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ダリアに悲劇は似合わない  作者: 伊月十和
第五章 ダリアは悲劇を回避する
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 その翌日にとある人からです、と言って使者がダリアの元へやって来た。そのとある人の素性は言えないけれど、手紙を見れば分かりますと手紙をダリアに渡し、きっと来てくださると思っています、と伝言を受けていますとだけ言って立ち去った。


 ダリアはバロウ家の庭にいて、ひとりでお茶を飲んでいるところだった。今日はリタは休みをとっていていない。手紙に目を通し、深々とため息を吐き出す。まさかこんなことになるとは思ってはいなかった。

 気が進まなかったが、呼び出しに応じていくより他にないだろう。


 その日の夜、王都に住まう友人の家に行くと告げて馬車を用意してもらった。


◆◆◆


 本当はリタに一緒に来てもらいたいところだったが、不在なので仕方がない。他の侍女や侍従に付いてきてもらうわけにはいかない、秘密を漏らしたくないからだ。相手もそう望むだろう。

 いつもの黒いドレスに外套を身に纏い、馬車に乗り込んだところで何者かが突然馬車に乗ってきた。

 賊か、と身構えたところで、その者の正体を知り、安堵のため息をつく。それはリュシアンであった。


「従者も伴わずにどこへ行くつもりだ?」


 そう言い、ダリアの隣に腰掛ける。まさか、一緒に行くつもりだろうか。


「友人の家よ。最近こちらに来たらしくて、手紙をくれたの。晩餐に招待されたの」

「嘘だな。侍女に聞いた、昼間に怪しげな使者が来たらしいな。誰からの使者から告げず、とにかくダリアに取り次いで欲しいと言ったそうだな。そして、その夜に出掛けることを告げて馬車を用意させ、黒いドレスを着て夜陰に紛れて出掛けようとしている」


「黒いドレスはいつも着ているでしょう? 黒が好きなのよ」

「きっと浮気に違いない、警戒した方がいいと言われた」


「浮気……」


 ダリアは気が遠くなりそうだった。

 浮気なんて、今日の用件からはほど遠くて、そんな勘ぐりをされたなんて笑ってしまうほどだ。そんなわくわくしたものではない。


「違うわよ、くだらない」

「そうなのか? 本当に?」


 リュシアンは疑わしい目でダリアを見ている。ダリアはばかばしい、と肩をすくめた。


「だいたい、私が外に男を作ったら、それはそれであなたは万々歳なのではないの? 妻は適当に遊んでくれた方があなたはいいでしょう? その方が仕事に集中できるから」

「そんなことはない。とにかく俺も一緒に付いていく」


 そう言うと御者に合図をして、馬車を出させた。


「だから、浮気ではないわ」

「でも、友人に会いに行くのも嘘だろう? 本当はだいたい予想はついているのだ。アルノー伯爵に呼び出されているのだろう?」


 ダリアは衝撃のあまり、開いた口がふさがらなくなった。

 なぜリュシアンにそれが分かるのだろうか。まさかリタがなにか話した? と思うが、それはないだろう。リタは秘密は忠実に守る侍女である。ならばなぜ、と考えるが分からなかった。


「自分の婚約者の子を宿した女性に、堕胎薬を渡した話をしにいくんだろう?」

「……なぜあなたがそれを知っているのよ?」


「セシル王妃に聞いた。彼女は自分のいとこからの手紙でそれを知ったと言っていた。俺にその話をして、俺に妻を軽蔑させたかったんだろうな」


 リュシアンはつまらなそうに言う。ということは、セシルの思惑通りにはいかなかったということか。


「そうなの……。ならばいいわ、一緒に来てくれれば助かる。実はひとりだと不安だったのよ。アルノー伯爵がどんな方か、まるで知らないし」


 話があるから、あまり人目につかないようにして来て欲しい。

 そして指定されたのはアルノー伯爵の屋敷ではなく、郊外の教会だった。あのソレーヌの父親である、血の気の多い人で突然襲われないとも限らない。だが、相手が人目につかないように、と言っているのでそれは尊重したい。そのときに同行者として夫を選ぶのはよい判断だと思うのだ。


「最初から素直にそう言えばいいのに」


 リュシアンはふんと鼻を鳴らす。


「ええ、頼りにしているわ」

「そこまで言われると気持ちが悪いな」


 そう言うリュシアンにダリアはむしろ嬉しい気持ちになった。以前のようにわだかまりなく話せているような気がしたからだ。

 馬車は指定された郊外の教会へと走っていた。御者にはあらかじめ行き先を告げていた。ただし、それは教会の近くまでで、後は歩きで行こうとしていた。夜道をひとりで歩かなければならないことを考えても、リュシアンが同行してくれるのはとても助かる。


「君も自分の評判を気にするんだな?」

「別に、私の評判なんて……」


「いや、気にしているだろう? アルノー伯爵に呼び出されてそれに応じ、どうかその話は内密に、と頼みに行くんだろう?」

「内密にはしたいけれど、頼むのは少し違うと思うわ」


「……なんだ、どういうことだ? よく分からない。俺はそれを助けにいくのだと思っていた。結婚する前の話とはいえ、至らぬ妻がすみません。そのときにはきっと気が動転していたのでしょう。若気の至りとどうか失礼をどうかお許しください、とな」


 リュシアンは必死で頼み込むように手をすりあわせた。ダリアはそれを一笑に付す。


「つまらない冗談はやめて。いいから、来れば分かるわよ」


 ダリアはそっけなく言って、椅子の背にもたれて、馬車の振動に身を預けた。

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