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第3章 第4話

修也が立ち去った後のファミレスでは……


「うんまぁ、短パンやスパッツも悪くはないんだよね」

「それにブルマだって昔オリンピックで女子バレーの選手が履いてたことで憧れの的になってた時もあったし」

「何が好きかなのかはどうしても個人差が出るけど、それぞれにはそれぞれの良さがあるしね」


さらにヒートアップしているのかと思いきや、すぐに鎮静化していた。

その理由は3人の中での暗黙のルールにある。

それは『相手の好きなものをけなさない』だ。

自分が好きなものはどれだけ主張しても良いが、その為に相手が好きなものを馬鹿にするのは良くない。

自分が好きなものに多大な情熱を注いでいるのと同じように、相手も好きなものには情熱を注いでいる。

人にはそれぞれの価値観というものがある。

それを馬鹿にするということは相手の人間性を馬鹿にしているということにつながる。

自分がやられたら嫌なことは相手にはしない。

陽菜は子供たちを教育する教師として。

優実は地域の治安を守る警察官として。

瀬里は真実を伝えるライターとして。

その事を念頭に置いて相手をけなし馬鹿にするようなことはしないようにする。

そう自分たちに言い聞かせているのだ。

真面目な優実はもちろんのこと、割と言動が自由な陽菜や瀬里もこれだけは絶対に守っている。

だからこそ先程瀬里が言っていたように、どれだけ激しく言い合いしても翌日には元通りになれるのだろう。

ただそれぞれ長い付き合いがあるゆえに、この3人だけの時は多少遠慮が無くなるのはご愛敬である。


「さて、じゃあ話も一区切りしたところで土神君に話を……って、もういない!?」


良い感じに話が纏まったので改めて修也に話を聞こうと思った瀬里だが、修也は既に帰った後である。

その事に気づき瀬里は驚きの声をあげる。


「……瀬里が話に混ざってきたあたりで帰ったわよ」

「あれ、そうなの? 話に夢中で気づかなかったよ」


修也が途中で帰ったことに気づいてなかった陽菜と実はきちんと気づいていた優実。

気付いても止めなかったのは男子高校生に聞かせるような内容ではないということと、これ以上面倒事に付き合わせるのは悪いと思ったからだ。

いくら話に夢中になっていてもそのあたりの冷静な判断ができるのは流石である。


「ちょっとー、気付いてたんなら教えてよ優実!」

「いつまでも未成年を引き留めておくわけにもいかないでしょうに。どうしてもって言うなら個人的にコンタクトを取れば良いでしょ」

「連絡先知らないよ! 陽菜は知ってる?」

「いやー、個人的な連絡先は知らないねぇ」

「じゃあ学校で会った時に言っといてよ。『美人巨乳ライターのお姉さんが個人的に会いたがってる』って」

「……セクハラでとっ捕まえるわよ?」

「えぇー、巨乳って言っただけでセクハラになるの? 優実、いくら自分がそうじゃないからって僻みは良くないなぁ」

「……顎の骨砕くわよ?」


良い感じに話にオチが付いたので、そろそろ食事の注文をするために店員を呼ぶ3人であった。



「ただいまー」


舞原家に着いた修也は玄関を開ける。


「あ、お帰りなさい修也さん。遅かったですね?」


修也の声を聞いた蒼芽がリビングから出てきた。


「いやまぁ……週明けから色々ありすぎたよ」

「私のクラスでも修也さんのことでひと騒ぎありましたよ?」

「何でだよホントに……」


未だ冷め止まない蒼芽のクラスのフィーバー状態に溜息を吐く修也。


「とりあえず荷物置いてきて良いかな」

「あ、すみません引き留めてしまいまして」


修也の言葉に蒼芽は軽く謝りながら道を開けてくれる。

修也は靴を脱いで自分の部屋に入る。

そして荷物を置き部屋着に着替えてすぐに部屋を出た。

いつも通りならそろそろ夕飯の時間だからだ。


「あらお帰りなさい修也さん。今日は遅かったですね?」


リビングに入ると紅音がちょうど夕飯を食卓に並べているところだった。


「すみません遅くなってしまいまして」

「いえいえ、私は構いませんよ。でも程々にお願いしますね? 蒼芽が拗ねるので」

「お母さん!? 私そんな子供じゃないよ!」


紅音の言葉に抗議する蒼芽。


「なるほど、『最後には必ず自分の所に戻ってきてくれる』という正妻の余裕ね?」

「それも違うっ!」

「てか正妻て……俺側室とか作っちゃうような奴だと思われてるんですかね? 前の学校では同性の友達すらロクにいなかったのに」

「前は前、今は今です。修也さん、今の学校では大人気でしょう?」

「蒼芽ちゃんのクラス限定ですけどね……しかしそれはそれで落ち着きません」

「そのうち学校全体で人気者になるかもしれませんね」

「紅音さんが言うと本当になりそうで怖いんですけど」


つい先日も不吉なフラグを立てて見事回収することになってしまったので、可能性が無いとは言い切れない。


「蒼芽を正妻にすることがですか?」

「お母さん!?」

「いや学校中の人気者になることの方ですよ……」


紅音のぶっ飛び発言を受け流す修也。

これ以上そっち方面で話を広げても紅音が楽しいだけなので話題を変える。


「いやもう、今日は朝から大変でしたよ」

「そう言えばさっきも色々ありすぎたって言ってましたね。何があったんですか?」


蒼芽も話題を変えたかったのか乗ってくる。


「蒼芽ちゃんと別れてから早々に理事長室に呼び出しを食らった」

「え……またですか?」


修也の言葉に少し驚いた顔をする蒼芽。


「それで理事長室に行ったら、土曜日行ったアミューズメントパークのオーナーが待っててな」

「オーナーがですか!?」

「パークで起きた事件の被害を最小限に抑えたことのお礼としてこれを貰ったんだ」


そう言って修也はオーナーに貰ったカードを取り出して蒼芽に見せる。


「えっと……わっ! フリーパスじゃないですか!」


カードを見た蒼芽が驚きの声をあげる。


「あら凄いですね修也さん。蒼芽、それで修也さんと一緒にそこに行ってきたら? フリーパスということは修也さんはお金がかからなくなるんでしょう?」

「うん、そうだね。修也さん、今度は私と一緒に行きましょうよ!」

「あ、うん。それは良いんだけど」

「やったっ!」


修也の了承を聞いて顔を綻ばせる蒼芽。


「今回の問題はそこじゃないんだ」

「え?どういうことですか?」


しかし修也から続いて出てきた言葉に首を傾げる。


「このカード、よーく見てみ?」


そう言って蒼芽にカードを手渡す修也。


「えっと…………あれ?」


修也に渡されたカードをまじまじと見ていた蒼芽だが、おかしい所があるのに気付いたのか眉を少しひそめる。


「あの、修也さん? このフリーパス……いつまで使えるんですか?」


蒼芽はフリーパスの有効期限が『9999/12/31』になってることに気づいたようだ。


「無期限」

「えっ!?」

「しかも何回でも」

「えぇっ!?」

「さらに同行者まで適用される」

「ええぇっ!!?」


修也から明かされる事実に驚きのリアクションがどんどん大きくなっていく蒼芽。


「あら、ということは修也さんと一緒に行けば蒼芽もお金がかからないということですか」


一方の紅音は割と落ち着いたリアクションだ。


「そういうことになります。先日の交換券とか学費9割引きとか、ここの資産家は気前が良すぎやしませんかね?」

「それは、修也さんがそれだけのことをしているということですよ」


蒼芽が修也にカードを返しながらそう言う。


「学費9割引きは千歩譲って良いとしよう」

「それでも千歩なんですね……」

「でも交換券は見合わなさすぎだろ。俺、突撃してきた男を投げ飛ばしただけだぞ」

「それを言ったら私なんて立ってただけですよ?」

「あ、そう言えばそうだったっけ……」


修也は結果的には理事長夫人がひったくられた鞄を取り返すという功績を上げたが、蒼芽は本当にただ側に立っていただけだ。

それなのに一緒にいたからという理由だけで修也と同じものを受け取ってしまった。


「やっぱりあれは修也さんが受け取るべきかと」

「いや1枚でも持て余してるのにどうしろってんだ」


モールの商品なら何とでも交換できると言われても使い方に困る。

安いものだともったいない気がするし、高いものだと気後れする。

結局どうにもならないまま交換券は2人の財布の中に眠ったままなのだ。


「……とりあえず交換券の問題は置いとこう」

「……そうですね」


再び問題を放置することにしておく2人。


「それで修也さん。土曜日に陣野君と佐々木さんに会いましたか?」

「ああ、会ったな。付き合い始めて初めての週末だけど何をすれば良いか分からないからアドバイスが欲しいと言われたよ」


話を先に進めることにしたらしい蒼芽。

修也もそれに乗ることにする。


「それで先日私と話してたデートの定義を話したんですね?」

「ああ、そうだけど……」

「それ、修也さんからもたらされた至言として私と詩歌以外のクラスメイトに定着しましたよ」

「何でだよ!? そんな大層なもんじゃなかっただろ?」

「そうなんですけど……『修也さんが言った』というだけで付加価値が爆上がりしたんでしょうね」

「……もう意味が分からん……」


蒼芽から聞いた1-Cの状況に呆れて言葉が出ない修也。


「なんかもう……例えば俺が階段は右足から上ることにしてるとか言おうものなら全員真似しそうだ」

「ああ……十分あり得ますね」

「……変な詐欺に引っかからないと良いけど。とりあえずそれも置いとこう。というかどうしようもない」

「あ、あはは……」


修也の放置発言に苦笑いを浮かべる蒼芽。


「あとは……帰り際に不破さんと七瀬さんが会いに来た」

「えっ、あのお2人にですか?」


華穂と会った事は特に面白味のある話ではないので飛ばす修也。

ガチのお嬢様と話せたというのはなかなかレアな体験ではあるが、話の広げようが無いからだ。


「事情聴取的なものですか?」

「まぁそんなもん。それ自体は特に何事もなく終わったんだけど、その後七瀬さんが参加する女子会に巻き込まれた」

「……修也さんのお話は毎回最初と最後の繋がりが意味不明なんですけど……」


今度は蒼芽が呆れる番だった。


「何でそうなったんですか?」

「七瀬さんと俺の担任が同級生だったらしい」

「へぇー、意外なところに繋がりがありましたね」

「そしてもう1人来たんだけど、それが先日紅音さんに教えてもらったブログの運営者だったんだ」

「あら、あのブログのですか?」


修也の言葉を聞いて紅音が聞き返す。


「なるほど……学校の先生と警察官が近くにいる人だったからそれなりの情報を集められたんですね」


蒼芽が納得したかのように頷く。


「……で、ブルマと短パンとスパッツのどれが一番良いかって論争を始めたあたりで帰ってきた」

「……はい?」


しかし次の修也のセリフに再び疑問顔になり、眉をひそめて首を傾げる。


「……さっきも言いましたけど、お話の繋がりが全く持って意味不明なんですが……」

「それだけ俺の周りが無秩序だと言える」

「あ、あはは……」


半分諦めたかのような修也の言葉に苦笑いを浮かべる蒼芽。


「ちなみに修也さんはどれがお好きなんですか? 今なら修也さんが選んだものを蒼芽が着てくれますよ」

「お母さん!?」


ナチュラルにとんでもない発言をぶっこむ紅音に蒼芽が抗議を入れる。


「私、短パンもスパッツも持ってないよ! ブルマも学校で使うのしか無いし!」


……と思ったら何かずれてた。


「え……そこ?」

「えっ?」

「……着て見せることに抵抗は無いのか」

「あ、いえその……修也さんがどうしてもというのであれば……」

「いらんいらん。蒼芽ちゃんはスカートが一番似合う」

「そ、そうです、か……? えへへ……」


修也にそう言われ、蒼芽は照れ笑いを浮かべる。


「なるほど、修也さんはスカートフェチなんですね」

「お母さん、それ修也さんに凄く失礼!!」

「紅音さん、毎度毎度笑顔でとんでもないことをぶっこんでくるなぁ……」

「修也さんも怒って良いんですからね!?」

「いや……まぁ……」


蒼芽の言葉に曖昧な返事を返す修也。

修也としてはお世話になっている家の家主にあまり失礼なことは立場的に言えない。


「でも普段見ない服を見るというのも新鮮で良いものですよ?」

「いや、部屋着とかパジャマとか見ているわけで……と言うか俺の嗜好を創造しようとするのやめてくれますか」

「ほら、止めないとお母さんは増長していくんですから!」

「でも蒼芽は気にならない? 修也さんの好きなタイプ」

「そ、それは……」


紅音の言葉に二の句が継げない蒼芽。


「いや蒼芽ちゃんも気になるんかーい」

「それは……一緒に暮らしている以上、多少は……」

「一緒に暮らしてること関係あるのかな……? でもなぁ……前にも言ったことあるような気がするけど今までが今までだから好きなタイプとかそう言うの全く気にしたこと無いや」

「そう言えば先日屋上でお昼ご飯食べた時も外見よりも内面みたいなこと言ってましたね」


蒼芽は詩歌や陽菜と屋上で昼食を食べた時のことを思い出しながら言う。


(ん……? パジャマパーティーのことに触れないのはこの場に紅音さんがいるからなのかな?)


パジャマパーティーでの話をそのまま流用したので、内容は同じはずなのだが蒼芽はそっちの方には触れない。


「うん。だから蒼芽ちゃん、君は今のままで十分だ」


なのでそうアタリを付けた修也もそのことに触れずに話を進める。


「あ……はいっ!」


修也の言葉に蒼芽は笑顔で返事をする。


「なるほど、修也さんのタイプは蒼芽ということですか。良かったわねぇ、蒼芽」

「お母さん!?」

「紅音さん!?」


またしても飛び出た紅音のトンデモ発言に、流石の修也も今回は大声を上げずにはいられないのであった。

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