた。

 

「初日からサボるたぁ肝の据わった奴隷だな」


 店の奥からランキスさんより更に背が高くて大きい、身長2メートル越えしてるだろう男性が現れた。

 奴隷オークションのときにナルシュ君を買ってた人なんだけど。

 

 左目を縦断している古傷はまるで山賊や海賊のよう、ものすごく怖そうなおじさんだ。

 私とリリファさんに注目してる。まさか襲い掛かってはこないよね。

 

「なんだ、ちゃんと客引きしてたのか、いらっしゃい何をお探しで」


 うちの品揃えはアスタルトでも最高とか言ってるけど似合わない。

 こんな厳ついのに服屋の店主やってるんだ。さっきの屋台のおじさん3割増しくらいに恐そうな外見してるのに。お兄様と職業を交換すればいいんじゃないかな。

 

「彼女に似合うドレスを何着か見繕って頂戴」


 リリファさんは私に代わって色々と話してくれている。ちょっと観察してみよう。

 人相が悪そうだと失礼ながら思ってたけど、店主さんはいい御主人様っぽい。

 酷使とかされてなくてナルシェ君も一安心なんじゃないかな。拳骨されてたけどね。

 

「どんな服を探してんだ」

「これで好きなのを買っていいよって」


 沢山金貨が入ってる袋を渡してくれた、鞄から出して机の上に置こうと。

 

「アリス今すぐ仕舞って」


 手で制された。えっ、マナー違反だったかな。

 ナルシュ君と店主さんは目をまんまるに、口をあんぐり広げて驚いてる。あれれ?

 

「貴女は常識を身につけなさい」


 日本なら、いや日本でもこんな真似はしないのかな。ずっと引き篭ってたから元の世界の常識すら知らない。

 というかどうして気付かなかったのだろう。金貨ってことは、とうぜん原材料は金だ。ただの金塊でもかなりの値段がする。

 それをコインの形にしたりデザインを施したりするんだから、少なくとも1枚1000円なんてレベルじゃないのは確かだろうな。

 

「お前にそんな大金渡すとか、主人はどんな奴なんだ」


 お兄様もしかしてちょっと世間ずれしてる? 私もなんにも知らないけど。

 苦笑いしながらナルシュ君は、リリファさんを見てハッと表情を変えた。

 

「もしかして毒姫。……そうか、あの傭兵団のリーダーか」


 毒姫って呼ばれてるのリリファさん、もしかして有名人なのかな。にしてはオタクサークルの姫みたいで侮蔑っぽいけど。

 

「すまねぇな、服買いに来たのに変な話しちまって。どんなのが欲しいんだ」

「アリスの主を、性的に満足させる服が欲しいの」


 ってリリファさん何口走ってるの。恥ずかしいよ、周りに通行人の子供とかいるのに。

 

「奴隷用か、主人の性癖を教えてくれ」

「私も詳しくは……。アリス、貴女はもちろん知ってるでしょ」


 いやいやいやいや、家族の性癖について真剣に考えるとか、字面だけでもシャレにならないよっ。

 

「ならスタンダードなので、こんなのはどうだ」


 店主さんが持ってきてくれた服は、ねえスタンダードって意味知ってるの?

 メイド服だけどミニスカで胸元が大きく露出している。これ着るのって私だよね。背の高さは小学生くらいしかないから、色々とシャレにならないんだけど。

 

 毛むくじゃらの身体だから色気皆無なのはともかくとして。倫理的にアレじゃないかな。

 次に持ってきてくれたのは、薄緑色で花柄のワンピース。

 一見すると清楚で可愛らしい感じなんだけど、どういうわけかビックリするくらいにスカート丈が短い。ちょっと風が吹いただけで下着が見えちゃって、非常に危なっかしいんだけど!

 

 更にセットでニーソックスまで付いている。なんでこの異世界にニーソがあるの?

 ワンピとニーソ。普通の女の子だったら可愛い組み合わせなんだけど、今の私が着てもなあ。フトモモ毛むくじゃらの絶対領域なんて誰も得しないよね。

 

 続いて棚の奥から引っ張り出してきたのはシースルーの桃色キャミソール、ねえちょっと待って。なんで店主さんはさっきから強烈なのばかりオススメしてくるんだろ。

 落ち着いたデザインのセーターとかスカンツが傍にあるよね。まさか店主はロリコンで獣っ娘好きの変質者?

 

 いやいや元凶はリリファさんか。最初に奴隷用なんて余計なオーダーしたからこんな展開になったんだ。

 ナルシュ君もなんだかモジモジしてるし、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきちゃう。

 

「他の服はサイズの仕立て直しとかしないといけねえ。2日程で終わると思うが」


 普通の服でいい、本当に普通のでいいんだから。まあ普段着も買うように言われてたし。

 てゆーか店主さんってソーユー趣味あるのかな、軽蔑したくないけど軽蔑しちゃうよ!?

 

「アリスに似合う服を全て買うから用意して」


 豪快すぎないかな。TVに出てそうな名物社長じゃないんだから。

 お金足らなくなっちゃうと困る。そう相談するとリリファさんはまた溜息。

 

「貴女の御主人様が用意した資金で、この付近の空き地を丸々買い占められるのよ」


 なにそれ怖い。お兄様ってば何考えてるの。

 

「じゃあ買った服は後日、屋敷に郵送でいいんだな」


 うん。あとそれから、お兄様に贈り物をしたい。

 美味しいご飯を作ってくれて、暖かい布団で眠らせてくれて。今日だって洋服を買うお金を渡してくれた。だから。

 

「皆まで言わなくていいわ」


 リリファさんはにっこりと微笑んで。

 

「知り合って間もないけど、貴女のことはよく知ってるつもりよ」


 ちょっとドキッとしちゃった。

 この異世界に来てから初めての友達、いや日本にいた頃だってこんなに親身になってくれる人はいなかったから。

 これが友達っていうのかな。

 

「ねえ店員さん、近所に具合のいいアダルトショップはあるかしら」


 ちょっと黙ろうか。あとナルシュ君になんてこと聞いてるの。

 そうじゃなくて切れ端とかでいいから余ってる布とかが欲しいの。

 

「切れ端でどういったプレイをするの?」


 プレイじゃなくて! そうじゃなくてお兄様に、手作りの品を贈りたいの!

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