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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第6章

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第6章 第8話

「お風呂上がったよー、おにーさん!」

「すみません、先にお風呂頂きました」


パジャマ姿になった由衣と蒼芽がリビングに戻ってきた。


「ねーねーおかーさん! 私新しい水着が欲しいー!」


リビングに入って早々に由紀に頼み事をしだす由衣。


「新しい水着? 今の学校の水着は着れなくなっちゃったのかなっ?」

「うぅん、そーじゃなくて遊びに行く用の水着が欲しいんだよー! 学校の水着じゃない可愛いのが欲しいんだよー」

「あらっ、良いじゃないっ! 今ならモールでセールやってるよっ」


由衣の言葉に由紀は笑顔で返す。


「うん、この前おねーさんとおにーさんと一緒に見に行ったからそれは知ってるー」

「あれっ? その時由衣ちゃんは買わなかったの?」

「お金無くて買えなかったんだよー」

「私が建て替えようかとも言ったんですけど、たとえ誰であろうともお金の貸し借りはしない方がいいからやめとくと言われまして」

「ははぁ、なるほどねっ」


蒼芽の補足に納得顔で頷く由紀。


「うんっ! そういうことならお金出してあげるから買ってきて良いよっ」

「わーい!!」


由紀の承諾を得られた由衣は両手を挙げて喜びを表現する。


「……こう言っちゃ何ですけど、由衣ちゃんって結構金銭感覚しっかりしてますよね」

「そこだけはちゃんと教えたからねっ! お金の切れ目は縁の切れ目って」


修也の呟きに由紀は胸を張って答える。


「それで、由衣ちゃんはどんな水着が欲しいのかなっ?」

「えっとねー……おねーさんが着てた、おなかが見える水着が良いなって思うんだよー」

「へぇー、蒼芽ちゃんそんな水着買ったんだねっ。おにーさんに見せるため?」

「あはは、まぁそんなところですね」


由紀の問いかけに蒼芽は軽く笑って答える。


(……まぁ蒼芽ちゃん的にスク水は無しっぽいからな……)


以前蒼芽はスク水を『可愛くないから嫌』という評価を下していたことがある。

尚且つ可愛いものならむしろ見てもらいたい承認欲求があると言っていたこともある。

修也にはよく分からないが、蒼芽は普段から自分の基準での可愛さを求める傾向にある。

そしてそれを近くの人に見てもらいたい願望もあるらしいので、今回もそういうことだったのだろう。

さらにこういう話はさらりと流した方が変に弄られずに済む。

なのでこんなあっさりとしたリアクションなのだろう。

そう修也はアタリをつける。


「で、おにーさん的にはそういう水着はアリかなっ?」


そんなことを考えていた修也に由紀が質問を投げかける。


「え? まぁ本人が気に入ってるなら良いと俺は思いますね。蒼芽ちゃんの水着も色も相まって似合ってたと思いますよ」


先の蒼芽に倣って修也も軽く返す。


「だよねー! あの水着おねーさんにすっごく似合ってたもん!」


由衣も修也に同調して大きく頷く。


「でもー……やっぱりそうなると私にはそういう水着似合わないかもー……おねーさんみたいにおっぱいおっきくないしー……」


だがすぐに力無く項垂れてしまう。


「大丈夫だよ由衣ちゃんっ! そういう需要も世の中にはあるからっ!」

「いやなんつーことを教えてるんですか」

「ほえ?」

「あ、あはは……」


とんでもないことを言いだした由紀に、修也は突っ込み由衣は首を傾げ蒼芽は苦笑いをするのであった。



「…………よしっ、1位取れた」

「うわー! おにーさんすごーい! 圧倒的だよー!」


あれから修也も風呂に入りリビングに戻ってきたら、由衣に今度はテレビゲームをしようと誘われた。

特に断る理由もないので、蒼芽も含めた3人でレースゲームをやることにした。

そして一通りレースが終わって画面に表示された結果を見て由衣が歓声を上げる。


「修也さんゲームも上手なんですね。私も由衣ちゃんとちょくちょくやってましたけど全く歯が立ちませんでしたよ」

「引っ越し前に結構やり込んでたからなぁ。ひたすらタイムアタックとかでテクニックを磨いたりしたもんだよ」

「えぇっと、それは……」

「あぁ別にこれはそれなりのプレイヤーなら誰もが通る道だと思うぞ。俺以上にのめり込んでやり込んでるゲーマーなんて世界中にいる」

「だったら良いんですけど……」


またしても修也の灰色エピソードを掘り返したのではないかと危惧した蒼芽に対して修也は軽く笑って返す。


(まぁそのテクニックを他人に披露したのは今日が初めてなんだが……それは言わなくて良いか)


引っ越してくる前の修也には当然一緒にゲームで遊ぶような友達はいなかった。

なのでいかに上手くなろうともそれを見せる相手が今までいなかったのだ。

だが由衣の手前でもあるしわざわざ蒼芽の気を揉ませるようなことを言う必要はない。


「ねーねーおにーさん、どうしておにーさんの車は曲がる時にピンク色の光が出るのー? 私のはどれだけ頑張っても黄色にしかならないのにー」

「由衣ちゃんコースガイドを使ってるだろ。あれ使うとコースアウトしなくなる代わりに黄色までしか出せないんだよ」

「へー、そーなんだー」


修也の言葉に由衣はしきりに頷く。


「でも使わなかったら自分でハンドル操作しないとコースアウトしてしまいますよね?」

「いやまぁそれが普通なんだがな……」


由衣と同じくコースガイドを使っていた蒼芽の疑問に修也はやや呆れながら答える。


「そうだよねぇ、ガイド機能やアシスト機能は便利だけどそれに頼りきりになると本人の技術向上には繋がらないんだよねっ。あくまでもガイドはガイドと割り切って自分自身のスキルを磨かないとダメだよ由衣ちゃん蒼芽ちゃんっ」

「……いやそんな大仰な話じゃないと思うんですが……」


修也に追随するように言葉を重ねてきた由紀だが、修也としてはそこまで大層な話はしていない。

ただ搭載されている機能の利点と欠点を言っただけだ。


「ところでおにーさん、格闘ゲームとかはやったことあるー?」

「え? まぁ少しくらいなら」

「おにーさんならすっごく上手そうだよねー! 実際にすごく強いしー」

「いや……リアルとゲームは違うぞ由衣ちゃん。流石に画面内のキャラの動きの先読みとかはできないし」


いくら修也でもそれは無理だ。

できてもせいぜいプレイヤーの癖を読んで対応するくらいがいいところである。


「そうだよ由衣ちゃん、ゲームとリアルは違うんだよっ。VRの経験と実際の経験は違う。疑似体験ばかりだと現実感覚が希薄になっちゃうんだよっ!」

「いやそういう重い話でもないんですが……」


またしても修也に同調しようとする由紀だが、何か話がずれてる気がしてならない修也。

そもそも修也はVRの話なんてしていない。


「でも現実ではまず体験できないことができるからそれはそれで面白いんだけどねっ!」

「あ、VRで思い出しましたけど今度アミューズメントパークにVRを使った新しいアトラクションができるみたいですよ」

「へぇー、何だか面白そうだねー」


VR繋がりで出してきた蒼芽の話に由衣が興味を持ち食いついてくる。


「ねーねーおにーさん、それができたらまた遊びに行ってみようよー」

「そうだなぁ、俺もなんか興味湧いてきた……ただなぁ」

「どうしたんですか修也さん?」


由衣の提案に興味はありつつも微妙に乗り気でない修也の態度を見て蒼芽は疑問が湧く。


「いや……俺があそこ行ったらほぼ確実にオーナーがやってくるだろ?」

「あ、あぁー……」


修也の懸念に思い当たることがあった蒼芽は引きつった笑みを浮かべる。

あの暴走トラック事件以降、修也がアミューズメントパークに行くと必ずオーナーがやってくる。

華穂や美穂の話からするに、オーナーはそういうことを普通にやってのける性格らしいので、今後も修也が行くたびに顔を出してくる可能性は十分ある。


「オーナーの理念を聞いた以上無下にはできないけど……でもやっぱ心苦しいんだよなぁ」

「でもだからって修也さんが遠慮する必要は無いと思いますよ? オーナーがやりたくてやってるわけですし」

「そーだよおにーさん! だからまた一緒に遊びに行こうよー!」

「……うん、そうだな」


蒼芽に諭され由衣に促され、修也は気を持ち直して頷く。


「それにまたプールにも行きたいしー。今度は新しい水着で行くよー!」

「そっか。由衣ちゃんが気に入る水着があると良いな」

「うんっ! おにーさんも一緒に探してねー?」

「…………え?」


そこまでは和やかに話が進んでいたのだが、由衣の言葉に修也の表情が固まった。


「……え、俺も一緒に行くの?」

「もちろんだよー! おにーさんとおねーさんも一緒だよー」

「…………また俺にあの魔境へ赴けと言うのか……」


修也的にはあの女性用水着売り場の空気は非常にいたたまれない。

特に試着室前で1人で待つあの時間は想像するのも恐ろしい。

先日蒼芽の水着を買った時も修也はそれを避けるためにあえて時間をずらしたくらいだ。


「だ、大丈夫ですよ修也さん。今回は私は何も買いませんからずっとそばにいられますよ」

「……それならまだマシか……ありがとうな蒼芽ちゃん」


ただ今回は前回と事情が違う。

蒼芽と一緒ならそこまで辛いことにはならないだろう。


「さっ、そういうことなら今日はもう寝て明日に備えないとねっ!」

「え、明日行くんですか!?」

「こういうのは早い方が良いんだよおにーさんっ!」

「まぁ明日はお休みですし特に何も予定はないから良いと思いますよ」

「それは……確かに」


急な予定に驚きはしたものの確かに蒼芽の言う通りだ。

それにもう結構遅い時間になっていたので、修也たちはゲームを片付ける。


「それじゃあおやすみなさいおかーさん」

「おやすみなさい」

「すみません、先に失礼させていただきます」

「はーいおやすみ」


そしてリビングを後にして、由衣を先頭にして階段を上る。


「ここが私の部屋だよーおにーさん!」


そう言って由衣はひとつの部屋のドアを開ける。

部屋の中は綺麗に片付けられ、家具にはぬいぐるみが置かれていたりレースがかけられていたりなど、それなりに可愛らしく飾り付けられていた。

しかし修也はそれよりも部屋の真ん中に二つ並べて敷かれている布団が気になった。


「…………由衣ちゃん、これは……」

「ひとつのお布団だったら狭いっておねーさんが言ってたでしょー? だったら二つ並べれば良いんだって閃いたんだよー!」

「…………蒼芽ちゃん……」


名案だと言わんばかりに自慢げに語る由衣を横目に、修也は蒼芽に視線を送る。


「あ、あははは……これは私もちょっと想定していなかったと言いますか……」


修也の視線を受け、蒼芽は困ったような顔をしながら乾いた笑い声をあげる。


「場所はおにーさんが真ん中でー、おねーさんが右側で私が左側ねー」

「配置まで決まってんのか」

「あっ、私とおねーさんは逆でも良いよー?」

「いや大して変わんねぇ」

「あ、あはは……」


由衣はどうしても3人並んで寝たいらしい。

その確固たる意志を垣間見た気がする修也はもう言及することを放棄した。

修也はちょうど二つ並べられた布団の境目に横になる。

するとすぐに由衣が修也の左側に並ぶように寝ころんだ。


「それじゃあ電気消しますね」


そう言って蒼芽は部屋の照明のスイッチに手を伸ばす。

メインの照明が消え、部屋の中は豆電球の明かりだけになった。

ほぼ間を置かずに修也の右側に寄り添うような形で蒼芽も横になる。


「それじゃあおやすみなさいおにーさんおねーさん…………すー……」


そう言うのとほぼ同時に由衣から寝息が聞こえだした。


「え、早っ!? 由衣ちゃんもう寝たのか?」

「あはは……由衣ちゃん物凄く寝つきが良いですから」

「『寝つきが良い』で片づけて良いレベルじゃない気がするが……」

「何はともあれ……今日はお疲れさまでした修也さん」

「楽しかったのは間違いないんだが……よその家ってのはどうしても気を遣うな。久しぶりに気疲れしたよ」


そう言って布団の中で伸びをする修也。


「…………ふふっ」


その言葉を聞いた蒼芽から笑い声が漏れ出る。


「……? どうした蒼芽ちゃん。俺何かおかしなこと言ったか?」

「ああいえ、よそのお宅で気を遣って気疲れしたのが久しぶり……ということは、修也さんはうちのことを『よその家』と思わなくなったんだなって思いまして」

「あ、確かに……」


蒼芽に指摘されて気付いた。

修也はいつの間にか舞原家を『よその家』とは思わなくなっていた。


「……それだけ今の生活に馴染めたってことなのかな」

「だったら良かったです。修也さんの負担になってしまうのは私もお母さんも本意ではありませんから」

「それで俺に気を遣って2人の負担になってしまったら本末転倒だからな?」

「大丈夫ですよ。前にも何度も言った通り私が好きでやってることですから。むしろ修也さんのお世話ができない方が私には負担です」

「えぇ……そこまで……?」


そうきっぱりと言い切る蒼芽にやや呆れた口調で返す修也。


「まぁ……負担になってないって言うなら良いけど……程々にな。何でもかんでも世話になってたら俺がダメ人間になる」

「えー良いじゃないですかぁ。ダメ人間になってしまいましょうよぅ」

「こらこら」


冗談めかした口調で言う蒼芽に合わせて修也も軽口で返す。


「さて、そろそろ私たちも寝ましょうか」

「そうだな。明日も全力で遊び尽くすことになりそうだしな」

「ふふ、そうですね。それじゃあおやすみなさい修也さん」

「ああ、お休み蒼芽ちゃん」


そう言って修也は目を閉じる。

両サイドに可愛い女の子が寝ていて眠れるのかという懸念もあったが、自分で言った通り大分気疲れしていたからかすぐに眠気がやってきた。

その眠気に逆らわず、そのまま修也は眠りに落ちていくのであった。

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