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ダリアに悲劇は似合わない  作者: 伊月十和
第三章 王宮の幽霊
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1-34

「ああ、シェリーというのはリュシアン様の一番目の奥さんのことです」


 リタにシェリーのことを尋ねてみると、そう即答してくれた。

 リタには一旦屋敷に戻ってもらって、着替えといくつかの生薬を持ってきてもらった。こういうとき、少したりとも生薬のことを知っている侍女がいるととても助かる。そして、ふたりでコリンヌの部屋の隅にあるソファに腰掛けて、未だに目覚めないコリンヌを見守りながら、話していたのだ。


「どうしてリタがそんなことを知っているの?」

「私も伊達にバロウ家に居るわけではないんですよ。古い使用人の何人かと仲良くなりました。彼女たちから聞いたんです。でも、ダリア様はあまり興味がないだろうなと思ってわざわざお伝えしなかっただけです」

「ああ、なるほどね」


 確かに使用人達のしがない噂はなしにはあまり興味がない。ただ、その噂の中に思いもよらない真実が隠れていることもあるから、知っておきたいという気持ちはある。


「シェリーが勘違いしていた、というようなことを聞いたのだけれど?」


 ダリアは周囲に誰もいないことを確認するように視線を動かしてから聞いた。


「そもそもシェリー様は、リュシアン様の患者だったそうです。幼い頃からご病気で、二十歳まで生きられないと言われていたのが、リュシアン様の懸命の治療で奇跡的に回復されてたですとか」

「ああ……分かったわ。それでだいたい想像がついた」


「……ええ。結婚されてからも、そんなふうに接してくれると期待していたのでしょうね。ですが、屋敷に戻ることはほとんどなく、帰っても部屋に閉じこもりきりで出て来てくれない」

「なるほど……それはショックだったでしょうね」


 しかも病弱だったならば、自分の屋敷から外にでる機会は少なかったと予想する。なにか相談したり、助言をしてくれたりする友人も少なかったかもしれない。自分を助けてくれた医師と夢のような結婚をしたけれど、現実はそうではなかった。そのギャップに苦しんでいたのだろう、とは想像に難くない。


「ふさぎがちになって、部屋からほとんど出てこなくなったそうです。そして、生来の病弱だったということもあって、具合を悪くされてしまって、それで亡くなってしまったそうです」

「そうだったの……」


 二番目の妻であるマリアは、実は病死ではなく自死であると言っていた。リタの話からしても、そのようなことはありそうだ。


「ありがとう、リタ。私が知らないことをいろいろと教えてくれて」

「いえ、大したことではありません」


 リタはそう謙遜するが、これ以上の侍女はそうはいない。リタがいることでとても助かっている。リタがいなかったらバロウ家でダリアはもっと孤独だったろうと考える。


 そうしてリタとあれこれと話しながら過ごしていると、不意に扉の外が騒がしくなった。何事かとリタが立ち上がって様子を見に行ったが、すぐに真っ青な顔をして戻ってきた。


「いけないっ、ダリア様っ! すぐに隠れましょう」

「隠れる? どうして? 別に私はこの部屋に忍び込んでいるわけでもないし、コリンヌ様にも許されて……」

「いえ、でも……」


 リタが顔色をなくしてそう言っているうちに、乱暴に扉が開かれた。

 ここは第三王妃の部屋である。そんな無礼を働くのは誰かと思って驚いて見ると、そこには三十近くと思われる男性がいた。


「コリンヌ、一体どうしたっていうんだ!」


 病人をまったく気遣う気配などない。怒鳴るような大声でそう言いながら部屋にずかずかと入ってきた。

 なんて無礼な、と思ったが、恐らく彼はどんな無礼を働いても許される者なのだろう、とはすぐに分かった。


 金色の巻き毛に青い瞳、帝王の鷲鼻。背は高く、体つきががっしりとしていて、堂々と胸を張っている。彼の後ろに控えている侍従の数からしても、彼が高貴な血筋であることが分かる。デューク国王だ。

 彼はダリアが止める隙もなく、コリンヌの寝台の前に立った。

 寝入っていたコリンヌは突然の闖入者に驚き、身体を起こした。


「あ……ああ、陛下……」

「聞いたぞ! 首を吊ろうとしたというではないか? ああっ! なんだって君はそんなことを! 一体なにが不満だと言うんだ!」

「も、申し訳ありません……! 私は……」


 酷く怯えている様子のコリンヌを見て、ダリアはこれはいけないと立ち上がり、コリンヌとデューク国王の間に無理やりに割り入った。


「なんだ、お前は?」

「ここは病人の部屋です、お静かになさってください。急にノックもなく入ってきて、失礼だと思わないのですか?」

「なにを言っている? 私はコリンヌの夫だぞ。その部屋に入るのに誰の許可が必要だと言うのだ?」


 そう言いつつ、ダリアへ向かって腕を振った。その勢いでダリアは床に倒れ込んでしまった。しかし、彼はそんなことおかまいなしだ。


「言え、コリンヌ。なにが不満だというのだ! 誰もが憧れる王妃という身分を手に入れ、王宮に住まい、素晴らしい部屋を与えられ、この国で一番という贅沢をお前には許しているというのに! 私が贈ったどんな豪華なドレスも装飾品も身につけようとせず、部屋にじっと閉じこもって! その上命を絶とうとするなんて、一体どういうことなのだ! 私に対するあてつけなのか!」


 この男の言葉は暴力だ。いつもこうなのだろうか、コリンヌは責め立てられるまま、力なく項垂れている。

 このままではいけない、とダリアは立ち上がり、力の限り叫んだ。


「うるさい! 黙れ!」

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