14.新たなギルド生活
【毎日投稿】
「私、思うんだけど羊のタトゥーの人……長いから羊男って呼ぶわね。羊男を探すのってかなり途方もないことだと思うのよ」
「ん、そうか?」
俺たちは、街のレストランでパスタを食べながら話をしていた。
やっぱ人の作った料理は美味しいなぁ。
ここ数年は山菜や木の実しか食べてなかったから、余計に美味しく感じる。
ユナは白い髪を後ろにくくってパスタを食べていた。
ポニーテールのユナはいつもよりも活発な印象を与える。
一言で言うと超可愛い。
「だってこの世界には何億人もの人間がいるのよ? その中で一人の人間を見つけるなんて無理よ」
「じゃあどうするってんだよ?」
そう言うぐらいだからユナにも何か考えがあるのだろう。
俺はパスタを頬張りながらユナの言葉を待った。
「私たちがやつを探すんじゃなく、やつが私たちの方に来るようにすればいいのよ」
「……うん?」
「つまり、私たちのギルドを有名にすればいいのよ。私たちが有名になれば必ず奴は接触してくると思うの。やつは……大きな権力とか有名なギルドとかに取り入ってくるから」
「……そうなのか?俺は羊男のことが全くわからんから何とも言えないけど」
「羊男は大きなギルドなんかを巻き込んで何かをやろうと企んでいる。だから私たちが有名なギルドになれば必ずやつは現れる」
ユナはそう言って、パスタを上品に口に運んだ。
そしてパスタを飲み込み終えると、さらに言葉を紡ぐ。
「今ならマゼルダ族の差別を気にせず、普通にギルド活動をして名前を上げていけるしね」
「そっか。つまりこれからは普通に魔物を倒したりして、とにかく俺たちギルドの名を売っていけばいいってわけだな!」
「まあ、そういうこと」
いいじゃないか。
それこそ俺が求めていたギルド生活だ!
仲間と一緒に魔物と戦って、苦難を乗り越え、どんどんギルドの名を上げていく。
しかも俺にはユナという心強い仲間がいる。
そんなの絶対楽しいに決まってる。
俺は、これからのギルド生活に期待を膨らませてついついにやけてしまう。
そして俺はハッと気づいた。
そういえば気になってたことがあるんだった。
「俺たちのギルドってまだ名前なくね?」
と俺はユナに言った。
ずっと気になっていたのだ。
やはりギルドにはかっこいい名前が必須だからな。
「そうね。差別のせいでギルド活動はほぼ諦めてたからギルドに名前はつけてなかったわ」
「じゃあ、今名前つけようぜ。俺たちのギルドに!」
「……実はひとつ名前を考えてあるんだけど」
ユナは少し照れながらそう言った。
「おっ、どんな名前?」
「えっとね…………、『夜の騎士団』っていう名前なんだけど。
私はいずれこのギルドを世界三大ギルドの雪、月、花の騎士団に並ぶくらい有名なギルドにするつもりよ。だから雪月花と同じく風物から名前を取って『夜の騎士団』。私の黒魔法やあんたの黒髪も『夜』に関連してるしね」
おお……、なるほど。
『夜の騎士団』か。
うん。
気に入った。
「いい! それにしよう! 『夜の騎士団』!」
こうしてギルドの名前が決まった。
***
それから数日後。
俺とユナは、ギルド生活の準備を着々と進めていた。
まず街の空き家を借りてそこを新たなギルドの拠点とすることにした。
あんな町はずれの建物のままじゃ誰も依頼に来てくれないしな。
空き家を借りるお金はユナが出してくれた。
ユナは、これまで強い魔物を何体も倒してその素材を売ってきたので、お金は割と貯まっていると言っていた。
けどもうこれで貯金はなくなるので、あとはギルドで稼がないといけないとのことだ。
申し訳ねえ……。
このギルドで稼いでお金はいつか必ず返そう。
俺たちが借りた建物は、大きくはないが、しっかりとした造りで見ていて安心できるよう建物だ。
そんなこんなで俺は今、大きな木の板にペンキで文字を書いているところだった。
新しいギルドの看板を作っているのだ。
「…………これでよしと。できたぞユナ!」
看板には黒い文字で大きく『夜の騎士団』と書いてある。
手作り感は否めないが、しかし我ながら綺麗に書けたと思う。
俺は出来上がった看板をユナに見せた。
室内の内装をレイアウトしている最中だったユナは、俺の作った看板をみて、
「いい感じじゃない! さっそく建物の入り口に掲げましょ」
と俺の作った看板を褒めてくれた。
俺は、目につきやすい建物の高いところに看板を釘でうちつけた。
「これでだいぶギルドっぽくなったわね」
看板を眺めながら、ユナはどこか満足げにそう言った。
「ああ。今はまだ手作りの看板だけど、いつかは業者にもっとでかい看板を作ってもらえるくらいのギルドにしようぜ」
「ふふ、そうね」
心なしかユナもいつもより機嫌がいいように見える。
やはり新たなギルド生活にワクワクしているのだろう。
俺も楽しみで仕方ない。
さて、あとはギルドの内装をレイアウトするユナの手伝いをするか。
こうして俺たちのギルド生活は始まったのだった。
***
ギルドの建物が完成した翌日。
目を覚ました俺は、背中に当たる硬い床の感触に、首を傾げた。
「……あ、そっか」
ベッドの上で寝ているユナの可愛らしい寝顔を見て、俺は昨日までのことを思い出した。
寝室が一つしかないから、二人で一つの部屋を寝室として使っているんだった。
そして当然のように一つしかないベッドはユナが使うことになった。
まあ俺は山籠もりの時ずっと地面で寝てたし、床で寝るくらい大したことじゃない。
「ま、とりあえず朝飯作るか」
今日の天気は快晴。
外から気持ちの良い日差しが差し込んでいた。
俺はぐっと伸びをして洗面台へと向かった。
冷たい水で顔を洗う。
朝飯は何を作ろうか。
「確か昨日、食料を買い込んでおいたよな……」
その食料の中に卵とベーコンがあったはず。
あと野菜もあったな。簡単にサラダもつくるか。
何を作るか決めれば、あとは作るだけ。
俺は朝食を作りながら、食事をするユナの笑顔を思い浮かべた。新しいギルドでのユナとの最初の朝だというのに、すでに俺はこの生活を気に入っていた。
「おはよー……」
「起きたか、おはよう」
料理が出来上がるころ、ユナが起きてきた。
まだ眠そうな顔で、頭にぴょこんとアホ毛が生えている。
ユナは、とてとてと洗面台へと歩いて行った。
その間、俺は二人分の食事をテーブルに並べる。
「あ、ごはんだー」
洗面台からユナが帰ってきた。顔を洗ったのにもかかわらず、ユナは間延びした声でそう言いながら椅子に座る。パジャマがずれてユナの白い肩があらわになっていた。
ここ数日でわかったのだが、どうやらユナは朝に弱いようだ。
ユナは俺の顔を見てにへらと笑った。
おいおいおい!
なんだこの可愛い生き物!
抱きしめていい?
いいよね?
いや。やめとこう。
完全にユナの目が覚めたときに殺されてしまう……。
「ユナさん、何を笑ってらっしゃるの……?」
「ん、こういうのもいいなーって」
こういうのってどういうのだよ……。
俺は朝の可愛いユナに心をかき乱されつつ、なんとか食事を口に運ぶ。
うん。美味しい。
俺は一人暮らしが長かったし、料理はつくり慣れていた。
ユナも「いただきます」と言って俺の作った料理をもきゅもきゅと食べ始めた。
ユナの口にも合えばいいんだが……。
俺はおそるおそるユナの表情を見てみた。
「おいしい」
ユナの満足げなその言葉に、俺は知らずに頬を緩ませた。




