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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第5章

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第5章 第13話

3回の攻撃はどちらも三者凡退ですぐ終わった。

2-Cは瑞音の剛球に対応できず、2-Eは修也と戒の鉄壁過ぎる守備を崩せなかったからだ。

そして4回表、2-Cの攻撃は2番打者から始まる。

……だがこれも簡単に三振で終わってしまった。


「……結局俺がどうにかするしかないのか……」


自分以外の誰かが攻略の糸口を掴んでくれることを期待していた修也だが、そんなに甘くはなかったらしい。

そのことに修也はため息を吐く。


「まぁそう言うな。クラスメイトたちは全力でお前に頼り切りで何もしなかったわけではないだろう?」

「……確かにな。これは俺の言い方が悪かった。皆ゴメン」


他のクラスメイトも各々が何とかしようと懸命に食らいつこうとしていたのは見て分かっていた。

決して修也任せにして試合放棄してなどはいない。

塔次に諫められて思い直した修也はクラスメイトに謝る。


「良いって良いって。そんなの全然気にしてないから」

「それに結局土神頼りになってるのは間違いないしな」


そんな修也に笑って返事をするクラスメイトたち。


「そうそう、それに私らは応援に回ってる時点で頼り切りなのは間違ってないしねー」

「そんなことで気を悪くするほど心狭くないって」


直接試合に出ず応援してくれているクラスメイトからもそんな声が上がる。


「だからさ、もし負けたって土神のせいじゃないから気にするなよ」

「もし無理やりにでも誰かのせいにするってなら私らクラス全員のせいってことで」

「お、良いね良いね! 『1人は皆の為に、皆は1人の為に』ってか!」


そう言って和気藹々と盛り上がるクラスメイト。


(……改めて思うけど、良いクラスだよなぁ)


そんな様子を見て修也はしみじみと思い知る。

この町に引っ越してきてから修也が何か功績をあげるたびにお祭り騒ぎになることが多いのに、このクラスだけはいつも通りだった。

神だ英雄だと祭り上げる声が湧く中でも普通のクラスの一員として扱ってきてくれた。


(…………うん、本当に良いクラスだ……変なのもいるけど)


修也の脳裏にこのクラスでの色々な出来事が浮かび上がってくる。

毎度よく分からないことでテンションを上げて奇行に走る美少女コンビ。

食事と運動のことしか頭にない脳筋。

考えることが規格外すぎてこちらが予想もつかないことを平然とやってのける頭脳チート。

そしてそれらを取りまとめられるだけのキャパシティを持つ自称巨乳美少女なフリーダム教師。


(悪いやつらじゃないんだ、うん…………変なやつらってだけで)


無理やり自分にそう言い聞かせる修也。


「頑張れよ土神ー! 終わったら打ち上げ行こうぜ!」

「良いわね。功労者の土神君の分はクラスの皆で出しましょ。異議ある人はいる?」

「なーし!!」


彰彦と爽香がそう声をかけてくれる。


(あ、凄く普通…………そうそう、こういうので良いんだよ)


ごく普通のアクションをとる彰彦と爽香に修也は軽く感動を覚える。


「あれ俺は? 俺も一応役に立ってたんだけど」


そう言って自分を指さす戒。


「お前アホみたいに食うじゃねぇか。カバーしきれん」

「いや流石に節度は守るよ!?」

「まぁクラス全員で割ればそこまでの額にはならないでしょ」

「それに皆のジュース代くらいだったら私が出してあげるよ」


彰彦と戒と爽香が話している横から陽菜がそう申し出る。


「え、良いんですか藤寺先生?」

「もちろん! 今日はたくさんブルマ姿の生徒を見れたからね! いやぁ眼福眼福」

「ブレねぇなアンタは!!」


結局はいつも通りのオチが付く2-Cなのであった。



「さて……じゃあ行くか」


準備運動もそこそこに、修也はバッターボックスに立つ。


「ククク……待っていたぜ土神! さっきはしてやられたが、今度はそうはいかねぇぜ!!」

「相変わらずすっげぇ楽しそうだなぁ……」


マウンド上で不敵に笑う瑞音を見て呆れながら呟く修也。


「ここでお前を抑えればほぼ私たちの勝ち確定だ。抑えなくても何とかなるだろうが……それじゃあ気が済まねぇ。これは私の意地の問題だ」

「チームで勝って、個人でも勝ちたいってか……でもどっちも簡単に勝ちを譲ってやる気はねぇよ」


そう言ってバットを構え、修也は視線の焦点を瑞音に合わせる。


「そうだ、それでこそ私のライバルだ! じゃあ行くぜっ!!」


修也の言葉に満足そうに口角を上げ、瑞音は第1球を投げた。


「っ!」


瑞音の剛球は未だに威力が衰えない。

むしろ上がっている気さえする。

それでも修也はバットに当てる。

弾かれたボールはキャッチャーミットに収まらず、後ろに逸れていった。


「おいおい全然球威落ちてねぇじゃねぇか……」

「当然だ。この程度でヘバるようなヤワな鍛え方してねぇよ」


戻ってきたボールをグローブに収めながらそう言う瑞音。


「さぁ次行くぜ!」


第2球も相変わらずの球威で修也に向かってくる。

だが修也はこれもカットしてファールに持ち込む。


「…………流石だ。前の打席も含めてただの一度も空振りしないとはな!」

「いや何かキャッチャーが可哀想だったから……あんな剛球何度も受けてたら手がもたねぇだろ」

「あ、俺のこと気遣ってくれてたのか? 俺敵なのに……」


修也の呟きを聞いてキャッチャーをやっている生徒が声をあげる。


「敵っつってもそんな忌み嫌うような間柄でもないだろ。この試合が終わればただの同級生だ」

「この勝負中に他のことに気を回せる余裕があるとは……やるじゃねぇか。ますます気に入ったぜ!」

「……そりゃどうも」


言葉通り瑞音は楽しそうにニヤリと笑う。

それに対し修也はいつも通りの超然とした態度を崩さない。


「だがその余裕もこれまでだ。これで……決める!」


そう言って瑞音は第3球を投げた。


「!」


その第3球が投げられる瞬間を修也は見逃さなかった。


(……これは、霧生の時の……!)


瑞音は先程の戒を三振に打ち取った時と同じように僅かながらボールを抜いていた。

修也もタイミングをずらして空振りを誘おうというつもりなのだろう。


(しかし、それは俺には通じんぞ!)


瑞音の少し抜いたボールに対し、修也もまた少しタイミングをずらして踏み込んだ。

先程の当てに行くバッティングとは違い、腰を入れてバットを振りぬく修也。

今までのような綺麗に内野の頭を越えて外野の正面に落ちるような打球ではなく、ライト線ギリギリを突き抜けるようなゴロだ。

打球がファーストを抜けて外野に転がっていくのを見て修也は1塁へ向けて駆け出した。

修也がまた瑞音からヒットを打ったことで2-C陣営から歓声が沸く。


「すげぇ! 土神、またあの剛球を打ったぞ! これで10割確定だ!!」

「霧生君の時みたいにタイミングズレてたのにきっちり対応できるとか凄くない? 普通に野球部入れるでしょ!!」


そんな声が観客席から沸いてくる。


(とりあえず出塁はできた……でも本当の勝負はここからだ!)


そう心の中で叫び、修也は1塁を蹴って2塁へ進む。

ライトがボールを取ってセカンドに向けて投げたあたりで修也は2塁を踏んだ。

しかし修也はそこで止まらず、そのまま3塁に向かって駆けだした。


「えっ!? 流石に間に合わなくないか? いくら長打コースだったとはいえ……」


観客席からそんな声が上がるが修也は気にせず突き進む。

それを見たセカンドの生徒はライトから来たボールをすぐ3塁に向かって投げた。

やはり送球の方が少し早く、修也が3塁につく前にサードの生徒がボールをキャッチした。


「っ!」


それを見た修也は足を止めて引き返す。


「欲張ったのが運の尽きだな。このままタッチアウトにさせてもらう!」


そう言ってボールを持ったまま修也を追いかけるサードの生徒。

しかし修也の逃げる速度が絶妙で、追いつけそうで追い付けない。


「くっ……! セカンド、頼む!!」


このままでは逃げ切られると早々に見切りをつけたサードの生徒は2塁にボールを投げようとする。


「……悪いな、抜けさせてもらう」


……が、その時点で修也は既にサードの生徒の横を駆け抜けていた。


「……え?」


一瞬何が起きたか分からず呆気にとられるサードの生徒。

既に投げる体勢に入ってしまっていたため、真横を通り抜ける修也をタッチすることができない。

目の前で起きた予想外なことに体が追い付かなかったのだ。


「おい、ホームだ! ホームに投げろ!!」


横からそんな声が聞こえてくるが、急に方向転換はできない。

結果、ボールは一旦セカンドに向けて放り投げられた。

その間に修也は3塁を蹴ってホームへ向かう。


「くそっ、させるか!!」


そう叫んですぐさまホームへ送球するセカンド。

またしてもボールの方が先につき、キャッチャーの生徒のグラブに収まる。

しかし今度は修也は引き返さない。

そのままの勢いで突っ込む。


「残念だったな、このままタッチアウトだ!」


そう言ってボールの入ったグラブで修也にタッチしにいくキャッチャー。

だが……そのグラブは修也をタッチすることなく空を切った。


「…………あれっ?」

「……その動きは見えていた。それじゃあ俺には当たらんよ」


持ち前の動体視力で動きを見切っていた修也。

キャッチャーのタッチをすり抜けそのまま滑り込んでホームベースをタッチする。


「セーフ! ホームイン!!」


それを見た審判の教師がそう叫ぶ。

それと同時にひときわ大きな歓声が辺りに響いた。


「うおおぉぉ!? スゲェ、凄すぎる!!」

「何今の動き! メチャクチャ身軽じゃん!!」

「そうだよ土神先輩って銃弾すら見切れるんだからあれくらいの見切りは朝飯前なんだよ!!」


あちこちからそんな声が聞こえてくる。


「すごーい! おにーさんかっこいいー!!」

「はー確かにあれは凄いわ。見切りのタイミングが神がかってるとかそんなレベルの話じゃないわ。由衣の加速っぷりにも驚かされたけど、土神先輩は土神先輩で凄い身体能力してるわね。何と言うか1人だけ違う時間軸で移動しているような感覚だったわ」


応援席で見ていた由衣と亜理紗からもそんな声が聞こえてくる。


「…………ふぅ、何とかなった……ヒヤヒヤもんだよ全く……」


どうにか事をうまく運べたことに安堵のため息を吐く修也。

そんな修也を2-C陣営が盛大な歓声と共に迎える。


「やりましたわね土神さん! 流石ですわ!!」

「いやお見事! あの動きは見ていて惚れ惚れする程でしたぞ!!」

「やったな土神! これで同点、振り出しに戻せたぞ!」


戻ってきた修也を歓迎するクラスメイトたち。


「3塁前で挟まれた時はもう駄目かと思ったけど良く抜けられたな?」

「サードが投げようとする瞬間を見計らったんだ。そこなら急に軌道修正するのは無理だからな」

「キャッチャーのタッチも良く避けられたわね?」

「いやあれは簡単だぞ? 腕の動きを読めばなんて事は無い」

「うむ、土神ならその程度は造作もないだろうという俺の読みは間違っていなかったな」


彰彦や爽香の質問にそう答える修也。

その答えに対して塔次は満足気に頷く。


「そう言えばああいうのメチャクチャ強いよね土神くん。私と蒼芽ちゃんと詩歌ちゃん3人同時でも触れなかったし」

「ええホントに。多分アレで修也さんに勝てるのは由衣ちゃんだけですよ」

「え……由衣ちゃん勝てるの……?」

「ああ。由衣ちゃんだけは何故か気配が全く読めん……」


先日の屋上でのタッチゲームを思い出す華穂たち。

そんな修也たちの様子をマウンド上で見つめる瑞音は……


「……なるほど、動体視力と反射神経の良さを活用して強引にランニングホームランを決めるか……考えたな、土神!」


とっても楽しそうに笑っていた。


「ふっ……個人対決では私の完敗だ。でも、試合はまだ負けちゃいないぜ!!」


そう意気込む瑞音。

確かに個人成績だけで言うなら2打数2安打で完全に修也が勝っている。

だが試合としてはまだ1対1の同点だ。


「よーっしじゃあ次は俺が今度こそホームランを決めて逆転してやるぜ!!」


そう勢い込んでバッターボックスに向かう戒。


「…………どうだろう?」

「まぁ相川に翻弄されるオチしか見えんな」

「同感だ」


戒の背中を眺めながら問う修也に首を横に振りながら答える彰彦と塔次。


「さぁ来い相川! 今度こそ打たせてもらうぜ!!」

「悪いがこれ以上点をやるわけにはいかねぇ。また抑えさせてもらうぜ霧生!!」


瑞音も気合十分で戒と対峙する。

結果……


「あークソ、またやられたー!!」

「……うん、分かってた」


またしてもタイミングを外され、戒のバットからは快音は聞こえなかった。

次の5番打者も三振に切って取られ、攻守交代だ。


「…………さて、ここが問題だ」


守備につく準備をしながら修也は考え込む。

この回の2-Eの攻撃では瑞音に打順が回ってくる。

瑞音は先程の打席でホームランを打っている。

流石にホームランを打たれてしまうとどうにもならない。

空高く舞い上がった打球をキャッチできるような身体能力はいくら何でも持ち合わせていない。

そもそも修也は動体視力と反射神経が凄いのであって、身体能力はそこまで特筆するようなものではないのだ。

だからと言って投球直後に前進して距離を詰めて打ちあがる前の打球を捕ると言った、どこかのトンデモ野球漫画みたいなこともできない。

と言うかそれは普通に危ない。

しかし何とかしてここで瑞音を抑えないと再び勝ち越される。

試合は5回で終了するため、もう修也に打順は回ってこない。

となると敗色濃厚となってしまう。


「うーん、どうするか……」


投球を低めに抑えて打ち上げにくくするというのがセオリーなのだが、果たしてあの瑞音にそれが通用するのか。

そもそも本格的にソフトボールをやっているわけでもない2-Cのピッチャーにそんな芸当ができるのか。


「ふむ、確かに悩ましい問題だな」


修也があれこれ考えて悩んでいるのを見て察した塔次が声をかけてくる。


「あぁ、どうしたもんか……」

「一応考えが無くもない」


悩む修也の横でしれっとそう言う塔次。


「え、マジ?」

「これまでの試合で全打席ホームランを打ってきた霧生をこの試合では三振に切って取られた。それと同じことをしてやればいい」

「いやしかし……霧生ならともかく、相川にそれが通じるか?」


思考回路が単純な戒とは違い、瑞音は思考能力も低くない。

付け焼刃の子供だましみたいな真似が通用するのだろうか?


「ふっ、それに関しては抜かりは無い」


だが塔次には勝算があるらしい。


「……まぁ良い、どうせ他に策は無いんだ。やるだけやってみるか」


何も考え無しで瑞音に挑むほど無謀な事は無い。

そう考えた修也は塔次の策に乗ることにしたのであった。

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