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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第6章

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第6章 第4話

「ありがとね土神君。色々と面白い話が聞けたよ」

「いえ、俺も少し考えを纏められましたので」


ファミレスを出て行く先が別になったところで修也と瀬里はお互いそう声を掛け合う。


「個人的にもなかなか興味深い事態になってるからねぇ、報酬抜きで調べてみるよ。また何か分かったら連絡するよ」

「お願いします」

「だから土神君も何か情報が掴めたり困ったことがあれば遠慮なく連絡してきてね」

「分かりました」

「あ、もしホントに舞原さんと一線越えた場合も」

「それは断固拒否します」


にやけながら言う瀬里に修也はかぶせ気味に切って捨てる。


「えぇー……こんな殺伐とした世の中なんだからさぁー、そう言うゴシップネタが100や200はあっても良いでしょー」

「それはあり過ぎです。世の中はそこまで暇じゃありませんよ」


不服そうに呟く瀬里を冷めた目で見る修也。


「でもさ、真面目な話君はまだまだ若いのに色々背負い込み過ぎだよ。全部自分で解決しようとしなくても良いんだよ? 私はもちろん、陽菜や優実みたいな大人に頼るのは全然間違ってないんだから」

「それは……」


諭すような瀬里の台詞に修也は言葉が詰まる。

優実は性格と職業どちらを取っても非常に頼りになる。

陽菜も何だかんだ言って教師としては優秀なのでメンタル面では世話になることもある。

瀬里にしたって職業柄情報収集能力は信用に値するものだ。

ここは引っ越し前の町とは違う。

瀬里たち以外にも頼れる人はたくさんいる。


「人ってのはお互い支え合って生きるものさ。君は性格的にも能力的にも人を支えることが多くなるのは仕方ない。でも君だって誰かに支えてもらったって良いでしょ」

「高代さん……」

「……なんてね、私らしくない台詞だったかな。どっちかっつーと陽菜の領分だね」


そう言って苦笑する瀬里。


「という訳で頼んだよ土神君! 私に正真正銘ゴシップ記者と名乗らせてくれ! パパラッチとして生きさせておくれよおおおぉぉぉ!」

「何つーことを頼んでんですか全力で。しかも話が繋がってませんよ」


さっきまで瀬里は修也も誰かに支えてもらっても良いという話をしていた。

なのに今のソウルフルな叫びは修也に支えてもらおうという魂胆丸出しである。


「まぁそこは適材適所ってやつだよ。私には君みたいに誰かを守る身体能力も体術も超能力も無い。でも情報戦なら任せてくれたまえよ!」


そう言って自分の胸を叩く瀬里。


「ああやっぱり高代さんも知ったんですね、俺に普通とは違う力があることを」

「まーね。でも言っちゃあなんだけどただ超能力があるってだけじゃつまらないんだよ。その力でスカートめくりしたり女湯覗いたりしてるなら話が変わってくるけど」

「何と言う能力の無駄遣い……考えることが小学生男子じゃないですか」

「何をー!? 普通とは違う力を手に入れたらやってみたいことベスト3に入ることでしょうがー!」

「全世界のまともな超能力者に謝ってもらえませんかねぇ……どれだけいるか知らないけど」


やはり最後に何かしらオチを付けないと気が済まないのか。

大真面目に変な主張をする瀬里に対してそう思わずにはいられない修也であった。


「でもさ土神君。そう言う方向に向いてるうちはまだ可愛いもんだよ」

「どっちも一応軽犯罪だと思うんですけど」

「ちっちっち、甘いね土神君。どっちも『軽』の付かない立派な犯罪さ! 迷惑防止条例違反や場合によっては暴行罪が適用されるね」

「余計ダメじゃないですか」


何故か得意気に指を振りながら解説する瀬里に半眼で突っ込む修也。


「でも……覗きはまぁ分かるけどスカートめくりもれっきとした犯罪なんですね。小学生の悪戯みたいなイメージありましたけど」

「あぁうん、小学生がやるなら刑事的な罪は無いよ。でもたとえ小学生がやるにしても違法であることに変わりは無いからね? 注意するんだよ?」

「何に注意しろってんですか。俺もう高校生ですよ?」


真剣な目で語りかけてくる瀬里に対して修也は呆れた声で応える。


「え? 可愛い女の子が短いスカート履いてたらめくりたくならない?」

「なりませんよ」

「舞原さんとか割と短めじゃん? めくってみたいって欲望と格闘する日々を送ったりしてない?」

「してませんってば」

「後、風とかでスカートがめくれてたまたまパンツが見えて役得! みたいな経験は無い?」

「あ、それはまぁ第三者の経験談として聞いたことくらいならありますが。あとはラブコメ系の話の定番ではありますね」

「あれもね、不可抗力で見えちゃったけどすぐ目を逸らした……ならセーフだけど、その後ガン見し続けたり写真に撮ったりしたらアウトだからね?」

「そりゃそうでしょうよ」

「あとスカートの下がダイレクトにパンツじゃなくてブルマとか短パンとかスパッツでも法に引っかかる場合があるんだよね」

「スカートの下が何であれ『めくる』という行為に問題があるという訳ですか」

「まぁそういうことだね」


修也の言うことに同意はしているが納得いかないと言いたげな表情をする瀬里。


「……なんか不服そうですね?」

「そりゃあね。実際めくるまではスカートの下がパンツなのかブルマなのか短パンなのかスパッツなのかはたまた全く別の何かなのか分からない、全ての可能性の重ね合わせ……まさにシュレディンガーの猫状態! それなのに法的にはどれでもアウトなのは理不尽だと思わないかい!?」

「こんな話の引き合いに出されたシュレディンガーが理不尽だと思います」

「ちなみに女同士だったりとか自分でめくって見せつけるのもダメなんだって。要は相手が不快に思うかどうかが大事なんだよ」

「何でそんなやたらと詳しいんですか」


まだまだ解説を入れてくる瀬里に疑問を呈する修也。


「そりゃーもちろん私が警察に御用にならないようにする為に調べたからさ! ボーダーラインを知っておくのは大事だよ。どこまでならやっても大丈夫か分かるからね!!」

「おいぃ!?」

「土神君もどこまでならやっても良いか覚えておくと良いよ! いつかきっと役に立つ日が来るよ」

「そんな日なんて来てほしくない!」


おかしなことを言い出した瀬里に対して段々修也の口調が荒くなってくる。


「いやこれは割と真面目な話だよ。自己防衛の為にそういう知識を持っておいて損は無いからね」

「あ、確かに……」


近年はそれを逆手に取った恐喝などもあるという話は修也も聞いたことがある。

そういう場合の男の立場は物凄く弱い。

用心するに越したことは無いという瀬里の言葉は間違ってない。


「話が逸れたね。とにかく、そんな方に向いてるうちはまだ良いけどこれが傷害とか殺人とかになったらもう完全に笑い事では済まないってことだよ」

「……そうですね。覗きやスカートめくりも犯罪ですけど、それらに比べたらまだマシなのか……」


そうなると前の町での修也の境遇もあながち周りが全部悪いとは言えないかもしれない。

絡まれていたクラスメイトを助ける為だったとは言え、修也がやったことは一言で言えば他人への暴行だ。

いつそれが自分の方に向いてくるか分からない。

そんないつ爆発するか分からない爆弾みたいなやつとは距離を置きたくなるというのも分かる。

むしろそれが分かっても今までと変わらない付き合いをしてくれる今の周りの人たちの方が特殊なのかもしれない。


「特に蒼芽ちゃんは何度も目の当たりにしてるのにあのリアクションだもんな……」


多数を相手にしても修也が一方的に相手をなぎ倒した光景を見ても、その時の修也の顔を写メに収めてはしゃいでいたくらいだ。

よほど修也を信頼していないと出来ない芸当である。


「あっ! だったらさ、舞原さんにならスカートめくりしてもお風呂覗いても許されるんじゃない!?」

「何が『だったら』なんですか。名案みたいに言わないでくださいよ」


何故か瞳を輝かせる瀬里にげんなりする修也。


「あははー、冗談だよ冗談! ……でもさ、土神君が頼んだらめくらせてくれそうじゃない?」

「トーンが冗談じゃないんですが。俺を社会的に殺したいんですか高代さんは」


修也は顔は笑いつつも目が真剣な瀬里に苦言を呈する。


「実際にめくれって言ってるんじゃないよ。めくっても許してくれそうって話さ」

「いや……いくら何でもそれはないでしょ……多分」


瀬里の言葉に歯切れ悪く返す修也。

実際修也ももしかしたら蒼芽なら悪ノリしてきてもおかしくないと思ったからだ。


「まぁ話を纏めると、スカートをめくりたくなるのは本能だよってことさ」

「全然違う!」

「でもさ、君も男なら本屋やビデオ屋でアダルトコーナーの暖簾をめくりたくなったことが1度や2度はあるでしょ?」

「……? そんなコーナーのある本屋を見たことが無いし、そもそもビデオ屋って……?」

「……うわー、これがジェネレーションギャップってやつか……」


真顔で問い返す修也を見て素で渋い顔をする瀬里。


「それじゃアレか。橋の下とかに捨てられて雨でグシャグシャになったアダルト雑誌に夢中になってる少年とかは最早伝説の存在なのかー……」

「すみません、ちょっと何言ってるか分かりません」

「そうだよね、時代はデジタルだもんねぇ……そういう文化も廃れてしまうものなのかー……諸行無常とはよく言ったものだよ」


そう呟きながら瀬里は何かを悟ったかのような表情で何度も頷く。


「じゃあ現代風に言い換えると、WEBサイトで出てくる『あなたは18歳以上ですか?』って警告ダイアログに、18歳未満なのに『はい』って答える男子がいるよねってこと」

「わ、分かるような分からんような……」

「人間の原動力は大体欲望で、さらに言うならエロい方向の欲望なんだよ。ホントそういう所で人間の底力を見せつけられるよねぇ……」

「いや何の話ですか。どんな能力も使い方次第で善にも悪にもなる……そう言う話だったと思うんですが」


修也の『力』についての話だったはずなのにいつの間にかスカートめくりの話になってしまっていた。

このまま話を続けるのは修也的には非常にいたたまれないので軌道修正を試みる。


「あぁそうだった。それじゃあスカートめくりの話はこの辺にして、次は女湯覗きの話に」

「だから違うっつってんだろうが!!」


だがまたしても話の軸をずらそうとする瀬里に再び口調が荒くなってしまう修也。


「えー、でも聞きたくない? 女湯での裏話とか」

「何かテンプレ的なイメージよりドロドロしてそうなので聞きたくないです」


女性だけの世界と言うと普通なら華やかなものをイメージしそうだが、以前紅音から女子校では女性しかいなくて男の目が無いと色々だらしなくなるという話を聞いている修也としてはそこまで興味は持てない。


「それじゃあ覗いてみるまでは女湯に人がいるかどうかは分からない、覗いてみて初めて分かる可能性の重ね合わせについて……」

「シュレディンガーの猫はもう良いですって」

「それにさ、さっきも似たようなこと言ったけどそんな殺伐とした話ばっかりだと疲れちゃうよ? こういうバカみたいな話も時には必要だよ」

「バカという自覚はあったんですね」

「バカなものをバカだと笑えるようになってこそ一人前の大人ってもんさ!」


修也の棘のある言葉も笑って受け流す瀬里。


「土神君、君はまだ学生なんだ。学生は学生らしいことで笑って悩んで騒げばいいんだよ」

「……それさっきも言われました。確かに今俺が置かれてる状況はとても普通の学生とは言えませんが……」


『力』のことは別にするとしても、スケルスのような得体の知れない人物に目を付けられるとか明らかに普通ではない。

修也は普通の学生生活を送りたいのに、どんどん普通から遠ざかってしまっている。


「だからさ、私としてはこんなことさっさと片付けて学生らしい生活を送ってほしいわけさ」

「高代さん……」

「そして私を正真正銘のゴシップライターにさせておくれよおおおおぉぉぉぉ!!」

「話巻き戻ってんじゃないですか」


いい話っぽかったのに結局最後で台無しになる。

いつものパターンに修也はため息を禁じ得ない。


「で、結局何だっけ? 舞原さんのスカートの中が何かめくってみてレポートするって話だったっけ?」

「全然違いますよ。ここ最近起きた事件とスケルスの関連性についての話でしょうが」

「あぁそうだったね。じゃあ調べてみるから土神君もレポートよろしくね」

「やりませんってば」


くるりと回り背を向けながらそんなことを言う瀬里に修也は半眼で返す。


「あ、そうだ大事なこと言うの忘れてた」


少し歩いたところで何かを思い出したのか、瀬里は足を止めて再び修也の方を振り返る。


「何ですか?」

「普通とは違う力を手に入れたらやってみたいことベスト3の残り1つは『給食で出てくるプリンを自分だけ増やす』だからね!」

「心底どうでも良い上にそれだけ食欲なんですか。ますます小学生じゃないですか」


瀬里の言葉にがっくりと肩を落とす修也。


「あははは! まぁ超能力に対する世間の認識なんてそんなもんだよ。だから土神君もそんな気負い込みすぎないようにねー!」


そう言って瀬里は今度こそ去って行った。


「……ファミレスの中の時と言い、あれが高代さんなりの激励なんだろうけど……」


瀬里と話したことでスケルスのことで悩みふさぎ込んでいた心が軽くなったのは間違いない。

ただ別の疲労感がのしかかってきた気がしてならない修也であった。

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