エピローグ
とてつもなく長い間、お待たせいたしました。
今後もこういったことがあるかもしれませんので、気長に更新されるのを待て頂けると幸いです。
「久しぶりだなぁ、スキルに呑まれるの」
私は少し疲れた首をさすりながら本を手に立ち上がる。私のスキル、というよりかは異能力、『観測者』と私が名付けた力は私が過去に体験した物事や聞いた話などを映像化してくれるなかなかに便利な能力だ。
そして、今私が見たのは
手に持つ本の表紙を見る。文字が薄れ、タイトルすらわかりにくくなった本。
「私が、あなたに会う前の出来事で、あなたと出会った時の私の記憶よね」
そっと古びた本の表紙を撫でる。昔感じた質感も、そばにあった温もりも、何も感じられない。
私は、これを知りたくなかったのだ。
ポロッと水滴が本に落ちた。それは瞬く間に本に吸い込まれ、跡形もなく消えていく。
自然と本を持つ手に力が入る。
「懐かしいね。クルト」
忘れたことはない。初めて私のことを知っても避けず、むしろ受け入れてくれた。
「そうそう。最初は薬草から見始めたのよね。最初から花を調べれるわけがないーなんて言って」
私はまた本を開き、リングブルト草と大きく書かれたページを開く。
「調べたね、こんなのも。ほんと、最初の目的から大きく外れて」
自然と笑みがこぼれてきた。それと同時にかすかに胸を刺す痛みを感じた。
「ほんと、楽しかったね」
「あ、フィーネ先輩!こんなところにいたんですね。もうそろそろ混雑する時間帯になるので――ってフィーネ先輩!?」
声のした方を見ると、同じ受付嬢のネネがいた。はち切れんばかりに膨らんだクエストブックを見るに相当な仕事をこなしてきたらしい。
「わかった。今行くね」
ネネに笑いかけ、立ち上がる。
本はどこから落ちてきたのかわからない。私は持っていくことにした。
「フィーネ先輩、ダメです」
だが、ネネは私の行く先を遮った。
「なんで?私も行かなきゃ人手不足なんじゃ......」
「ええ、そうですよ。フィーネ先輩がいないと少々人手が足りないと思います」
なら行かせて、とは言えなかった。ネネの瞳に映る私の顔が涙でぐちゃぐちゃになっていたから。
私、いつの間にこんなに泣いてたの?
「そんな悲しい顔で受付に立たせるなんてできません」
私の頭をネネが撫でる。背伸びをして、体をせいいっぱい伸ばして、私のおでこあたりを撫でている。
「何があったのかはわかりませんが、今日の仕事はもう休んでいいですよ」
心が、涙を流しているのがわかった。クルトとの思いでが頭の中をフラッシュバックし続ける。その度に胸が締め付けられる。私の永遠の中で、最も濃密で、最も優しく、最も幸せな時間をくれたクルトの思い出は留まることなく思い出され続ける。
「先輩、辛いなら、話してみませんか?言葉に出せば心が楽になる、というのはよくある話です」
私は素直に頷いた。
その場に座り込み、ネネの胸に顔を埋める。
「私、ね――」
フィーネは静かにクルトとの思い出を思い起こし始めた。