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ダリアに悲劇は似合わない  作者: 伊月十和
第五章 ダリアは悲劇を回避する
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1-72

 その日もダリアは同じ時間に目覚め、同じ朝食を食堂でとっていた。

 今日は曇天で、ダリアにとっては絶好のお散歩日和だ。今日はなにも予定はない、朝食を終えたら少し森を歩こうと決めた。


 いつも少し違うのはひとつ。今日はリュシアンも一緒に朝食を食べていることだ。昨夜遅くに帰って来て、今日は一日屋敷に居るそうだ。このところ、たまにそんなことがある。結婚当初は、ほとんど家には帰らず、帰ってもすぐにまた王宮に行ってしまうことが多かったのに、今日は休暇だという。

 夫婦で朝食をとるという、他の夫婦では当然のことが若きバロウ夫妻には珍しい。

 ダリアは目玉焼きをナイフとフォークで切り分けて口に運び、リュシアンはパンを食べながら新聞に目を通していた。ふたりだけの静かな朝食だった。


「……朝食を終えたら散歩に出ようと思っているのだけれど、あなたもどう?」


 珍しい朝食の席で、初めての提案をしてみた。

 するとリュシアンはばっと新聞を外して、驚愕の瞳でダリアを見た。


「俺と散歩だって? しかも君から誘って来るなんて。どういう風の吹き回しだ。午後から吹雪になるかもしれないな」

「もうすぐ夏になるというのに吹雪だなんて。別に無理とは言わないけれど」


「いや、妻からのたっての頼みなのだから、当然付き合うさ」

「そう」


 そっけなく答えて、ダリアは紅茶に口をつけた。


◆◆◆


 バロウ家の裏手の森は、ダリアのいつもの散歩道になっていた。最初に来たときにはまだ肌寒く、草花もまだ縮みこんでいたが、今は青々とした葉を茂らせ、華麗な花弁を広げている。

 ダリアとリュシアンはふたりで肩を並べて歩いていた。リタも、他の従者もいない。いつもの散歩のとき、リタと一緒に来ることはあったが彼女はいつもダリアの斜め後ろを歩いているから、誰かと肩を並べて歩くのは初めてで、なんだかくすぐったい気持ちになった。


「実はあなたの最初の妻について分かったことがあるの」


 少し湿り気を帯びた風が吹く中で、ダリアはそう切り出した。


「シェリーについてだって? 誰に聞いた?」

「彼女の侍女よ、サリー」


「サリーだって? 彼女は、俺がなにを聞いてもまともな答えは返してこなかった。酷く取り乱して、話ができる状態ではなかった。三ヶ月ほど経って、充分に落ち着いた状態になったところで話を聞いたが、シェリーは病気で死んで、自分はなにも知らないと言っただけだった。毒について聞いたら、確かに自分がシェリーに言われて買ったものだが、それを飲んだかどうは分からない、とだけ。部屋には二包の薬があった。減っていたならば飲んだということでは? と聞いたが、何包買ったかも覚えていない、と」

「そこはやはり詳しく突っ込まなかったのね」


「主人を亡くして取り乱していたのだ。それに、毒を飲んだかどうか分かったところでシェリーが生き返るわけでもない」


 当時のリュシアンはとても疲れ切っていて、死因について追及するような気持ちにはなれなかったのかもしれない。

 しかし、リュシアンにとってシェリーの死因についてはとても重要なことであろう。真実を知ることが怖くて、それで深く追及しなかったのかもしれない。


「ところで、妻が実家から連れてきた侍女をそのまま雇っているなんて、少し珍しい気がしてしまうけれど」

「実はサリーとは以前から顔なじみだったのだ。かつてシェリーは俺の患者だったから、彼女の屋敷を訪ねるたびに顔を合わせた。その縁もあって、引き続き当家で働いてもらっているのだ」


「そう……」


 そのとき、ふたりの足下をなにか小さいものが横切った。思わず足を止めて見ると、それはリスだった。そのまま木の幹を駆け上がっていき、高い枝の上からふたりを見下ろしている。

 ダリアはそのリスを見つめながら、呟くように言う。


「シェリーのことについて、分かったことをあなたに伝えようと思うの」

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