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9.王立魔法図書館

「魔導書はどこに保管されてるの?」

 

 カフェテリアを出て、まずは部屋を案内すると聞かないキャロルの案を取り入れ女子寮へと向かう途中、唐突に発せられたシャーリィの一言。その一言でアッシュは彼女の目的がそれであると理解した。

 

 そうであれば嫌がっていた態度を急変させこの落ちこぼれチームに参入する意味も分かる。

 上手いこと理事長に唆されたようだ。


「魔導書はあそこにあるのですよ」


 同性がチームに加入したのが嬉しいのか、声を若干弾ませながら花の街に一切似合わない、まるで呪いを放っているような漆黒の城にも似た建物を指さす。


「あの存在感放ちまくりのあれなんなの……?」

「あれは図書館なのですよ」

「図書館……あれが?」


 シャーリィが疑いの眼差しをキャロルに向ける。

 確かに初見であんな凶々しそうな建物が老若男女に好まれる図書館だとは思うまい。

 だがあれは普通の図書館ではないのだ。


「図書館は図書館なのですが、利用できるのはアカデミアの関係者だけで一般の人は使えないのですよ。中にあるのは一般書ももちろんあるのですが、シャーリィが言った魔導書も保管されているのです!」

「へぇ。あそこに行けば魔導書が閲覧できるわけね」


「んなわけねぇだろ」

「はぁ? どういうことよ!」


 キャロルも軽く口にはしているが、アカデミアの関係者であろうと魔導書はまず閲覧は出来ない。それどころかその姿を一目伺うことすら叶わないだろう。


「魔導書は図書館の最深部に厳重な保管をされてるって話だ。そこに入れるのもかなりの条件がいる。知ってる通り魔導書はかなり貴重な代物だ。当然侵入者に対してのセキュリティもかなりのものになっている。死人が出てもおかしくないレベルだ」


 そこでアッシュは一拍置きシャーリィをじっと見つめると、


「いいか、絶対に侵入しようとなんて考えるなよ!」


 シャーリィは瞳を先頭にゆっくり顔を晒し唇を尖らしながら、


「そんなことしないわよ」


 どこからどう見ても嘘丸出しな否定を口にする。

 これは絶対侵入するな、と確信したアッシュとキャロルだった。

 大きくため息をつくアッシュは痒くもない頭を掻きながら、


「分かった分かった。俺たちが入れるところまで案内してやる。それで今は満足しとけ」


 魔導書を盗みに入るなどという重罪を新参者であってもチームメンバーが引き起こすなど考えたくもなかった。



 王立魔法図書館。

 至ってシンプルな名前であるから中も見たような大きい本棚が並ぶ普通の作りでは、という浅はかな考えは建物内に一歩踏み込んだだけで吹き飛ぶだろう。


 シャーリィの口から感嘆のため息が漏れる。

 目に見える範囲全てに本本本。入り口のすぐ側にも本、三百六十度見渡しても本、上を向いても終わりがないのではないかという天井を見上げても本。


 渡り廊下のような館内の端から端へと行き来出来る橋の側面にまで本が収納されていた。

 これには少し狂気染みた物を覚える。

 また各所に置かれたロウソクに似たものがオレンジ色のような暖かい灯りで図書館内を照らしていた。


 決して明るいわけではないがそれが幻想的な景色を演出している。


「これどうやってお目当ての本探すのよ。まさか外見はお城で中の部屋全部ぶち抜いて図書館にしてるとは思わなかったわ……」


 もっともな質問。

 何冊蔵書されているのか分からないが、数万冊などゆうに超えることだろう。その中からお目当ての一冊を探すなど時間がいくらあっても足りない。そもそも橋の側面の本などどうやって取るというのか。


「そこは魔法使いならではの方法を取るのですよ。ほらあれを見るのです」

「ふうん?」


 キャロルがシャーリィの新鮮な反応に嬉しそうな笑みを浮かべながら前方を指差す。


「何あの丸いの?」

「百聞は一見にしかずなのです」


 キャロルがシャーリィの背中を押して、直径三〇センチほどの巨大なスノードームのような中がキラキラしている丸い物体の前に立った。そしてキャロルはおもむろに生徒手帳を取り出して球体へとかざしながら、


「『王冠と青薔薇』」


 そう呟いた。

 突然球体から強い光が飛び出す。

 思いもよらない発光に思わず腕で顔を覆ったシャーリィ。恐る恐る目を開けるが、特に何か起きた様子もない。


「な、何も起きてないじゃない……。まさかあんたも私をからかって――」

「来たのですよ」

「え?」


 上を見上げるキャロルに釣られてシャーリィも上を見上げる。


「うっそ……」


 シャーリィの目に映るのは光の球体に包まれた一冊の本。それが光の粒をこぼしながらキャロルが作る手の受け皿へとゆっくり落ちていく。


「こうやって本を探すのですよ。返却するときもこの玉に本を近づけて『返却』と言えば勝手に元の場所に戻っていくのです」


 キャロルの言う通り本は再び光に包まれ上層へと登っていく。


「シャーリィもやってみるのです?」

「そうね利用することもあるだろうしやってみるわ」


 内心少し心臓の鼓動を早めながら生徒手帳を取り出し球体にかざす。


「魔――」

「魔導書って言っても出てこないぞ」


 その一言にシャーリィの体が僅かに跳ね、発声をやめる。


「そんなもんで魔導書が取り出せるんならセキュリティなんて強くしてねえよ」

「なんでよ。生徒手帳をかざすってことはどうせこれはセキュリティカード兼身分証明書になってるんでしょ。なら至極の十人の私なら閲覧できるんじゃないの?」


「へぇ、一回見ただけでそこまで理解出来たことに関しては素直に褒めてやるよ。けど行動がアホすぎて笑えもしねえな」

「アホって何よアホって!」

「図書館で騒ぐなマナーすら守れないのかお前は」


 言い方はともかく言われていることは正しいためこれ以上声を上げて反論が出来なかった。

 シャーリィがこのまま殴ってやろうかと拳を固く握ったと同時に、こっちだとアッシュが球体を通り越してさらに図書館の奥へと足を進め出した。


 立ち並ぶ巨大な本棚をかき分けやがて壁にぶつかるが、そこも当然本で埋め尽くされている。

 まさかこれが魔導書だとでも言うのかとシャーリィは訝しむが、今までの物言いからそんなわけ無いとすぐに思考を切り捨てた。


「おい銀髪。ここに生徒手帳をかざせ」

「誰が銀髪よ誰が! 名前で呼ばれるのも腹立つけどその呼び方はもっと不愉快だわ!」

「いいから早くしろ」


 騒ぐシャーリィを無視してどうしてだかアッシュは急かし始めた。

 周囲に人はおらず自分たちの姿も本棚で隠されているがアッシュは視線を配るのをやめない。


「あんた魔導書を見たくて心躍らせてるの? っていうかどうして私のなのよ自分でやりなさいよ」

「この三人の中じゃお前しか開けられない。ここから先は至極の十人と一部の人間しか立ち入ることが出来ない領域だ。知ってる人間も少ない」


「じゃあどうしてあんたは知ってるのよ? ワーストスリーのくせに」

「…………」


 黙ったままのアッシュを不思議に思いキャロルに視線を向けて疑問を投げかけるも、当のキャロルは困ったように薄く笑みを浮かべるだけだった。


 しかし疑問は浮かぶものの、不自然なアッシュの様子よりも魔導書の存在を確認出来ることに気持ちが馳せるシャーリィはそれを無視する。


 そして手にした生徒手帳を指示された場所にかざす――寸前だった。


「出てこい愚民ども!」


 静寂を保っていた図書館に、張り上げすぎて途中裏返った耳障りの悪い声が響き渡った。


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