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19.それぞれの思惑

「デイヴィッドたちが図書館を襲いに来るのはやっぱり夜?」

「そうだろうな。今はまだ調査の手が入っているし、何よりもまずは魔力の回復に専念するはずだ。慣れていない間は魔導書を使うとごっそり魔力を持ってかれるからな」

「とりあえず小休止といったところね」


 早朝からドタバタしていた三人はここでようやく一息ついた。数時間の出来事だが丸一日過ごしたような疲労感が三人を襲う。


「じゃあ私は一旦部屋に戻ろうかしら。シャワー浴びて仮眠でも取るわ。昨日あんまり寝れてないし」

「わたしも戻るのですよ。もう少し寝たらたぶん完全回復するのです」

「分かった。帰り道でも警戒はしろよ。どこから敵が襲ってきてもおかしくない状況であることには変わりないからな」


 二人は頷くと武器の所在を手で確認しながらアッシュの部屋を後にした。



 ほどよく熱いお湯がシャワーを通して勢いよく流れる。

 頭上から当たるお湯は疲れた頭と体を徐々にほぐしていくが、同時に焼け爛れた左腕に刺すような痛みを与えた。


 痛みというのはいいものだ。能天気な学生気分を味わいかけている自分に再度戒めをかけられる。

 仲間が出来て嬉しくないわけではない。だが和気あいあいとした学生生活を送るためにここに来たわけではない。


 こんなに早く魔導書に出会えるとは思っていなかったし、自分たちに討伐を任せられるなど都合が良すぎるのは疑問だがそんなことはどうでもよかった。


 仕組まれていようが利用されていようが目的を果たせるのであればそのレールにくらい乗ってやる。

 問題はデイヴィッドの魔導書の能力ではない。


 自分の魔法で魔導書を破壊できるか否か。

 魔導書は魔導書でしか壊せない。

 魔導書を調べる中で唯一引っかかった一文。


 もしそれが本当なら自分も魔導書を所有しなければならない。あの忌々しい物を。

 だからアッシュたちには悪いが今回はいくつかの検証を兼ねる。


 自分の力が魔導書に通用するのか、魔導書を魔導書以外で壊せるのか。

 最初スティーブンの相手をしろと言われた時に反論しようとも思ったがアッシュ一人でデイヴィッドが倒せるとは思えない。それはあいつも自分で言っていた。だから死力を尽くしてデイヴィッドを削れるだけ削ってくれればいい。


 デイヴィッドさえ戦闘不能にすれば魔導書への攻撃は容易だ。

 それを回収した後隙を見て保管庫にも攻撃を仕掛ければいい。

 おそらく魔導書が光の粒に変換されているのは防衛機能が働いていたから。


 今夜デイヴィッドらは防衛システムを完全に破壊するだろう。

 そうすれば魔導書の姿は通常に戻るはず。あとは自分の最大魔法を打ち込む。


 もしそれでも駄目だったら他の方法を考えるだけ。

 大量虐殺者の汚名を被ろうと構わない。自分の目的を果たすだけだ。


 シャーリィは再び決意を固めると、シャワーを止めバスルームを後にした。



 来客が帰り静まり返った部屋の中心にアッシュは長剣を手に立っていた。

 柄と鞘を掴み刀身を出そうと力を込めるが剣はピクリとも動かない。


 剣が抜けないということは本人から許可が出ていない

ということ。だがこれが抜けなければ魔導書の力が行使できない。シャーリィに言われた通り多大なハンデのみを背負った状態で戦うことになる。


 一般生徒ならともかく元至極の十人で魔導書ホルダーともなれば勝ち目はないだろう。

 だからといって自分がスティーブンと戦う選択肢はない。魔導書がいかに強力だとしても使うのはただの人間なのだ。消耗させたところへ強者をぶつけ仕留めることが確実な手段。


 そのためには全力を出さなければいけないのだがこの体たらく。敵と相対した時には力を貸してくれるのではないかと甘い考えが浮かぶが、もしもの時を考えて行動しなければこの戦いは生き抜けない。


 唯一のメリットはデイヴィッドも他の生徒同様アッシュの魔法を知らないこと。入学して今まで実技にはほとんど出ていないためアッシュの魔法を知っているのは幸運にも理事長とすでに退職した教師くらいなものだ。

 落ちこぼれと名高いアッシュが魔導書のホルダーであることなど到底知る由もないだろう。


 油断している隙をついて全力で魔導書の力を叩きつければ最低でも腕一本持っていけるはず。これなら後続がだいぶ楽になる。

 ただし全力を出すといっても、余力は残さなければならない。


 デイヴィッドたちに勝利した後シャーリィが魔導書を狙うことは明白。保管庫だけならともかくアッシュの持つ魔導書を狙う可能性も否めなかった。


 シャーリィの大量虐殺者になる覚悟は決して嘘ではないだろう。

 もし妹を狙うのならば容赦はしない。

 アッシュは剣はを強く握りしめて覚悟を決めるのだった。


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