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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第2章

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第2章 第13話

「ふぅ…………」


詩歌は浴槽に張られた湯に浸かりながら息を吐いた。

今日一日の色々あった疲れが溶け出るようで、詩歌の表情は緩む。


(やっぱり、お風呂は気持ちいいなぁ……)


某国民的アニメのヒロインのように1日3回とまでは流石に言わないが、詩歌はこの時間が好きだ。

誰にも邪魔されず、ゆっくりと身も心も休めることができる。

とても落ち着くのだ。

今日のようにやたら疲れるイベントがあった日は猶更である。

でも、疲れこそしたものの悪い事ばかりではなかった。


(舞原さんと、少しだけ仲良くなれた気がするし……それに、土神先輩とまた会えたし……)


詩歌は修也に対する恐怖心はもう無い。

父親と彰彦を除く男相手ではありえなかったことだ。

なのでまた会えたことは素直に嬉しい。

しかし心残りもある。


(でも私……全然先輩とお話できなかったなぁ……)


恐怖心こそ無いものの、それで彰彦にする時のような話ができるかと言うとそれは別問題である。

修也が視界に入っただけで心臓がこれでもかと言うほど活動を活発化させ、脈拍数が上がり、顔が熱くなるのに反比例して、喉が全く機能しなくなってしまうのだ。


(……先輩とは、もっと……仲良くなりたい、けど……)


詩歌が思い起こすのは、今日の昼間の学食での光景。


(舞原さんと先輩、凄く仲良さそうだったな……)


そんなところに自分なんかが割って入って良いのだろうか?

詩歌はそう自分に問いかける。


(私……舞原さんに勝てる要素なんて何も無いし……)


蒼芽は非常にコミュ力が高い。

それに明るくて、同性の詩歌から見ても可愛らしい子だ。

容姿、性格共に非の打ち所が無い。

未だに自分と友達になってくれたのが信じられないくらいだ。


(それに……うぅ…………)


詩歌は視線を自分の胸元に落とす。

…………決して平らではない。

平らではないが、大きくもない。

以前体育の授業での着替えの時にその気は無しに見えてしまったのだが、蒼芽はそこそこあった。

ちゃんと比べたわけではないが、間違いなく自分よりは大きい。

そもそも比べるようなものでもないのだが、やはり気になってしまう。

それに短くしているスカートから伸びる脚も綺麗だ。

スタイルまで申し分無しとなると最早嫉妬の念すら湧かない。


(うぅん、こればっかりは気にしても仕方がないよ……そんなすぐ改善できるようなことでもないしね)


詩歌は首を振って思考を無理やり振り払う。

とりあえず成長期の発育に良いとされる食材を使った料理のレシピを後で調べよう。

自分の中でそう結論付ける詩歌。


「あ……そう言えば……」


詩歌はふと、スマホを使えばそう言う調べ物も楽にできるのではないか、と思い立った。

爽香や彰彦が、何か調べ物をしたいときにスマホで検索をかけているのを思い出したからだ。


「なるほど、そういう使い方もできるんだね……うん、何かやる気出てきたかも」


スマホを持つことに俄然前向きになった詩歌は、浴槽から出て体を拭き、服を着て脱衣所を出るのであった。



「待ってたわよしいちゃーん」


詩歌がリビングに入ると、爽香と両親が待っていた。

リビングの机の上には、爽香が持ってきたであろうカタログがいくつか並べられていた。


「高校に入った時は携帯は使わないからいらないって言ってたのに、急にどうしたの?」

「えっと、それは……」

「男の知り合いができたから連絡手段を確立させたいんですって」

「お、お姉ちゃん……!?」


爽香がとんでもない話を捏造したことに慌て驚く詩歌。


「何ぃっ!? 詩歌に男ぉ!!?」


爽香の言葉を聞いて、父親が目を見開き叫び声をあげる。


「お、お父さん……! これは……」

「いやー、そうかそうか。詩歌にも男の……いや、そもそも友達ができたか。良かった良かった」

「あ、あれ……?」


だがすぐ元の顔に戻ってのほほんとお茶をすする父親に拍子抜けする詩歌。

てっきりテンプレ的に『詩歌に男なんてまだ早い! 認められるかっ!!』みたいな事を言われると想像していたからだ。

姉の爽香が彰彦と彼氏彼女の関係になった時もあっけらかんとした感じだったが、それは彰彦が幼馴染だからだと思っていた。

だが、どうやらこの父親、元々そういう性格らしい。


「で、どんな子なんだ? 父さん会ってみたいなぁ」

「私もまだ会った事無いのよ。だからしいちゃん、いつか連れてきてくれない?」

「な、何で私に言うの……? お姉ちゃんの方がクラスメイトなんだから接点多いし……」

「何言ってんのー。しいちゃんが連れてくる事に意味があるのよ」

「え、えぇ……」

「そう言えば彰彦君にも最近会ってないなぁ。爽香、今度連れてきてくれないか? また将棋がしたいからって」

「お父さん激弱じゃない。基本的なルールを付け焼刃で覚えた私にすら勝てないんだから」

「良いじゃないか、父さんは雰囲気を味わいたいんだよ。縁側でお茶をすすりながら指す将棋。うーん、風流だねぇ~」

「それだけのために本格的な分厚い将棋盤買うんだからお父さんもに困ったものよね~」


そう言う母親の表情はあまり困っているようには見えない。


「あ、あの……本題に戻ってくれないかな……?」


詩歌が恐る恐る話に入る。


「あ、そうそう、そうだったわね。えーと、で、しいちゃんは土神君をいつ連れてきてくれるの?」

「ち、違うよぅ……! それが本題じゃないよ……」

「ほぅ、土神君と言うのか! 良い名前だ」

「名前に良い悪いとかあるの……?」

「あるとも。『宇宙』と書いて『そら』と読む……とか、何考えてんだコイツの親って思うし」

「あー、いわゆるキラキラネームってやつね」

「でも苗字でそれはあまり聞かないわね」

「言われてみればそれもそうか!」

「あ、あの……だから、本題に……」

「そうねー。さやちゃんしいちゃん、名前は一生モノなんだから、産後ハイになって自分の子供に変な名前付けないようにね」

「そ、それも本題じゃないよぅ……!」

「で、何の話だったっけ?」

「お父さんが彰彦君と将棋をしたいって話じゃなかったかしら?」

「……私の、携帯電話の話だよ……」


このままではいつまで経っても話が進まないので、詩歌は自分で話の軌道修正をする。


「そうそうしいちゃんの携帯の話だったわね。私もお父さんも反対はしないけど、しいちゃん自身から理由を教えてほしいな」

「……えっと……今日学校からの帰りにアキ君と会ったんだけど……途中でお姉ちゃんから通知が来て……」

「ああ、あの時詩歌もその場にいたのね」

「何か連絡を取りたいときにすぐ取れるのは便利だなって思って……」

「まぁ、確かに便利よね。今では携帯が無い生活なんて考えられないし」

「……それに、私にもやっと友達ができて……」

「なるほど。それがさっき爽香やお母さんが言ってた土神君か」

「ち、違うよぅ……! 同じクラスの舞原さんって子だよ……!」

「へぇー……さやちゃん、その舞原さんってどんな子か知ってる?」

「えっと、土神君は先日引っ越しで転入してきたんだけど、その引っ越し先でお世話になっている家の子……って言ってたわね」

「なるほど、つまり詩歌のライバルか」

「なるほどね、つまりしいちゃんのライバルってわけね」

「な、何でそうなるの……!? 舞原さんはお友達だよぅ……!」


蒼芽をライバルという立ち位置に決定する両親に、詩歌は顔を紅潮させて抗議する。


「じゃあ他称ライバルと言うことで」

「『自称~~』は聞いたことあるけど、『他称~~』なんて初めて聞いたよ……」

「じゃあしいちゃんの携帯を持ちたい理由は、土神君といつでも連絡を取りたいから、でOK?」

「舞原さんとかと必要な時に取りたいから、だよ……!」

「その中に土神君を入れても良いじゃない」

「む、無理だよ……私なんて……」

「ほらまたそうやってやる前から諦める。それが詩歌の悪い癖だってさっきも言ったでしょうに」

「う…………」


爽香に指摘されて俯く詩歌。


「そ、それはもう良いから……それに、携帯を持ちたい理由は他にもあって……」


早くこの場から抜け出したい一心で、詩歌は多少無理やり話を変える。


「あらあら、何かしら?」


意図が見え見えの話題転換ではあったが、母親が乗ってくれた。

いつも何かにつけて揶揄ってくる母親ではあるが、詩歌が本当に困っているときは擁護してくれる。

だから親子間の仲も割と良好なのである。


「お姉ちゃん、携帯で調べ物ってできるんだよね……?」

「え? まぁそうね。正確には携帯でWebブラウザを立ち上げて検索をかけるのよ」

「それで、その……新しいお料理の、レシピとか調べられたらなって……」

「「「!!」」」


詩歌の言葉を聞いた両親と爽香の目つきが変わった。


「……え? ど、どうしたのお父さん、お母さん? お姉ちゃんまで……」

「詩歌が新しい料理のレシピを調べる……と言うことは、詩歌の新しい料理が食べられるってことか!」

「しいちゃんの作るお料理ってどれもすっごく美味しいからこれは楽しみね~!」

「詩歌、明日の放課後早速買いに行くわよ!」

「爽香、お金のことは気にしなくて良いから高性能の物を選んでやりなさい!」

「え、えぇ……?」


やたらテンションの上がった家族に詩歌はちょっと引いた。

無理やり変えた話題にここまで食いついてくるとは思わなかったからだ。


(性能の良し悪しは関係無いんじゃないかなぁ……?)


詩歌はそう思ったが、口に出すことはできなかった。



翌日の昼休み。


「あ、お待ちしてました修也さん」


修也が学食棟へ行くと、昨日の約束通り蒼芽が入り口で待っていた。


「あれ、蒼芽ちゃんもう来てたの? 早いなぁ」

「1階分私の方がここに来るまでの距離が短いですからね」

「それでも昼休みが始まると同時にここに来たくらいの時間だけど」

「良いものは早く売り切れてしまいますから」

「それはどこの学校でも同じか……」


雑談もそこそこに、二人は学食棟に入る。

今日は学食ではないので、向かう先は1階の購買だ。

購買は、感覚としてはコンビニとほぼ同じだ。

陳列棚やレジの配置などもコンビニと大差は無さそうである。


「大体分かると思いますけど、買いたいものをレジに持って行ってお会計するというのが大まかな流れです」

「もうこれ、学内に併設されたコンビニだろ」

「その認識で良いと思いますよ。では買いましょうか」


そう言って蒼芽はパンのコーナーへ行く。


「蒼芽ちゃんはパン派か」

「お昼は何となくそうしてますね。修也さんはどうしますか?」

「せっかくだし、俺もパンにするかな」


そう言って修也は惣菜パンを3つと、ペットボトルのお茶を手に取る。


「わっ、修也さん3つも食べるんですか? 流石男の人ですね」


そう言う蒼芽の手にあるのはサンドイッチ1つとペットボトルのお茶だ。


「そう言う蒼芽ちゃんは1つだけか。足りるのか?」

「はい。2つはちょっと私には多くて食べ切れないんですよ」


会計を終えて、二人は雑談をしながら学食棟を出る。


「……やっぱここも9割引き……」

「あ、あはは……これだけ買って100円にもならないとか……」

「で、どこで食べるんだ? 中庭とか屋上にベンチがあるって聞いたけど」

「あ、それなんですけど、実は……」



「ま、舞原さん、本当に先輩を連れてくるのかな……」


詩歌は緊張した面持ちで屋上への階段を上っていた。

詩歌が緊張している理由。

それは先程自分でも呟いていた通り、蒼芽が修也を連れてくるから3人で屋上でお昼を食べようと言い出したからだ。

その提案に、詩歌は喜び2割、驚き2割、緊張6割で了承した。

詩歌は持参の弁当で学食棟に行く必要が無いので、当然最初に屋上に着いた。

屋上にはまだ誰もいない。

詩歌は先日蒼芽と2人で昼食を食べたベンチに腰掛ける。

そして蒼芽を待つことにしたのだが、緊張で手足がぷるぷる震えている。


「だ、だだだ大丈夫……き、昨日だって一緒にご飯食べたんだから……」


自分に言って聞かせる詩歌だが、震えは治まってくれない。

それでもどうにか震えを止めようと必死になっていると……


「はい、着きました! ここが屋上です」

「へぇー、辺りの風景が一望できて爽快だなぁ」


聞き慣れた声が聞こえてきて、詩歌の心臓が強く跳ね上がった。


「えーと……あっいたいた! 詩歌ー!」


詩歌の姿を見つけた蒼芽が手を振って近づいてくる。


「ご、ゴメンね舞原さん、ま、待った……? ……あ」


極限まで緊張していた詩歌はテンパっておかしなことを言ってしまう。


(ち、違う~~! それ私が言うセリフじゃない……!! 変な子だと思われちゃう……)


言った後で自分のセリフがおかしい事に気づき、自己嫌悪に陥る詩歌。


「あはは、それ私が言うセリフだよ」


でも蒼芽は気にせず流してくれて、詩歌の隣に座る。


(やっぱり舞原さん、優しい……それに……)


詩歌は、横に座った蒼芽の胸をチラッと見る。


(やっぱり……私より大きいよね……はぁ……)


そしてそっとため息を吐く。

横に並んで座った事で期せずして比べる事が出来たが、無情な現実に打ちのめされるだけだった。


「じゃあ俺も座らせて貰うな」


そう言って修也も蒼芽の隣に座る。


「大丈夫か? 狭くないか? 蒼芽ちゃん、詩歌」


(はぅっ!? せ、先輩が、私を名前で……!)


修也に名前で呼ばれた事で、心臓が高鳴る詩歌。


「私は大丈夫ですよ。詩歌は?」

「わ、わたっ……私もっ、だ、だだ大丈夫、ですっ……!」


詩歌はテンパリながらも何とかそう口にする。

その時、屋上と校舎内を繋ぐドアが再び開いた。


「ん? 他に誰か来たか……?」


ドアが開く音に気付いて修也はドアの方を向く。

そこには……


「いやー今日はいい天気だ! こんな日は青空の下でお昼ご飯を食べるに限るねっ!」


昼食が入っているであろう袋を右手にぶら下げた陽菜が立っていた。

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