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ダリアに悲劇は似合わない  作者: 伊月十和
第四章 思いがけない新婚旅行と墓場まで持って行く秘密
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「無効にされた、って。あなたが夫らしく振る舞わなかったから、我慢できなくなって婚姻無効を訴えたんでしょう? 余程のことよ、婚姻を無効にするなんて」

「そうか? マリアは激情家だったからな。割と簡単に婚姻無効を言い出した気がする。結婚してからわずか半年後のことだったからな」


 そのときのことを思い出しているのか、リュシアンは顎に手をあてて、視線を虚空に漂わせていた。まるで他人事のような言いようだ。


「半年ですって? それは余程腹に据えかねたのでしょう。まあでも、気持ちは分かるわ。夫は王宮に行ったまま滅多に戻らない、家では次期当主の妻を妻とも思わないような扱いで」

「そうだな、お祖母様とはしょっちゅう喧嘩をしていたようだ。お互いに高慢で言いたいことは言う性格だからな」


「それを取りなすのが夫の役割ではないのかしら? あなた、前回の結婚の失敗をまるで反省していないわね? 私に対してもまるで同じ対応じゃない」

「そんなことはない。結婚後、すぐに挨拶に来ただろう」


 一週間をすぐと言うのだろうか。

 どういう時間感覚かと呆れる。本来ならば、妻を実家まで迎えに来てもいいようなものだ。そうでなくとも、王都の入り口まで迎えに来るべきだろう。バロウ家からはなんの歓待も受けることはなかった。

 そのときのことを思い出して、更に腹立たしい気持ちになった。仕事が忙しく、妻を迎えにも行けなかったと後悔しているならともかく、まるでそんな様子はない。


「そんなだから、一番目の妻は自ら命を絶ったのね」

「……なんだと?」


「マリアがそう教えてくれたの。病死だってことになっているけれど、本当は違うって。最初の奧さんは、とても奥ゆかしい人だと聞いているわ。マリアと違って、婚姻無効の裁判を起こすなんて大胆なことはできなかったから、自ら命を絶つ道を選んだのではない? それほど、あなたの妻でいることが嫌だったのよ」

「……ああ、そうだな。そうかもしれないな」


 そう言ってリュシアンは俯いてしまった。

 初めて見る表情だ、とても傷ついているように見える。


(……あら? もしかして私、言ってはいけないことを言ってしまった……?)


 後悔しても、一度口から出してしまったことは取り返すことができない。

 いつも自分をそう戒めている。好き放題言っているように思われているようだが、これでも発言には気をつけているつもりだ。だが、どうやら決して口にしてはいけないことを言ってしまったようだ。


 最初の妻が自死したとは、マリアの嘘だと思っていた。そう言ってダリアを焦らせ、リュシアンとの結婚は間違いであると思わせる目的だと思っていた。事実、リタにバロウ家の使用人にさりげなく最初の妻の死因について探るように頼んだが、やはり病死だと答えたそうだ。


 リュシアンの最初の妻であるシェリーは、そもそも病気がちで、結婚した当初は調子がよかったが、三ヶ月も経った頃には寝台に横たわっていることが多くなったそうだ。それは理想の結婚生活ではなかったことで気に病んだ、ということが大きかったらしく、それはリュシアンが忙しすぎたという事情によるものがありそうだった。ただ、その頃のリュシアンは妻のことを心配しており、頻繁に妻の様子を見に王宮から戻ってきていたらしい。


『あんなに懸命に治療したのに、命を落とす結果になってしまい、リュシアン様もお気の毒に』


 そう言う使用人もいたという。

 少なくとも使用人たちは自死ではなく病死だと思っているようだが、事実は違ったのだと、リュシアンの表情を見れば分かる。

 リュシアンのことだから『そんなのただの虚言だ』と言うか『くだらない』と一蹴するかのどちらかだと思っていた。

 古い傷に触れてしまったようで申し訳なく思うが、そこはダリアである、素直に謝罪することができなかった。


「……あら? もしかしてマリアの方が正しかったの? てっきり思い込みか、私を焦らせる嘘かと思っていたのに。申し訳なかったわね」


 リュシアンの顔色を窺いつつ、あくまでも上から目線で謝罪する。こんなの謝罪のうちに入らないとは自分でよく分かっている。


「シェリーが思いつめていることは知っていた。それを分かっていながら、おざなりにしていたのは俺だ」

「え……?」


「俺が治せなかった、俺が殺したようなものだろう」


 リュシアンは絞り出すような声で言い、そのまま黙ってしまった。


(え……? どういうこと? はやり病死だということなの? 分からないわ)


 疑問に思ったが、さすがにこれ以上聞くことはできない。ただ、最初の妻については口にすべきではないということは分かった。

 ダリアは陰鬱なため息を吐き出しながら、流れていく風景を見つめていた。

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