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第3章 第18話

「……さて、まずは自己紹介かな? 私は土神君しかしらないし」


近場のカフェに入りそれぞれ注文したものを受け取って空いている円卓を囲むようにして座った修也たち。

全員が座ったことを確認した瀬里が最初に喋りだした。


「私は高代瀬里。とある出版社で雑誌のライターをやってるよ。よろしくね!」

「あ、今朝修也さんが言っていた知り合いの記者ってこの人の事だったんですね?」


蒼芽が今朝のやり取りを思い出して言う。


「おやぁ? 土神君とやたら親しそうだけど……君は?」

「あ、私は舞原蒼芽と言います。修也さんは私の家に居候していただいているんです」

「何か妙な表現だなそれ……」

「キターーーーーーー!!」

「うわっ! 何ですか急に」


居候していただく、というあまり使わない表現方法に修也が眉を顰めると同時に瀬里が急に叫びだした。

瀬里の突然の奇行に修也はちょっと引いた。


「若い男女が一つ屋根の下で生活するとはもうゴシップの予感しかしない! ねぇねぇどこまで進んでるの? あれだよね、うっかりお風呂場で鉢合わせたり着替えを見ちゃったりとかはやっぱりお約束だよね!? そういう系のエピソードをお姉さんにちょっとだけで良いから」

「下世話よ瀬里」

「あだぁっ!?」


身を乗り出して向かい側に隣同士で座っていた修也と蒼芽に詰め寄ろうとした瀬里の脳天に手刀を振り下ろす優実。

瀬里は勢い余って円卓に顔面から衝突してしまった。


「うわ……モロに顔面からいったけど大丈夫なんですか、これ?」

「大丈夫よ。仮に机が壊れても瀬里に弁償させるから」

「いや私の顔の心配をしろよ!」


しれっと言う優実にがばっと顔を上げて詰め寄る瀬里。


「大丈夫でしょ、ちゃんと手加減したし」

「いやそもそも殴るなって話よ! 良いじゃん優実だって気になるでしょ!?」

「気にならないと言えば嘘になるけど、そこまでがっつくほどじゃないわよ」


やたらとテンション高く突っかかる瀬里に対して、あくまでも優実はクールだ。


「スゲェ……七瀬さん、高代さんを手玉に取ってる……」


瀬里にも振り回されたことのある修也としては、軽くあしらっている優実に尊敬の念が湧く。


「まぁ瀬里1人くらいならね。ここに陽菜が混ざるともう駄目だけど」

「あ、やっぱり七瀬さんでも厳しいですか……」

「ええ……いつの間にかペースを持ってかれるのよ」


陽菜のぶっ飛び具合を思い出し、遠い目でため息を吐く修也と優実。


「流石は土神くんのクラスの担任なだけはあるね! そういう人じゃないとあれだけユニークなクラスを纏められないってことなんだね」

「むしろ率先してかき乱してる気がするんだが……」

「あ、あはは……」


華穂の言葉に額に手を当てて疲労感をにじませて修也は呟く。

その横で蒼芽は困ったような笑顔を浮かべるのであった。


「じゃあ次は私ね。土神君と舞原さんは知ってるけど改めて……七瀬優実よ。警察官をやってるわ。この瀬里と土神君の担任である陽菜とは高校からの付き合いなのよ」


そう自己紹介する優実。


「そうそう、その頃からずーっと3人で遊んでたよね。でさ、こんな性格と容姿だから優実はクールビューティーの名前を欲しいままにしてたんだよ」

「やめてよ瀬里……それだと私がなんだかナルシストみたいじゃない。少なくとも自分から名乗ったりはしてないわよ」

「でも分かります。確かに七瀬さんお綺麗ですもんね」

「そ、そうかしら……?」


蒼芽の掛け値のない誉め言葉に優実はちょっと照れる。


「でも男っ気は全くと言って良いほど無いんだよね!」

「……シメるわよ?」


しかし続けて出てきた瀬里の言葉に優実は低い声で呟き睨む。


「まーまー! 男っ気が無いのは私や陽菜だって同じなんだしそう怒らないでよ!」

「全くもう……」

「でも意外かも。七瀬さんも高代さんも美人なのに……」


華穂の言う通り2人とも美人と言っても差し支えない容姿だ。


「きっとアレだろ。高嶺の花過ぎて近づけなかったとかなんじゃないか?」

「まぁ優実はそうかもしれないけどさ、私と陽菜は性格が残念だからね!」

「自分で言いますかソレ」

「それに優実は胸が残念だからね!!」

「……脳味噌2つに分断するわよ?」

「七瀬さん!?」


急に物騒な物言いをする優実に驚く蒼芽。


「あー大丈夫、気にしないで。これがいつもの私たちのやり取りだから!」

「全くもう……」


全く悪びれない瀬里とそれを見てため息を吐く優実。


「七瀬さんそれ口癖になってますね」

「そりゃこんなやり取りを何年もやってればそうなるわよ」

「でも……私からすれば七瀬さんだって、その……スタイル良いですよ?」

「ありがとう舞原さん。そう言ってくれるのはあなただけよ」


フォローする蒼芽に微笑む優実。


「……とりあえずそういうセンシティブな話題は俺がいない所でやってもらえませんかね?」


話を遮るように修也は口を挟む。

この場で唯一の男である修也としてはそんな話題を続けられると非常に居心地が悪い。


「あーそうだねゴメンゴメン! ……で、何だっけ?」

「まだ本題の前の自己紹介すら終わってないんですが」

「えーっと……高代さん、私、七瀬さんが終わったので……」

「俺はもう全員が知ってるからパスで」

「じゃあ私だね!」


そう言って華穂が自分を指さす。


「姫本華穂、高校3年生です。今はちょっと諸事情で土神くんにボディガードっぽいことをやってもらってます」


そう自己紹介する華穂。

敬語嫌いとは言え、目上に当たる優実や瀬里に対してはキチンと敬語を使っている。

しかし猪瀬に使っているような拒絶の敬語ではなく、普通の敬意を払った敬語だ。


「……姫本と言うと、この町の資産家の……?」

「それよりもボディガードって……?」


華穂の自己紹介を聞いた瀬里と優実はそれぞれの疑問を口にする。


「あー……その辺が今回の騒動とかその他諸々に関わってるんです」


2人の疑問に答える為に修也が口を開く。


「えっと……どこから話せば良いかな……」

「はいっ! じゃあ土神君と舞原さんの出会いから!」


どこから話し始めるか考えていた修也に、瀬里が勢いよく手を挙げて主張する。


「どこまで時間を戻す気ですか。しかも今回の件と関係無いし」


それをバッサリ切り捨てる修也。


「良いじゃーん、私だって高校生の青春を身近に感じたいんだよぅ!」

「藤寺先生みたいなこと言わないでくださいよ」

「ついでに合コンの時の参考にする!」

「そこもソックリだなオイ!」


陽菜と似たようなことを言い出す瀬里につい口調が荒くなってしまう修也。


「で、土神君と舞原さんの出会いはいつなの?」

「まだ引っ張るんですかそれ」

「えっと……今日は木曜日ですからちょうど2週間ですね」

「蒼芽ちゃんも真面目に答えなくて良いって」


律儀に答える蒼芽を修也は制止する。


「2週間!? ウソでしょそんな短期間でそこまで親密に? これは絶対何か秘密がある! 是非聞き出さなければ!!」

「あのー……どんどん脱線していってませんか?」


やたら根掘り葉掘り聞きだそうとしてくる瀬里に華穂が待ったをかける。


「えー、だって気になるじゃなーい」

「ここは合コンの場じゃないのよ瀬里。自重しなさい」

「固いなぁ優実は。もうちょっと柔軟にいかないと男は寄ってこないよ?」

「……もう一発お見舞いされたいのかしら?」


そう言って無表情で手を振り上げる優実。


「ちぇーっ、分かった分かりましたよぅ……」


優実の制止に不満そうな顔で唇を尖らせる瀬里。


「ありがとうございます七瀬さん。ホント助かります」

「良いのよこれくらい」


瀬里をうまく制御してくれる優実に礼を言う修也。


「じゃあ土神君が姫本さんのボディガードをするようになった経緯からお願いできるかしら」

「分かりました」


仕切りなおした優実の言葉に頷いて修也は話し出す。


「まぁ簡単に言えば先輩の家のことを知ってる奴が執拗に付き纏っているんですよ」

「いくら断ってもまるで聞く耳持たずで、そのうち実力行使に出かねなくて……どうしようか困ってる時に、護身術を極めている土神くんと知り合ったんです」

「いや別に極めてはいないよ? あくまでも見様見真似の我流だから」

「それであそこまでできるんだから大した物よね……」


優実が感心したように呟く。


「あそこまでって?」

「武器を持って暴れてる男を無傷で制圧してるのよ土神君は。それも2回」

「あ、昨日の件も含めると全部で5回です。武器は持ってませんでしたけど」


瀬里の質問に優実が答え、蒼芽が補足する。


「え、そんなにあったっけ?」

「はい。ひったくり・学校への不法侵入・詩歌に絡んでた人たち・アミューズメントパークでの事件・そして昨日の件です」

「へぇー、凄いね土神くん! そんなに事件を解決してたんだ?」

「……これ、逆に言えば2週間でこれだけの事件に巻き込まれたってことだよな? 厄でも背負ってんのか俺」

「あ、あはは……」


複雑な表情をする修也に苦笑する蒼芽。


「……まぁその実績を買われた……訳でもないけどその話を聞いた華穂先輩に頼まれてボディガード的なものをやってるわけです」

「あっ、もしかしてその付き纏ってるっていうのが……」

「そうです。俺が高代さんに調査を頼んだ猪瀬です」

「なるほど、そこに話が繋がる訳ね……」


納得した優実が頷く。


「とは言っても別に何かしたわけじゃないんですよね。昼食に誘ったり放課後クレープ食べに行ったり」

「あ、もしかして今駅前に来てる屋台のクレープ屋? 良いなー、私も行ってみたいんだよねぇ」


クレープと聞いて瀬里が再び話に割って入ってくる。


「ねぇねぇ土神君たちは何味のクレープを食べたの?」

「また話が脱線してるわよ瀬里」

「これくらいは許してよぅ、ブログのネタにもしたいし。優実だって気になってるんでしょ?」

「…………仕方ないわね。土神君、手短に答えてあげてくれるかしら」


ため息を吐きながら呟く優実。

瀬里の言う通り気にはなっているらしい。


「俺はチョコバナナでした」

「私はフルーツミックスです」

「私はツナマヨコーンサラダですね」

「……何で姫本さんだけそんなにテイストがかけ離れてるのかしら?」

「それにどっちかって言うと土神君が頼みそうなチョイスだよね?」


修也たちのチョイスに首を傾げる優実と瀬里。


「俺はクレープはデザートだと思ってましたので」

「ああなるほど、そういうフレーバーがあること自体知らなかったのね。なるほど知らない人に向けての記事を書くのもアリか……」

「気が済んだ? じゃあ本題に戻るわよ」


これ以上話が脱線しないように優実が軌道修正してくれる。


「……で、そうやって俺が楽しそうに華穂先輩と遊んでるのが逆鱗に触れたんでしょうね。猪瀬は手下を使って俺を消そうとしてきました」

「おおっといきなり話が物騒になったね」

「それが昨日の通報に繋がるのね」

「そういうことです」


優実の言葉に修也は頷く。


「なるほど、大体話は分かったわ」

「私に猪瀬家の調査を依頼した経緯も分かったよ」

「ええ。まずは相手を知らないとどうにもならないと思いまして」

「そかそか。まぁここで私を頼ったのは正解だよ。なんたって私はその道のプロだからね!」


そう言ってドヤ顔で胸を張る瀬里。


「あ、陽菜じゃないからブラウスのボタンがポーン! ……とはならないからね?」

「本人のいない所で黒歴史掘り起こすのはやめてあげてくれませんかねぇ?」

「良いんだよどうせこの場にいないんだし」

「たまには弄られる側の苦労も思い知れば良いのよ」


本来諫める側のはずの優実まで瀬里に同調して毒を吐く。

相変わらずステキな友情である。


「……で、高代さん、何か分かったことはありますか?」


これは変に深入りすると抜け出せなくなる。

修也はそう察知して無理やり話を進める。


「そう言えば先程修也さんに話しておきたいことがあるって言ってましたね?」


蒼芽が修也に同調して話を繋いでくれる。


「あ、うん。実はね…………」


そう言って瀬里は身を屈めて声のトーンを落とす。

その瀬里の様子に蒼芽は緊張した面持ちで次の言葉を待つ。


「………………何も分からなかったんだよ!」

「…………え?」


だが次の瀬里の言葉に拍子抜けしたのか、気の抜けた声が出る蒼芽。


「いやー、何か怪しい所が無いかと思って猪瀬家の概要を調べたんだけど何も出なかったんだよね」

「えぇ……じゃあ情報は何も無いってことですか?」

「いや、そうでもないぞ蒼芽ちゃん」

「ええ。ここからでも分かることはあるわ」


残念そうな声をあげる蒼芽に対し、修也は首を振る。

優実も修也と同意見のようだ。


「え?」

「高代さんは猪瀬家に何か後ろ暗いことが無いか調べた。しかしそんなものは出なかった」

「瀬里が調べても出ないということは本当に怪しい所は無いのよ」

「うん、猪瀬さんの家はとても真っ当な事業をしてるよ。変な噂は一度たりとも聞いたこと無いね」


修也と優実の推測を華穂が裏打ちする。


「つまり猪瀬の家はそういう奴らとの繋がりは無い。あくまでも猪瀬個人との繋がりと推測できる」

「どこでそんな繋がりができたのかは分からないけど……まぁ人との関係なんてそんなものよ」

「凄い凄い! 土神くんも七瀬さんも探偵みたい!!」


修也と優実の話を聞いて感心する華穂。


「……そうだわ土神君。あなた探偵事務所を開いたら? そして私たち警察と提携して……」

「その手のドラマとかの見過ぎですよ七瀬さん」


真顔で変なことを言い出した優実を修也は制止する。

優実は時折変な悪ノリをする。

真面目に見えて所々で陽菜や瀬里に染められているのではないかと思う修也。


(……ただ、それだと分からないこともあるんだよなぁ……)


修也には1つ引っかかることがあった。

それは襲撃してきた男たちの怯えようだ。

依頼を達成できなかったら『消される』とあの男は言っていた。

猪瀬個人にそこまでの力があるとはとても思えない。

しかしあの男の怯えようからするとハッタリとも思えない。

猪瀬には家以外に何か大きな組織の力があるのだろうか……?


(……んなわけ無いか。俺もその手の漫画とかの見過ぎかな……?)


荒唐無稽な考えを振り払うかのように修也は首を振るのであった。

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