05.広まる波紋
【毎日投稿】
その日、地図からひとつの山脈が消えたことが観測された。
謎の地盤沈下による山脈の消滅。
それはあらゆる国でニュースとなり広まった。
「地盤沈下で山脈が消滅……?」
アイリーンは家でそのニュースを聞いて不思議に思った。
山脈が消える地盤沈下など聞いたことが無かったからだ。
もしかしたらこれは魔王誕生の前兆なのではないか? あるいは誰かによる人為的な現象なのではないか?
とアイリーンは考えた。
「なんだか不気味だなぁ……」
ここ最近ろくなことが起こっていない。
アイリーンはつい最近剣聖になっていた。
世界で五人目の剣聖になれたことは素直に嬉しい。
しかしアイリーンの前からハルトが消えて以来、アイリーンの胸にはぽっかりと穴が開いたような感覚があった。
「ハルト。どこで何をしているの……?」
アイリーンは呟いた。
***
大陸の果て。とある城にて。
広い王室で男が玉座に座り、ワイングラスに入った赤い液体を飲んでいた。
男の見た目は二十代くらいで、鮮やかな青い長髪に、ネイビーブルーの背広、そしてこの世のものとは思えないほどに整った端正な顔立ちをしていた。
その男は、山脈が消え去った跡の写真を見ていた。
「へー! 山脈の消滅か!」
男は目を輝かせてその写真を見ながら言った。
「でもこの山の消え方は明らかに何者かによる仕業だよねぇ」
男がそう呟いたその時、ふと王室の扉が開かれた。
冒険風の格好をした女が、手に剣を持ちながら王室に入ってくる。
しかし青髪の男は写真に夢中で、その女に目もくれていなかった。
「お前えええええええええ! 私の故郷を返せえええええ!」
女が叫びをあげながら青髪の男に駆け寄り、剣を振り下ろした。
青髪の男はその女に目を向けることもなく上半身をわずかにずらして剣をかわした。
「しかもこの消え方は魔法が使われたような消え方でもないねぇ。まるで殴って山を消し去ったみたいだ!」
青髪の男は、少し興奮した様子でそう言葉を漏らした。
「殺す! 殺す! 殺す!」
何度も同じ言葉を繰り返しながら、女はこちらを見向きもしない青髪の男に対して斬りかかる。
しかし青髪の男はもはや剣を避けることすらしなかった。
女の剣は男の身体に傷をつけることができない。
まるで鉄の塊に剣を切りつけているような感覚を女は感じていた。
「なんで……! 剣が効かない……!」
女の表情がだんだんと焦りに染まり始める。
すると青髪の男は突然大きな声で笑い出した。
「あははは! 面白い! 興味深い! 何かが起こる予感がするッ!」
青髪の男はなおも狂ったように高笑いを続ける。
その姿を見て、女は恐怖を感じていた。
女は、青髪の男から一歩離れる。
「最近は楽しみが多くて本当に最高だよ! んんー! 法悦ッ!」
青髪の男がそう叫んだ瞬間だった。
さきほどまで青髪の男に斬りかかっていた女の身体が、爆ぜた。
まるで体の内側から内臓を撒き散らすように。
女は一瞬にして命を散らした。