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7.ランクと衝撃の事実

「上位十人に与えられる権限は様々あるが最も価値のある物は大きく二つ。まず一つ目は図書館の閲覧禁止区域への立ち入り許可。俺も入ったことはないから人伝えだが、そんじょそこらじゃお目にかかれない魔法具や書物が保管されているらしい。それこそ魔道書だってあるかもな」


 シャーリィの眉がピクっと反応する。


「まぁ魔道書って言ってもおそらく複写本だとは思うがそれでも十分知識と力は得られるだろうよ」

「複写本? 本物じゃないの?」


「お前……それも知らねえのかよ。複写本ってのは名前の通り本物の魔道書をコピーしたいわゆる偽物だ。本物とは天と地ほどの差があるが、そこいらで売ってる魔道具なんかよりも遥かに価値が高いし能力も桁違いだ」


「本物の魔道書ってのはどんな物にしろそこにあるだけで必ず災いを呼ぶ。だから本来は厳重に封印が施されて保管してあるんだ。けどそれじゃせっかくの魔道書の英知が無駄になる。そこで先人たちによって考えられたのが本来の能力を持たせることなくただ内容を写しただけの複写本だ。まぁどうしてもその文字を写しただけである程度の力は宿るらしいけどな。魔道書自体が魔法使いの人生そのものだし、ある種の呪いみたいなものだと言われてる」


 災い……呪い……、と何やら恨めしそうな表情でシャーリィが呟く。


「それでもう一つは?」

「討伐遠征への参加だ」


 また自分の知らぬ単語が飛び出しシャーリィは本日何度目かの首を傾げる。

 討伐遠征とは大きく分けて三つの目的で行われる。一つはキュリアバルト王国からの依頼や近隣国からの依頼。こちらは魔物の討伐が主である。この世界には魔力を体内に内包する生物がおりそれらを総称して魔物という。存在し得るほとんどが知性を持たない魔物たちは自身の感情や欲に身を任せ、時折自らの領域を超え人間に被害をもたらす。


 これを対処するためにイシュティアルへと依頼が送られ、好都合とばかりに実戦形式の授業として多くの生徒たちへと討伐任務を受けさせている。

 この討伐に関しては先日アッシュが借金を負ったものがそれで、上位ランクにならずとも申請を通せば誰でも参加が可能なのだ。


 二つ目は学院に害を為すものたちの排除を目的としたもの。

 これに関しては簡単に説明が出来る。


「魔道書を狙う敵の討滅だ。情報を手に入れ次第その集団の元に向い敵を討つ。魔道書を欲しているやつなんてそこら中にいる。魔道書なんて規格外の力を国が手に入れれば自分の欲望なんてすぐに叶うだろうさ。それこそ他国を手に入れるための戦争で使ったりな……」


 僅かにアッシュの顔に影が差す。だがそれも一瞬ですぐに表情を元に戻した。

 討伐遠征の三つ目。これが上位十人に入る最も意味のあること。


「魔道書の討伐戦に参加が可能になる」

「それって……」

「さすがのお前でもこの意味は分かるか」


 魔道書は先程アッシュが言った通り存在しているだけで災いを呼ぶものである。当然それはどんな強い力を持った武器、魔道具だろうと決して力の及ぶものではない。

 しかしそれは裏を返せば災いを起こす程強い力を持っているということ。歴史書に残る賢人たちは皆各々に適合した魔道書を持っていたと言う。

 つまりは、


「魔道書を手に入れる機会があるってこと……?」

「そんな簡単にはいかないがな。たかが学生の身分でそんな危険極まりないものを持たせるわけないだろ。高位魔法使いの連中から言わせてみれば子供に大陸の一部を破壊させられる程の爆弾持たせるようなもんだ。けどな」


 そう、時折。本当に奇跡とも言える確率で魔道書の適合者は現れる。

 確率は限りなくゼロに近いが決してゼロではない。魔道書を使用した人物は歴史書が作られるほどに残る程に存在しているのだ。


 上位十人に渡される魔道書討伐権限というのは奇跡を自らゼロより引き上げることの出来る権利。

 自身における人生の天命を全てここで使い果たしたとしても、適合者に選ばれれば優に釣り合いは取れることだろう。


 魔道書適合者はあらゆる物事に優遇される。

 金を所望すれば一生遊んで暮らせるだけの額を。名声を求めるのであれば英雄と呼ばれるまでのものを。地位を求めるのであれば望むだけの領土を。


 魔道書というものは魔法使いにとって人生を賭けてでも手に入れたいものなのである。


「なるほどね。上位十人ってそんな意味があるの。だからあの時……」


 シャーリィが何か思い出したかのように唇を指でなぞった。


「それで最後にランキングだが、当然個々人にランクが割り振られている。当然入学直後のお前もな」

「ふーん、そうなの」


「自分のランキングがいくつか知りたきゃ後で配られるこの生徒手帳で確認しな。安っぽく見えても魔道具の一種だ。機能も色々付いてるが一々説明は面倒だから自分で調べろ」

「で、ランクはどうやって上げるの?」


 余計なことはどうでもいいから必要最低限のことだけ教えろ、と言わんばかりにシャーリィはアッシュの余談を余所に捨て置いた。


「知能の低い山猿でもクソ程理解出来るくらい簡単に教えてやる」

「それは親切にどうも」


 お互い笑顔を浮かべつつも、相手を射殺さんと殺気を放ちだしたことでキャロルがあわあわと視線を泳がし始めた。


「二つある。一つはアカデミアへの貢献度だ」


 これは主に教師たちが生徒たちにつける成績表のようなもの。ペーパーや実技といった全ての授業の評価、またはアカデミアへ利をもたらす功績。これは研究成果や何か珍しい物の献上、外敵からの防衛等。これら全てを合わせて一年毎のランク付けが行われる。


「二つ目は単純に戦闘だ。アカデミアが認めた公式試合で自分より上位のランカーに勝利すれば自動的に上がる。個人でもチームでもだ」


 公式というのはアカデミアが定期的に開催するイベントのようなものや、生徒同士がアカデミアの承認を得て行う個人試合がこれに相当する。

 今回アッシュとシャーリィが行った野良試合では勝利したところでアカデミアでの箔はつくかもしれないがランクの変動はない。


「ランクってのはどのくらい上がるものなの?」

「へぇ、気が早い割に――」

「それは良い質問なのですよ!」


 先程まであわあわと小刻みに慌てていたキャロルが思わず口を挟んだ。

 アッシュが、鋭い視線をキャロルに投げるがそれを無視し無理矢理説明を引き継ぐ。


「ランク戦に関しても上位か下位かで種類分けされるのです。まずはシャーリィ自身のランクを確認してみるのですよ」

「確か生徒手帳だったわね」


 シャーリィはスカートのポケットから黒い長方形型の生徒手帳を取り出す。人差し指を伸ばした一瞬戸惑うように手を止めるが、気を利かせたキャロルが自分の生徒手帳を見せながら操作方法を教えてやる。


 時折眉間に皺を寄せ悔しそうな表情を作るが、十数秒後シャーリィのランクが表示された。


「はぁ?!ふざけんじゃないわよ!」


それを目にしたシャーリィは椅子を倒す勢いで立ち上がり、生徒手帳をテーブルに叩きつけた。

よほど酷いランクだったのだろうと嘲笑の笑みを浮かべるアッシュと、また怒り出したシャーリィの態度にオロオロするキャロルだったが生徒手帳に表示された数字を見た瞬間、


「「第六位!?」」


 と両名とも目を見開き驚愕の声を上げた。生徒手帳をもっとよく見ようと身を乗り出したためテーブルに激突する。当然衝撃で食器に置かれたフォークが飛び跳ね、ティーカップは転がり落ち地面に落下。耳障りな甲高い音を出して割れ、カフェテリアにいる生徒たちの注目を集めた。


 信じられないものを見て困惑の色を浮かべる視線を送られシャーリィは不機嫌そうに、


「六位が何だって言うのよ。一位じゃなきゃ意味がないでしょ」


 と、常人では到底思いもしない発言を繰り出した。


「ア、アッシュ。デイヴィッドの名前がないのです……」


 キャロルにそう袖を引っ張られ、アッシュも自らの生徒手帳を取り出してランキングを確認する。

 デイヴィッド=スエード。ランクは第六位。レイピアを得意武器とし風の属性魔法を操る屈指の実力者。実力を鼻にかけ他人を見下す性格に難はあるが、この一年第六位を守り続けている。


 その名前がなくその代わりにシャーリィ=スプリングテイルの名前が表示されていた。


「デイヴィッド? ああ、あの気色悪いやつね。試験会場で出会った瞬間俺のものになれとか訳の分からない事言ってきたからボコボコにしてやったわ」

「ボ、ボコボコになのです……?」


「そうよ。普通に断ったんだけど、この勝負に勝てたら我輩のランクをくれてやる。その代わりに負けたら我輩に隷属してもらう、とかなんとかふざけたこと抜かしてくれたから全力でね」

「至極の十人の価値をなんだと思ってるのです彼は……」


「もう勘弁してくれって泣き叫んで懇願するあの顔を思い出すだけで笑いが込み上げてくるわ」


 悪虐非道の殺人鬼のようにニタニタ笑うその姿に、キャロルは若干引き気味に顔を引き攣らせる。

 氷と風の相性は良くも悪くもないことから単純に力量の差なのだろう。


「だからといって私とちょっとだけまともに戦えてた妄想抱いてるあなたが第六位相当なんてことはないからそこのところ勘違いしないことね」

「俺が第六位相当? はっ、そんなわけないだろ。俺が枠に入れない事はここに入学する前から知ってるよ」


「……?」


 反論されると身構えていたシャーリィは、まさかの回答に拍子抜けしたのかポカンと小さく口を開け言葉を失った。


「わたし達が十人入りするなんて夢のまた夢なのですよ」

「じゃああんた達は何位なのよ?」


 シャーリィの問いに二人は面倒くさそうにそれでいてどこか寂しそうにため息を吐く。


「な、何よ……。変なことなんか聞いてないじゃない……」

「いいのですよ。これはわたし達が悪いのです。ちなみにわたしのランクは二八二位で」

「……俺は三◯四位だ」


 片や恥ずかしそうに、片や吐き出すように自分達のランクを口にした二人にシャーリィは、


「この学園って何人在籍してるの?」

「全校生徒三◯六人」

「つまり二人とも底辺ランクで、あんたに限ってはワーストスリー?笑い物にしかならないじゃない」


 信じられない実績を耳にし二人を鼻で笑う。


「全くその通りですよフロイライン!」


 シャーリィの背後からどこか粘着質でいて人をコケにし慣れてるような耳障りな声が聞こえた。


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