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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第4章

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第4章 第21話

「ん~~~~っ……朝か……」


由衣が亜理紗を連れて高校までやってきた週の土曜、修也はいつもの時間に目を覚ましていつもの時間に起き上がった。


「……にしても長谷川の奴……ホントに諦めず毎日来たな……」


修也は今週の亜理紗の行動を思い出して軽くため息を吐く。

あれから亜理紗は自分で宣言した通り、全く諦める気配すら見せず塔次になぞなぞ勝負を挑んできたのだ。

とある日は……


『トラックの荷台にスイカ・カボチャ・トマトが乗っています。急ブレーキで落ちたのは?』

『スピードだな』

『うっ! これも迷い無く即答ですか!?』

『では俺の番だな。500円持って250円のスイカと120円のカボチャと100円のトマトを買ったが釣りが貰えなかった。何故か?』

『えっ……合計470円なのに? ……店員が計算を間違えたとかですか?』

『そんなわけあるか。釣りが出ないように金を出したからに決まっているだろう。俺は500円玉とは言ってないぞ』

『……あっ!? 合計500円持ってたってことですか!』


また別の日には……


『太郎君は風邪を引いたので病院へ行きました。途中牛がモーと鳴いて蝶がひらひらと舞っていました。さて、太郎君の病名は?』

『風邪だろう? 最初にそう言ったではないか』

『うぐぅっ!? これも引っかからないなんて……!』

『では俺の番だ。2束と3束の花束を合わせたら何束になる?』

『そんなの5束に決まってるじゃないですか!』

『不正解だ。正解は1束。全部一纏めにするのだからそうなるのは明白だろう』

『あああぁぁぁっ!? し、しまったあああぁぁぁ!!』


……とまぁこのようにもれなく全て返り討ちに遭っているわけだが。


「あの諦めの悪さとメンタルの強さはある意味評価に値するが、もっと他の所で使えば良いのに……」


無駄に根性のある亜理紗の行動に少々呆れ気味の修也。

まぁ修也自身に何か影響がある訳でもないので必要以上に介入する気は無いし放っておいても何も問題は無い。

なので修也はこの件に関しては傍観を決め込むことにする。


「……さて、今日は土曜日だから蒼芽ちゃんはまだ寝てるかな。先に朝飯食ってから蒼芽ちゃんを起こして……」




こんこん




『修也さーん、起きてますか?』


気を取り直して今日のこれからの行動を修也が確認していると、ドアのノックと共に蒼芽の声が部屋の外から聞こえてきた。


「……あれ?」


休日の朝なのに蒼芽がいつもの時間に起こしに来るという普段とは違う現象に修也は首を傾げるのであった。


『……あれ? 修也さーん、まだ寝てますかー?』


修也の反応が無いことを不思議に思ったのか、蒼芽が再びドアをノックして声をかけてきた。


「ああいや……起きてる、起きてるぞ」


蒼芽の呼びかけに返事をして修也はドアを開ける。


「あ、起きてたんですね。おはようございます修也さん」

「おはよう蒼芽ちゃん。今日はどうしたんだ? 土曜日なのにいつもの時間に起こしに来るなんて」


修也の疑問ももっともだ。

蒼芽は学校のある平日は早起きなのだが、週末の土日は起きるのが遅い。

とは言え1時間程度の違いなのでそこまで大幅にズレるわけでもないのだが、それでも今はまだ寝ている時間のはずだ。


「いつまでも修也さんにだらしない姿を見せるわけにもいきませんから」

「いや別にそんな風に思ったこと1度も無いけど……」

「……って胸を張ってそう言えたら良かったんですけど、実際の所長年の生活リズムを変えるのはそんな簡単な話ではないですね……」

「あーうん、それは分かる」


修也に至っては土日だけ生活リズムを変えるということすらできないのだ。

それができるだけ蒼芽の方が器用であるとも言える。


「まぁそれはさておきまして、今日はいつもの土曜日とは事情が違うという理由があるんです」

「事情?」

「はい。実は今日、中等部で体育祭があるんです」

「え、そうなの?」

「そうなんです。なので由衣ちゃんの応援に行こうかと思いまして」

「はぁー、なるほど……でも大丈夫なのか?」

「え? 何がですか?」


疑問顔で尋ねる修也に蒼芽は首を傾げる。


「そういうのって保護者とか身内しか入れないイメージがあるけど」

「あ、はい。確かに関係者以外は入れませんね」

「じゃあ無理なんじゃあ……? 保護者じゃないし身内ともちょっと違うだろうし」

「大丈夫ですよ。私は高等部に在籍していますので関係者扱いになるんです」

「あ、そうなんだ」


中等部と高等部の経営者が同じ学校だとそういうこともあるのかと修也は蒼芽の説明に納得する。


「修也さんはどうしますか? 修也さんも高等部在籍なのでもちろん入れますよ」

「そうだな……せっかくだし行ってみるか」


修也は中等部には在籍していなかったが、由衣が出るというのであれば応援に行く意味は十分ある。


「はいっ! では体育祭は9時から始まりますので、それまでに準備をお願いしますね」

「分かった……ん? それだったら別にいつもの時間に起きてても間に合うんじゃあ……?」


9時開始なのであれば8時半位に家を出ても十分間に合う。

それに加えて修也たちは別に開始時間に間に合わなければならないという訳でもない。

それならばいつもの蒼芽の週末の起床時間でも余裕があるはずだ。


「ほらアレですよ。遠足の当日って楽しみで早く目が覚めちゃうって経験無いですか?」

「あー……何か特別なイベントの日ってそうなるよな。でも蒼芽ちゃん当事者じゃないだろうに」

「あ、あはは……」


修也の言葉に苦笑する蒼芽。


「よーしじゃあさっさと朝飯食って中等部へ行くかー!」

「いやそんな急ぐ必要無いですよ? なんだかんだ言って修也さんも楽しみにしてるんじゃないですかー!」


軽い口調でそう言う修也に合わせて蒼芽も軽口を叩く。

2人は和気藹々とした雰囲気で階段を下りて食卓へ向かった。


「おはようございます修也さん。蒼芽も今日は早いのね」


食卓では紅音が朝食の準備をしていた。


「おはようございます紅音さん」

「おはようお母さん。今日は中等部で体育祭があるから由衣ちゃんの応援に行こうと思って」

「あらそうなの。修也さんも行くんですか?」

「はい、俺が行っても大丈夫らしいのでせっかくですから行ってみようと思います」


紅音の問いかけに頷く修也。


「……なるほど。修也さんは中等部でも人気者になりに行くんですね?」

「はい!? いやそんな意図は微塵もありませんよ!?」

「大丈夫なの蒼芽? 競争率がまた上がるけど勝算はあるの?」

「何言ってるのお母さん!?」


またしてもとんでもないことを言い出す紅音に慌てる修也と蒼芽。


「……と言うか、今まで紅音さんがそういうこと言い出すと現実になってきてるのが恐ろしいんですが」


車で撥ね飛ばされた件や学校中の人気者になった件も事前に紅音によるフラグっぽい発言があったのを修也は思い出す。


「えっ……ということはやはり修也さんは中等部でも人気者に……?」

「いや流石に無いだろ。いくら何でも関わり合いが無さすぎる」

「うふふ、私のゾルディアス流予言術を甘く見てもらっては困りますよ?」

「何か段々胡散臭くなってきてませんかその流派……」


また増えた紅音の自作謎流派にため息を吐く修也であった。



「えぇと……今日は中等部に行くからこっちだな」

「はい。ここが中等部と高等部の分岐路です」


途中までいつもの通学路を歩いてきた修也たちだが、途中でいつもとは違う道に入る。


「……何だろう、いつもと違う道に入るこの特別感」

「あはは、確かにそうですね。いつもと違うことをするとちょっと特別感が湧いてきますよね」


修也の呟きに蒼芽が笑って返してくる。


「うん、いつもと同じで変わらないって言うのも良いんだけど、これはこれで新鮮味があって良いよな」

「変わらない良さ、ですか」

「そうそう。こうやって蒼芽ちゃんと一緒に歩き回るっていうのももはや定番と言っても良いんじゃね?」

「そうですねぇ。毎日一緒に登校して、時間が合えば一緒に下校してますし、休日も一緒に出掛けることが多いですからね」

「引っ越す前ではとても想像すらできんな、今の生活は」


引っ越す前は1人で登下校など当たり前で、下手すると外では一言も話さないで1日が終わるということもあった。

それが今は蒼芽のような可愛い女の子と一緒に生活をして、騒がしくも楽しいクラスメイトに囲まれている。

詩歌や華穂の様に学年が違う知り合いまでできた。

美穂や由衣・亜理紗に至っては学校すら違うのである。

引っ越す前と後との生活の違いは雲泥の差と言って良いだろう。


「……私思うんですけど、今の修也さんの生活が優遇されてるんじゃなくて、引っ越してくる前の生活が不遇すぎたんじゃないんですか?」

「え?」


不意に出た蒼芽の言葉に修也は虚を突かれる。


「だってそうじゃないですか。お話を聞く限り修也さんは何も悪いことしてないでしょう? なのにあの扱いは納得できません!」


先日の話を思い出したのか、蒼芽は眉を吊り上げながらそう言う。


「じゃあ蒼芽ちゃん的には今の方が普通だと?」

「普通……とは言い難いですけど、今の方が正当だと私は思います」

「あぁやっぱり普通とは言えないのね」

「まぁそれは……」


修也の言葉に今度は眉尻を下げて困り顔で笑う蒼芽。


「でもそれは仕方ないか。やったことが普通じゃないし」

「はい……普通かと問われたら……」


確かに普通は銃弾を素手で弾いたりはしない。

大型トラックに撥ね飛ばされて無傷だったりもしない。

1人で多数を相手に圧倒したりもしない。


「だからこそ、それを何でもないことの様に受け止めてくれた蒼芽ちゃんと紅音さんには感謝しか無いよ。ありがとな」

「あっ……はい!」


そして今度は表情を綻ばせる蒼芽なのであった。



「あ、ちょうど開会式が終わったところですね」


修也と蒼芽が中等部の校門をくぐりグラウンドに着くと、理事長が設置された高台で開会宣言をしたところだった。

開会式が終了したことで生徒たちは待機場所へと引き上げていっている。


「えっと由衣ちゃんは3年だから……あの辺かな」


修也は受付で渡されたパンフレットを見ながら由衣がいるであろう場所のアタリをつける。


「あっいましたよ修也さん。あそこです」


そう言って蒼芽が指さした先には確かに由衣がいた。

由衣も修也たちに気が付いたようで笑顔で大きく手を振っている。

修也もそれに応じて手を振り返した。


「さて、じゃあ観客席に行って……」

「あれ、土神君じゃん。どしたのこんな所で」


観客席で由衣の応援をしようとした修也の耳に聞き慣れた声が響いてきた。


「……藤寺先生?」


声のした方を見ると、そこには陽菜が立っていた。


「舞原さんもいるってことはデートかい? だったらもっと良い場所があると思うんだけどねぇ」

「違いますよ。近所に住んでる子の応援に来たんです」

「あぁ、そういうことね」

「先生こそどうしてここに? ここ中等部ですよ?」


理事長がいるのは別に不思議でも何でもないが、高校教師の陽菜が中等部にいるのは不自然である。

なので修也はそう尋ねてみる。


「私は体育教師だからね。こういう体育系のイベントだったら何か役に立てるでしょ。そこに中等部も高等部も関係無いよ」


さも当たり前のように言ってのける陽菜。

そこだけを聞けば立派な教師に聞こえるが……


「……で、本音は?」

「中等部の子たちのブルマ姿を見れる希少な機会をこの私がみすみす見逃すとでも?」

「だと思ったよ!」


全く隠す気も無くぶっちゃける陽菜に突っ込む修也。

高等部と同様に中等部も女子の体操服はブルマなのだ。

ならばあの陽菜なら何かしらのアクションを起こしたとしても何もおかしくはないと修也は予想していたのだ。


(……かつてこれほど的中しても全く嬉しくない予想があっただろうか……いやきっと無い)


額に手を当て首を振りため息を吐く修也。


「でもまぁ一応さっき言った理由も嘘じゃないよ? ウェイトの比率の問題さ」

「どうせ1:9くらいなんでしょ?」

「おいおい土神君、私を見くびってもらっちゃ困るなぁ」


修也の予想にちっちっと指を振る陽菜。


「0.5:9.5くらいだね!」

「まさかの小数点!」

「だってさぁ、怪我人の対応とかは中等部の保健教諭がいるんだし、私の出る幕無いんだもん!」

「じゃあ何しに来たんですか」

「将来有望そうな中学生ブルマ女子を脳内メモリーに焼き付けるためだよ!」

「帰れ!!」


胸を張って言い切る陽菜をバッサリと切って捨てる修也。


「いやまぁ有事の際に応対するのはホントだからさ。学校にもちゃんと許可とってるし」

「…………まぁ、学校の許可が出てるなら俺からはもう何も言いませんけど……」


陽菜は普段全力でふざけ倒しているがやる時はやる人だ。

もし何かあった時に先陣切って動くという言葉に偽りは無いだろう。

もちろんそんなことが万が一にも無い方が良いのではあるが。


「それじゃあ2人共今日はゆっくり楽しんでいきなよ。じゃーねー!」


そう言って陽菜は手を振り立ち去って行った。


「ホントブレないなあの人は……」

「あの……修也さん?」

「ん?」

「藤寺先生のあの服装は……」

「ダメだ蒼芽ちゃん、それは突っ込んだら負けなやつ」

「は、はぁ……?」


修也に止められた蒼芽は戸惑った顔で小さくなっていくブルマ姿の陽菜を見送るのであった。

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