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ダリアに悲劇は似合わない  作者: 伊月十和
第四章 思いがけない新婚旅行と墓場まで持って行く秘密
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「コリンヌに毒を飲ませたという疑いは間違いであったと受け入れよう。あのコリンヌの様子を見れば分かる。だがなぁ……」


 いつものように突然コリンヌの部屋にやって来たデューク国王は、ダリアに『昨夜はあまり寝れず、今やっと寝付いたところなのです。後にしてください』止められて渋々それに従い、コリンヌの部屋の近くにある音楽室にやって来てダリアと話していた。彼からダリアに話があると言うのだ。あなたと話すことはない、くらい言いたかったが、デューク国王にはリュシアンが同行していて、目で応じるようにと合図をしてきたので、仕方なく応じた。


 この音楽室は、グランドピアノやハープなどが置かれている部屋で、音楽好きだった先代の皇后が作らせた部屋だそうだ。今でもたまに演奏会が行われる。幾何学模様の床に、分厚い赤いカーテンが掛けられている。楽器を中心に扇状に椅子が並べられており、窓際には座り心地がよさそうなソファが置かれていた。ここで演奏が行われることがあったらぜひ聴きに来たいと思うが、恐らくダリアが招待されることはないだろう。


 デューク国王はグランドピアノの近くにあるソファに腰掛けて、肘おきに肘をおいて頬杖をつき、ダリアのことを観察するような目つきで見ている。


「怪しげな噂があるお前にコリンヌを任せていいのかどうか。現にコリンヌは、一時期よりは回復しているが、調子がいい時と悪い時を行き来していると聞いているぞ?」

「それはあなた様が……」


 急にコリンヌ様の部屋にやって来ては勝手なことを言って、コリンヌ様を苦しめるからよ、と言いかけたのだが、


「まあまあ」


 それをリュシアンに押しとどめられてしまった。どうやらデューク国王に対して失礼な物言いをしようとしている、と察したらしい。まったく余計なことを気付いてくれる。


「……陛下には、以前よりも回復傾向にあるということを評価していただきたいです」


 リュシアンが取りなすように言うと、デューク国王は子供のように口を尖らせた。


「まあ、それはそうなのだが」


 デューク国王は納得しきれないという様子である。


「そろそろ社交シーズンになる。そのときにはコリンヌを出席させたいのだ」

「はあ? そんなこと……」


 できるはずがないでしょう、とダリアは言いかけたのだが、またリュシアンに視線で咎められた。ダリアに続きを発言させまいとリュシアンは声を張る。


「なるほど、陛下はそのようにお考えでしたか」

「ああ。思えばコリンヌが最後に晩餐会に出席したのは、もう三年も前だ。なにも晩餐会で存在感を示せだとか、周囲の者たちにしっかりと挨拶しろ、などと無理は言わない。コリンヌはどちらかといえば引っ込み思案で大人しい女性だからな。ただ座って食事をするだけでいい」


 さも自分がコリンヌのことをよく知っていて、慈悲深いことを言っているように言うが、そもそも晩餐会に出席させるということに無理がある。


「そろそろ、王妃と王子王女たちを一堂に会させて、わが一族の威光を他に示したいのだ。皇太子が亡くなり、不安に思っている諸侯達も多いだろう。そんな者たちに、王族は盤石であると示したい」


 そう言うデューク国王に対して、彼の側に立っていた側近が声を上げた。


「なるほど。さすがの深いお考えですね」


 そう言って、不敵な表情でダリアを見る。

 どこかで見た覚えがある……と記憶をたどり、気付いた。故郷の街で一度しか会った、というか、見かけたことしかないが、ソレーヌの兄であるフィルマンだ。デューク国王の側近である、とは聞いていた。


「確かにそのようなことも必要です。皇太子はお亡くなりになり、第三王妃は長く病んで公の場には一切姿を現さないような状況では、不安に思う者もいるでしょう」


 更にデューク国王の考えを支持するように言う。彼は満足そうに頷いている。


「ということだから、貴殿にはなんとしてもコリンヌ王妃を晩餐会に出られるようにして欲しい」


 フィルマンが言う。先ほどのデューク国王の言い方よりは多少柔らかいが、言っている内容に変わりはない。無理だ、なにを言っているのだと呆れた顔をするダリアに対して。


「……無理なのか? 聞いたところ、あなたは翠蓮国でも有名な、腕利きの漢方医師だったそうではないか。なんでも、かの国の王からもお召しがあったという」


 どこでそんな話を聞いたのか。

 もしかして、彼の義弟でダリアの元婚約者であるルネから聞いたのか、と思ったら憎々しく思えてきた。王都へ来たはずなのに、いつまでも元婚約者とその妻の影が消えない。


「そんな方にかかれば、コリンヌ様を回復させることなどたやすいでしょう」


 フェルマンに言われて、ダリアはついつい、言ってしまったのだ。


「ええ、そうね、もちろんよ」


 言った瞬間しまった、と思ったが、一度口から出た言葉は取り戻せない。ダリアは腕を組み、挑戦的な瞳でフェルマンを見つめた。


「そうか、そういうことならば話は早い」


 デューク国王は膝を打って、立ち上がった。


「二ヶ月後までだ、それまでにコリンヌを晩餐会に出られるようにしろ。俺をがっかりさせるな」


 そう言い残してデューク国王とその取り巻き達は部屋から出て行った。

 リュシアンだけは部屋に残り、苦笑いを浮かべつつダリアを見つめていた。


「どうしてあんな虚勢を張ったんだ?」

「虚勢ではないわ、私にだったらできるわ」


 リュシアンの前でもそう言い張ってしまう。我ながら意地っ張りだと思うが、それが自分という人なのだから仕方がないと諦めた。


「翠蓮国では名医と呼ばれていたのか? 王にも召されたという」

「そんなことはいいのよ、人の評判なんて関係ないわ」


 そのことにはあまり触れたくないのでそう突っぱねておいた。それよりも今は、コリンヌをどうするか、という問題である。


「まあ……、お前はコリンヌ王妃の信頼を得ているようだから、事情を王妃に話せば一日くらい無理をしてでも晩餐会に出席してくれるとは思うが」

「そんなことはさせられないわ。いい? コリンヌ王妃にはこのことは黙っておいて。妹のレイチェルにも、よ」


 ダリアがぐっと迫ると、リュシアンは圧倒されたように頷いた。

 そしてダリアはじっと考え込んだ。


(なんとかしないといけないわ……。でもどうしたら?)


 もしかしたら強硬な手を取らなければならないかもしれない。できればコリンヌにはゆっくりと回復してもらいたかったが、時間をかければいいというものでもない。今の状態ではどこまで回復できるかも不明だ。

 今こそ次の手を打たなければならない時期かもしれない。

 ダリアは決意を固めた。

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