表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/168

第3章 第31話

話は少し前、修也と猪瀬の手下の男が対峙したところまで遡る。


「で? こんな朝早くから猪瀬の命令で襲撃に来たってのか?」


修也は目の前の男を睨みながら尋ねる。


「いや違う。……あ、猪瀬さんの命令で襲撃に来たのは合ってるけど」


修也の問いに対して首を横に振る男。


「ん? 合ってるのに違う? どういうことだ?」

「襲撃しろという命令が下されたのは本当だけど俺たちにそのつもりは無い……俺たち、もう猪瀬さんとは手を切ることにしたんだ」

「え?」


男の言葉に修也は肩透かしを食らう。


「命令に従わなかったら俺たちは消される。でも命令通りここでお前とやり合っても前みたいに返り討ちに遭って命令が遂行できずやっぱり消される。どうせ消されるならせめて意趣返ししてやろうぜってことになってな」

「猪瀬とは……仲間じゃないのか?」

「仲間なんてもんじゃねぇ。あの人は金ちらつかせて言うこと聞かせようとしてくる嫌な奴だ……まぁそれにつられて言うこと聞いてた俺たちも俺たちだが」


男の言葉からは猪瀬との信頼関係を感じることはできない。

まぁ猪瀬の性格を考えたら別に不思議でも何でもないが。

とりあえずこの男たちにここで修也を襲撃する意思が無いというのは本当のようである。

先日の様な刺々しい雰囲気が全く感じられない。


「なぁ……前から思ってたんだけど『消される』ってなんだ? アイツにそんな力があるとはとても思えないんだが」


前回の襲撃時にも出てきたその言葉が気になっていた修也は男に尋ねる。


「でも実際に顔を見なくなった仲間がいるんだ。そして遠くの町で廃人のような姿で発見されたという噂もある」

「何だそれ……」


修也は何かの冗談かと思ったが、男の顔は至って大真面目だ。


「だから猪瀬さん本人にそんな力が無くてもそういうことができる伝手があるってもっぱらの噂だ。それが怖くて言うこと聞いてたってのもある」

「だったらそれってお前たちも危ないってことじゃあ……?」


今ここで猪瀬と手を切ることにしたら不興を買ってその伝手で廃人にされる恐れがあるのではないか。

修也はそれを危惧して男に尋ねる。


「さっき言ったろ? ここでお前とやり合っても勝てる気がしない。どっちにしろ俺たちの辿る末路は同じなんだよ」


そう言う男の表情は全てを諦めたものである。


「せめて最後にお前にちゃんと謝りたかったんだ。俺たちの意思ではないが襲い掛かったのは事実だからな」

「いや、でも……」

「もちろんそれで許されるとは思ってねぇ。でもこれが俺たちなりのけじめってもんだ」

「……」

「お前の彼女にも謝っておいてくれ。巻き込んですまなかったって」

「ん? いや、あの子は彼女ってわけじゃ……」

「それじゃあな。邪魔して悪かった」


認識に誤りがあるようなので修正を試みた修也だが、男は話を聞かずそのままくるりと背を向け立ち去っていく。

他の男たちもそれに続く。


「…………」


あまりの急展開に何も言えず立ち尽くす修也。

そんな修也の周りからどよめきが起こり、そしてそれはすぐに歓声に変わった。


「え、何?」

「すげぇ! アイツあの男たちをいとも簡単に追い払っちまった!」

「ホントホント! しかも話し合いで解決するとかとってもスマート!!」

「と言うかあれだけの数の不良を前にして物怖じしないとか凄すぎ!」

「やっぱり土神先輩はすごいや!!」

「ほぅ、彼は土神って名前なのか。これは要チェックだ!」


方々からそんな声が聞こえてくる。


「……え、これってもしかして先日の1-Cのシーンの再来?」


同じような状況が再びやってきたことに呆然とすることしかできない修也であった。



その後何やら気取った足取りで何か近づいてきた猪瀬を適当にあしらった後も修也の表情は晴れなかった。


「修也さん……どうしました?」

「土神くん、どうしたの?」


そんな修也の表情を見て蒼芽と華穂が同時に尋ねてくる。


「え? どうしたって……何が?」

「何か浮かない表情をしてますけど」

「うんうん、私も気になった」

「ああいや……何か物騒な話を聞いたもんで」

「物騒?」


修也の言葉を聞いて蒼芽が首を傾げる。


「あいつら……猪瀬に命令されて俺の襲撃に来たらしいんだがそのつもりは全く無くて、むしろもう猪瀬とは手を切るって言ってたんだ」

「え?」

「この前の襲撃で俺がノーダメージ勝利したことで心が折れたってのとあまりにも猪瀬が横暴だったのが合わさった感じかな」

「そうですよね。あの時の修也さん、カッコ良かったですよ!」

「えー、良いなぁ。私も見てみたかったなぁ」


何故か自慢気に語る蒼芽とそれを羨む華穂。


「あ、写真ならありますよ」

「ホント!? 見たい見たい!」

「止めて! ……というか俺が気にしてるのはそこじゃない」

「確かに今のお話では物騒な要素はありませんね」

「じゃあ土神くんは何を気にしてるの?」


華穂が疑問顔で修也に尋ねる。


「それがさ……あいつら、猪瀬の命令を遂行できなかったら消されるって言ってたんだ」

「……消される? 確かに物騒な話だね……あ、前も土神くんを消そうとしてたとかなんとか言ってたねそう言えば」


先日優実や瀬里と話していた時のことを思い出してそう言う華穂。


「この前襲われかけたときも失敗したら消されるって言ってましたね」

「でも、いくら何でも猪瀬さんにそんな力があるとは思えないんだけど」

「それは俺も思った。だけどあいつらのビビりようからすると嘘やハッタリとはとても思えない」

「確かにあれはそうは思えない感じでしたね」

「あぁ。だからいくら俺や蒼芽ちゃんに危害を加えようとした連中だとしても見捨てるような真似をするのはどうかと思ってな……」

「確かにちょっと心苦しいですね……」


修也の心情を把握した蒼芽が呟く。

襲われかけた蒼芽としては男たちに同情してやる義理はないのではあるが、命に関わる(と思われる)事態ともなるとそうも言ってられないようだ。


「俺個人としてはあいつらにもう怒りは無いんだ。蒼芽ちゃんに危害を加えようとしたことの制裁はきっちり下したし、十分謝られたしな」

「私も修也さんが守ってくれたおかげで被害ゼロですから」


蒼芽的にはガラの悪い男たちに襲われかけたということよりも、修也が自分の為に怒り自分のことを守ってくれたということの印象の方が強い出来事だった。

なのでもう男たちに対して特にどうこう言うつもりは無い。


「だからできることなら何とかしてやりたいが、流石にどうすれば良いか見当もつかん」

「……ふむ、そういうことなら俺の出番だな」


良い案が浮かばず途方に暮れていた修也に背後から声がかけられた。


「ん? …………氷室?」


修也の背後には不敵な笑みを浮かべた塔次が立っていた。


「今回の騒動の根源は猪瀬だ。あいつをどうにかすれば全てが解決する」

「そりゃまあな。でもどうにかするってどうやって? 先輩があれだけ冷たくあしらっても俺があいつの目論見をことごとく打ち破ってもしつこく粘着してくるのに」

「ふっ……ものにはやりようというものがある。それを教えてやろう」


意味ありげな言葉を残して塔次はその場を去っていった。


「修也さん、今の方は……?」


塔次と面識の無い蒼芽が修也に尋ねてくる。


「俺のクラスにいる氷室って奴なんだが……何と言うか、掴み所の無い奴なんだよなぁ」

「流石土神くんのクラスだね。ネタに事欠かないね!」

「俺のクラスをネタの宝庫みたいに言わないでくれないか先輩」

「でも実際そうでしょ?」

「…………否定できん」


華穂の言葉に反論が全く思いつかない修也であった。



校舎に入り各階で蒼芽と華穂と別れ、修也は自分の教室に入る。


「や、やはり普段より10センチも短いと落ち着きませんわね……」


教室の中では白峰さんが何やらそわそわしていた。

よく見ると普段よりもスカートが短い。

どうやら律儀に陽菜の宣言した罰ゲームを実行しているらしい。

普段は膝にかかる程度の長さだったはずだが、今は蒼芽よりも短い状態になっている。

それでもモデル体型で脚の長い白峰さんは違和感なく着こなしているようにも見える。


(白峰さんがああなってるってことは黒沢さんも……?)


気になった修也は、白峰さんの隣に目線を向ける。

黒沢さんは自分の席に座っているので分かりにくいが、やはりいつもよりスカートが短いように感じられる。

その黒沢さんは机に肘をつき、何やら考え込んでいるようである。


「黒沢さん……? どうかなさいましたの? 先程からずっと黙ったままですけど」

「……白峰殿。今の我々の状況をどうお思いでございますかな?」

「状況って……陽菜先生の提案した罰ゲームでいつもよりスカートを短くしていることですの?」

「左様。白峰殿の率直な意見をお聞きしたいのであります」

「……先程も申し上げた通り落ち着きませんわね。普段脚の晒さない部分が晒されることもですし、ちょっとしたことで捲れ上がることもそうですわ」

「白峰殿は良いではありませぬか。脚が長い故にその長さでもバッチリ決まっておられる。自分は普通なのでふとした拍子にスカートの中が見えてしまわないか戦々恐々でしたぞ」

「あぁ、だから今日は席に座っておりますのね……え? 『でした?』何故過去形ですの?」

「白峰殿、発想を置き換えてみるのです」

「……発想を置き換える?」


黒沢さんの言葉に首を傾げる白峰さん。


「そうですぞ。もしこの状況に置かれているのが我々ではなく、姉に無理やり女の子の恰好をさせられた女顔のショタっ子だとしたら?」

「!?」

「ミニスカートに初挑戦してみた見目麗しいけど周りには秘密にしている女装趣味のショタっ子だとしたら!?」

「!!?」


黒沢さんの出すたとえに雷に打たれたように白峰さんは上半身を仰け反らせる。


「先の例なら姉という最も身近な上の立場の人間から課される理不尽な要求に応えつつも恥じらいが勝って何とかスカートの裾を押さえる仕草が何ともふおおおおおおお!!」

「後の例ならちょっと冒険してみたら意外と似合っていてこのまま外を出歩いてみたいけどもし知り合いに見つかったらなんと言い訳したら良いか分からないと葛藤する様がもうほあああああああ!!」


何やら修也の理解の及ばない領域でテンションを上げる黒沢さんと白峰さん。


「く、黒沢さん……あなたは何て恐ろしいことを思いつきますの?」

「どぅふふふふ……ピンチはチャンス、逆境は力。それを自分は悟ったのであります。このギリギリ感も自分の経験値となるのであれば更なる飛躍を目指す為に必要不可欠! 恥じらっている暇などありませぬぞ白峰殿!!」

「えぇ! そうですわね黒沢さんっ!」

「ふっ……どうやら気づいたようだね黒沢さん。それが『夢想の境地』というものさ」

「いきなり現れてバトルものの少年漫画に出てきそうな必殺奥義みたいなこと言わないでくれますか藤寺先生」


いつの間にか修也の横に立っていた陽菜の呟きに修也は突っ込む。


「はっ!? 陽菜先生! もしやこれに気付かせるためにあのような罰ゲームを……!?」

「流石ですぞ陽菜教諭! これを予知していたとするならば何たる慧眼! この思いを原稿にぶつければとんでもない傑作が出来上がりそうですぞ!」


陽菜がいることに気付いた白峰さんと黒沢さんが興奮気味に詰め寄ってくる。

白峰さんと違い黒沢さんは普通の足の長さなのでかなりギリギリなことになっているが、先程本人が言っていた通り気にしている様子は無い。


「ならば良し! その思いをそのまままっすぐに原稿用紙にぶつけるが良い!!」

「いやホームルームやれよ」


高らかに宣言する陽菜に突っ込む修也。

先程まで男たちと対峙していた時とは空気が全く違う。


「……さっきまで真面目に色々考えてたのが馬鹿みたいだ……」

「そうだよ土神君、それで良いのさ」


溜息交じりに呟く修也に対し、陽菜は真面目なトーンで話しかける。


「え?」

「姫本さんの為に君が色々動いているのは知ってる。その為に優実や瀬里に協力を仰いでいるのも知ってる。君にしかできない事を全力で取り組んで、何とかして君が望む未来を掴もうとしているのも知ってるよ」

「先生……」

「その姿を見ているから皆君に協力してるんだよ。君を頼るんだよ。何とかして君の力になりたいんだよ。でも君はまだ学生だ。たまに息抜きして馬鹿なことやったってバチは当たらないよ」

「…………全く、この人は……」


普段ふざけまくっているくせに締める所は締める。

だからこそ陽菜は生徒からの人気が高いのだろう。


「という訳だ! さぁこれから白峰さんと黒沢さんの短くなったスカートから覗く艶めかしい生足の観賞タイムだよっ! あわよくばパンチラも」

「それとこれとは話が別だっ! さっさとホームルームやれこのセクハラ教師がっ!!」


最後まで言わせてたまるかと言わんばかりに陽菜のセリフを遮ってツッコミを入れる修也。


「そうそう、このキレの良いツッコミ! 土神君はこうでなくっちゃ!!」

「これでこそ私たちも体を張った甲斐があるというものですわ!」

「普段から悩み多き土神殿の心の助けになれるのであれば何も言うことはありませんぞ!」

「いや悩みの大半はアンタらなんだが!?」


この人たちは話にオチをつけないと気が済まないのか。

修也は疲労感を滲ませた溜息と共に頭の中で呟く。


「まぁそれにしても、土神君もしっかりこのクラスに馴染んだね」

「そうですわね。つい先日転入してきた方とはとても思えませんわ」

「全くですぞ。土神殿のいる日常が当たり前で、いないと違和感を覚えるほどですなぁ」

「……」


陽菜たちの言葉に修也は考え込む。

引っ越してくる前は腫物扱いでクラスからも爪弾きにされることが常だった。

クラスメイトが楽しそうに話しているのを離れたところで見ていることしかできなかった。

長いことそんな状態だったので慣れてしまっていたが、やはりこうやってクラスの輪に入ることができるというのは良いものだ。


(そうか……これが俺が望んだ普通の日常ってものか……)


その事実を修也はしかと噛みしめ……


(いやいや待て待てこれが普通であってたまるか!)


……ようとしてやっぱり全力でその考えを振り払うのであった。

どうやら日常的にこんなことを繰り返されるせいで感覚が麻痺してきていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ