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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第4章

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第4章 第28話

「こうやって土神と昼飯食うのも何だか久しぶりだな」

「確かにな。転入直後以来か?」


午前の授業を終えて、修也は彰彦と学食に来ていた。

修也1人だけだとあっという間に人に囲まれてしまうが、誰かと一緒にいる時はそうでもない。

どうやら修也のプライベートな人付き合いの邪魔はしないという謎の暗黙の了解が生徒たちの間で取り決められているらしい。

今もちらほらと視線を向けてくることはあるが、詰め寄ってくることはない。

よく分からない所で空気の読める人たちである。

2人は掲示されているメニューをしばらく眺めてから、修也はチキン南蛮定食、彰彦は日替わり和定食を注文した。


「……これ、また明日以降学食ではチキン南蛮定食がアホみたいに売上伸ばすんだろうか……」

「あー……その可能性は十二分にあり得るな……」


以前唐揚げ定食を頼んだ時は翌日の唐揚げ定食の売り上げが史上最高になったと後で聞いた。

その時は修也の人気っぷりは1-Cだけだったからまだ可愛いものだったが、今は学校全体である。

今回はどうなるのか想像もつかない。


「下手したら材料が枯渇してしまうんじゃぁ……? そして品切れで注文できなくなって暴動が……」

「いや、流石にそこまでは……どうなんだろう?」

「だーいじょうぶよぅ、そうなることを見越して材料の発注を多めにしておくから!」

「え?」


修也と彰彦がそんな会話をしていると、横から違う声が飛んできた。

横に視線を向けると、そこには学食のレジをしているおばさんの姿があった。


「お兄ちゃんの噂は私たちにまで届いてるわよ? 人気者ってのも大変ねぇ」

「いやホントに。どうしてこうなったのやら……すみません、学食も大変なことになるんじゃないですか?」


明日以降しばらくは学食に生徒が大挙して押し寄せてくる可能性もある。

そうなると学食で働いている人たちの忙しさはいつもとは比べ物にならない程になるだろう。


「良いのよそれくらい。これが私たちの仕事なんだから」

「いや、そうは言っても……」

「子供がそんなこと気にしないの! こういう忙しさなら大歓迎よぉ!!」


そう言って豪快に笑うおばさん。


「という訳で、はい! お兄ちゃんには1つおまけしちゃうわ!!」


そう言っておばさんは修也の持っているトレイのチキン南蛮の皿に一切れ追加する。


「何が『という訳』なのか分かりませんが……良いんですか?」

「良いのよぉ! きっと明日からしばらく大盛況だからこれくらい余裕でペイできるわよぉ!!」

「まぁそう言ってくれてるんだから貰っとけば?」

「それじゃあお言葉に甘えて……」


修也はおばさんに軽く頭を下げ、会計を済ませて(と言っても100%引きで0円なのだが)空いている席を探す。


「……おっ! 土神と仁敷じゃねーか! こっち空いてるぞー!」


そんな修也の視界に、先に来ていた戒がそう言って大きく手を振る姿が入ってきた。


「早いな霧生。もう来てたのか」

「おうよ、4限目終了のチャイムが鳴り始めたと同時に教室を飛び出したからな!」

「せめて鳴り終わるまで待てよ……」

「たった十数秒が待てんのかお前は」


そう呟きながら戎の向かいの席に座る修也と彰彦。

と、そこで1つ修也は気になることができた。


「……なぁ仁敷、霧生のトレイの丼が既に1つ空になってるように見えるのだが……俺の目はおかしくなってしまったのか?」

「安心しろ土神、お前の目は正常だ。俺にも見えるからな」


修也と彰彦は4限が終わった後すぐに学食にやってきた。

なのに戒は既に大盛り(だったと思われる)丼を1つ空にしてしまっている。

いくら学食のおばさんと少し雑談していたとはいえ、これは早すぎる。


「……ホント早いな霧生……」


あまりにも早い戒の食事スピードに呆れるしかない修也。


「仕方ないだろ腹減ってたんだから」

「落ち着いて食えと言ってるんだ。早食いは体に悪いぞ」

「仕方ないだろうまいんだから」

「理由になってねぇよ」


交代で戒に突っ込んでいく修也と彰彦。


「まぁ……限られた時間でそれだけ食おうと思うなら自然と早食いになるのかもな」

「そうそう、そういうことだよ!」

「そもそも食う量を抑えようという気は無いのか」

「そんなことしたら腹減りすぎて午後の授業が集中できねぇよ」

「ちゃんと食っても聞いてないだろお前」


そんな雑談を交わしながら修也たちはそれぞれ食事を進めていく。


「あ、そういや土神、朝氷室と一緒に教室を出てたけど何やってたんだ?」


食事も中頃に差し掛かったあたりで彰彦がおもむろに修也に尋ねてきた。


「あー、あれな……」


別に隠しているわけでもないのだが、話すと厄介ごとに巻き込むことになる。

優実たちや塔次はなんだかんだで自衛できそうなので普通に話したが、彰彦は超が付くほどの一般人である。

下手に巻き込んで取り返しのつかないことになったら笑えない。


「あー……話しにくいことなら無理には聞かないけど……?」


修也が言葉を詰まらせたのを見て、ただ事ではないことを察した彰彦がそう付け加える。


「いや、うーん……せっかくだしこれだけは聞いておこうかな」

「何だ?」

「俺さ、こっちに引っ越してきてからまぁ……色々あったよな?」

「あぁ……『色々』の一言で片付けてはいけない気がするがな」


修也の言葉に深く頷く彰彦。


「その色々を見て俺のことをどう思ったのか、率直な意見を聞きたい」

「スゲェと思う!」


修也と彰彦の会話に戒がそう割り込んできた。


「めっちゃシンプル!?」

「だってそうだろ? 実際スゲェんだから!」

「いや語彙力。でもまぁ霧生の言いたいことも分かる。あの立ち回りはスゲェとしか言い様がない」


戒の語彙力の無さに呆れつつも、彰彦も戒と同意見のようだ。


「そうか……で、あれを見て引いたり気味悪いと思ったりは……」

「? 何でだ?」


修也の問いかけに対して意味が分からないと言わんばかりに首を傾げる戒。


「あれのどこが気味悪いんだ? 意味が分からん」


というか実際に言った。


「それよりさぁ、また試合しようぜ! 土神と立ち合うの面白いんだよなぁ!」

「おいおい、そんなだから脳筋って言われるんだろうが……まぁそれは置いといて、前にも言ったと思うけど俺も別に引いたりはしないな」


彰彦も修也の問いに対して否定の意思を見せる。


「それじゃあ今の俺が置かれてる状況は……」

「スゲェと思う!」

「小学生かよ!?」

「それしか無いのかお前は」


修也の次の質問にも全く同じ回答をする戒に同タイミングで突っ込む修也と彰彦。


「まぁ猪瀬が学校全体で嫌われてたからなぁ……それを成敗したってことで相対的に土神の人気が上がって今の状況ってわけだし」

「ホントスゲェよな! もう土神の人気はハンパねぇな!」

「俺もここまでになるとは思わなかった……その結果男女学年を問わず注目を浴びることになったわけだが」

「あ、それはあまり羨ましくない」

「俺も」


今度は首を横に振る戒と彰彦。


「どこにいても注目を浴びるって気疲れがハンパなさそうだし」

「そうなんだよなぁ……一挙手一投足を見られてる感じがして」


そう言って修也はため息を吐く。

ここまで自分の何気ない行動が周りに大きな影響を与えるとなると気を遣わずにはいられない。

引っ越してくる前とは違う意味で人目が気になるようになってしまった。


「……なるほど、つまり土神は今のこの落ち着かない状態をどうにかしたいってことか」

「まぁそれもあるんだが……皆が口を揃えて俺を称賛するってのがどうにも……」

「あぁそういうことか。土神のことを妬んだり恨んだりする奴が出かねないってことだな?」

「妬む? 恨む? 何で?」


状況を察した彰彦に対し、戒はさらによく分からなさそうな顔をしている。


「世の中凄いものを素直に凄いと手放しで褒められるやつだけじゃない。人間ってのはな、周りから賞賛を浴びているやつを見るとそれを僻んだりやっかんだりするような捻くれたのが必ず出てくる生き物なんだよ」

「え、えらく達観してるなぁ……」


やたらと重みを感じさせる彰彦の言葉に少々狼狽える修也。


「まぁ俺にも色々あるわけよ……」

「あー……うん、そうだろうなぁ」


何やら哀愁が漂い出した彰彦に対して修也は当たり障りなく相槌を打つ。

恐らく彰彦の言う『色々』にはほぼ爽香が関わっていると思われる。

となると彰彦の苦労はただ事ではない。

軽々しく触れてはいけない気がする。


「俺のことは置いといて……霧生にも分かりやすく言うなら、何かの試合で優勝したやつを後からグチグチと恨み言を言うやつは必ず出てくるだろ? ……ってことだ」

「はぁ? そんなのそいつの努力が足りないだけだろ。もっと鍛えろよ!」

「そして霧生は霧生で実にシンプルだなぁ」


清々しいほど単純明快な戒に修也はある意味感心する。


「まっ、そんなのいちいち気にしてたらキリがない。相手にせず無視しとけば良いさ。言いたいやつには言わせておけば良いんだ」

「そうそう、そんなことよりメシだメシ! 俺おかわり持ってくる」

「まだ食うのか!?」

「というかいつの間に食ったんだ!?」


話し始めた時はまだそこそこ残っていたはずなのに気がつけば戒の周りの丼は全て空になっていた。


「あぁ、何か久しぶりだなこのリアクション……最近は一緒にメシ食うのは美穂さんとってことが多いから」

「まぁそうだろうなぁ……」


何せ2人共かなりの大食いだ。

この程度ではお互い驚きもしないのだろう。


「とりあえず……美穂さんとはうまく行ってるようで何よりだ」


修也は適当に頷きながら話を纏めるのであった。

現実逃避ともいう。



「……結局めぼしい新情報は無かったな……」


授業も終わり放課後になったので修也は帰るために廊下を歩きながら考える。

一応塔次の目撃情報は得られたものの、『太っている男』だけでは特定のしようがない。

動機についても不明瞭なままだ。

いくら自分のことを良く思わない人間が1人か2人くらいいる方が自然だと言っても、理由なしにそんな感情を持たれるいわれは無い。

修也の今までの行動が気に食わないからこんなことをしでかしているのだろうが、具体的なことは何も分からない。


「うーーん……」


彰彦が言っていた通り修也がやたらと持ち上げられている現状を妬んでいるのが理由なのか。

それとも塔次の言う通りそれとは関係ない別の所から原因が来ているのか。

だとしたらそれは一体何なのか。

今までとは違い敵対する相手がハッキリしないので対策も取りづらい。

一応優実を通じて警察に相談はしているが、これは何か起きた時に対応をスムーズにするためであり、事前の対策とは言えない。


「あっ、修也さーん……?」


そんな修也を待っていたのか玄関に立っていた蒼芽が修也を見つけて近寄ってきたが、考え込んでいる修也を見て首を傾げる。


「ん……あぁ蒼芽ちゃん」

「何か悩んでるみたいでしたけど……手紙の件ですか?」

「まぁなぁ。やっぱ気になるものは気になるんだよ。相手の正体も目的もハッキリしないから」

「確かに……あの手紙を出した人が何がしたいのか、修也さんに何をしてほしいのか全く分かりませんね」

「恨みを持たれるようなことはしてないはず……引っ越してくる前みたいな理不尽な理由だった場合はどうしようもないけど」


人助けをしたのに腫物に触れるような扱いをされたのは今考えても理不尽以外の何物でもない。


「当然です! 修也さんは何も悪いことしてないんですから」

「……! そうか……もしかしたら……」


憤る蒼芽を見て修也は1つ可能性が思い浮かんだ。


「? 何か閃いたんですか修也さん」

「なぁ蒼芽ちゃん。俺のやってきたことって非難されるようなことじゃないよな? 人のためになることだよな?」

「当然です! 修也さんのしたことは世のため人のためになることです!!」


修也の問いかけに蒼芽はそう力強く断言する。


「でも……俺のしたことが原因で都合が悪くなるやつがいたとしたらどうだろう?」

「え……? いないでしょうそんな人。修也さんのおかげで変な事件が起きても被害がほぼゼロに抑えられたんですよ? それで都合が悪くなる人って……」

「その変な事件を『起こす側』の人間からしたらどうだ?」

「あ……」


修也の言葉にハッとなる蒼芽。


「……なるほど。普通の人からすれば称賛されるようなことでも悪事を働こうとする輩から見れば、その悪事の影響と自身が享受するはずだった利益をほぼ消してしまう土神の存在はまさに目の上のたんこぶ状態という訳か。なかなかいい着眼点ではないか」

「ん? ……氷室?」


いつの間にか2人の横に立っていた塔次が会話に混ざってきた。


「となれば『調子に乗るな』という文言にも説得力が出る。『天罰が下る』という文言も暗に危害を加えるというニュアンスが出てくるな」

「あれ? 修也さん、氷室さんに経緯を話したんですか?」

「話したというか感づかれたというか……」

「ふっ……俺程にもなればその程度の察知は造作も無い」


気取る塔次に修也が呆れていると……


「……あっ! つ、土神先輩、蒼芽先輩、氷室先輩ーーー!! た、大変ですーー!!!」


校門の外から亜理紗が慌てて駆け込んできた。

息も絶え絶えの様子であることから、ここまで全速力で走ってきたと思われる。


「何だどうした騒々しい。少し落ち着いたらどうだ」

「お、お、落ち着いてなんていられませんよ! 未曾有の緊急事態なんですよ!!」


そう言う亜理紗の表情にふざけた様子は無く真剣そのものである。


「……あれ? 長谷川さん、由衣ちゃんはどうしたの?」


由衣がこの場にいないことに気づいた蒼芽が亜理紗に尋ねる。

確かにいつもなら亜理紗よりも先にやってきて修也に死角から飛びついてくるのに今日はそれが無い。


「そ、その由衣のことなんです! 由衣が……由衣が誘拐されてしまったんですよ!!」

「…………はぁっ!?」


亜理紗からもたらされた衝撃の事実に修也は耳を疑い大声をあげてしまうのであった。

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