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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第5章

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第5章 第33話

その後誰かが通報したのか、ほぼ間を置かずして警察がやって来た。

修也は道端で伸びている男を警察に引き渡し、これで事件はひと段落ついた。

一応当事者なので事情徴収などで今後の予定が潰れてしまうと修也は思っていたのだが、あるにはあったものの軽くいくつか質問されただけであっさりと終わった。


「あの……そんなあっさり終わって良いんですか?」


と修也は尋ねてみたのだが……


「いやぁ今回はこの男が暴れただけだしそもそも被害ゼロだからね。前みたいに街路樹の1本すら被害は出ていないし」

「あ、よく見たらこの前の時の……」

「そうそう覚えててくれたかい?」


軽く笑いながら対応してくれたのは、以前のアミューズメントパークの事件の時にハンマー男を引き渡した警察官だったのだ。


「まぁ最低限の質問はさせてもらったけどそれで十分だよ。あとは現場検証……と言ってもこれも特にやること無いんだよね」

「早々に解決できてよかったです」

「こちらとしても仕事が楽で助かるよ。まぁ後で不破警部からまた連絡が来るかもしれないからその時は対応よろしくね」

「…………どうせなら七瀬さんの方が良いなぁ……」


不破警部相手だと無駄に疲れることが多い。

優実の方が段取りがスムーズなので修也としてはそちらの方が良い。

修也はそういうつもりで呟いたのだが……


「あっそうか、君七瀬さんとも面識あるんだったね。確かにどうせなら美人からの連絡の方が良いよねぇ」


この警察官はどうやら違う解釈をしたようだ。

おどけた口調で修也に語りかける。


「いえ別に美人がどうとかそういう訳じゃあ……」

「君は七瀬さんとは個人的な繋がりもあるんだよね? プライベートはどんな人なのかとか知ってる?」

「そこまで親しいという訳でも……知ってても俺が勝手に話して良いことではないかと」

「趣味とか好きなものの傾向とか、些細なことでも良いから知ってたら……」

「……何で事件の事情徴収よりもこっちの方が内容濃くなってるんですか」


矢次早に質問してくる警察官に修也はジト目で返す。


「あぁゴメンゴメン、でもほら七瀬さんって美人だろ? うちの署の男性陣の間ではアイドル的存在なんだよ」

「……そう言うものなんですかね」


一般的には同じ職場内で目を引くような容姿の持ち主がいれば注目の的にもなるのだろう。

しかし修也にはその感覚がイマイチ分からない。

優実が美人であるということに異論は無いのではあるが、だから何なのだという感想しか湧いてこないのだ。


「まぁ分からんでもないんだけど……何でだろう、全面的に同意できないのは」

「それはアレでしょ、うちのクラスには残念美人が多いから」

「……あぁ!」


爽香に言われて納得できた。

2-Cには見た目が良くても中身が残念な人が複数いる。

そのせいで、ただ美人というだけでは色めき立つ気にはなれないのだろう。


「……後さ、常に蒼芽ちゃんみたいな可愛い子が近くにいるから感覚が鈍ってるんじゃない?」

「え? あ、んー……」


さらに華穂にそう耳打ちされて言葉に詰まる修也。

確かに蒼芽は文句なしで可愛い部類に入る女の子だ。

そんな子が常に側にいれば華穂の言う通り感覚が鈍る……のかもしれない。


「もしくは土神先輩は実は女性に対して興味が持てない人とか……」

「それだけは断じて無い」


さらに華穂の反対側から囁いてきた亜理紗には食い気味で否定する修也であった。



「……それにしても土神君にそんな力があったとはねぇ」


それからしばらくして御堂の運転するマイクロバスがやって来たので、修也たちは乗り込んでアミューズメントパークへ向かった。

中は観光バスのような座席配置ではなく、中心に向かって壁際に椅子が並べて置かれているものだった。

道すがら爽香が先程のことを思い出しながらそう呟く。


「……悪いな、あまり人に知られたくはなかったんだ。こういうのに良い顔しない人もいるし」

「まぁ気持ちは分かる。普通とは違うものを嫌がる人種も少なからずいるからな」

「うむ、それが集団心理というものだ。異質なものを排除する傾向にある者共も世の中多数存在する。無用の争いを避ける為伏せておくという土神の判断は間違っていない」


バツが悪そうに答える修也に理解を示す彰彦と塔次。


「まぁ私も進んで口外はしてこなかったからな。知ってるのは家族と千沙くらいだ」

「あたしは超能力とか憧れるけど、持ってる人にしか分からない苦労ってのもあるんだろうなー」


同じような力を持つ瑞音はもちろんのこと、千沙も修也の考えに肯定的だ。


「…………皆は、この力を見てどう思う? 気味悪いとか思ったりしないのか?」


否定的な意見が全く出てこないので、修也は意を決して聞いてみる。


「…………? すみません、質問の意図が分からないのですが」


そんな修也に対して陣野君が首を傾げて聞き返してくる。


「土神先輩が普通とは違う力をお持ちなのは分かりましたが……どうしてそれが気味悪いという感想に繋がるんでしょう?」


佐々木さんも陣野君と同じ感想を持ったようだ。


「いやさっき仁敷と氷室が言ってただろ? こういうのに対して嫌悪感を持つ人がいるって」

「いえ僕は全く思いませんが」

「私も陣野君と全く同じ意見です」


そう迷わず即答する陣野君と佐々木さん。


「その力で悪いことしてるんならともかく、土神君がやったことと言えば……」

「人助けばっかりだよねぇ」

「そうですね。土神さんは私や姉さんだけでなく、多くの人を助けてきたと聞いています。それは誇るべきことだと思いますよ」

「そーだよー! おにーさんは色んな人を助けてるんだよー!」

「は、はい……こうして私たちが生きてられるのは……先輩のおかげ、です」


他の面々も大筋では同じ意見のようだ。


「それに今更土神が積み上げてきた功績が実は普通とは違う超能力によるものだったってのが分かったところで帳消しになるわけじゃないしな」

「結果が伴っているのであれば過程や手段は大きな問題にはなるまい。以前自分で言っていたではないか、終わりよければ全てよしと」

「その力だって土神の武器のひとつってことだろ? 別にズルしたわけじゃないんだしこまっけぇこと気にすんなよ!」

「…………」


皆からそう言われ、修也は体の奥がじんわりと温かくなった気がする。


「ところでさ兄さん、その能力って何か名前あるのか?」

「え?」


唐突に千沙が話題を変えてきたことに修也は一瞬思考が止まる。


「ん-……特に考えたことは無いな。ただシンプルに『力』って俺は呼んでるけど」


『ゾルディアス流気功術』は紅音だけが言っているものなので考えないことにする。


「せっかくなんだから何かカッコいい名前付けても良いんじゃねぇかな。瑞音ちゃんも名前付けてねぇしよー……」

「いや変な名前付けてネーミングセンスを疑われるのも嫌だし」

「やっぱそうだよな。よし、じゃあ私も土神と同じで『力』にしとくか」

「えー……もっと必殺技っぽい名前にしよーぜー」

「……守りの能力なのに『必殺』?」


不満そうに口を尖らせる千沙に修也は首を傾げる。


「例えばさー……んー……こういうのはどーだ? 『絶対守護の鎧』」

「いやそんな大仰なものにせんでも」

「……と書いて『アダマンタイト・アーマー』と読むとか」

「読めるかっ!」

「あ、じゃあこういうのはどうです? 神々の領域に達した硬徹の理。その身は天地の理を拒絶し、万物の災禍を退ける天の鎧と化す……奥義『神鎧』みたいな」

「物々しく言えば良いってもんじゃねぇよ!? ってか厨二くせぇ!!」

「私は中三ですからギリOKでしょ!」

「俺は高二だよ! 明らかにアウトだよ!!」


千沙や亜理紗が出してきた提案に突っ込みを入れる修也。


「というか、千沙ちゃんのはともかく亜理紗ちゃんのはわざわざそれ言って回るの? 長くない?」

「こういうのは長い方が良いんですよ! 必殺技感が出るじゃないですか」

「いやだから守りの能力に必殺要素はいらねぇよ」


亜理紗の力強い主張を修也はバッサリと切って捨てる。


「でも土神先輩は今まで起きた事件の首謀者とも言える人たちを倒してきてるじゃないですか」

「直接攻撃にはこの力は使ってねぇよ。てか使わないようにしてる。だから今まで倒してきたのは全部護身術ベースの体術でだ」

「『護身』術で倒してる件については」

「相手を無力化するのは立派に護身だと思うが何か?」


半眼で亜理紗が入れてきた突っ込みをさらっと流す修也。


「と言うか土神君が凄いのは超能力よりもその身のこなしよ。あれはその能力とは関係無いんでしょ?」

「ああ、あれは正真正銘俺自身の身体能力だ」

「むしろそっちの方がスゲェと俺は思うんだが……」


爽香の問いに対して普通に頷く修也を見て戒は唸る。


「そうですね……土神先輩、ナイフや銃弾を見切ってましたし」

「全力で振り回すハンマーも余裕で躱してたな」

「球技大会でも凄かったよなぁ、走打共に」

「あ、球技大会で思い出したんだけど……」


戒が球技大会のことを話題に出したことで修也はひとつ気になることが頭に浮かんだ。


「相川のあの剛球ってもしかして……」


それは瑞音の凄まじい球威の投球だ。

あの生半可ではない球はそう簡単に投げられるものではない。


「あぁ、気付いたか?」


修也の考えていることに見当がついたのか、瑞音が頷く。


「え、もしかして投げた球に相川先輩の『力』を使って重くしてたとかそういう……」

「普段から自分の手足を『力』で重くして負荷をかけて鍛えてるからな。で、気が付いたらあれくらいの球は普通に投げられるようになってた」

「あれ、思ったより実直な方法ですね!?」


自分の予想とは全く違っていたことに驚きの声をあげる亜理紗。


「そりゃそうだ、相川がそんなズルい真似するわけないだろ」

「そーだぜありちゃん。使えるものは何でも使うって考えかたもあるけど、瑞音ちゃんはそーゆーの嫌いだからなー」

「『力』で手足を重くしてる件については」

「リストウェイトバンドとかアンクルウェイトバンドとか普通に市販されてんだろ、それの代わりだ」

「あ、それなら俺も付けてるぞ。両手両足に5キロずつ!」


そう言う戒には確かに両腕だけでなく両足首にもバンドが巻かれている。


「え、1つ5キロってことは……全部で20キロ?」

「それで午前のボウリングであの成績……規格外にも程があんだろ」

「でも最近この重さにも慣れてきちゃってさぁ。もう1キロずつ増やそうかって考えてんだよ」

「流石戒さん、素敵です」

「おぉー! スゲェぜ師匠!!」


ただただ呆れるしかできない修也と彰彦に対し、美穂と千沙だけは素直に感心している。


「まぁ勝負事はフェアにやるのが私のポリシーだ。ただ……土神相手ならそれもアリかもしれねぇな」


そう言ってニヤリと笑いながら修也を見る瑞音。


「……マジかよあれ以上に球威上がるのかよ……」


その視線を受けて修也はげんなりする。


「だったら修也さんも『力』で対抗して……」

「固める能力でどう対抗しろと」

「え、えぇと……あっ! デッドボールが来てもノーダメージですよ!」

「いやそれ何の解決にもなってないから」

「あ、あはは……ですよねー……」


苦し紛れの回答を一蹴されて苦笑する蒼芽。

蒼芽自身無理があると思っていたらしい。


「まぁでも実際問題現実的じゃねぇな。砲丸投げるようなもんだし」

「あぁ……それは無理だ」


いくら鍛えてるとは言え砲丸を投げるのは無理がある。

ノーバウンドで届かせることすら厳しいだろう。

打つ側だけでなく投げる側も相当な負担がかかってしまう。


「何と言うか……超能力と言っても万能じゃないんですね。土神先輩や相川先輩のお話を聞いててそう思いました」

「それはそうだろう。何にでも適した使い道というものがある。フォークでスープは飲めないだろう? スプーンはうどんを食うことに向いていないだろう?」

「あ、言われてみれば確かに」


塔次のたとえに納得が行ったかのように頷く亜理紗。


「その点では土神はその能力の使い道をよく分かっている。それは守りの時に最も真価を発揮する能力だ。護身術と言い見切り能力と言い、土神は守りに特化した人間と言えよう」

「……意識したこと無かったけど、言われてみれば確かに全部守る方向に特化してんな……」


修也は塔次に言われて改めて自分の能力を認識する。


「じゃあ差し詰め土神先輩は『守護異能力者』ってところですね」

「はい? 何だそりゃ」


亜理紗が突然持ち出してきた単語に首を傾げる修也。


「だってそうじゃないですか。土神先輩の持ってる能力はどれもこれも守り特化。さらに超能力も持ち合わせてるんだからこの呼び名がピッタリでしょ!」

「う、うーん……」


胸を張ってそう言う亜理紗を見て修也は言葉に詰まる。


「あ、ちなみにこれは『凄い(しゅごい)能力者』というのにもかかっていてですね」

「シャレかよ! 一気に色々台無しだよ!!」


亜理紗の補足に突っ込みを入れる修也。


「あ、あはは……でも修也さん、良かったですね。『力』のことを知っても皆さん今までと全く変わりませんでしたよ」

「あー……まぁそれは確かに。何か肩の荷が下りた気がするよ」


修也は蒼芽の言葉にそう返しながら座席にもたれかかる。


「そりゃそうよ。人とちょっと違う力があるくらいで、しかもその力で助けてもらっておきながら距離を置くとかそんなのただの恩知らずの人でなしじゃない」


爽香の言葉に他の面子も頷く。


(これは……前の町がおかしかったってことなのかな……やっぱり引っ越してきて良かったな)


爽香の言葉を聞いてそう再認識する修也であった。

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