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11.圧勝と危機

 それは風の刃を突き刺して散らし、再びアッシュの走る道を開いた。


「くそが! お前たちもう一度合わせろ! 暴風……なんだ!」


 コリンズらが再度魔法を発動させようとした刹那、銃撃音と共にアッシュが謎の煙に包まれる。

 そして次の瞬間、うぐっ、ぐはっ、と二つの悲鳴が聞こえた。


「なんだ……何が……何が起きている! お前たち無事か!」


 コリンズの困惑する声が煙の中から発せられるが、答えは返ってこない。

 そしてこれはシャーリィの中で彼の敗北を決定付けた。


 お互い視界が無い状態で大声を上げるなど自ら自分の居場所を知らせているようなもの。

 離れた位置のシャーリィですら容易に魔法で狙えてしまう。


「くそがぁ! 『暴風の乱発』!」


 先程使った風を巻き上げる魔法で煙が晴れ、視界がクリアになっていく。

 当然術者であるコリンズを中心に。


「見つけたぞ平民!」


 愚か者はシャーリィの姿を確認すると、意気揚々と杖をかざし、


「はぶぅ……!」


 その鼻っ面に鞘付きの剣が叩きつけられた。

 アッシュの体重を乗せたその攻撃に、コリンズもなす術なく鼻血を出しながら倒れる。


「暴風暴風うるさいんだよ。お前はそよ風程度だ」

「ぐぐぐぐ……ごぎゃっ!」


 懲りずに何か言いかけるコリンズの顔を容赦なく踏みつけその口を封じた。


「落ちこぼれと平民に負けた事実を胸に抱いたままこれからの学園生活を送るんだな」


 アッシュやキャロルはともかく、第六位のシャーリィに負けたことは本来恥ずべきではないが貴族というプライドがそれを許さないだろう。


 だが目撃者はこの図書館に何人もいる。噂はすぐに広まるだろう。当然尾ひれがつくだろうが真実は彼らの記憶から消えることはない。


 シャーリィとキャロルがしかめっ面で立ち尽くすアッシュの元へと駆け寄る。


「何よアンタ、勝ったのにずいぶんな顔ね」

「うるさい」


「ワーストスリーが上位者に勝ったのよ。もっと喜んだらいいのに」

「余計なお世話だ。そんなことよりも騒ぎが広まる前にとっととずらかるぞ」


 そう言って先頭を歩き出すアッシュにシャーリィは違和感を覚えた。

 どこか足取りが重く、男子にしてはやけに小刻みに足を引きずりながら歩みを進めている。


 ふとシャーリィが視線を落とすと、


「ちょっとアンタ、その血どうしたのよ……!」


 アッシュのズボンの膝から下が赤黒く染まっていた。


「気にするな、怪我じゃない」

「それだけ血が出てて怪我じゃないわけないでしょ! 見せなさいよ」

「おい……!」


 コリンズらは殴られて気絶しているだけ。彼らの血が付いた可能性はほとんどない。

 シャーリィは嫌がるアッシュを無視してズボンの右裾を捲り上げる。


「……え」


 捲り上げた右足には血の痕どころか傷一つ付いていなかった。

 幻術でも見せられたのかと困惑するシャーリィの手を払い、アッシュは再び入り口へと歩みを進める。


「だから言っただろ怪我じゃないって」

「でもアンタ足引きずってるじゃない。怪我じゃないならその血はどこから湧いたのよ!」

「シャーリィとりあえずここはアッシュの言う通り退散するのですよ。聞きたいことは落ち着いてから聞くのですよ」


 納得のいかないシャーリィをキャロルが落ち着いた声でなだめながら背中を押していく。

 だが逃げるには少々時間が足りなかった。


 先頭にいたアッシュの目の前で扉が自動的に開く。


「ここで規則に反する私闘が行われていると聞いて馳せ参じたが。どういう状況だアッシュ=ヴァレンティ?」


 扉の向こうに現れたのはワックスで艶を出したオールバックにネクタイを含め黒一色のスーツを着た長身の男が立っていた。不健康そうに唇まで黒くなっているがこれはオシャレなのだろう。


「これはこれはスティーブン=エイハブ教諭。ご足労何よりです。お忙しい教諭が動かれるなんて珍しいこともあるんですね」

「御託はいい。我輩が聞きたいのは今ここで起きた事実だ」


 刃のように鋭く冷ややかな眼光をアッシュら三人に向け放つ。全てを黒で染め上げるスティーブンが放つ威圧はまるで死神のように背筋を冷たくした。


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