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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第3章

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第3章 第13話

「……うーん……クレープにツナマヨ……」

「まだ言ってるんですか? 修也さん」


ベンチに座ってそれぞれのクレープを食べ始めてからも修也は難しい顔をして唸っていた。

そんな修也を横に座っている蒼芽が半分呆れながら口を挟む。


「いや……クレープは甘いものと言う先入観がなかなか抜けてくれなくて……」

「でも結構美味しいよこれ」


そう言って華穂はツナマヨコーンサラダクレープをかじりながら言う。


「……そうなの?」

「うん、気になるなら食べてみる? はい」


そう言って華穂は自分の持っているクレープを修也に差し出した。


「んじゃまぁ少しだけ……」


修也はまだ華穂が口をつけていない場所を少し手でちぎり、口に入れる。


「…………あ、ホントだ、結構イケる」

「でしょ?」

「うーむ、塩辛い物も結構合うんだなぁ……」


修也が感心しながら味わっていると……


「修也さんっ! 甘酸っぱいのも結構美味しいですよ!」


そう言って蒼芽が自分の持っているミックスフルーツクリームのクレープをずいっと修也の口元に突き出してきた。


「お、おぅ? ……あ、確かに酸味の強い果物も混じってんだな」


修也が頼んだチョコバナナとは違い、ミックスフルーツと言うだけあって様々な果物が入れられているようだ。


「それじゃあこっちも少しだけ…………うん、甘酸っぱいのも良いなぁ。そしてただ甘いのも合う」


蒼芽のクレープを少しちぎって食べつつ、自分のクレープもかじる修也。


「不思議なもんだなぁ、これだけ味が違うのにどれにも合うってのは」

「言われてみれば確かに……まぁそれは置いといて、修也さんのチョコバナナも少しくださいよぅ」

「あ、私も私も!」


そう言って修也のクレープを少しずつちぎり取って自分の口に入れる蒼芽と華穂。


「ん~~!! やっぱり甘いものは正義だね!」

「そうですね! ところで修也さん、男の人なのに甘いものは平気なんですか?」


程よい甘さに舌鼓を打っていた華穂と蒼芽だが、ふと気になったようで蒼芽が修也に尋ねる。


「あ、確かに。男の人は甘いものが苦手ってよく聞くけど土神くんは大丈夫なの?」

「別にこれくらいなら平気かなぁ。甘すぎると胸やけ起こしそうになるけど」

「具体的には?」

「蜂蜜と練乳がたっぷり乗ったメープルシロップ味のワッフル」

「み、妙に具体的ですね……」

「と言うかそれは流石に私も胸やけ起こすよ……土神くんは食べたことあるの?」

「いや、店頭に並んでるのを見たことがあるだけだ。一部の甘党には人気商品だったらしいが……」

「それ1つ食べただけで1日の摂取カロリー余裕でオーバーしそうですね」

「流石にそれはちょっと遠慮したいなぁ」


そんな雑談をしながら各々のクレープを食べ進める3人であった。



「ご馳走様! うん、すっごく美味しかったよ!」


そう言って華穂はクレープを包んでいた紙を丸めてゴミ箱に捨てる。


「そうですね、話題になるのも納得です。修也さん、今度は詩歌も誘いましょうよ」

「そうだなぁ、蒼芽ちゃんが誘うなら大丈夫か。それに詩歌だったら再現とかできるかもしれないし」

「ですね! 詩歌ならできそう!」

「その詩歌ちゃんって蒼芽ちゃんのお友達なのかな?」


初めて聞く名前に華穂は首を傾げて蒼芽に尋ねる。


「あ、はい。クラスのお友達で、凄く料理が上手な子なんです。ちょっとお弁当を食べさせてもらったことがあるんですけど、ビックリするぐらい美味しかったんですよ!」

「へぇー、会ってみたいなぁ」


蒼芽の話に笑顔で相槌を打つ華穂。

その時、すぐ近くに黒塗りのリムジンが静かにやってきて停車した。


「あ、迎えが来たみたい。今日はここまでだね」


そう言ってリムジンに向かって歩き出す華穂。


「土神くん、蒼芽ちゃん、今日はありがとうね」

「いえ、こちらこそクレープのお金を出していただきありがとうございました」

「今度はその詩歌ちゃんも誘って皆でどこか食べに行こうね!」

「そうだな、その時を楽しみにしてるよ」

「じゃあねー!」


そう言って乗り込んで動き出したリムジンから手を振る華穂。

修也と蒼芽もリムジンが見えなくなるまで手を振り返した。


「…………では帰りましょうか」

「そうだな。ああそう言えば蒼芽ちゃん、さっきはありがとな」

「え? どれのことですか?」


急に修也にお礼を言われ、蒼芽はどのことなのか分からず聞き返す。


「銃弾云々の話になった時だ。『力』に関わりそうなことは避けてくれただろ?」

「あ、はい。修也さんは『力』のことは知られたくないと以前言っていましたので」

「そうそう、覚えててくれてたか」

「もちろんです。それに修也さん、銃弾の話になった時少し表情が強張ってましたから」

「え、よく分かったな」


修也としては話題を変えてほしいというアイコンタクトが伝わっただけで十分だったのだが、蒼芽はその前の修也の表情の微妙な変化も読み取っていたらしい。


「こういう微妙な表情の変化を読み取って話題を選ぶのが円滑なコミュニケーションのコツですよ」

「いや俺には無理だわそれ」


そんな話をしながら舞原家へと続く道を歩く修也と蒼芽。

特に何事もなくちょうど駅と舞原家の中間点くらいまで来た時のことだった。


(……ん?)


道端にたむろしているガラの悪そうな男たちが修也の視界に入った。


(ああいうの多いのかねぇ? 以前詩歌も絡まれてたけど)


そんなことを考えつつも修也は大して気にせず通り過ぎようとする。


「……待ちな」


だがたむろしていた男たちは立ち上がり、修也たちの進路を阻んだ。


「な……な……納豆!」

「う……う……梅干し!」

「し……し……しらす干し!」

「し……し……柴漬け!」

「け!? け……け……うーん……」

「3……2……1……0! はい、タイムアップ! 私の勝ちです!」


そう言って両手を挙げて喜ぶ蒼芽。


「いや、『け』の付くご飯のお供って何があんの?」

「鶏卵はどうですか?」

「いや『ん』ついてんじゃん!」

「あ、そっか。じゃあ……削り節とかはどうですか?」

「あぁなるほど……と言うか急にご飯のお供しりとり始めてよくついてこれたな蒼芽ちゃん」

「ご飯のお供って縛りは最初は考えてなかったんですけど、何か揃えられてたので何となく……」

「おい! 無視して呑気にしりとりしてんじゃねぇよ!」


しりとり(ご飯のお供限定)を始めだした修也と蒼芽に憤る進路を妨害してきた男たち。


「……人違いじゃね? 俺、アンタらみたいな知り合いいないし用も無いんだけど」


それに対してめんどくさそうに応対する修也。


「テメェに無くても俺らにはあるんだよ。とある方からの依頼で……」

「あぁもったいぶらなくて良い。どうせ猪瀬の奴の差し金だろ?」

「なっ!?」


言葉を遮ってきた修也に男のこめかみが引きつる。


「いやーちょっと挑発すればこっちに標的が変わるかなーとは思ってたけどここまで思い通りに行くとは思わなかった」


修也が思いついた作戦は、わざと猪瀬の気を引くような行動をして狙いを華穂から自分に逸らすことであった。

自分以外を襲撃から守るのは難しい。

だったら襲撃の対象を自分に向けてしまえばいいと考えたのだ。

朝に白峰さんと黒沢さんが話していた『あいつを倒したいなら俺を倒してからにしろ』がヒントになったのだ。


「思考回路が単純で助かった。アンタらも大変だな、上がアホだと」

「てめっ……! 女の前だからってイキりやがって……!」


この男たちも男たちで修也の挑発に簡単に乗ってくる。


(うわぁ、上がアホだと下もアホになるのか……)


あまりにもこちらの思惑通りにいきすぎるので逆に何かしらの罠である可能性も考えたが、そこまで頭が良さそうには見えないのでそれはないだろう。


「おいお前ら、やっちまうぞ! 周りに誰もいねぇし囲んで半殺しにしてやる!!」

「女の方はどうする?」

「俺らで有効活用してやろうぜ。見た所中々の上玉だし躾ればいいオモチャになるだろ」

「!」


そう言って下品な笑い声をあげる男たち。

その不快感を堪えきれず、蒼芽は修也の後ろに身を隠す。


(コイツら……!)


蒼芽に欲望で濁った眼を向ける男たちに対し、修也の頭の中はスゥっと温度が下がった。

それに反して体の中はふつふつと熱い怒りが沸いてきた。

修也は静かに腰を落とし、手を握りしめ拳を作る。


「すぅーー…………ふっ!!」


そして一呼吸おいてから、全力でまっすぐに突き出した!

その修也の動きに気づかず、男は言葉を続ける。


「そうだ、どうせなら半殺しにしたコイツの目の前でマワしてやろうぜ! 良い見せしめになぶぎゃぁっ!!?」


下卑た笑いを浮かべながら言っていた男の顔が言葉を最後まで言う前に急に歪んだ。

そしてそのまま悲鳴をあげて後ろに吹っ飛ぶ。まるで何かに殴られたかのように。


「なっ……なんだぁ!? 急に後ろに吹っ飛んだぞ!?」

「…………それ以上その薄汚い口を開くな。虫唾が走る」

「っ!?」


そう低い声で呟く修也。

それだけなのに周りの気温が下がったような錯覚を覚える男たち。

誰もが凍りついたかのように一歩も動かない。


「……お前らは俺を怒らせた。覚悟は……できてんだろうな?」


そう言って男たちを睨む修也。


「何カッコつけてやがんだ! ガキがたった一人で何ができ」

「ふんっ!!」

「グボォッ!!?」


さっき吹き飛んでいった男が衝撃のせいか鼻から血を噴き出させながら戻ってきたが、またしても言いきることができずに悲鳴をあげる。

今度は腹部が不自然に凹んでいた。

二度目の予期せぬ衝撃に男は体をくの字にしてうずくまる。

攻撃されることが分かっていればある程度心の準備ができるので、防御をするなりしてダメージを減らすことができる。

しかし今の二度の衝撃は完全に予想の外からだった。

対応できない衝撃は同じ衝撃よりも数倍のダメージとなって男の体を蝕む。

今まで経験したことの無い感覚に男は立ち上がることができない。


「……聞こえなかったのか? その薄汚い口を開くなと言ったはずだが」


うずくまる男を上から見下ろす修也。


(な、何が……一体何が起きてやがる!?)


二度も自分の身に起きた現象を理解出来ず混乱する男。

男と修也の間にはかなりの距離が開いていた。

腕を目一杯伸ばしても指先が触れることすらできない距離だ。

なのに修也が拳を振るうとそれと連動した衝撃が男の身に襲いかかってくるのだ。


「な、何やってるお前ら、かかれ! 所詮ガキ一人、この人数相手に勝てるわけが無い!!」

「バーカ、逆だよ逆。この程度の人数で俺に勝てるわけが無いだろ?」


そう言うと同時に後ろに向けて裏拳を放つ修也。


「ぎゃあっ!!?」


ちょうど回り込んで後ろから襲いかかろうとしていた別の男の顔面にクリーンヒットし、その男はもんどり打って地面を転がる。

今の裏拳も距離が離れており触れていないはずだ。なのにまともに殴られたかのような現象が起きた。


「なっ……!?」

「お前らが馬鹿で単純なおかげで動きが丸分かりだ。これなら目を閉じてても全部捌ける」


その言葉の通り、修也は四方八方から襲いかかる男たちを余裕で捌き切る。

しかも蒼芽に危害が加わらないように守りながら、だ。

その様子を見るしかできない男の顔から血の気が引いていっているのは鼻血を流しすぎているせいだけではないだろう。


(聞いてねぇ……聞いてねぇぞ、こんなの!)


たくさんいた男の仲間たちは次々と修也に倒されていく。

なのに修也には誰一人として傷一つ付けるどころか触れることすらできない。

一人、また一人と倒れて動かなくなり、ついに意識があるのは最初に吹き飛んだ男だけになってしまった。

死屍累々の状況に男は青ざめ、歯をガチガチ言わせながら体を震わせる。


(な……何なんだよ……! コイツ、本当に人間か? こんなの、まるで化け物……!)


ありえない、ありえないと頭の中で繰り返す男。

もうまともに思考する能力も失ってしまったようだ。


「…………さて、残るはもうお前だけだな……」


そう言ってゆっくりと歩いて男の方に向かう修也。


「ひっ! ひいぃっ!! た、助けてくれぇ! お、俺は依頼されただけなんだ!」


その光景に男は戦意を完全に喪失し、腰を抜かして後ずさりながら命乞いをする。


「それは俺を襲うことを、だろう? ぶっちゃけ俺に襲いかかってきたことはどうでも良いんだ。そういう風に誘導したからな。俺が怒っているのは蒼芽ちゃんに手を出そうとしたことだ」


しかし修也の足は止まらない。

じりじりと男との距離を詰めていく。


「……浅はかな欲望で身を滅ぼす事態になったことを後悔するんだな」

「ひっ、ひいいいぃぃぃああああぁぁぁ!!!?」


そしてついに実際に手を伸ばしたら届く距離にまで間合いを詰めた時、


「………………あっ」


あまりの恐怖故か、男は口から泡を吹いて気を失ってしまった。

そんな男の姿を修也は何とも言えない表情で見下ろす。


(…………久しぶりに見たな……あの目……)


男が気を失う直前に見せた目を見て修也は思い出したくなかった昔を思い出す。

引っ越してきてからは見ることの無かった、恐怖に染まった目。

まるで化け物を見るかのような怯え切った目。

距離を置かれ遠巻きにされ、関わり合いになりたくないという感情が強く籠った目。


(こんな光景を目の当たりにしたら蒼芽ちゃんも……)


蒼芽を守る為だったとは言えこれでは……






パシャリ






「…………ん?」


その時響いたその場にあまり似つかわしくない音に修也は怪訝な表情をする。


「やった! ついに修也さんのキリッとした表情の写真ゲットー!!」


音の発生源では蒼芽が明るい声でそう言ってスマホの画面を見ながらホクホク顔になっていた。


「…………何やってんのかなー、蒼芽ちゃん?」


修也が想像していた最悪のパターンではないことに安堵のため息を吐く……が、流石にこれは予想外だった。


(何か違うんじゃあ……? いや、良いんだけどさぁ)


何か釈然としないものを感じる修也。


「だって修也さん、全然キリッとした表情の写真を撮らせてくれないんですもん」


そう言ってむくれる蒼芽。


「だからって今撮らんでも。一応色々とピンチだったんだからな?」

「確かにいやらしい目を向けられたのは不快でしたけど、不安ではなかったですよ?」


修也の言葉に対しそう答える蒼芽。


「え?」

「だって……修也さんのことを信じてましたから。守ってくれるって」


そう言ってまっすぐに修也を見つめる蒼芽。


「まぁ…………うん」


何と返事を返せば良いか分からず、頭を掻きながら明後日の方を見て言葉を濁す修也であった。

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