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ダリアに悲劇は似合わない  作者: 伊月十和
第二章 宮廷漢方医ダリア
20/78

1-18

「……左様でしたか、まさかそんな状態とは。お子さんにもお会いできないとはお気の毒ですわね。お元気になられることを願いますが……心配ですわね」


 王宮から帰ると少し休むと行って寝入ってしまい、起きたときには日付が変わっていた。

 目を覚ますと部屋で侍女のリタが待っていてくれて、なにか軽食でも食べるかと聞いてくれた。そう言われて、とてもお腹が空いたことに気づき、準備をするようにお願いした。


 そして野菜の温かいスープを飲みながら、今日王宮であったことをリタに話していた。彼女は、その話が聞きたくてダリアが起きるまで待っていたようだった。


「あんな、今にも命の火が消えそうな状態なのに、なにもせずに放っておくなんて。確かに、病名はつかないのかもしれないけれど」


 憤るダリアに、リタは窘めるように言う。


「それがこの国の医療なのですから、仕方がないですわね」


 リタはダリアが翠蓮国に居るときから身の回りの世話をしてくれていた。実はリタとは翠蓮国で出会った。最初はリタはダリアの患者だったのだが、イルギス国へ戻るということになったときに、侍女として一緒に来てくれたのだ。だから、ダリアの、特に漢方医としてのダリアのことをこの国の誰よりも理解してくれていた。


「無理に漢方薬を飲ませるわけにもいかないし……。少し見ただけだけれど、王妃には桂枝人参湯が効くと思うのよね。それに、あの男にはこの状態のまま放っておくなんて、と言ってしまったけれど、向こうに望まれないのにこちらが診る必要はないわね」


「……そろそろ、ご自分の夫のことをあの男呼ばわりするのは控えた方がよろしいのでは? 今日のお話を聞いていると、診察の様子を見てかなり見直した、というふうに聞こえましたが」

「まあ、それはそうなんだけれど」


 ダリアは口を尖らせる。素直に認めるのは面白くないのだ。


「それに、病人が心配だからと王宮に戻るのも医師としてすばらしいように思えますし、それよりなにより、わざわざダリア様を送るために一旦屋敷に戻ってくださったのでしょう? 口は悪いかもしれませんが、よい方ではないですか?」

「私、リタが悪い男に騙されないか心配だわ」


 ダリアは堅いパンをちぎってスープを吸わせ、それを口に放り入れた。


「え? どういうことでしょうか?」

「女性を家まで送るなんて当然のことでしょう? しかも、私は仮にも彼の妻なのよ? それが、彼に求められて王宮へ手伝いに行ったの。あの男の態度が大きく不遜で口が悪いから、少し普通のことをしただけで優しい、と思ってしまうのかもしれないけれど、そうではないわ。あくまで普通のことをしただけよ。それがあの男の手なのかもしれない」


「確かに……。自分で王宮に連れて行って、あとは勝手に帰れなんて言われたら、それこそすぐに実家に戻らせていただきたい案件ですものね。あらいけない、私、騙されるところでした」

「そうよ」


 ダリアはふぅっと息を吐き出した。


「今日はあの男に利用されるだけで終わったわ。確かに、屋敷になにをするでもなく閉じこもっているよりも、病人を診る手助けをするのはいいかもしれないけれど、あの男の助手だというのが引っかかるのよね」

「ダリア様、そんな意地を張らなくてもいいのではないですか? ダリア様がしたいと思うことをすれば」


 ダリアはリタへと視線を移す。

 確かに言われる通りなのである。しかし、そう簡単に割り切れない思いもある。


「私が本当に望むのは、漢方医として患者を診ることだわ。結婚なんてしないで」

「それは難しいとご存知だから、結婚をされたのでしょう?」


「そうね。こんなことならば、なんとしても翠蓮国から帰国しなければよかった」

「向こうの国でも、患者を診るのは難しい状況だったではないですか……」


「ええ、そうだったわね。私はどこでも求められていないのよ」


 医師としても求められていないし、妻としても求められていない。誰にも求められていない、居場所がないと感じていた。

 やはりルネと結婚できていたら、と考えてしまう自分がいた。過ぎ去ったことをくよくよと考えるのは自分らしくないと思うのだが、それでも悔いてしまうのは、今の状況が好ましくないからだ。


「もう、今夜は遅いし、食事はこのくらいにしておくわ」

「承知いたしました。明日は王宮へ行かれるのですか?」


「さあ……? 行かないと思うけれど……」

「次はぜひとも私も連れて行ってください。二人目の助手ということでもよいです。ダリア様の侍女なのですよ? 血を見ることくらいなんでもないですし、病人の介助だってできます。長患いをしていた母をみていたこともありますから。それに、あの男がダリア様に失礼なことをしようとしたら、バシッと言ってやりますから!」


 言いたいことは自分で言うからいいと思いつつ、リタの申し入れが嬉しくて、そうね、と頷いておいた。

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