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これが最終章になります。
最後までお付き合いいただければ嬉しいです!
「コリンヌ様はもう見違えるほどにお元気になられて。これもダリアさんのおかげだわ」
レイチェルはリュシアンが訪ねて行く度にそう言って微笑む。彼女自身も、大きな心配の種がなくなったからか、以前よりも溌剌としているようだ。
国王の機嫌もすこぶるよい。本当に晩餐会にコリンヌが出席できるようになるとは思わなかったと言って、ダリアを褒めた。大口を叩くだけではなく実際に事を為すとはなかなかできないことだ。そんな者はわが側近の中にも少ない、などと言い出したので、側に控えていた側近たちは苦笑いを浮かべつつ、リュシアンに嫉妬をたぎらせているような視線を向けてきた。俺じゃない、と言いたかったが、彼らにそう言っても通じなさそうだ。どうやら余計なやっかみを買ってしまったようだ。
その中で、特に面白くなさそうな顔をしているのはフィルマンであった。ダリアから婚約者を奪った女の兄である。
「明日はダリアさんと一緒に王宮の裏手にある森へ散策へ行く予定なの。たくさんのお菓子やお茶を持って。兄さんも一緒に行く?」
レイチェルは嬉しそうに言う。王宮に勤めてからというもの、彼女のこんな嬉しそうな表情を見るのは初めてだった。明日をとても楽しみにしているということが、その表情を見ているだけで分かる。
「……いや、俺は遠慮しておく」
「そう?」
「そんなことより……」
そう言いかけて、リュシアンは言葉を飲み込んだ。
かねてレイチェルに確認したいことがあった、もう十年ほど前からだ。ダリアと話していて、それを確認したいと思っていたのだが、それを聞くのは決して今の時期ではないと思いなおした。こんな楽しそうな顔をしているレイチェルに、過去の疑念を蒸し返すとは水を差すような行為だ。別の機会にしようと決めた。
「え? なに? どうかしたの」
「いや、なんでもない。こちらの気のせいだった」
そう言って笑うが、レイチェルは不審そうな表情となる。さすが妹である、ごまかしきれなかったかと焦るが。
「……もしかして、ダリアさんのこと?」
「あっ、ああ、実はそうなんだ」
レイチェルの勘違いで話題が変わりそうだ。ここはダリアを利用しようと決めた。
「ダリアさんの噂なんて、根も葉もないことで、ただのやっかみだから気にする必要はないわ。夫である兄さんにしてみたら、面白くないかもしれないけれど」
レイチェルは厳しい表情で、首を横に振る。
「噂の元はだいたい分かっているのよ。だからと言って噂を流さないでくださいなんて、言えないし、そもそも彼女が流した噂だというこれといった確信もないし。放っておくしかないわ」
(ああ、きっと第二王妃のセシル様だろうな。あの幽霊騒動で懲りたと思っていたが)
次の社交シーズンには、コリンヌ王妃も参加できるだろう見込みだということは、既に王宮中の噂になっていた。それでなくとも、今まで部屋に閉じこもりきりだったコリンヌが時折中庭を散歩している姿が目撃され、さすが国王の寵愛を受ける王妃だけのことがあって、しばらく見かけなかったが変わらず美しいなどという話が駆け巡っていた。
そんな、体調が回復したばかりのコリンヌの変な噂を流して国王の耳に入ったら大変なことになりかねない。その代わり、にはならないのだが、ダリアを攻撃する方向へ行っているのはリュシアンも気付いていた。
だが、ダリア本人は気にしていないようだし、だからといって放置するのもどうかと思うが、レイチェルの言うとおり特に取れる手立てはない。セシルにそれらしく釘を刺すことはできるが、それが更に不興を買ってエスカレートするとも限らない。
(なにもせずに放っておくのが一番いい。そのうち向こうもなにをしてもダリアの実績を損なうことなどできないと気付くだろう)
セシルの動きは注意深く見ることにして、さしあたってはこちらから行動するのは控えておいた。
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