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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第5章

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第5章 第24話

「…………ふーん、そかそか。なるほどねぇー」


瀬里は修也と由衣の話に相槌を打ちながら持っていた手帳にさらさらと何かを書きこんでいく。


「控えめに言ってこの世のクズだねソイツ。滅びれば良いと思うよ」

「えらくバッサリ行きましたねぇ。否定はしませんけど」


爽やかな顔で過激なことを言う瀬里にやや呆れる修也。

ただ修也もあの男のことを擁護するつもりは一切無い。


「しっかしまぁ前に私が冗談半分で言ったことを真面目にやってるようなやつがいたとはねぇ」

「……あぁ、『中学生以上は~~』ってやつですか」

「そーそー。人生はそこからが本番じゃないのさ。もちろんそれまでだって人生の大事な一部だよ」

「全くです」

「ああいうのがいるからアニメとか漫画とかに規制を求めたりする変な輩が湧いてくるんだよ!」

「……え? どういうことです? 話に繋がりが無くないですか?」


瀬里の主張に亜理紗が疑問顔で尋ねる。


「その手のやつって大体美少女系のアニメとかフィギュアが好きって報道されてさ、そういうのって登場人物が10代をモデルにしてるのが多いでしょ? で、『〇〇が好き』がそのうち『〇〇と同じ特徴を持つ子が好き』に変化していくわけさ」

「……で、あたかもそのアニメとかに問題があるかのように話を持っていくのよ」


瀬里の説明に優実も加わり補足する。


「さらにエスカレートするとそういうアニメとかの登場人物の真似をしだす人もいるたりするわけで」

「それがささやかで微笑ましいものだったら良いんだけどね。何故か過激な行動をとる傾向が強いのよ。今回の事件みたいに」

「でね、それを受けてテレビで出てくるようなコメンテーターが『この犯人が凶行に走ったのはこんなアニメがあるせいだ! 規制しろ!』って言い出す訳」

「…………すみません、丁寧に説明していただいても何でそう繋がるのかが全く理解できないんですが」


瀬里の説明を聞いても亜理紗の難しい表情は変わらない。


「うん、私も分からん! 悪いのはその犯人の気質だろうに何故アニメを規制させようとする!?」

「それは私も同意ね。そこを規制したところで何の解決にもならないわよ」


瀬里の言葉に優実も頷く。


「大体アニメにそこまでの影響力があるなら今の世の中海賊だらけだよ! 変なトリックとか仕込んで奇怪な事件起こそうとする輩どもであふれかえってるよ!!」

「アニメはアニメ、現実は現実と区別をつけるのがそんなに難しいのかしらね」

「ミニスカパンチラしてても何の違和感も持たない女の子がそこかしこを歩き回るようになるよ! …………それはまぁ私的には大歓迎だけどねウェヘヘヘヘヘヘ」

「……そういう発言が誤解を招くのよ」


急に怪しい笑いをしだした瀬里を諫める優実。


「なるほどー、さっきのありちゃんみたいなのが増える訳かー」

「何ぃっ!!? その話もっと詳しく!!」

「どこに食いついてるんですか」


千沙の呟いた言葉への瀬里の食いつきように呆れた声で突っ込みを入れる修也であった。



「……まぁ私が言いたいのはテレビで言ってることは鵜呑みにすんなっとことよ。君らが考えている以上に思想が偏ってるからね」

「……そういう話でしたっけ? そしてなんかデジャブ」


つい先ほど似たような話の展開を聞いた気がする修也は眉根を寄せる。


「ところで高代さん、あの事件のことを個人で調べてるんですよね? 何か情報はつかめました?」


瀬里は週刊誌の出版社に勤めているライターだ。

それに加えてこの町の事件のことなどを個人ブログで纏めている。

ということは今回の由衣の誘拐騒動も調べているのではないか。

修也はそう予測を付けて聞いてみる。


「まーね! それなりに調べてはいるよ。個人的な推測も大分入ってるから週刊誌のネタとしては使えないけどね」

「それでも良いんで教えてくれますか? 何か気になることが色々あってどうにもスッキリしなくて」

「そうね、私も気になるわ。警察の捜査もあまり進展は無いし」


修也の言葉に優実も乗ってくる。


「んー? 良いけどタダって訳にはいかないなぁ~……そうだなぁ、今日の優実のパンツの色を教えてくれたら」

「白よ」

「早っ!? え、てかそんなあっさり口外して良いんですか!!?」


迷わず即答した優実に驚く亜理紗。


「えっと……あなた、名前は?」

「え? 長谷川亜理紗、ですけど……」

「長谷川さん、私とこの瀬里は高校時代からの付き合いなの。これだけ付き合いが長いとお互いのことを結構色々知ってる物なのよ」

「はぁ……」

「だからね、優実の下着が機能性重視でデザインは二の次ってのも知ってるのさ! 学生時代は白以外のパンツ履いてるの見たこと無いし」

「そんな瀬里相手だから今更なのよ」

「でもここには土神先輩もいるわけで……」

「変に隠そうとするから照れが出るし謎の信憑性が湧くのよ。今位に軽く適当に言っておけば真実味が出ないから逆に楽よ」

「……凄い! そうかこれが大人の女性の余裕というやつなんですね!」


どこまでもクールな優実に亜理紗は瞳を輝かせる。


「それにそういうのを聞いて妄想を膨らませて悶々とする若い男の子のリアクションを見るってのも楽しいもんだよー?」

「それはあなただけよ。性格悪いわよ瀬里」

「何を今更!」


悪い顔をしてほくそ笑む瀬里に苦言を呈する優実。

しかし瀬里は全く改める気は無いらしい。


「それなのにそこの若い男の子であるはずの土神君はこういう話聞いても涼しい顔しちゃってさ! つまんないんだよ! もっと私を楽しませるリアクションしてくれよぅ!!」

「別に高代さんを楽しませるために生きているわけじゃないので」


よく分からないことを言いながら詰め寄ってくる瀬里を修也は適当にあしらう。


「土神君も瀬里の扱いに慣れてきたわね」

「もっとドぎついのが近くにいますからね」


言うまでもなく陽菜の事である。


「……でもこれだけ淡泊だとそれはそれでモヤモヤする人もいるんじゃないかしら?」

「!」


そう言いながらちらりと視線を送られた蒼芽はドキリとする。


「そうですかねぇ……? 下心満載で鼻息荒くすり寄られるよかマシでしょ」

「それは人によると思うよ! 今回の事件の犯人みたいなやつだったら私もお断りだけど、土神君は今や高校だけじゃなくて中等部でも大人気なんでしょ?」

「そーだよー! おにーさんはすっごい人気者なんだよー!」


瀬里の言葉に得意気な顔で胸を反らす由衣。


(いや……俺としてはそれはかなり不本意なんだが……)


修也としてはそんな人気はいらないのだが、由衣の満面の笑顔を見るとそうとは言い出せず言葉に詰まる。


「そんな土神君に言い寄られたらコロッといっちゃう子もいるんじゃない?」

「……何かそれ、人気を笠に着たパワハラもどきみたいで嫌だなぁ」


にやつきながら言い寄ってくる瀬里に対して修也は本気で嫌そうな顔をして呟く。


「まぁ土神君がそういうのを好まない人だってのは分かってるわ。そういう性格も人気者に一役買ってるのかもね」

「……とりあえず俺のことは良いので事件の情報を聞かせてくださいよ」


どんどん話が逸れて尚且つ話の焦点が自分に向いてきたのを感じて修也は話の軌道を修正する。


「ああそうだね! まず私が調べたのはあの廃倉庫についてだよ」

「あそこ……ですか?」


修也はあの男が由衣を連れ去った先である廃倉庫を思い出す。

町外れにある今はもう使われていない倉庫。

買い手がつかないのか放置されたままになって長い時間が経っているような外観だったのを修也は覚えている。


「長いこと放置されてたみたいなんだけどねぇ、近々取り壊すことになったんだって」

「あ、そうなんですか? というかそもそも何で放置されてたんです? この町の特徴から考えてすぐに資産家の誰かが買い取って何らかの施設を新しく建てそうですけど」


この町は複数の資産家が住民の為に色々な施設を作っている。

使われていない土地があるなら買い取って利用価値のある施設を作りそうなものだ。

修也はそう考えて疑問を口にする。


「町外れにあるせいで利便性があまり無いのよ。つまり買い取ったところで使い道が無いの」


修也の疑問に対し優実が答える。

確かにあの廃倉庫は町外れに位置している。

何か施設を作ったところでわざわざ立ち寄る人はいないだろう。


「でも取り壊すにしたって費用が掛かるでしょ? だから今まで放置されてたって訳」

「まぁ今回みたいな事件が起きちゃったんじゃあそうも言ってられないよね」

「で、その取り壊しの費用は……」

「有志の資産家が出し合うんじゃないかな。あ、そういえばこんな話も耳に入ってきたんだよ」


蒼芽の疑問にそう推測を立てる瀬里だが、何かを思い出したようでそこに新たな情報を追加する。


「どんな話ですか?」

「取り壊しを業者に依頼して現地で見積を立ててるときにどこからか若い男たちの集団がやってきて『無給で良いから俺たちを使ってくれ!』って頼み込んできたって話」

「……え?」

「それが最近この町でよく聞くボランティア集団と特徴が一致するんだよね」

「あ、あぁー……」


その集団に心当たりのある修也は曖昧に相槌を打つ。

その横では蒼芽も何と言って良いか分からず困ったような笑みを浮かべている。


「変わった集団もいるもんですねぇ……」

「そだねぇ、そんな肉体労働を自分たちから買って出るなんてね。流石にタダ働きさせるわけにはいかないから謝礼は出すらしいけどね」

「それで解体コストが抑えられて取り壊しが決まったってことですか?」

「うーん、どうだろ? さっきも言ったけど一番の理由は犯罪の温床となりかねない場所の排除だからね。取り壊しそのものは決まってたと思うよ」


蒼芽の問いに首を捻る瀬里。


「取り壊すのは良いとして……少し気になることがあるのよね」


瀬里の話が一区切りしたところで今度は優実が口を開く。


「気になること?」

「さっき瀬里が言った通りあの廃倉庫は長い間放置されていた。でもその割に人が出入りした形跡があったのよ」

「……あの男が拠点として使ってたとかじゃないんですか? あの男でなくてもガラの悪いやつらのたまり場になってたとか」

「まぁそれも考えられなくはないけど……何か違う気がするのよね。根拠は無いけど」

「珍しいね、優実が憶測でものを言うなんて」


確定的なことを言わない優実を意外そうな目で見る瀬里。


「……もしかして……あの時あの男が言ってた『アイツ』が関係してるんじゃあ……?」

「ああ、それで引っかかってたのね」


修也の呟きを聞いた優実が得心がいったように頷く。


「おっ! 何だい何だい、気になるワードを出してくるじゃないか土神君! 何か知ってるのかな?」


それに対し瀬里は瞳を輝かせてすり寄ってくる。


「えぇまぁ……七瀬さんには話したんですが、誘拐事件の犯人と一戦やり合ってた時に……」

「えっ? スゲーな兄さん、実戦経験あるのか!」


修也が瀬里に事情を説明しようとした時に千沙が横から割り込んできた。


「そーだよー、おにーさんは凄いんだよー! 相手の人ナイフ持ってたのに全部ひょいひょい避けてボッコボコにしちゃったんだよー!」

「へぇー、瑞音ちゃんが一目置くわけだな! 流石だぜ兄さん!」


由衣の話を聞いて素直に感心する千沙。


「……長谷川の時もそうだったけど……疑わないのか?」

「え、何で? どこに疑う要素があるんだ? ゆーちゃんが嘘つくとはとても思えんし実際軽く試合したあたしも兄さんなら十分あり得るって思うぜ?」

「少なくともここにいる全員は全く疑わないわよ」


優実の言葉に他の全員が頷く。


「それよりも続き続き!」

「あ、えーっと……とにかくあの男をぶちのめしてる時にそんなこと言ってたんですよ。『アイツと一緒に世界を思い通りに変える』って」

「ほほぅ……それは興味深い発言だねぇ」


修也の言葉を聞いて瀬里の目がキラリと光る。


「これはアレだ。私の提唱する闇の組織の陰謀説の信憑性がさらに上がったね!」

「まさか。都市伝説レベルの話じゃないですか」

「でも話を聞く限りだとあり得ない話とは言い切れないんじゃない? 何かカルト臭がするよ」

「んー……」


不破警部も宗教っぽい話だと言っていた。

その類の人種は時に想像もつかない事態を引き起こす。

瀬里の言うこともあながちただの空想と切り捨てることはできないのかもしれない。


「まっ、面白い話聞かせてくれてありがとね! これはそのお礼だよ!」


そう言って瀬里は持っていた鞄からチケットのようなものを取り出して修也に手渡した。


「え、いやさっきジュース奢ってもらいましたけど……」

「追加報酬だよ。それで皆で遊びに行っておいでよ」

「遊びに……何ですこれ?」

「この町にあるボウリング場のチケットだよ。それ1枚で1ゲームできるからさ」

「ボウリングー? 行きたい行きたーい!!」


ボウリングと聞いて由衣が目を輝かせて飛び跳ねる。


「どうしたんですこれ?」

「いやぁこういう仕事やってると色々付き合いというか伝手ができてね。その繋がりで色々貰うんだよ。でも私は使い道無いからさー」

「七瀬さんや藤寺先生と一緒に行ったらどうなんです」

「女3人だけでそんな所行って楽しいと君は思うのか!?」

「いやそれは知りませんけど」


割とマジなトーンで詰め寄ってきた瀬里を適当にあしらう修也。


「まぁそれは置いといてたまにはパーッと学生らしく遊んできなよ!」

「そうね。特に土神君は色々と気苦労が多いでしょうし」

「いや気苦労という点では七瀬さんには負けますよ」

「…………まぁ、そうね…………」


何せ優実は高校時代からずっと陽菜と瀬里の相手をしてきているのだ。

修也の気苦労などとは比較にもならないだろう。


「あ、そういえば七瀬さん。全然話は変わりますけど」

「あら、何かしら?」


とあることをふと思い出した修也が優実に話を振る。


「七瀬さんも観賞用・布教用・保存用として3つ短パンを持ち歩いてたりするんですか?」

「…………」


修也の質問に優実はスッと無表情になり……


「ふんっ!」

「あだぁっ!?」


容赦のない手刀を瀬里の額に見舞った。


「ちょ、いきなり何すんのさ優実!」

「どうせあなたか陽菜が余計なこと吹き込んだんでしょうが」

「陽菜の可能性もあるのに何で私をぶつの!?」

「陽菜はここにいないからよ」

「理不尽! すっごい理不尽!! ……まぁ言ったけどさ」

「はい自供ゲット。神妙にお縄につきなさい」

「ぬあぁー! 今のは誘導尋問だぞ!」


やいのやいのと口論する2人だが口調は明るい。

優実も心なしか楽しそうに見える。


「……相変わらず仲良いなぁ」


そんな2人の様子を見ながらそう呟く修也であった。

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