『遅い車に譲る』とはどういうことか
以前、某巨大掲示板で私が次のように主張したことがある。
『譲り合い』というのは『遅い車が速い車に譲ること』ではない。それでは一方的な『譲れ』である。
『譲り合い』とは文字通り、『遅い車が速い車に、速い車が遅い車に、双方が譲り合うこと』を言うのである。
これに対して、こんなレスがついた。
『速い車に遅い車が譲るって、そんなことどうやったら出来るんだ?』
だいぶん前のことだが、私が高速道路を大型トラックで走っていたら、『2キロ先工事。左側車線規制中』の標識があった。
ちょうどその直後にロングのトレーラーに追いついた。高速道路上で最もゆっくり走ることで名の知れた会社のトレーラーだった。当然のように一台だけ、単独で左側を走っていた。私の後ろには誰もいなかった。
『車長があるけど、距離あるし、抜けるかな?』
そう思い、私は右側車線に出た。しばらく頑張ったが、私もじゅうぶん遅く、無理だと判断したので残りあと1キロぐらいのところでスピードを緩め、トレーラーの後ろについた。自分よりも遅い車に先を譲ったのである。
すると右側に車線変更したそのトレーラーがハザードランプを点滅させた。いわゆる『サンキューハザード』だ。前を譲ってくれてありがとう、と言っているのだろう。
工事による車線規制で一車線になった区間で、トレーラーは5回ぐらいサンキューハザードを点けた。
日頃よっぽど無理やりにでも追い越されてるんだな。
譲ってもらえるのがよほど珍しいんだな。
そう、思った。
大型トラックで走っていると、乗用車さんから攻撃を受けることがよくある。
遅い車に追いついたのでウィンカーを点滅させると、遥か後ろからやってくるハイエースからハイビーム攻撃。
『こっちのほうが速いんだから出るな! 譲れ!』というのだろう。
譲っていたら速度低下する。パワーバンドを外すと大型トラックはなかなか再加速しない。
距離があるので構わずゆっくりと車線変更すると後ろにビタづけされ、車体をずらしてハイビームを食らわされる。
20秒ほどで追い越し終わって、走行車線に戻ると幅寄せを食らわしてハイエースが抜いていく。前に入るなり急ブレーキを踏まれることもある。
その後、ふつうに走っていたら行列に並んでいるそのハイエースに追いつくこともよくある。
どうも彼らは『速い車が優先』だと思っているようだ。
ポルシェやランボルギーニが200km/hぐらいで後ろから来たらヘコヘコ譲るが、遅い車にはけっして譲らない。冒頭のレスをくれた人のように、遅い車には譲らなくていいと思っているのかもしれない。
『譲り合い』とは遅い車が一方的に速い車に譲ることであり、速い車が遅い車に譲るなどということは考えつきもしないのかもしれない。
逆に、速い車に譲る必要などないと考えてらっしゃるようなノロノロドライバーさんもよく見る。
速い乗用車が右後ろから来ているのに、『1km先左側車線規制』と書かれた看板を見るなり、乗用車にブレーキを踏ませて車線変更する。
『速度超過のDQNにはお仕置きじゃ』とばかりに、わざと速い車の進路を塞いでしまう大型トラックドライバーも多いと聞く。
私がハイエースの前に車線変更するのと似ているようで、話がまったく違う。譲れるところを譲ることなど考えず、自分都合でブロックしてしまうのである。
遅い車が譲らないから、速い車は遅い車を嫌うようになる。
速い車がブロック、嫌がらせ、煽り運転をするから、遅い車はブロックされる前にサッサと車線変更したり、煽られたらスピードをわざと遅くしたりする。
遅い車がそんなことをするから、速い車はさらに遅い車を憎むようになる。
悪循環である。
公道は喧嘩をする場所ではない。
それぞれが譲り合い、安全かつ円滑な環境を作り出してほしい。
遅い車は速い車を先に行かせてから車線変更すれば煽られることはない。
速い車は遅い車が困っていればペースを合わせて譲るということもしてほしい。
こんなのは理想論なのであろうか?
遅い車が速い車に譲ることを『卑屈だ』と考える方がいらっしゃるようだが、私には理解できない。
『ウサギとカメ』みたいな考え方をされているのだろうか?
私は速い車に先を譲る時にも、自分をカメだとは考えない。交通全体を安全かつ円滑にできる自分の運転にむしろ誇りを持ち、『じつはウサギ』どころか『余裕ある神様』ぐらいに思っている。
てへ。