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ダリアに悲劇は似合わない  作者: 伊月十和
第五章 ダリアは悲劇を回避する
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 コリンヌの久しぶりの野外でのお茶会は肌寒くなる夕方前には終わり、ダリアは王宮に戻るとコリンヌに今日のところは辞去する旨を伝え、屋敷に戻ろうとリタと共に通路を歩いていた。

 もう少しで宮殿を出る広い玄関ホールへとさしかかろうというところで人影を見つけた。ひとりやふたりではない、五、六人はいるだろうか。誰か高貴な身分にある者が、お付きたちを伴って歩いている、といった雰囲気だった。


「あら、誰かと思えばダリア先生」


 わざとらしく先生呼ばわりされて、ダリアは立ち止まった。それは、第二王妃のセシルとその一行だった。

 本当は無視して通り過ぎたいところだったのだが、王妃相手にさすがにそれはできなかった。


「……セシル様。ご機嫌麗わしゅう」


 型どおりの挨拶をして頭を下げると、セシルはふん、と鼻で笑った。


「あら、あなたには私が機嫌がいいように見えるの? とんだヤブ医者ね」


(いつも機嫌が悪いから、その中からマシなときを見つけることすらできないのよ。鈍い女ね)


 心の中でそう毒づきながら、うっすらと笑っていた。

 彼女には下手なことは言わずに適当に受け流し、さっさと立ち去るのが一番である。


「あなたのところのコリンヌ王妃? 彼女はこのところとても機嫌がいいようね? 彼女が元気になって、陛下もとても機嫌がいいし」

「それはなによりです」


「……けれど、それがいつまで続くのかしら? 見物だわ」


 そう言って、持っていた扇を広げて口元を隠す。その様子を見て、彼女のお付き達はとても愉快そうな表情となる。とても不快な雰囲気だ。

 これは変に聞き返したり、否定したりしない方がいい。ダリアは「そうですね」と言って適当に流すと、それが気に入らなかったのか、セシルは眉根を寄せ、そしてつかつかとダリアに近づいてきた。

 なにかと思っているとセシルはダリアの近くで身を屈め、扇で自分とダリアを隠すようにして、耳元で言う。


「……本当は秘密と言われていたけれど、あなたがソレーヌに堕胎薬を渡したこと、彼女の父親であるアルノー伯爵に話してしまったの」

「え……?」


 動揺した声を上げると、セシルは含み笑みを浮かべてダリアから離れた。


「きっと叔父様は怒って、あなたを呼び出すと思うわよ。だって……そんな人が王宮に出入りしているなんて、許されないことだわ。きっとこのこと、コリンヌ王妃の耳にも陛下の耳にも入るわよね? セシルのお兄さんは陛下の側近だもの。陛下もきっとお怒りになるはずだわ」

「あの……困ります。このことを他には漏らしていませんよね?」


 ダリアが弱気な声を上げると、セシルは満足そうに笑う。


「あら、そんなに困ることだったの? 安心して、今のところ叔父様にしか話していないから。あなたが大人しく王宮から去るということならば、他に漏らすつもりはないわよ」

「ええ……。そうした方がいいと思います」


「そうね、考えておくわ」


 セシルは勝ち誇ったように言うと、そのままお付きの者を引き連れて歩いて行ってしまった。

 ダリアはそれを、心細い気持ちで見送っていた。

 もしその噂が広まってしまったら、とても困ったことになる。まさかソレーヌが、そのことを他言するとはないと油断していた。

 どうしたものかと思うが、今のダリアにはどうすることもできなかった。

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