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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第3章

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第3章 第1話

「それじゃあ修也さん、今週も頑張りましょうね!」

「ああ、蒼芽ちゃんもな」


週明け、いつものように修也と登校してきた蒼芽は目的地への道が分かれる所で修也に声をかけて教室へ向かう。

特に何事も無く教室に着き、扉を開ける。


「……?」


教室では一角に何故か人だかりができていた。

蒼芽はそのことに疑問を持ちつつ、深入りする気も無いので自分の席につく。


「お……おはよう、舞原さん……」


蒼芽に朝の挨拶をするため詩歌がそばにやってきた。


「おはよう詩歌。ねぇ、あの人だかり何?」


蒼芽は詩歌に挨拶を返しつつ何か知っていないか聞いてみる。


「う、うぅん……詳しくは知らない……中心にいるのは、陣野君と佐々木さんみたいだけど……」


詩歌は首を振りつつ、分かっていることを蒼芽に伝えてくれた。


「あー……付き合って初めての週末だから質問責めにあってるんだね」

「あ、そういう……」

「ホント野次馬根性凄いなぁ、このクラス」


蒼芽が呆れ気味に溜息を吐く。

と、その時人だかりからどよめきの声が上がる。


「あれ、どうしたんだろ」


あまり興味は無いものの多少は気になった蒼芽が人だかりに視線を送る。


「え、2人は土曜の朝に土神先輩に会ったの!?」


そんな声が人だかりから聞こえてきた。


(え、修也さん?)


修也の名前が出てきたことで、蒼芽は興味を引かれた。


「うん、それでデートの極意を教えてもらったの」

「マジ!? どんな事教えてもらったの!!?」

「えっと、『デートは親密になるためにお互いを知る手段』……だったかな」

「おおおぉぉぉーーーー!!」


陣野君の言葉に、人だかりから歓声が沸き起こる。


(え、それ私と修也さんで話し合った時のやつ!?)


蒼芽は先日修也と話したデートの定義の話を思い出す。

確かそんな結論で纏まっていたような気がする。

かなり軽い気持ちで纏めたものがいつの間にか極意に昇華してしまっていた。

そのことに蒼芽は驚きと呆れが混ざった感情で人だかりを見やる。


「で、その後は!?」

「お互い何が好きかを知るために、とりあえず私の知ってるモーニングをやってる喫茶店に行ったの……土神先輩の勧めで」

「それって駅前の所にあるやつ?」

「そうそう。佐々木さんに教えてもらったけど良い所だったよ。コーヒー美味しかったし」

「土神先輩お勧め!? これは是非とも行かないと!!」

「俺も!」

「私も!!」


我も我もと続いていく人だかりの生徒たち。


「……修也さんが勧めたのはモーニングやってる喫茶店に行くことであって、喫茶店自体は佐々木さんの推薦な気がするんだけどなぁ……」

「……舞原さんもそう思うってことは……私の気のせいってわけじゃ……なさそうだね……」


そんな蒼芽と詩歌の呟きが人だかりの生徒たちの耳に届くことはなかった。

恐らく今週末の駅前の喫茶店は1-Cの生徒の大多数が押し寄せ、過去に類を見ない程の盛況っぷりとなることだろう。



「えーっと……何で俺はまたここに呼び出されたんですかね?」


一方修也は、教室に向かう途中でたまたま会った陽菜に呼び止められ、理事長室に寄らされていた。


「急にすまないね。時間は取らせないから」


部屋の中で待っていた理事長にそう言われる。


「ほほぅ、君が話に出てきた土神君だね?」

「……? えっと、理事長……この方は?」


理事長室にはもう1人初老の男性がいた。

修也は、その理事長の隣に立っている男性について尋ねる。

穏やかな表情をしており、温厚そうな雰囲気を醸し出しているこの男性。

当然だが修也は会った覚えは無い。


「ああ、彼は僕の資産家友達さ」

「そんな飲み友達くらいのノリで凄い人紹介しないでくれますか」

「はっはっは、なかなか面白い子だね」

「あ、すみません」

「いやいや、気にしなくて良いよ」


またしてもついツッコミを入れてしまったことを謝る修也だが、男性は気にした様子を見せていない。


「そしてここから少し離れた所にあるアミューズメントパークのオーナーでもある」

「えっ……あそこの?」


理事長の説明を受けて修也は少し驚く。


「もしかして……一昨日の事件が関係していますか?」

「そうなんだ。ちょっと近くを寄ったから視察を兼ねて見に行ってみたんだが臨時休業になっていてね。何があったのかその場にいたスタッフに話を聞いたんだよ」






~回想 2日前~






「あ、あなたは……! オーナー!?」


キャストのお姉さんの前に現れたのは、このアミューズメントパークのオーナーだった。

思いもしなかった人物の登場にお姉さんは驚き慄く。


「ああそんな畏まらなくて良いよ。ちょっと寄っただけだから」

「は、はぁ……」


恐縮しているお姉さんに笑いながら優しく声をかけるオーナー。


「で、この臨時休業って一体何があったのかな?」

「それが……ここの近辺で大型のトラックを暴走させた男が出たとか……」

「何だって!? それで、怪我人は?」


のっぴきならない話を聞いてオーナーは驚き状況を確認する。


「あ、それは大丈夫だったみたいです。街路樹1本が折れてしまったくらいだそうです」

「そうか……君たちスタッフやお客様に被害が出なくて何よりだ」


怪我人は出ていないと聞いて、オーナーは安堵の溜息を吐く。


「で、その運転手はどうなったんだい?」

「その場に居合わせた学生の1人が捕まえたらしいですよ」

「なんと!」


お姉さんの説明を受けて、今度は感心して深く頷くオーナー。


「その勇敢な学生には是非とも僕直々にお礼を言いたいねぇ。君、その学生について何か知ってるかな?」

「えぇっと……確か入場券を買う時に見せてもらった学生証は、ここから3つ離れた駅の高校のものでしたね」

「ふむふむ」

「そして……他の子からは『ツチガミ』君と呼ばれてましたね」

「なるほど、あの高校のツチガミ君か。分かった、ありがとう」


そう言ってお姉さんに頭を下げて礼を言うオーナー。


「そ、そんな! 恐れ多いです!」


何歳も歳が離れているうえに立場も天と地ほどの差があるオーナーに頭を下げられたことに慌てるお姉さん。


「いやいや、お礼を言うのに立場なんて関係ない。それに礼と謝罪が迅速にできないトップなんてトップの資格は無い。友達の受け売りだけどね」


そう言って柔らかく笑うオーナー。


「では早速話を聞きに行ってみるか」


オーナーはその場でスマホを取り出し、どこかに電話をかける。

すぐに黒塗りのリムジンがやってきてオーナーのすぐそばで止まった。


「それじゃあ失礼するよ。君も今日はもう帰っていいよ」


そう言い残し、オーナーを乗せたリムジンは静かにその場を去っていった。


「……今日は色んな事が起きすぎたなぁ……こういう日は帰って何もしないで寝るに限るよね」


お姉さんはそう小さく呟き、スタッフルームに戻っていくのであった。


~回想終わり~






「……そして彼に話を聞いて君に会わせてもらう段取りをつけたのさ」

「あの後そんなことが……」

「君のおかげで人的被害はゼロに抑えられた。改めてお礼を言わせてほしい」

「いえ……俺は、友達に危害を加えそうなアイツを放っておけなかっただけですから」

「それでも結果的にはこちらも助かったんだよ。という訳でこれを受け取ってほしい」


そう言ってオーナーは内ポケットからカードを取り出して修也に手渡した。


「……これは?」

「あのアミューズメントパークのフリーパスだよ。君たち、一昨日は結局半日しか楽しめなかっただろう? その補填だよ」

「あ、確かに…………!?」


オーナーの言葉に納得しかけた修也だが、カードをじっくり見ておかしい点があることに気づいた。


「あ、あの? これ、有効期限が『9999/12/31』ってなってますけど? バグですか?」

「いいや、間違ってないよ? それ、永年フリーパスだから」

「永年!?」

「しかもそれ一枚で同行者が何人いても適用されるから。さらに何回でも使える」

「豪華すぎません!?」

「いいや、君の功績を考えたらそれでも足りないくらいだ。君がいなかったらもっと凄惨な事件になっていたかもしれない。何日にも渡り休業する可能性もあった。いや、それだけで済めばまだいい。怪我人や犠牲者が出たらいくらお金があっても取り返しがつかない」

「ま、まぁ……それは……」

「それにこの理事長は学校にかかる費用9割引き、夫人からはモールの商品交換券をもらったんだろう? 僕も負けてられないよ!」

「変なところで対抗心燃やさないでくれますか!?」

「それじゃあお礼も済んだことだし僕は失礼するよ」


そう言って理事長室を後にするオーナー。


「えぇ……どうすんのこれ……」


呆然としてその背中を見送る修也であった。



「おはよう土神君……って、どうしたの? 何か気の抜けた顔してるけど」


2-Cの教室に入った修也に声をかける爽香だが、修也の様子がおかしいことに気づく。


「いや……朝一で理事長室に呼び出されて行ってみたらあのアミューズメントパークのオーナーがいた」

「……悪い、状況が全然見えない」


爽香と一緒に話を聞いていた彰彦が眉間を押さえながら制止する。


「なんでもあの暴走男をぶっ飛ばして人的被害をゼロに抑えたことについて礼を言いに来たらしい」

「あぁ、そういう……にしても、オーナー自らが来るとは」

「何っ? 今の話本当か!?」


そこに話を聞いていたらしい戎が輪に入ってきた。


「まあ資産家友達として理事長から紹介されたから偽物じゃないだろ」

「そこじゃねぇよ! 暴走男をぶっ飛ばしたってところだよ!」

「まぁ、嘘じゃないけど」

「そうかそうか! やっぱり俺の目に狂いは無かった! 土神、お前は俺が求めてた人材だ!!」


何かの確信を得た戎が上機嫌で笑いながら言う。


「聞きました黒沢さん? 霧生さん、土神さんを求めて止まなかったですって!」

「ええ、しかと聞き届けましたぞ白峰殿! やはり霧生殿はソッチの素質が」

「違ぇって言ってんだろ!!?」


また始まりかけた白峰さんと黒沢さんの妄想談義を強制中断させる戒。


「で、何なんだよ?」

「あ、あぁ……土神、お前部活やる気無いか?」

「部活? もしかして先週から言おうとしてた事ってそれ?」

「…………? あ、あぁ! そうそう、そうなんだよ!」


修也の質問に一瞬疑問顔になった戒だが、慌てて頷いた。


「忘れてたな」

「忘れてたわね」

「うるさいな!」

「今のところは考えてないが……そもそも何の部活だよ?」

「格闘技クラブだ。暴走男をぶっ飛ばせる体術が使える土神ならうってつけだろ?」

「うーん、急に言われてもな……」

「それもそうか。でも考えといてくれ」


そう言って戒は自分の席へ戻っていった。



「……週明けから色々ありすぎだろ……」


放課後、修也は屋上に来ていた。

色々とイベントが舞い込みすぎて落ち着かない。

修也は一旦頭の中を整理したかったのだ。

夏も近づいてきているので日中は日差しがきついが、今の時間ならそれほどでもない。

むしろ風通しが良いので心地よいくらいだ。


「えーっと、何から纏めていこうか……」


修也は備え付けのベンチに腰掛け、目を閉じる。


(永年フリーパスは……放置で良いか。とりあえず蒼芽ちゃんに相談だけはしておくか)


貰ったものは仕方ないのでもう考えないことにする。


(後は霧生の部活か。そういや前に蒼芽ちゃんが言ってたな。格闘技クラブがあるとか)


修也は以前蒼芽と話したことを思い出す。

ただ修也としてはあまり乗り気ではない。

色々理由はあるが、一番はやはり『力』のことだ。


(しかしそれを理由に断ることもできないし……)


当然『力』のことは口外できない。

となると相応の理由を他に探さないといけない。


(う~~~~~~ん……)


修也は考えるが良い理由が浮かばない。


「……もしもーし、大丈夫?」

「……ん?」


その時、誰かが修也に声をかけてきた。

修也は一旦思考を中断させ、目を開く。

目の前には1人の女子生徒が立っていた。

髪は緑色で背中まで伸ばしハーフアップにさせている。

どことなく気品が漂うような気がする人だ。

しかし近寄りがたい印象は無い。

むしろ気さくで話しかけやすい印象を修也は持った。


「あ、良かった起きた」

「いや別に寝てたわけじゃあ……」

「そうなの? 難しい顔して目を閉じてたから変な夢でも見てるのかと思ったよ。般若心経唱えながら円周率暗唱してエアロビ踊るみたいな」

「どういう状況よそれ?」

「ね? 変な夢でしょ?」

「確かにそんな夢見てたら難しい顔にもなると思うけど……」

「まぁ違うなら安心したよ。でもだったらどうしてあんな顔してたのかな?」


そう言って修也の隣に座る女子生徒。


「大した事じゃないんだけど……クラスメートから部活に勧誘されてて、でもあまり気乗りしなくて……」


修也は女子生徒に今の悩みを話す。


「ん? この時期に部活の勧誘? ちょっと遅くない?」

「俺先週転校してきたから」

「あぁなるほどね」


納得した女子生徒は頷く。


「とりあえず1回体験という名目で行くだけ行ってみたら? それで自分に合わなければ辞退すれば良いし」

「……まぁ、確かに何もしないで断るってのもアレか」


女子生徒の提案を聞いて修也は頷く。


「ありがとう。とりあえずの方針は決まったよ」

「どういたしまして……えぇっと、そう言えば名前まだ聞いてなかったね」

「あ、そう言えば……」


まだお互いの名前すら知らなかったことに修也は気づく。

なのに悩み相談みたいなことができたのは、この女子生徒の持つ話しやすい雰囲気のおかげだろうか?


「ええっと、俺は土神修也。2年生だ」

「土神くんだね。私は姫本華穂きのもと かほ。3年生だよ」

「あ、ということは先輩で……」

「ストップ!」


先輩だったことを知り言葉遣いを直そうとした修也だが、華穂から待ったがかかった。


「……え?」

「土神くん、今私が先輩だと知って敬語を使おうとしたでしょ?」

「そりゃまぁ先輩だし……」

「良いよいらないよ。ただ少し先に生まれたってだけで偉くもなんともないんだから敬語なんて使わなくて良い」


そう言って修也が敬語を使うのを拒む華穂。


「いや、でも……」

「私が良いって言ってるんだから良いの! 元々言葉遣いが丁寧な人ならともかく、土神くんは初めは敬語使わなかったでしょ?」

「……分かったよ、先輩がそう言うなら」

「よろしい」


修也が納得したことで華穂はにっこりと笑う。


「で、えーっと……姫本先輩」

「んー……その呼び方も固いなぁ」

「いやでも、先輩なのは変えようもない事実なわけで」

「じゃあさ、『華穂先輩』って呼んでよ。それなら固くないし先輩という名目も立つし」

「先輩がそれで良いんなら……」

「よしっ決まり! よろしくね、土神くん」

「よろしく、華穂先輩」


こうして修也は放課後の屋上で少し……いや、かなり気さくな先輩と知り合うのであった。

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