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10.オカッパ頭再び

 まるで図書館のマナーなど初めから存在していなかったかのような違反行為。

 さっきも同じようなことがあったな、とシャーリィはどうでもよさそうに思い出した。


「ここにいるのは分かっている! よくもこの僕に恥をかかせてくれたな!」


 シャーリィたち三人は入り口の様子が窺える中央付近まで近づき、本棚の影からひょこっと顔だけを覗かして声の主の姿を確かめる。


 そこにいたのは予想通りカフェテリアで絡んできたドラ貴族のコリンズとその他二名だった。

 我が物顔で図書館に足を踏み入れ、容赦なく叫び散らかしている。


 だが決して該当する相手の名前を呼ぶことはなく、ほぼ同じことを言って回っているだけ。


「アホなのアイツ……。たぶん私たちに対して叫んでるんだろうけど何で名前呼ばないわけ?」

「たぶんお前の名前知らないんだろ。自分より身分の低い俺とキャロルは名前すら呼ぶ価値がないってことじゃないか」

「けどこのまま放っておいたら皆の迷惑になるのですよ」


 キャロルの言葉に三人は顔を合わせ、面倒臭そうに溜息を漏らす。

 そして本棚の影からアッシュが一言叫ぶ。


「図書館ではお静かに! ママに習わなかったか?」

「だから……平民風情が……僕に舐めた口をきくな! 『暴風テンペストブレイクの刃』」!


 杖を構えていたコリンズが躊躇うことなく魔法を放った。

 その風の魔法により本棚が薙ぎ倒され本が吹き飛んでいく。


 突然の戦闘に周囲にいた生徒たちからも驚愕と悲鳴の声が聞こえた。


「私闘は禁止なんじゃなかったの! それに本がめちゃくちゃじゃない!」

「本は魔法で保護されてるから大丈夫なのです。けどシャーリィの言う通りこれは校則違反なのですよ」


「だからってここまでやられっぱなしなのも癪だろ。それにこれに評価点はない」

「アッシュ……!」


 キャロルが引き留めようと声を出したと同時にアッシュがコリンズ目掛けて走り出した。

 三人に向かって突っ込んでいくその無謀と思われる姿だがシャーリィの目にはハッキリと見えていた。


 その手に握られた自分との戦いで使用されたあの外道の道具が。

 けど今は、自分の邪魔をされたことに対して沸々と湧き上がってきた怒りに従うことにした。


 シャーリィも懐から杖を取り出すと影にしていた本棚から身を晒し叫んだ。


「『空虚な氷手』!」


 両翼のように現れた氷の拳が薙ぎ倒された本棚をさらに吹き飛ばしながらコリンズたち目掛けて伸びる。

 だがその魔法はコリンズたちに牙を剥く前に彼らが集中させた風の魔法で叩き落とされた。


「落ちこぼれよりも優等生を優先してんじゃねえよ!」


 ぶっきらぼうに叫んだアッシュは急ブレーキをかけ、炸裂魔甲弾をコリンズ目掛けて投げつけた。

 距離はまだ三〇メートルほどあるが問題ない。標的に当たらなくても近くへと飛ぶだけでよかった。


 この爆発は魔法を透過する。魔法での防御は不可能。

 ――だが相性が悪かった。


「『暴風の乱発』」


 風の魔法でコリンズたちの遥か頭上へと運ばれ爆発する。さらにその爆発した威力も上昇気流により散り散りにされた。


「優等生を優先する? 馬鹿なことを言うなよ劣等生! 最初から貴様など頭数に入ってないわ!」

「あっそう」


 サラッと嫌味を受け流し、もう一度右手を大きく振りかぶって炸裂魔甲弾を投げつけた。


「だから貴様は屑なんだ! 無駄なことを何回やっても同じ――」


 瞬間、炸裂魔甲弾が破裂する。

 ふんぞり返ってアッシュを侮ったコリンズら三人が爆風に煽られ壁に叩きつけられた。


 その衝撃で壁に保管されている本が大量に降り注ぎさらなるダメージを与える。


「ははは! こっちの三人目忘れてんじゃねえよ」


 アッシュの笑い声に反応してシャーリィが後ろを振り返る。

 そこにはライフル銃を構えてスコープを覗き込んでいるキャロルの姿があった。


「もう! どうなっても知らないのですよ!」


 ぷりぷり怒るキャロルは決して怖くはないが、百メートルはある距離に加え、即興でアッシュの投げた直径十センチほどの小さな爆弾を撃ち抜いたことには驚きを隠せない。

 アッシュも戦闘に関しては決して弱いとは言えない動きを見せている。


(……これで落ちこぼれ?)


 シャーリィは前方で無様に埋もれている上位のコリンズらと無傷のアッシュを見比べて疑問符を浮かべた。


「お前ら身を隠せ!」

「『暴風の刃』」


 アッシュが叫ぶのとほぼ同時だった。

 最前列で身を晒していたアッシュがシャーリィの横まで吹き飛ばされる。


 その体は鋭い刃物で切り裂かれたような細かい傷が無数につけられ、ところどころから鮮血が滲んでいた。


「ふざけてんじゃねえぞ底辺の蛆虫が! イーファ家嫡男であるこのコリンズ様に傷を付けただと! 覚悟しろ、この世に細胞一つ残さず消しとばしてやる!」


 未だ下半身は本に埋もれて情けない姿は変わらないが、怒りに任せて出力を上げただけあって魔法の威力は上がっている。


 だが……。


「本気を出してもこんなもんだ」

「あんた大丈夫なの?」

「見ての通り傷だらけだが問題なく動ける」


 アッシュが小さく苦悶を漏らしながら体を起こす。

 確かに威力は上がっている。だが直撃を喰らったアッシュの出血箇所は多いが、服に滲む血の量から傷の深さは大したことがないように見える。


「つまり威力はそこそこ出せてもそこに集中させるだけの制御力がないってことだ。お前の魔法を防ぐのも三人がかりでやっとのようだしな……っと!」


 コリンズらが再度放った魔法を本棚の影でやり過ごす。


「それで作戦はあるのですか?」

「キャロルお前が撃って無力化出来るか?」

「……無理を言わないで欲しいのですよ」


 申し訳なさそうに目を伏せるキャロルに、アッシュは冗談だと仕方なさそうに笑う。


「銀髪」

「その銀髪ってやめて」


「呼び方なんてなんでもいいだろ。それよりもそろそろ片付けるぞ」

「はぁ? あんた怪我してんのよ、私だけでいいわ」

「馬鹿言うな。この状態の方が都合いいんだよ」


 こいつ何言ってるんだ、とシャーリィは首を捻った。傷を負っている方がいいとは、やはりマゾ体質なのだろうかと勘繰ってしまう。


「いつまで隠れている! とっとと諦めて出てこい! 今なら全身切り刻むだけで済ませてやる!」


 シャーリィたちが本棚に隠れてばかりでこう着状態に陥っているこの状況に業を煮やしたコリンズが声を上げる。

 シャーリーが背にしている本棚が激しく揺れた。


 仮にも戦闘中の今、敵の意見を聞く相手などいるはずがない。やはり奴は頭が悪いのだろうとシャーリィは心の中でさらにコリンズの評価を下げた。


 それにこう着状態だと思っているのはコリンズたちだけだろう。

 シャーリィが力任せに魔法を使えば有無を言わせずに制圧できる。


 だがそれをアッシュが指示してこないということは、あの三人倒すということに意味を生み出すつもりなのか。


「このままだと周りの生徒にも手を出しかねない。手っ取り早く倒すぞ」

「でもどうするのです? 威力は分散してたもあの広範囲魔法は厄介なのですよ」


「そんなん楽勝だろ。なぁ第六位様?」

「……それで誰がトドメ刺すってのよ」


 ふふん、とアッシュがドヤ顔をしながら立ち上がった。それで作戦が決定する。

 作戦なんて呼べるものではないが、急場凌ぎの三人であるなら役割分担されているだけマシかもしれない。


「それじゃ行くわよ!」


 シャーリィが背にしていた本棚に向けて杖をかざした。


「『空虚な氷手』!」


 薙ぎ倒されている本棚ごと氷手がコリンズ目掛けて伸びる。

 姿は見えないが耳障りな悲鳴にも似た声が聞こえた。


 それと同時にアッシュが駆け出す。

 だがそれを待っていたのかコリンズらが風魔法を放った。


「『暴風の刃』!」


 不可視の刃がアッシュに三方向から牙を剥く。


「馬鹿の一つ覚えってこのことね……。『浅ましい尖氷セントクレア』!」


 シャーリィの掛け声と共に槍のように鋭い切先を持つ氷が地面から突き出す。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  キャロルが銃でアッシュのサポートをするところ。  打ち合わせなしでああいう戦い方ができるということはチーム組んでからそれなりに長いのかな、と思わせるチーム感が出てました。それに、癒やし系…
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