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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第5章

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第5章 第12話

「3アウト、チェンジ!!」


士気は十分だった2-E陣営だったが、攻撃はあっさりと三者凡退で終わってしまった。


「んー……できればこの回の攻撃で流れを完全にこっちに持ってきておきたかったんだがなぁ……」

「いやそうは言っても、何なんだよC組のあの守備!?」


瑞音の呟きに対して3番打者だった生徒が詰め寄る。


「ああ私も見てた。厳密に言うと土神と霧生の守備だな……」


ポジションとしては修也はショート、戒はセンターを守っている。

ピッチャーは至って普通なので打つことはさして難しくはない。

しかし修也と戒の守備が尋常ではないのだ。

1番打者と2番打者はそれぞれ二遊間と三遊間を抜けそうなゴロだった。

と言うか普通なら抜けてても何もおかしくないような当たりだった。

なのに修也は普通に正面で捕球して1塁へ送球していた。

3番打者は内野を越えて左中間に落ちそうなフライだった。

これも普通ならヒット間違いなしの当たりだったのだが、戒があり得ないスピードで落下点まで駆け付けてキャッチしたのだ。


「何なんだよあの2人の守備範囲! 広すぎだろ!! 大体霧生みたいな筋骨隆々のキャラは鈍足ってのがお約束じゃないのか!?」

「霧生にそれは通じんぞ……アイツ、100メートルを11秒台で走るし」

「はぁ!?」


瑞音の言葉に舌を巻き耳を疑う3番打者の生徒。

ちなみに高校生男子の100メートル走の日本記録は10.01秒である。

流石に本職には及ばないものの、それでもとんでもない脚力だ。


「それでいてベンチプレスを130キロ上げられるからな」

「……それってどれくらいスゲェの?」


瑞音の言葉に眉根を寄せて首を傾げる男子生徒。

確かに馴染みの無い者からすればそれがどれくらい凄いのか分からないだろう。


「まぁ普通の高校生なら40キロ上げられたら大したもんだろ」

「それの3倍以上!? どんな筋力してんだよ!」

「いや霧生君も大概だけど、土神君も凄くない? なんであのゴロを真正面で捕れるの?」


そこに別の女子生徒が話に混ざってくる。


「土神の場合は単純に動体視力と反射神経だろうな。アイツ打つ前から既に走り出していたから、どの方向に打球が行くかがあの時点で分かってたんだろ」

「えぇ……それ、控えめに言っても凄すぎじゃない?」

「あぁ、ゴロで内野を抜くのはほぼ無理だと思った方が良いな」

「でも内野の上を抜けたところで霧生が来るんだろ? ほぼ無理ゲーじゃないか」


そう言って表情を曇らせる3番打者の生徒。


「何言ってんだ、その無理と思われる状況から攻略の糸口をつかんで突破するのが楽しいんじゃねぇか……!」


それに対して瑞音はどこまでも楽しそうである。


「ククク……本当にどこまでも楽しませてくれるぜ……土神、霧生……!」

「相川さーん……また悪い顔になってるよ?」

「おっとすまねぇ」


興奮が抑えきれず笑い声が漏れ出る瑞音だが、女子生徒に指摘されて表情を引き締め直す。


「まぁとりあえず次の回は土神にも霧生にも打順は回ってこねぇ。しっかり抑えて次の攻撃に備えるぞ!」

「そ、そうだな。よし、頑張ろう!」


瑞音の檄に気合いを入れ直した3番打者の生徒は自分の担当ポジションに向けて走っていくのであった。



2回表の2-Cの攻撃は、瑞音の剛球の前に全く手も足も出ず3者連続三振であっという間に終わった。

どうやら戒ですら打てなかったという事実が尾を引いているようである。


「うむぅ……これはやはりさっきの氷室の策をやるしか無いのか……?」


修也はそう呟いて複雑な表情で考え込む。

他に名案が浮かばないので仕方がないのではあるが修也としては気乗りしない。

もし塔次の策がハマり2-Cが勝った場合、また修也が目立つことになる。

勝つに越したことはないが、これ以上注目を浴びるのも憚られる。


「そう気に病むこともあるまい。学校のイベントのひとつである球技大会で活躍した程度でそこまで注目を浴びることも無いだろう」


思い悩む修也を見て塔次が声をかけてくる。


「そうかもしれんが……」

「まぁお前の場合は今までの功績があるから一概にそうとも言えんが」

「ダメじゃねぇか!!」

「でも今のところあの球に対抗できるのは土神さんだけですわ」

「然り。霧生殿ですら打ち取られている以上、頼れるのは唯一出塁している土神殿だけですぞ」


修也と塔次の会話に白峰さんと黒沢さんも混ざってきた。


「と言うか既に大分注目を浴びてるわよ。相川さんのあの球を打ち返したんだから」

「身も蓋もねぇな……」


さらに加わってきた爽香の言葉にがっくりと肩を落とす修也。


「まぁこの後あの剛球を制する者が他にも現れるかもしれん。それに霧生が力業で攻略する可能性もゼロではなかろう」

「……俺にはどうしてもそれがイメージできないんだが」

「土神、この世に絶対というものはない。定義次第ではあり得るかもしれんがそう言った事象はそう多くはない」

「じゃあ氷室的に霧生が相川の球を打てる確率はどれくらいだと思う?」

「宝くじの1等が当たる確率よりは高いのではないか?」

「いや低っ!」


塔次の推測に思わず突っ込みを入れてしまう修也。


「それならば確率の高い方に望みをかけるのが人情というものだろう」

「……ちなみに俺がどうにかできる確率はどれくらいと見てる?」

「現代における天気予報の的中確率くらいだな」

「いやよく分からんたとえだな……高いのか? 低いのか?」

「統計的には80%強と言ったところか」

「いや今度は高っ!」


再び修也は塔次の推測に突っ込みを入れる。


「いやそれでも低いくらいですよ。修也さんなら絶対できますって!」

「は、はい……先輩なら、できるって……わ、私も……思います……」

「だよねぇ。土神くんはどんな難しいことでも平然とやってのけてるんだから」


そんな修也に蒼芽・詩歌・華穂が真っ向から否定する。


「いやそう言われてもだな……今回は専門外だし」


そう言って修也は困ったような表情をしながら頭をかく。

今までの事件とは違い、今回はただの球技大会だ。

しかも修也にソフトボールの経験はない。

なのにそんな多大な期待を寄せられても応えられるか分からない。


「まぁうまくいかず負けたところで命を取られるわけでもない。変に気負う必要は無いだろう」

「うーん……」

「しかし土神は何だかんだ言ってもやってのけるやつだと俺は確信しているぞ」

「変なプレッシャーかけんな!」


無駄に良い笑顔で肩を叩く塔次に修也は食って掛かる。


「とりあえずそれは置いといて、この回の守備もきっちり抑えて来い」

「あ、そう言えばこれから俺たちの守備だったな……」


塔次に言われ現状を思い出した修也は自分の守備位置につくのであった。



2回裏、2-Eの攻撃は4番から始まる。

バッターボックスに立ったのは……


「……やっぱりと言うか何と言うか……相川が4番かよ」


修也は自分の守備位置からバッターボックスで構える瑞音を見やる。


「ククク……見てろよ土神……! さっきは後れを取ったが今回はそうはいかねぇぜ!」

「いや直接対決する訳でもないのにそんなこと言われても」


口角を上げて笑いながら睨みつけてくる瑞音に修也は呆れた目線を返す。

修也のポジションはピッチャーではなくショートだ。

直接対決するには無理がある。

まさか修也のいる所に弾丸ライナーを打ち込んでくるわけでもないだろう。

そんなことをしても何にもならない。


「…………よし、来い!!」


気合いも十分に瑞音はバットを構える。

それに合わせてピッチャーも構えてボールを投げる。


「…………土神や霧生の馬鹿みてぇに広い守備を突破するには……これが一番簡単だ!!」


そう言いながら瑞音は力強く踏み込んで投げられたボールを迎えうつ。


「! まずい霧生、下がれ!!」


瑞音の目的をいち早く察した修也は戒に下がる様に指示を飛ばす。


「うらぁっ!!」


しかしそれでどうにかなる問題ではなかった。

瑞音のフルスイングはしっかりとボールの真芯を捉えた。

ボールは高々と舞い上がり、内野どころか外野も越えたところに落ちた。

文句なしのホームランだ。

それを見た2-E陣営から歓声が上がる。


「はーーっはっはっは!! どうだこれならどれだけ守備範囲が広くても関係ねぇだろ!!」


瑞音が笑いながらダイヤモンドを一周していく。


「悪いな土神、この試合は勝たせてもらうぜ!!」


修也の前を通る時にそう言葉を残していく瑞音。


「…………完璧にやられたな、こりゃ」


走り去っていく瑞音の背中を見送りながら修也はため息と共に呟く。

確かにこれならどれだけ守備範囲が広くても意味が無い。

流石にホームランボールをキャッチできるような跳躍力は修也も戒も持ち合わせていない。

3塁を回った瑞音はホームベースを踏み、2-Eの面々に歓声と共に迎え入れられていた。


「相川さん凄ーい! ナイスバッティング!!」

「へへ、サンキュ。流石に場外は無理だが普通にホームランくらいは何とかなりそうだったからな」

「いやそんな簡単なもんじゃないって。これならもしかして俺たち勝てるんじゃね?」

「うんうん! 霧生君は相川さんが抑えてくれるし、土神君1人だけなら打たれても何とかなるみたいだし!」


あのC組に勝てるかもしれないということでE組の面々は色めき立つ。


「……いや、油断はしちゃいけねぇ。こういう勝てるかもしれないと思い始めた時が一番ヤベェんだ」


そんなクラスメイトたちに対して瑞音は釘を刺す。


(……実際、この前の土神とやりあった時もそこで一気にひっくり返されたからな……)


瑞音は先日の修也との立ち合いを思い出す。

あの時も好機と見て攻めに出たら見事にその隙を突かれた。

同じ轍を踏むことが無いように、瑞音は決して気を緩めない。


「でもさ、もう負ける要素無いんじゃあ……?」

「勝負ってのは何があるか分からないのが世の常だ。大体今は2回裏でまだ序盤だ。気を緩めたら勝てるもんも勝てなくなっちまう」


異を唱えてくるクラスメイトに瑞音は首を横に振る。


「…………そうだな。この貴重な1点を絶対に守り抜こう!」

「おーっ!!」


気を引き締め直したE組の生徒たちは手を合わせ掛け声をあげる。


(…………さて、どう出る土神? お前はここで終わるようなやつじゃねぇだろ?)


そう思いながら修也を横目で見る瑞音。

そこには信頼にも近い期待があった。



「すまん! 俺のせいで……」

「いやお前のせいじゃないだろ。まさか相川にあそこまでの力があったとはなぁ……」


瑞音の後の3人をきっちり抑えた後、C組の待機場所で謝るピッチャーをやっていた生徒にねぎらいの言葉をかける修也。

初対面の時にやたらと鍛えこんでいる印象は持っていたが、まさかここまでだとは修也も思っていなかった。


「まぁまだ2回が終わったところだし逆転のチャンスはいくらでもあるだろ」

「いや……実質1回しかないんじゃあ……? 後1回しか土神に打順が回ってこないし」


この球技大会では試合数をこなすために1試合は5回までで引き分けによる延長も無い。

修也は3番なので確かに少なくとも後1回は回ってくるが……


「やる前から諦めてんじゃねぇ。俺以外が打てるかもしれないだろ。確率ってのは100か0でない限り可能性はあるんだ」

「そーそー確率10%程度なのに当たることもあるし、90%なのに外すこともある。確率ちゃんと仕事しろよ! ってテレビ画面に向かって叫んだことは1度や2度じゃないよ」

「何の話してるんですか先生」


途中から話に混ざってきてよく分からないことを言い出した陽菜に修也は突っ込む。


「あれさぁ、絶対表示上の数値と内部処理の数値が乖離してるよね。でなきゃヒット率86%を何度も外したりするわけないでしょ!」

「分かります、分かりますぞ陽菜教諭! それでこちらの計画が崩された時の苛立ちと言ったらもう……!」

「そのくせ敵の低確率の攻撃は見事に当たってしまいリセットするまでがお約束ですわね!!」


黒沢さんと白峰さんは何のことか分かるらしく陽菜に同調する。


「そう! そうなんだよ!! 分かってくれるかい2人共!! 確率はどこまで行っても確率でしかないのは分かってるさ! でも私は声を上げずにはいられない! なんであんな低確率なのに当たるのさ!! 絶対何か裏で操作されてるんだよ!!」

「……それは低確率を引き当てたというインパクトが印象に色濃く残ったせいでそう思うだけですって」

「だから私は同僚の数学教師に物申しに行ったんだよ! お宅の確率どうなってんですかー! ……ってね!!」

「それクレームつける先が違うでしょ。そんなこと言われたって数学の先生にはどうしようもないでしょうに」


言いたい放題やりたい放題な陽菜に呆れるしかできない修也。


「だからさ、確率なんてのは当てにならないよ! さっき土神君が言ってたでしょ。100か0以外は信じちゃいけない、たとえ99%だろうとも裏切られる時は裏切られるんだよ!!」

「いや俺そんなネガティブなニュアンスでは言ってないんですが」


言ってることはさっきの修也とほぼ同じはずなのに陽菜の言い方では受け取る印象が正反対だ。

励ましのエールとしては完全に間違っている。


「ホントにこの人はいつも相変わらずな…………あ」


相変わらずフリーダムな陽菜の言動に頭を抱えかけた修也だが、ふとあることに気付く。


「ふふん、気付いたかな土神君? そう、いつも通りで良いんだよ。いつもと同じことをやっていれば普段通りの実力が発揮できる。それがベストなのさっ!」

「…………ホントこの人はいつもいつも……」


ふざけているように見えて要所できちんと生徒のことを見ている。

どうすれば生徒たちの実力を十全に発揮できるか考えている。

それが陽菜という人物像なのだ。


「……よし、確率だのなんだの難しいことを考えるのはやめよう。俺たちはいつも通りで良いんだ」

「よっしゃ任せろ! そういう分かりやすいのは得意だぜ!!」


修也の言葉にまず戒が力強く乗ってくる。


「そうだな、やれることをやれば良いんだ!」

「そうすりゃ結果はついてくる!」


そして他のクラスメイトも次々と続いてきた。


(……悪くないな、こういうのも)


クラスが一丸となって協力しあい、そこに自分が入れていることに修也はどこか満ち足りた気持ちになる。


「ふおおおおお!! スポコンものの少年漫画によくある胸アツ展開! 漲ってまいりましたぞおおぉぉ!!」

「ほあああああ!! 殿方たちのアツい友情! 堪りません! 堪りませんわああぁぁ!!」

「……何かあの2人が奇声をあげてビクンビクンしてるんだけど」

「……気にすんな。あれもある意味いつも通りだ」


おかしな方向にテンションを上げている黒沢さんと白峰さんは放置を決め込むことにした修也であった。

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