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12.一難去ってまた一難

 すぐに威圧を軽く受け流したシャーリィはこの男の顔に見覚えがあり記憶を探る。


「そうだ、模擬戦闘の試験官だ」


 スティーブンが作る重たい空気をシャーリィの一言が切り裂いた。

 その隙をアッシュは見逃さない。


「へぇ、銀髪の試験官がエイハブ教諭。それで対戦相手がデイヴィッド。そら随分と偶然が重なったもんだな。なに企んでたか知らないがそれで負けてんならお話にならないな」

「……っ貴様!」


「ああここで起きた顛末でしたよね。そこで転がってるコリンズ=イーファがあろう事か至極の十人序列第六位であるこちらのお方に喧嘩を売ったのです。戦闘を止めるように話し合おうとするも虚しく、奴が魔法による攻撃を行い部外者まで巻き込む愚行に出たためこのお方が規則違反を省みず迎撃したというわけです。皆が怪我をするくらいなら自分が罰則を受ける方がいいと……なんて学園の模範となる魔法使いなのでしょう。教諭もそうは思いませんか!」


 アッシュが大袈裟に手を広げたり頭を抱えたりしながら行う熱弁はどうにもこうにも気持ち悪い。

 ほとんど嘘ではないが誇張が激しい。

 スティーブンはアッシュの熱弁が終わるまでただただ睨み続けていたが、


「貴様のような劣等生が言っていることを我輩が信じるとでも?」

「はははっ! 何を言い出すかと思えば! 俺が言っていること? 俺たちのチームにいる至極の十人序列第六位様の代弁をしているというのに、その言葉が信じられないと!」

「貴様のチームだと……」


 アッシュの煽りにスティーブンの眉がピクリと動く。

 そしてアッシュを睨んでいた視線がシャーリィへと向けられると、今までの無表情とは想像もつかないほど目を見開き口元が歪み悔しそうに顔を歪ませた。


「あの理事長の仕業か……! 」

「さぁどうしますかエイハブ教諭。今ここで第六位の言葉を信じるか、そこで転がっている有象無象の言葉を信じるか。まぁどちらにせよ結果は変わらないのはご存知の通りだ」

「この忌々しい学園の恥晒しが……!」


 教師が教えを乞うはずの生徒に吐く暴言に耐えられなかったのか、黙って見守っていた周りの守衛が声をかけ宥め始める。


「貴様も偶然第六位になったからといって調子に乗るなよ。すぐに取り返してやる……!」


 スティーブンは行くぞ! と苦虫を噛み潰したような表情で守衛たちを引き連れてどこかへ歩いて行った。

 スティーブンの姿が遠くなると、アッシュとキャロルが長いため息を吐く。


「き、今日はいくらなんでも絡まれすぎなのですよ」

「これも全部どっかの誰かさんのせいだけどな」

「何よ私のせいだっての!」


 どう考えてもほぼ全ての因縁にシャーリィが起因しているが本人では気が付きにくいものである。

そんなシャーリィのあっけらかんとした姿をアッシュとキャロルはジト目で見つめる。


「最初から最後までお前のせいだろ。生徒はともかく教師に睨まれると後々面倒くさいんだよ」

「まさかエイハブ教諭にまでとは思わなかったのですよ……。あの人苦手なのです……」


「あの人そんなにやばい人なの? 試験の時はずっと黙ってたから印象にないんだけど」

「たぶんそれはデイヴィッドが負けて呆然としていたのですよ。まさか自分の一番大切なお抱えが新入生に負けるなんて思ってもみなかったってところなのです」


 一番大切なお抱え生徒? とシャーリィは首を捻った。

 一番期待している生徒なら聞いたことはあるが、お抱えとはどういうことなのか。


「派閥ってのがあんだよ」

「……派閥。また聞き慣れない言葉が出たわね」

「まぁ簡単に言えば生徒教師が入り混じるグループ活動みたいなもんだ。カフェで説明した貢献度の成果が生みやすくなる。お前が倒したデイヴィッドはエイハブの派閥の一人で唯一の至極の十人だった」


 至極の十人自体が重宝されるこの学園ではチームや派閥に一人で在籍しているだけでとんでもない権力を持てる。

 中には膨大な見返りを受ける代わりに籍だけを貸し与える強欲な生徒も存在しているとか。


「お前も後々とんでもない数の誘いがかかるから覚悟しておけ」

「もし面倒なら自分で派閥を作るのも手なのですよ。シャーリィが作るならわたしも入るのです!」


 自分の派閥というどこか甘美な響きに若干心が揺れ動くもすぐに頭を振って意識を引き戻す。


「ふんっ、私に派閥なんて必要ないわ。そんなもののためにここに来たわけじゃないんだから!」

 

 シャーリィは太陽の光を受けて銀色の雫を溢す髪をいじりながらそっぽを向く。

 側から見るととても可愛らしい姿なのだろうが、アッシュたちからすると下手くそな照れ隠しがバレバレだった。


「……ん?」


 ふとシャーリィが何かを思い付いたよう髪をいじるのをやめた。


「どうしたのです?」

「今更なんだけどあんたたち授業はどうしたのよ。あのキノコ頭もカフェテリアの生徒もそうだけどこの学園ってこんなに簡単にサボれるものなの?」


 シャーリィの質問にアッシュとキャロルがキョトンと小首を傾げた。

 釣られてシャーリィも首を傾げる。


「サボるも何も今は休暇中で授業なんてないぞ。本格開始は来週からだ。お前説明受けてないのか?」

「……知ってたわ」

「いや知らなかっただろ」


 ゆっくり腕を組みそっぽを向くシャーリィにアッシュがツッコむ。  

 シャーリィは事務局で受けた入学説明的なものの記憶を掘り起こす。だがあなたは今日から晴れてこの学園の生徒です! という言葉しか思い出せない。目的に一歩近づいた達成感と今後の予定の反復が思考を占めていたため全く話が入ってきていなかった。

 しかしそれを二人に悟られるわけにはいかない、とプライドが訴えてきたため無理矢理話を逸らした。


「そ、そんなことよりあんたの傷はどうなのよ! 弱いくせに無理しちゃって、早く医務室に行きなさい!」


 声高らかにアッシュを指差して心配を口にした。

 雑な話の逸らし方に当然アッシュからは疑いのジト目を向けられたのだが。


「さっきも言ったが問題ない。足を引きずっていたのもちょっと違和感があっただけだ」

「じゃあそのズボンの血はなんなのよ。普通の出血量じゃないわ」

「コリンなんちゃらたちの血がついたんじゃないか?」


 シャーリィがちらっとキャロルに視線を向けるが、薄く困ったように笑顔を浮かべられるだけだった。

 あくまでも答える気はないらしい。


「まぁいいわ。今後の行動に支障をきたされると私が困るわけだし。今日はもう解散して休みましょう」


 明日のことを何も決めていないが、明日のことは明日決めればいい。

 とりあえず今日は情報の整理と今後の予定の修正が必要だった。

 シャーリィは、じゃあねと手を振って二人に背を向けるが、


「寮の場所知らねえだろ」

「寮の場所大丈夫なのです?」


 と二人揃って同じツッコミを入れられ、本日何度目かの無駄な恥をかくのだった。



 その日の夜図書館の警報装置が学園中に鳴り響き、侵入者と思わしき一名が警備員と防衛に当たっていた生徒によって拘束された。


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