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18.作戦会議

 顔色を見る限り図書館内の時よりは血色が戻っているため体調はある程度回復したのだろう。


「調子はどうキャロル?」

「心配かけたのですよ。もう大丈夫なのです。それよりアッシュ、ちゃんと説明しないとダメなのですよ。それじゃただ相手を煽ってるだけなのです」


 キャロルの物言いにアッシュは面倒くさそうにため息を吐く。

 ここまでの状況になってもその心理状態になるのか、とシャーリィは呆れて何も言えなかった。


「どうせシャーリィと再戦した時のことを考えて秘密にしておこうって魂胆なのですよ」

「勝手なこと言うな……!」

「へぇ。私とまた戦う時のためにねぇ」


 僅かだが慌てた様子のアッシュを見てシャーリィは顔をニヤつかせる。

 アドバンテージを得ておかなければ楽には勝てないと口にしているようなもの。

 それだけシャーリィの力を認めたという証拠だった。


「それであんたが秘密兵器として隠してる魔法はどんなものなのよ」

「……雷だ」

「雷……」


 シャーリィが顎に手を添えて呟いた。

 それならば自分やコリンズと戦った時の瞬間移動じみた速度も理解出来た。


 加えてその二つの戦いでアッシュが攻撃魔法を使わなかった理由も。

 おそらく自ずと広がる攻撃範囲と発生する余波によって他者を傷つけることを避けたのだろう。

 甘ちゃんな男である。


「なんだよその目は」

「別に何でもないわよ」

「心配しなくてもアッシュは問題なく戦えるのですよ」


 キャロルがここまで太鼓判を押すならば戦闘に関しては疑わなくてもいいだろう。

 魔導書相手に作戦という作戦がないのは心配だが。


「私はスティーブンに勝つ自信はあるけど、あんたはデイヴィッドに勝つ算段はあるの?」

「あるわけないだろ」


「……はぁ? だってあんた魔導書同士で戦うって……」

「誰が勝つって言った。あいては素人とはいえ万全な状態の魔導書だぞ。俺みたいな欠陥品が一人で相手になるわけないだろ。出来るのはせいぜい時間を稼ぐくらいだ」


「全力出さなくても本気を出せば倒せるとかないのあんたは……」

「俺は現実をちゃんと見てる。無理なものは無理だ。だからお前たちはスティーブンを瞬殺してこっちに合流して来い。総力戦で押し切る」


 その言葉を聞いてシャーリィの口から苦笑が漏れる。

 軽くとんでもない要求を出してくるやつだ。


 スティーブンは魔導書所持者ではないが教師である。アッシュの態度や周囲の口ぶりから魔法学園の中でも実力で上に登って行っているのだろう。


 考えるまでもなく相当な実力者だ。

 それを瞬殺して合流しろとは。どこが現実主義者だこのサディストめ。


「……スティーブンの情報はくれるんでしょうね?」

「ああ、もちろんだ」


 スティーブンのことで分かったことはデイヴィッドと同じく風魔法の使い方ということ。

 学内で風の使い手としか出会ってないとアッシュに言ってみたところ、スティーブンの派閥に入っている魔法使いは風使いが多いとのこと。


 そして学園が休暇中の今、スティーブンの派閥の生徒のほとんどが学園に残り研鑽を積んでいるらしい。コリンなんちゃらもそのうちの一人。加えて頭が少しイカれている生徒が多いのもスティーブンの派閥だと補足され今までの出来事に納得がいった。

 

 だが結局のところスティーブン戦においても大した作戦はなく、キャロルの銃で相手の余裕を無くすと同時に強力な魔法を叩き込むというほぼ力押し。地の利は向こうにあるし、シャーリィの魔法も見られている。いくらスティーブンの魔法はこんな感じだと教えられても実際目にしてみないことには対応出来ない。


 用意された実習やペーパーテストとは違い、先の読めないピンチの時は結局行き当たりばったりなのだと実感した。


「配置を決めておくぞ。図書館の入り口はお前たちで固めてもらう。おそらくスティーブンは陽動も込めて正面から来るはずだ。壊れて穴の空いた裏は俺が行く。魔導書の保管庫は裏から行くのが最も早い。デイヴィッドが狙うならまずここだろう」


 アッシュの配置は理にかなっている。シャーリィとキャロルは頷いてそれを容認した。

 しかしここでキャロルが口を開く。


「今さらなのですがどうしてデイヴィッドたちはもう一度保管庫を狙うのです? わたしたちも見たように魔導書は適応者にしか姿が分からないし触らないのですよ」

「確かにそうね。保管庫を見る前は魔導書の奪取が目的って単純に思っていたけど、今なら考え方を改められるわね。非適合者が触れたら危険なようだし」


「それは予想でしかないが……。適合する魔導書が他にもあり前回奪取出来なかったか、非適合者でも魔導書に触れられる方法が分かった。パッと挙げられるとすればこの辺だろうな」

後は分からん、とお手上げ状態をしますアッシュにシャーリィは意味深な視線を送る。


 なぜか今の発言が嘘くさく感じた。それに納得できる回答ではあったがシャーリィもすぐに出せた答え。犯人たちが十分な目標達成を遂げたにも関わらず犯行後残る理由としては弱い。


 アッシュはまだ本当の答えを隠しているのではないだろうか。

 だがシャーリィは浮かぶ疑問を追い払った。

 今ここを深掘りする必要はない。重要なのはデイヴィッドたちがまた図書館にやってくる可能性があるかどうかだ。


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