出立
誤字報告して下さっていた方、ありがとうございます。おこがましいかもしれませんが、以降も誤字脱字等ありましたら教えてくださると幸いです。(できる限りなくすつもりではありますが......)
冒険者ギルドを走り去り、クルトは町の門へと向かう。
「お、クルト。またウール平原の薬草採集クエストか?」
見慣れたもじゃ髭の衛兵モルトの問いかけに足を止め、少し誇らしげにクルトはクエストの依頼書を見せた。
「な!?おま、クルト!クエスト間違ってるぞ」
クエスト依頼書を上から下までじっくりと眺め、笑いながら書かれている目的地を指さした。
「ほら、ここ、パール洞窟になってるよ」
「いやいやおじさん。今日はパール洞窟でヒカリゴケをとってくるんだよ」
そう言った瞬間モルトは眼を魚眼かと見間違うほどに見張った。
「クルト、もう一度言ってくれないか?最近耳が遠いのか今パール洞窟でヒカリゴケを取ってくるって聞こえたんだよ」
わざとらしい仕草で耳に手を当て、クルトの方に突き出す。そのモルトの耳元で
「そうだよ!今日はパール洞窟に行くんだ!」
大声で叫び、モルトがのけ反った隙にクルトは猛ダッシュでその場を去る。
「あ、クルト!お前!」
勢いよく飛び出していくクルトの背中をモルトは視界の端に入れ、即座に衛兵の詰所に駆け込んだ。
「ルル長官!急用のため早退させていただきます!」
事務所のような机だらけの部屋の奥。一人立派な机に座って一枚の紙を眺める桃髪の女性に向けてモルトは叫び、その場で衛兵用の鎧を脱ぎ始める。鎧下着と呼ばれる白い衣服が見え始めた時、モルトの髭面にペンが投げつけられた。ペンはモルトの額に直撃し、ルルと呼ばれた女性の胸ポケットに引き寄せられるように戻っていく。
「ここで脱ぐな。汚らわしい」
仰向けに寝転がったモルトだったが、即座に上半身を起こし、
「ルル長官!クルトがパール洞窟に行くって言ってるんだ」
焦った表情で叫ぶ。
「だからなんだ。冒険者が新しい狩場に出向くのはさほど珍しいことではない。お前が早退する理由にはならんだろう」
大きな三白眼の瞳を細め、両肘を机に置き、組んだ手の上に顎を乗せ、ルルの意識は完全にモルトに向いた。
「冒険者一覧をご存じですか?こちらに配属された時、ルル長官も一度目を通したはずです」
モルトの近くにいたこれまた高齢の男が立ち上がった。
「――クルトって五年間Fランクだっていう冒険者か?」
そこで何かを察したのか、ルルは神妙な顔で問いかけた。それに、詰所にいる衛兵全員が頷く。
「なるほど......」
ルルは今の体勢を崩さずに瞳を閉じ、数秒黙考すると、
「モルト、早退を許可する。衛兵鎧はそのまま着ていって構わん。最悪な事態にはさせるな」
そう命令し、自身の作業を再開した。その言葉にモルトは一瞬ぽかんとするものの、すぐに脱ぎ始めていた鎧を着なおし、挨拶もなく矛を持って詰所をでる。
「衛兵。クエストは受注していないがパール洞窟に行く許可をくれ」
そこでモルトは禿げ頭の巨大な男と出会った。
「ツルクさん。パール洞窟ですね。いいですよ」
そう言った瞬間ツルクは猛然と駆けだした。一瞬彼の横顔に見えた焦りの表情に疑問を抱きながらも、モルトは手元の手記に『ツルク パール』と書き記す。
「冒険者ってのは、他の職種に迷惑をかけるような職業じゃねえんだぞ......ったく」
そう言ってモルトもパール洞窟を目指して走り始めた。