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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第5章

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第5章 第34話

それからしばらくして、修也たちを乗せたマイクロバスはアミューズメントパークの駐車場に着いた。

そして修也のフリーパスで全員入場することができたのだが……


「ふふ、また会ったね」

「失礼を承知で言いますけど……オーナー業って暇なんですか?」


またしてもスタッフルームに通された修也は、目の前で楽しそうに笑うオーナーを見て呆れ気味に呟く。


「そうなんだよ部下が優秀だと案外やることが無いんだよねぇ。僕がやることと言ったら最終決定くらいなんだよ」

「だからって俺の行く先々に現れなくても……」

「それだけ君に感謝してるってことだよ。僕がやりたくてやってることだから変に気負う必要は無いよ」


そう言って朗らかに笑うオーナー。


「それにしても土神君……何か良いことでもあったのかい? 表情がさっきよりもスッキリしてるよ」

「えっ?」


オーナーにそう言われ修也は少しドキリとする。


「こう見えても人を見る目は確かなつもりさ。何と言うかねぇ……憑き物が落ちたというか憂い事が解消されたというか……そんな顔だよ」

「そう…………ですね、大体そんな感じです」


今まで蒼芽と紅音以外には秘密を貫き通してきた『力』のことを皆に明かした。

それでもここにいる面子は誰も修也への態度を一切変えなかった。

まさにオーナーの言う通り憂い事が一部解消されたことが原因なのだろう。


「ふむふむ、何があったかは知らないけど良い方に向かっているなら良かった。やっぱり明るく笑ってた方が人生は楽しいよ」

「そーだよーおにーさん。いつもにこにこ笑ってると楽しい気持ちになれるんだよー!」


オーナーの言葉に同調して由衣が話しかけてくる。


「由衣ちゃんがいつも笑顔なのはそういうことなのか」

「うんっ! 私が笑ってたらおねーさんとかありちゃんも笑ってくれるもん! それでまた私も楽しい気持ちになれるからー!」

「ふふ、素敵な考え方ですね、由衣さん」


由衣の言葉を聞いた美穂が柔らかく笑う。


「それにここはアミューズメントパークだ。人々を心の底から楽しませたい……そういう思いで僕はここを建てた。それを粉々に破壊しようとした輩から君は守ってくれたんだ。そんな君が来てくれたのなら僕はいつでも顔を出しにやってくるよ。それが僕にできる最大限の礼儀だ」

「…………」


オーナーの表情は優しいが確固たる意志を持った目をしている。

修也に恩を感じていることに嘘偽りは全く無いようだ。


「という訳でこれを受け取ってくれるかい?」


そう言ってオーナーはチケットを取り出し修也に差し出す。


「……何ですかこれ? また前みたいな会計無料券は流石に……」


今回は前のプールの時とは違い15人もいる。

それに加えて食事量が普通の数倍もある戒と美穂がいるのだ。

フリーパスで入場料が無料になっているうえにさらに食事まで無料になるというのはいくら何でも申し訳ない。


「大丈夫大丈夫、今回はホットスナックもしくはジュースの引換券さ。1人1回1品に使えるものだよ」

「あ、まぁそれくらいなら……」


その程度であればたとえこの人数であってもそこまで負担にはならないだろう。

それにオーナーの心意気を聞いたこともあり、修也はそれ以上何も言わずチケットを受け取ることにしたのであった。



「さて、ここからは各自自由行動だ」


人数分の引換券を受け取り入場した修也は振り返り言う。


「さっきもそれ言ってましたけど……本当に良いんですか? 土神先輩のおかげで無料で入れたのに……」


それを聞いた陣野君が申し訳なさそうに尋ねてくる。


「こんな大人数でぞろぞろ動いても窮屈なだけだろ。それに陣野君、君も佐々木さんと2人で回りたいんじゃないか?」

「えっ? あ、えぇと…………それはまぁ……」


逆に修也に問い返され、しどろもどろになる陣野君。


「それに言い方はアレだがついでみたいなもんだし入場料のことは気にしなくて良い。ただ、帰る時間……そうだなぁ、5時にしとくか。それまでにまたここに戻ってきてくれ」

「は、はいっ! じゃあ行こうか佐々木さん」

「うんっ! それでは皆さん、行ってきます」


そう言って陣野君と佐々木さんは2人で奥に進んでいった。


「そういうことなら彰彦、私たちも行くわよ」


それを見た後間を置かずして彰彦の腕を掴む爽香。


「……一応聞くけど、どこに?」

「今更その説明がいるかしら?」


そう言う爽香の目線の先には……最恐ジェットコースターがあった。


「あぁうん分かってたさ。もしかしたら奇跡が起きてもしかするかもなー……なんて思ってたけど」

「そう簡単に起きないから奇跡って言うのよ」


そう言って彰彦を引っ張って足を進める爽香。


「じゃあ皆、また後でなー……」


彰彦は引きずられたまま修也たちに手を振る。

その姿に何だか哀愁が漂っている気がしたのは修也の気のせいだろうか。


「それでは土神さん、私たちも別行動にさせていただいてもよろしいでしょうか?」


彰彦たちを見送った後、美穂が修也にそう申し出てきた。


「はいどうぞ。さっきも言いましたけど5時にまたここに戻ってきてくださいね」

「分かりました。それでは戒さん、参りましょうか」


そう言って戒の手を優しく取る美穂。


「……えぇっ!? お、俺ですか!?」


そのことに戒は驚きの声をあげる。


「当たり前だろ、お前以外の誰がいるんだよ」

「いや、姫本先輩と姉妹でとか……」

「この流れでそれは不自然すぎるだろうが」


陣野君と佐々木さん、彰彦と爽香と続けば塔次の言う通り戒と美穂のペアとなるのが自然である。


「で、でもこんなあからさまなデートスポットで何すれば良いかなんて俺には……」


急に降って湧いた事態に慌てふためく戒。


「それでは戒さん、まずはフードコートに向かいましょうか」

「えぇ行きましょう!」


しかし美穂の言葉で一気に正気に戻り、2人仲良くフードコートのある場所へ向かっていった。


「……霧生の扱い上手いなぁ美穂さん」

「単に自分も食べたいんだと思うよ。もちろん2人で回りたいっていうのもあるだろうけど」


2人の後姿を見て感心しながら呟く修也に華穂が耳打ちする。


「……そ、それなら氷室先輩! ここには確かゲームセンターもありましたよね? そこのクイズゲームで勝負です!」


そこに唐突に亜理紗が塔次にクイズ勝負を挑んだ。


「何が『それなら』なんだよ……脈絡が無さすぎる」

「まぁそう言ってやるな土神。長谷川も散々俺にコテンパンにされて以来ずっとリベンジの機会を窺っていたのだろう。良いだろう、その挑戦受けてやる。ただ向かってくる以上は一切の容赦はせんぞ」

「望む所です!」


そう言ってゲームセンターのコーナーへ足を進める塔次と亜理紗。

心なしか亜理紗の足取りが弾んでいるように修也は見えた。


「なーなーゆーちゃん! あたしたちも遊びに行こうぜー!」


続いて千沙が由衣にそう声をかける。


「半日で行ける所は限られてるけど、だからこそ目一杯遊ばないとなー!」

「うん、そーだねー! ねーねーおにーさんおねーさん、ちーちゃんと遊びに行って来て良いー?」

「うん、良いよ由衣ちゃん、行ってらっしゃい」

「ちゃんと約束の時間には戻ってくるんだぞ」

「千沙もな。まぁ千沙は時間は守る方だから心配ないだろうが」

「はーい!」

「じゃあ行ってくるぜー!」


そう言って由衣と千沙も駆け出して行った。

この場に残ったのは修也と蒼芽と詩歌と華穂、そして瑞音だ。


「それじゃあこの残りものたちで巡るか」

「あはは、そうですね」


冗談めかした口調の修也に合わせて蒼芽も笑いながら答える。


「それじゃあどこに行く? 誰か希望はある?」

「わ、私は……絶叫系はちょっと……」


意見を募る華穂に詩歌が細い声で応える。


「オッケー! じゃあ詩歌ちゃんも楽しめるマイルドなものを探しに行こう!」


そう言って華穂が先陣を切って歩き出す。


(んー……それにしても……)


華穂について歩きながら修也は考える。

今このグループは男は修也1人なのに対し、女の子が4人いる。

こういうテーマパークで男女比に偏りがあり尚且つ女性陣が美少女ばかりだと、嫉妬と怨念の視線に晒されてもおかしくない。

もしくは以前のプールの時みたいにチャラい男たちが絡んでくる可能性も十分考えられる。

しかし視線自体はちらほら感じるが、そこまで不自然なものではない。

それに品の無い輩どもが絡んでくる気配も無い。

それはそれで結構なのだがここまで来ると逆に違和感を覚える。


「修也さん? どうしたんです?」


修也が周りのことを気にしている様子を不思議に思った蒼芽が尋ねてくる。


「…………いや何でもない。行こ行こ」


何も無いに越したことは無い。

修也は違和感を振り払い少し開いた華穂との距離を詰める為、少し歩く速度を速めるのであった。




「…………ねぇねぇ、あれってさ……」

「うん、そうだよ間違いないよ」


そんな修也たちを遠くから見ているグループがあった。


「やっぱり? うわぁこんな所で土神さんのお姿を見れるなんて超ラッキーじゃん!」

「はぁ……いつ見ても凛々しい……何とかお近づきになりたいけど……」

「無理よ、アタシらみたいな特筆することも無い普通の人生送ってるモブにとっては同じ町に住んでいるってだけでも十分幸せなことなんだから!」

「だよねー。あー、あの一緒にいる子たちが羨ましいわホント……」


たまたま女同士で遊びに来ていた修也たちと同じ高校の生徒たちだった。

他にもそういうグループがいるらしく、皆揃って修也ではなく一緒にいる蒼芽たちに羨望の眼差しを向けている。


「おっ、あそこに可愛い子がいっぱいいるじゃん」

「でも男は1人だけ? じゃあ分けてもらっちゃおうぜ。独り占めとかズルいっしょ!」


そんなことを言い合う不埒な輩もいたのだが……


「……ひっ!?」

「な、何だ!? 寒気が……」


近寄ろうとしたところで強烈な悪寒に襲われる男たち。

見回すとスタッフの制服を着たいかつい男たちに鬼のような形相であちこちから睨まれていた。


「や、やっぱそんなことやめとこうぜ!」

「そ、そうだな! それよりアトラクションを楽しむか!!」


それにビビった男たちはそう言ってそそくさとその場を後にする。


(……土神さん、ふてぇ野郎どもは排除しました。お友達との楽しい時間をごゆっくりと堪能してください!)


男たちの姿が見えなくなると、いかついスタッフ……ボランティアに来ていた猪瀬の元部下たちは最敬礼で修也たちを見送る。

……とまぁ実はそんなエピソードがあったのだが、自分に向けられた悪意の視線でないとそこまで敏感には察知できない修也が気づくことは無かったのである。



「……おっ、戻ってきた。最初は陣野君たちか」


5時前になり集合場所で待っていた修也たちの元に陣野君と佐々木さんが戻ってきた。


「すみません、お待たせしました!」

「いや大丈夫。まだ約束の時間に余裕はあるし、君らが一番乗りだ」

「よ、良かったぁ……」


修也の言葉にホッと胸を撫で下ろす佐々木さん。


「おにーーさーん!!」

「ぐぼぉっ!!?」


そこに真横から衝撃が走る。

どうやら二番手は由衣たちのようだ。


「いやー楽しかった! 目につく乗り物に片っ端から乗ってっちゃったぜー!」

「そーだねー、楽しかったねちーちゃん!」

「おうよ! でもまだ全制覇はできてないからまた来ようぜー!」


そう言って興奮冷め止まぬ様子で笑い合う由衣と千沙。


「ただいま戻りました。どの出店も非常に美味しいものばかりでした」

「いやぁ充実してましたね!」


続いて美穂と戒も戻ってきた。


「……まさかずっとフードコートにいたんですか?」

「いえ、少しはアトラクションも楽しませていただきました」

「……まぁ楽しみ方は人それぞれですよね」


この2人の場合はそっちの方が楽しめるのだろうと修也は自分を納得させる。


「あら、皆もう戻ってきたのね」

「ふむ、俺たちが最後か」


最後にやって来たのは爽香たちと塔次たちだ。


「…………なぁ、仁敷と長谷川は何でそんなぐったりしてるんだ?」


それぞれの相方である彰彦と亜理紗に生気が感じられないことに修也は疑問を持つ。


「ずっとあのジェットコースターに乗り続けたからかしら?」

「対戦型のクイズゲームで容赦なくねじ伏せたことが原因かもしれんな」

「……加減しろよ……」


しれっと言ってのける2人に呆れる修也。

何はともあれ全員揃ったので帰るためにアミューズメントパークを後にする。


「…………ん?」


そして駐車場に向かう途中、修也の視界に気になる光景が入ってきた。

一般的にここみたいな場所は誰もが楽しい気持ちになるものだ。

場外に出ても余韻が残るのか、全体的にほんわかした空気になる。

……なのに、とある1か所だけはそんな空気を一切感じさせない。

薄汚れた泥を塗りたくった……そんな淀みのような空気が溜まっている。

そしてその中心にいる人はフードを目深に被っているせいで顔は確認できない。

しかし何やらただならぬ雰囲気を感じる。


「……やぁ、会えて嬉しいよ」


自分には関係の無い人だと思いスルーしようとした修也だが、向こうから話しかけてきたので足を止める。

周りには修也たち以外誰もいない。

なので他の人に声をかけたという訳ではないだろう。


「えぇと……誰? 俺の記憶が正しければ初対面だと思うけど」

「そうだね、顔を合わせるのはこれが初めてだ」

「じゃあホントに誰? ただのファンってわけじゃなさそうだけど」


目の前の男の言葉に怪訝そうな表情をする爽香。


「僕はただのしがない活動家さ。でも君のファンってのもあながち間違いじゃないかもね」

「活動家……?」

「そう。世界を自分の思う通りに変えることを目指す活動家だよ」

「っ! その言葉……」


由衣の誘拐事件の時にも出た言葉を聞いて修也は目の前の男に対する警戒度を一気に上げる。


「まぁまぁそう構えないでくれよ。今日はただ挨拶に来ただけなんだから」

「挨拶?」

「そう、僕の目標への道に立ちふさがる君に敬意を表して、ね」


そう言う男の口元は笑っているが、何か言い様の無い不気味さを感じさせる。


「それじゃあ自己紹介だ。僕の名前は……スケルス。今はそう名乗っているよ」

「……ほぅ?」


目の前の男……スケルスの名乗りを聞いて塔次が目を細める。


「中々洒落た名前を名乗るではないか。意味を分かった上でそう名乗っているのだろう?」

「当然さ。それにしても、この名前の意味が分かる人がいたとはねぇ」


塔次の問いかけにスケルスはどこか嬉しそうに笑う。


「ま、用も済んだしこれで失礼させてもらうよ」


そしてそのまま音も無く立ち去って行った。


「……何だ? どういうことなんだ?」


意味が分からない修也は塔次に尋ねる。


「分からないのも無理は無かろう。我々日本人には馴染みが無い言語だからな」


修也の問いに塔次は不敵に笑いながら答える。


「スケルスとはラテン語で、意味は……」


そこで塔次は少し間を置いて……


「『悪人』だ」


そう短く告げた。

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