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8話 おはようアリス

 景色が入れ代わる、真っ暗闇へと。瞼の向こうから光が差してくる。

 さっきまでのは夢だったんだな。布団の肌触りとか温度とかが、夢じゃないってリアルに伝えてくる。

 

 あんな突拍子もない展開なのに、素直に受け止めてしまったんだろう。

 お兄様とまた会えて幸福だというのに。それでもなお、またこんな夢を見ちゃうなんて、しかも二段構えなんかで。

 

 自分でも知らない間にトラウマになっているのかもしれない。

 スウスウ。背中に息遣いを感じる。

 振り返ると、すうすう寝息を立ててるお兄様。ああそうか昨日は一緒に寝てたんだ。

 

 穏やかな寝顔。表情だけなら、一緒のベッドで眠ってた小学生の頃と大差ない。

 子供の頃に戻ったかのような錯覚。

 でもどうして上半身裸なんだろ、ああでも筋肉が凄くて素敵で見惚れてしまいそう。

 

 空いてる部屋が無いからって言ってたけど。こんなに広い屋敷なのに、引っ越して来たばかりだから整理してないのかな。

 とてもいい目覚めなんだけど、少し腰が痛いのはどうしてかな。

 昨日までずっと、あんな場所に閉じ込められてたんだし疲労が溜まってもしょうがない。歩くには問題ないっぽいし、多分大丈夫。

 

「おはようアリス」


 どのくらいボーっと寝ぼけてたんだろ、気付いたらお兄様は起きてた。

 ギュッと抱きしめてくれた。止まってた時計が動き出す感覚を、味わっていいのかな。

 幸福に満ち足りた優しい空間に、ずっと浸っていたい。

 

 グー!

 

 ……私のお腹って、どうしてムード壊しちゃうんだろ。








 いい天気だ、絶好の昼寝日和じゃねーか。だというのにラズは今日もずっと家で過ごすらしい。

 ラズの奴はここ数日、奴隷オークションで買った雌猫獣人にかかりきりだ。

 

 まあでも最近は休みゼロでずっと戦争漬けだったからな。 ちょっと骨休みさせてやるか。どうせ当分は金に困らないし、癒しも必要だろ。

 だからって日常雑貨の買い出し押し付けんのはどうかと思うけど。ラズってこんなキャラだっけ。

 これで全部だっけ。ったく買出しも面倒臭いな。

 

「そーいやリリファ。髪染めは補充したか」

「ええ」


 リリファに持たせた買い物袋には沢山の髪染め薬が入ってる。こっちは俺用だ。

 

「こんだけあれば当分の間オーケーだな。サンキュー」

「 ファッションにこだわるのは結構ですが、やり過ぎると髪が痛みますよ」

「いいんだよ。舐められたら負けってゆーだろ、俺らは喧嘩商売なんだし迫力あった方がいいんだよ」


「ですが将来禿げますよ。エルフ製と違って、人間が作った粗悪品だと頭皮も痛めますから」

「……検討しとく。ってか禿げるってマジか、都市伝説じゃなかったのか?」

「私に頼んで頂けたなら良質の髪染めくらい、 いくらでもお造りしますよ」


「遠慮するぜ。蟲のエキスとか混入させそうだし」

「ええ。天然由来の成分ですとも」


 毒薬専門家のリリファが言うなら間違いないだろうな。マジで禿げるのか。

 まいいや今度考えよう、それより。

 

 頼まれたモン購入して帰ってきたんだけど、さっきからストーカーがいる。

 誰だアイツ? 鑑定っと。ボインボインの美人ちゃんなら大歓迎だけど、無駄にイケメンな野郎に付き纏われてもただウザいだけだし。

 ……たぶん傭兵かな。

 

 空気を読んだらしいリリファは何匹か蜂を残してさっさと屋敷に戻りやがった。ちゃっかりした奴だ。

 傭兵は、今のアスタルトじゃ珍しくない。ちょっと前まで戦争してたし今も治安悪いからな。

 

 エリートから犯罪者紛いまでピンキリだが多分こいつは前者のほうだろ。

 軽鎧は薄汚れてなくてきちんと手入れされてる。手指は太いが関節はしなやか。かなり器用そうだな、賢そうだし金回りも良さそうだ。

 実力はまあそこそこって感じ。まあ俺ほどじゃないが。

 

「よっランキス」


 あーうん、白々しく挨拶してきた。適当に流そう。

 

「久し振りだな。噂になってるぜ、こないだの戦争で活躍してるんだってな」

「おまえ誰?」

「ムライトだよ、ゴブリンキャップにいた頃ちょくちょく話してただろ」


 不快にさせない仕草、落ち着いた物腰、さりげない微笑。 一見して貴族っぽいな。中身が伴ってないのは気になるけど。

 ふーんムライトか。

 

 ゴブリンキャップは確か昔に、ちょっとだけ所属してたことがある。

 そういやこんなのもいたな。あんまり覚えてないけど。俺的にはどうでもいい相手だ。


「ゴブリンキャップのリーダーになったんだ。大変だぜ、あの間抜け共を纏めるの! ってか不機嫌だな」

「最近忙しくてさ。昨日なんか13時間しか寝てないんだ」

「十分だろ」


 なんで誰も彼も睡眠の大事さを理解しないんだ。俺には理解できないぜ。にしても、よく喋る男だな。

 

「ホントに間抜けでさぁ足引っ張られてばっかなんだよ。いっそ隊の連中捨ててさ、お前んトコに転がり込んじゃおうかな」

「それ無理。チームランキスは強い奴しか入隊させないから」


「いっとくけど俺はそんなに弱くないぜ。もしかしたらお前より強いかもよ」

「まあ弱くても構わないんだけど、今んトコは求人出してねえよ」

「……アスタルト拠点にしてる。気が向いたら誘ってくれ」


 男が完全に見えなくなったタイミングでリリファが買い物片付けて戻ってきた、やや戦闘モードで数匹の蛾を侍らせてる。

 

「ランキス様」

「ただの蠅だ、ほっとけ」


 短い会話だったが、男の底は読めた。

 ただの蝿って認識で問題ゼロだろう。仕事柄、恨みを買うのしょっちゅうだし。

 

「恨みを買う程度ならいいのですが」

「なんか言ったか」

「いえ別に」

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