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「意外なことに、リュシアンと上手くやっているようね。リュシアンは物大人しい女性が好みで、あなたのように前へ前へと出て行く性格の女性は苦手だと思っていたのに」
「そうでしょうか? 私には到底そうとは思えませんが」
リュシアンの祖母である、イレーヌとのお茶の席である。
イレーヌにお茶に誘われるのは初めてであった。夕食を共にしたことは何度かあったが、お茶の時間に呼ばれたことはなかった。同じ屋敷に住みながら、イレーヌはまるでダリアなどいないように扱ったし、ダリアもそれに対して抗議することは、このところあれこれと立て込んでいたこともあり、特にしなかった。
ここはダリアがいつも食事をとっている食堂で、イレーヌがここに居るのはとても珍しいことだった。テーブルにはチョコレートクッキー、スコーン、イチゴのパイ、レモンのタルトが並んでいる。それを少しずつ食べながらの、ゆったりとしたお茶の時間であった。
「……シェリーのこと、リュシアンに聞いたわ。あなた、よく調べられたわね」
なるほど、それがこのお茶の時間の主題なのかとようやく理解した。イレーヌにとっても懸案事項だったのであろう。
「サリーが話してくれたのです。彼女はかつてはシェリーの侍女でしたが、今は私の侍女です。きっと私を信頼してくれたのでしょうね」
「なにか証拠を掴んで、突きつけて無理やりに話させたのでしょう?」
「そんな、無粋なことはしません。信頼で勝ち得たものです」
ダリアは澄まして微笑んでおいた。
ちょうど半分まで減ったダリアのカップに、メイドが紅茶を注いでくれた。芳醇な香りが周囲に広がる。
「コリンヌ王妃の信頼も、国王陛下の信頼も、あなたは勝ち得たようね」
「そんなつもりはなかったのですが、結果的にそうなって嬉しいです」
「よく言うわ」
イレーヌはふん、と鼻で笑いつつ紅茶を飲み干した。すぐに侍女がおかわりを入れる。
「先の友人達の集まりに参加したときに、羨ましがられたわ。よい嫁を迎えたわね、とね。今までは混血の、外国育ちの嫁なんて、と陰で笑われていたのに」
「ようやく正当に評価されるようになって、嬉しいです」
今まで陰でなんと言われていたのかと憤る気持ちはあったが、それは深く追及しなかった。友人達の鼻を明かしてイレーヌも機嫌がよいようだし、深く聞くのはやめておいたほうがいい。
「私のお友達が、ぜひあなたに会いたいというのよ。これは、リュシアンの妻として、バロウ家の嫁として正式にお披露目の会をした方がいいようね。今まではリュシアンが多忙で延期していたけれど、このところあの子も頻繁に屋敷に戻ってくる余裕ができたようだし」
「なるほど、ようやく私を正式な妻として認める気になったということですね」
ダリアが意地悪く言うと、イレーヌは肩をすくめた。
「なにを言うの? 初めから正当な妻として迎えていたではない?」
「惚けますか……まあ、よいです。私としてはやぶさかではありません。では、その披露の場に出席するために新しいドレスを新調したいのですが。装飾品も、新たなものを用意していただきたいですわ」
「ええ、それはリュシアンと相談すればいいわ」
「ええ、私に似合う、薔薇のように赤いドレスを仕立ててもらいますわね。楽しみ」
「そうね、毒々しい赤色のドレスがあなたにはお似合いだものね」
「ええ! そう褒めていただいて嬉しいですわ」
嫌みに笑顔で応じ、ふたりの間には火花が散った。
大姑と嫁との戦いは、まだまだ始まったばかりだった。
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