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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第5章

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第5章 第29話

「はーっはっはっはー! どうだ見たか俺のスコアをー!」

「流石戒さんです。素敵でしたよ」


2ゲームやってどちらもパーフェクトというとんでもない記録を打ち立てて有頂天になっている戒を美穂が褒め称える。

今修也たちはボウリング場を後にして、昼食の為にファミレスに来ていた。

13人という大所帯ではあるが運よく席は空いていたのですぐに座ることができた。

全員が席についたところで先程の戒のスコア自慢が始まったという訳である。


「いやホントあいつの運動神経どうなってんだ?」

「筋肉ゴリモリのパワー系かと思えば足も速いから機動性も尋常じゃないし」

「かと思えば今日のボウリングみたいにテクニック系にも隙が無いじゃないのよ」

「でもな、ちょっと頭を使うように仕向けたら一気に崩れるぞ。そこがアイツの弱点だ」

「あー」

「あー」

「あー」


規格外の戒の身体能力に呆れ気味の修也たちだったが、瑞音の言葉に納得したように言葉を揃えて頷く。


「いやーでもこうやって皆でわいわい遊ぶのって楽しいね!」

「それに皆さんでファミレスに言ってご飯を頂くというのも楽しいです」


お嬢様故にそういった経験がほとんど無い華穂と美穂が声を弾ませながら言う。

先日の球技大会の打ち上げはただドリンクバーでジュースを飲んだだけだ。

陣野君たちとラーメン屋には行ったことはあるが、あの時と比べると倍以上の人数差がある。


「それで、ここではどのように注文すれば良いのでしょうか?」

「それはねー、このメニューから自分が食べたいものを選ぶんだよー」


美穂の疑問に由衣がメニューを見せながら説明する。


「まぁ……この中のどれでも良いのですか?」

「うんっ! どれでも良いんだよー!」

「それは素敵ですね。丁寧なご説明ありがとうございます、由衣さん」

「えへへー、どういたしましてー」


説明してくれた由衣に丁寧に礼を言う美穂。


「それでは……私はこのページにします」


そう言って美穂はパスタのメニューが書かれているページを開いた。


「おっ、美穂さんはパスタですか。じゃあ俺は……やっぱり肉系が良いかな」


それを見た戒はステーキ系のメニューが書かれているページを開く。


「………………さて、由衣ちゃんは何食べる?」

「んっとねー、このハンバーグが良いなー」

「蒼芽ちゃんは?」

「えっと……では日替わりランチとサラダを」


美穂と戒の頼み方に微妙に違和感があったが修也はそれを黙殺して由衣と蒼芽のオーダーを聞く。

修也や他の面子も食べたいものが決まったので店員を呼ぶ。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


程なくしてオーダーを取るための機械を持ったウェイトレスがやってきた。


「俺はこのページのやつを」

「私はこのページの物をお願いします」


そう言って開いたページを見せる戒と美穂。


「? ……えっと、そのページのどの品を……」

「だからこのページのやつ全部」

「はい、私もこのページに書かれている物全てを」

「え……えぇ……?」


予想外の戒と美穂の注文の仕方に頬が引きつるウェイトレスのお姉さん。


「ち、注文は以上で……」

「あ、待ってください。まだあります。皆ー、それぞれ食べたい物注文してくれー」

「え?」


戒と美穂が頼んだ分で全員分という可能性に賭けていたっぽいお姉さんだが、修也が注文を続けたことでその可能性は消えた。

そのことに再びお姉さんの頬は引きつるのであった。



「……よく海外セレブがブティックとかで『ここからここまで全部』とかやるってのは聞いたことあるけど、ファミレスで似たような場面を見ることになるとは思わなかった」


全員分のオーダーを取ってやや呆然自失気味に去って行くウェイトレスのお姉さんの背中を見ながら修也は呟く。


「あの……今の注文の仕方に何か不手際があったのでしょうか?」

「あ、いえ別に間違いがあったかと言われると別にそういう訳じゃないです」


不思議そうに尋ねてくる美穂に修也は首を振る。

そう、別に注文方法自体は何も間違ってはいない。

ただ一般的な注文量と遠くかけ離れていただけだ。


「でも……全部パスタ系で良かったんですか? 他にも色々ありますけど」

「ええ、今日はパスタで統一しようと思っていましたので」


修也の疑問ににっこり笑って答える美穂。


「あ、もちろん私が頼んだ分はきちんとお支払いしますので」

「ああいやその辺は気にしてませんが……ひとつ懸念事項が。なぁ霧生」


修也は同じような注文方法をした戒に目を向ける。


「ん、何だ? 言っとくけど俺だってちゃんと自分で食う分は自分で払うぞ。ちゃんと金だって用意してるし」

「それは良いがちゃんと合計金額計算できるか? 3桁から4桁の足し算だぞ?」

「しかも3つ以上の足し算よ?」

「できるわそれくらい! 俺を何だと思ってんだ!!」


心配そうに尋ねる修也とそれに便乗してくる爽香に食って掛かる戒。


「では霧生。このメニューは税抜きで798円だが、税込みでいくらになる?」

「…………え?」


だが横から投げかけられた塔次の質問に固まってしまう。


「ちなみに言うまでもないとは思うが現行の消費税は10%だ。そして小数点以下は切り捨てで考えろ」

「10パーセント……? 切り捨て……?」


そして更なる追撃に目が虚ろになっていく戒。


「…………で、ここで素直に消費税10%で計算して答えを出したら軽減税率が適用されて実は8%だから不正解だとか言うつもりなんですね!? 私は騙されませんよ!」

「軽減税率のことを知っていたのは見事だが外食にはそれは適用されないぞ長谷川。そもそもこれはなぞなぞではない、単純な計算問題だ。全く……どうしてそんなひねくれた考えを持つようになったのやら」

「アンタのせいでしょうがーーーー!!」


やれやれと首を横に振る塔次に亜理紗が詰め寄る。


「軽減税率……? あれ、今氷室が消費税は10%だって……」


そう呟く戒の目から段々光が失われていっている……ような気がする。


「見ろ、長谷川が余計なことを言うから霧生の思考回路がオーバーヒートしかけているではないか」

「え、これ私が悪いんですか!? ああでも確かに言い出しっぺは私か……イマイチ納得いきませんけどすみませんでした霧生先輩ー!」

「大丈夫ですよ戒さん。ここに税込みの価格も書かれていますから、それを足していけば良いんです」

「え? あ、ホントだ」


場の雰囲気が混沌としかけた時、そう言って美穂がある一点を指さす。

そこには確かに税抜き価格の下に小さく税込み価格も記載されていた。


「……少しでも安く見せようという店側の経営努力が垣間見えるなぁ……」

「お店も色々大変なんですねぇ」


それを見てしみじみと呟く修也と蒼芽。


「ちなみに霧生。別に電卓使っても良いんだぞ?」

「えっ!?」


必死に指折りして計算していた戒にそう声をかける修也。

修也にそう言われた戒は意外そうに修也の方を見る。


「そりゃそうだ。別にこれは試験でも何でもないんだからな。電卓使って責められるいわれは無い」

「むしろわざわざ暗算するメリットなんてどこにも無いわよ」

「まぁ軽い頭の体操くらいにはなるであろうがな」

「ま、マジか……必死に頭で計算してた俺って一体……」


さらに彰彦と爽香と塔次にも追撃され戒は唖然とする。


「でも戒さんのそんな実直な所、私は好きですよ」

「み、美穂さん……!」


だがそこにかけられる美穂の優しい言葉で持ち直す戒。

そうこうしているうちに注文した料理が運ばれてくる。

最初に運ばれてきたのは美穂が頼んだパスタの内の1つだ。


「あ、来た来た。美穂ちゃん、先に食べ始めちゃいなよ」

「え……でもまだ皆さんの分が来てないけど……」

「ああ、全然構いませんよ。全員分が来るのを待っていたら冷めてしまいます」

「それに次が来る以上先に食べていた方がテーブルも片付くでしょうし」


華穂に先に食べるように促されて戸惑う美穂だが、修也と瑞音に説得される。


「それでは失礼して……お先にいただきます」


そう言って美穂は丁寧に手を合わせてからフォークでパスタを巻き取って口に運ぶ。

その動作だけを見てもとても上品で様になる。


「ふわぁ…………凄く綺麗……」


その所作を見ていた詩歌が小声でそう呟くのも無理は無い話である。


「これくらいは練習すれば誰でもできますよ。それよりも詩歌さんのお料理の腕前の方が私は羨ましいです」


そんな詩歌の呟きを聞いた美穂がそう返す。


「え……えぇっ……!? そんな、あれこそ練習すれば誰だって……」

「まーそりゃ美穂さんのマナーにしたって詩歌さんの料理の腕前にしたって練習を続けていればそのうち身に付くものだろうさ」


詩歌の言葉を遮るように千沙が口を開く。


「でもさ、その『練習を続ける』ってのが大事なんだぜー? 生半可な練習量じゃそこまで言われるほどにはならねーだろーし」

「うむ、途方もない練習量をこなせるというのはそれだけでも才能だ。そしてこれは先日の天才の話にも繋がる。それだけの練習をこなすことを苦としていないのだからな」

「なるほど……考えさせられるお話でした。興味深いご意見ありがとうございます千沙さん、氷室さん」


そう言って空になったパスタの皿を端に避けながら礼を言う美穂。


「…………ってもう食べ終えたんですか!? 全然気づかなかったんですけど!」

「あ、すみませんまだ皆さんの料理が1つも来ていないのに。パスタが美味しくてつい手が止まらず……」

「分かりますよ美穂さん! 美味い物って食べ始めると手が止まらなくなりますよね!」


美穂の言葉に戒が嬉しそうに同調する。


「……このお2人が付き合ってるって聞いた時は『共通点が全く無さそうなのに何で?』って思ったものでしたが……今は納得できます。物凄くお似合いのお2人です」


そんな戒と美穂を見て亜理紗が呟く。

やがて他の料理も運ばれてきたので来た順に食べ始める。


「おいしーねー、おにーさん!」

「ああそうだな。流石全国展開しているチェーン店は安定してるよな」

「でも個人経営のお店とかもそれはそれで良さがありますよね」

「確かに。汎用と特化、どっちにもそれぞれの良さってもんがあるんだよなぁ」

「それにー、皆で一緒にご飯食べるのって楽しいよー」

「あぁー…………うん、そうだな…………」


由衣に言われて修也は引っ越してくる前の食事事情を思い出す。

あの時は一緒に食事をする友人など1人もおらず、学校でも教室の隅で黙々と弁当を食べていた。


(ただ昼休みになって腹が減ったから飯を食う……味わって楽しむ余裕なんて無かったな……)


それが当たり前で普通だと当時は思っていたが、今の環境になってそれが如何に異常なのか知ることができた。


(そう……あの環境が異常で、こっちが正常であり普通なんだ)


そう自分に言い聞かせる修也。


「お待たせしましたー。茄子とひき肉のボロネーゼです」

「あ、それ私が頼んだものです」


新たな料理を運んできたウェイトレスのお姉さんに手を挙げて応える美穂。


「お、美穂さんそれで4皿目ですね」

「ええ。どれも美味しくてまだまだ食べられそうです」

「ですよねー! 俺もまだまだいけますよ!」

「…………」


修也たちの横で美穂と戒が次々と料理を口に運んでいく。

そのペースは一向に衰えず、むしろ加速しているような気さえしてきた。


(…………うん、普通。これが普通なんだよ…………な? いや、そもそも普通って何なんだろう…………?)


早々に自信が揺らぐ修也。

それどころか『普通』の定義自体がよく分からなくなってきてしまった。


「どうした土神、やたらと思い詰めた表情をしているな」


そんな修也の様子を見た塔次が声をかけてくる。


「…………なぁ氷室、お前は普通って何だと思う?」

「中々哲学的なことに思いを馳せているではないか」


修也の問いに塔次は愉快そうに口角を上げながら言う。


「『普通』とは単純のように見えてその実奥が深い言葉だ。俺としては絶対的な普通なんてものは存在しないと考えている」

「いやさっき仁敷がこれでもかという程普通だという話をしたばっかじゃねぇかよ」


先程の話を根底から覆すような塔次の持論に修也は突っ込みを入れる。


「それは『一般的に見て』という条件が付いた話だ。大衆的に見て仁敷はそれこそ普通を絵に描いたようなやつだ。しかし条件次第でそれは変わる」

「条件?」

「例えば相川の部活に所属している生徒を基準にした場合、仁敷の身体能力は普通と言えるか?」

「あぁ、そういう……」


確かに彰彦は総合的に見れば普通と言っても全く差し支えないが、範囲を絞ればそうでない場合も出てくる。

塔次の言う『条件次第で変わる』とはそういうことなのだろう。


「つまり定義する範囲次第で普通の是非など簡単に変わる。色々考えることは悪いことではないが、悩みすぎて思考を鈍らせるのは良い選択とは言えんな」

「なるほどなぁ……」


塔次の考えを聞いて修也は唸る。

今まで修也は普通の学生生活を送りたいとずっと思ってきた。

しかし今の2-Cは担任を筆頭に変わり者だらけだ。

それと比べたら自分なんてまだまだ普通だと思える。


「それでも普通を求めるのであればお前が基準になる様に先導すれば良い。学校の内外共に求心力のある今のお前ならば十分可能だろう?」

「いやそこまでする気はねぇよ」


塔次の出した案を軽く流し、修也は中断していた食事を再開するのであった。

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