フロンの冒険或いはレグルスの姉離れ・その四
思ったより速く打ち込めたので投稿。出来てからどんどんあげていくので待っててくれると嬉しいです。
自分のやっているソシャゲのイベントが始まったので次の投稿は遅れます(断言)
「何だか兄ちゃんたち小難しい話をしてたね」
「別に難しい事じゃないだろう。結局はレグルス、マグルなのか?ややこしいな、あいつが恥ずかしがってるだけじゃないか?」
「どういう事?」
「心配性もあるんだろうな、あいつはフロンに帰って欲しくて帰って欲しくて一芝居打ってまでフロンに厳しくした。だけどフロンは思惑通り家には帰らず、俺と一緒に冒険に出てしまった。改めて弟と名乗り出て説得するのが恥ずかしいか、怖いんだろ」
「ふーん、最初から僕は弟だ!って言えばよかったのにね」
「確かにな。そうすればフロンの目的も達成、危ない目に遭う必要も無かったかもな」
「久しぶりに会うお姉ちゃんにビックリしたのかな?」
「さぁ、何かしら考えが合ったんじゃねぇの?それにレグルスの方はすぐに姉と分かったのにフロンの方は全くレグルスの事を分かってなかっただろう?」
「本当だ!何でだろう?」
「知らね」
酒場に向かいながらアルトとさっきまでの会話の内容を話す。アルトはもう少し詳しく知りたそうな顔をしてるけど今日の飲みが奢りで決まった以上さっさと言って高い酒飲みたい。
「兄ちゃんは……家族が大事?」
「そりゃ大事だろ。アルトが危ない目に遭ってたら何を置いても駆けつけるよ」
「そっか……ありがとう。でも何時までも俺の真似っこはして欲しくないな」
「真似っこ?真似をするのも当たり前だろ?家族何だから」
「うん、まだ大丈夫だね」
「何がだよ…さっさとアンの酒場で飲もうか、今日は奢りなんだし」
「そうだね、急ごう!」
アンの酒場ではすでにギルのおっさんたちが飲み始めていた。フロンもどうやら打ち解けたようで四人で騒いでいる。……泣いてないか?
「おうリト!こっちだこっち!」
入り口から入ってきた俺と目が合ったギオンが俺を呼ぶ。すでに顔が赤い。いや、酒に弱いこいつが顔が赤いのは何時ものことだが妙に涙ぐんでないか?
「ギオン、出来上がるのが相変わらず速いな。そんなに強くないんだからあんまり飲み過ぎるんじゃないぞ?」
「馬鹿野郎!あんな話を聞いて飲まずにいられるか!俺は!俺は……!」
「あぁ?」
「リト!あんた!この子を泣かせるんじゃよ!」
「ら、ラリア?」
ギオンの隣に座っていたライフに首根っこを捕まれ顔を寄せられる。……残念ながらスレンダーなラリアに近づかれてもうれしくない。
「こんな小さな体で大きな事背負ってるじゃない!私はあなたを応援してるからね!頑張るのよ!」
首根っこを放されよく見るとラリアがいつの間に仲良くなったのかフロンを膝の上に乗っけて抱きしめてる。
「リトよぉ、おい」
「お、おっさん、何事だ?」
「お前、この嬢ちゃんに変なことしたらただじゃ置かねえぞ?しっかり面倒を見るんだぞ!?」
ギルのおっさんも何だか孫を可愛がる爺さんの目でフロンを撫でる。フロンもまんざらでもなさそうだ。
ダメだ。三人とも使い物にならない。膝の上で抱きしめられているフロンを見る。
「おい、どうなってるんだこれ」
「あははは……」
「笑ってないで説明しろよ。何で三人とも気持ち悪くなってるんだよ」
「実は…」
「なる程、三人の勢いに押されて自分の身の上やら目的ををペラペラ話したら三人とも感動してこうなった………ってことか」
「う、うん、悪い人たちじゃないって事は何となく分かったし、つい乗せられて話したらみんなこんな風になっちゃって…」
ギルのおっさんとラリアはもともと子供好きだし、ギオンは涙もろい。酒も入ればこうもなるか。膝の上で撫でられてるフロンも嬉しそうだし。
「生き別れの弟を探すために一人で冒険に出るなんていい話じゃねぇか!リトぉ!」
「私たちに何時でも頼って良いからね?お姉さんに任せない!」
「俺達はお前の味方だからな、安心しろ」
「三人とも声が大きいぞー、少し静かに飲めよ。あ、おばさん俺はプレミアエールを一つ」
酔っ払いどもは放って置いて俺も自分の飲みたいものを頼む。この店で一番高いプレミアムエール。奢りでしか頼まない。
「おお?リトのくせにプレミアムエールとは太っ腹じゃないか。今日は良い稼ぎだったのか?」
目敏く俺の頼んだものに注目するギルのおっさん。酔っ払ってても酒のことになると食いついてくるなこいつ。
「まぁ確かにワームルを久々に見かけたし悪くはなかったな」
「ワームル?珍しいな。確かあいつのよだれだったか?」
「そ、瓶で三本分は取れたな」
「羨ましいな、ワームルなんてもうしばらく見てないぞ……ちゃんと逃がしたか?」
「当たり前だろう。どこぞの金稼ぎ屋と一緒にするな。そもそもワームルを見つけたのは俺じゃないしな」
「……フロンの嬢ちゃんが?…よく初めての冒険では普通では会わない物と会うっていうが、嬢ちゃんも運が良いな」
「どこがだよ!僕あいつに肩まで飲まれたんだよ!?ヌメヌメしてたし何か暖かったし、リトはそれ見て笑っているし最悪だったよ!」
「あん時は悪かったよ。良い機会だと思って見てたんだよ。ほら座れ」
「肩まで飲まれたのか?それは良かったな。なかなか体験できないぞワームルに肩まで飲まれるなんて」
「ギルさんまでそう言うの!?何、僕が間違ってるの!?」
ギルの他にギオンもラリアも羨ましい、と言った目でフロンを見る。周りを見渡して無勢だと分かるとむっ、とした顔で席に座った。…もしかしたら、フロンには才能があるのかも知れない。
「だから言っただろうが、ワームルに飲まれるのは縁起が良いんだよ」
「もう最悪だったよ……」
話している最中に頼んでいたプレミアムエールがくる。普通のエールと違って全体的にキラキラと輝いている。俺もギルも少年のような目でエールを見つめる。
「おぉう、それがプレミアムエールか…」
「俺も飲むのは始めてだ。これ一杯で昨日の食事代超えてるからな。普通は頼まないが今日は奢りだから特別だな」
「ん?奢り?誰のだ?」
「あー、後から来るよ」
フロンにもレグルスたちが後から来ることを伝えてなかった。…別にいいか。来たら分かるし。
「ごくっ、ごくっ、ごくっ……くぅうう」
プレミアムエール、口に流し込んだ瞬間きめ細やかな泡と芳醇な香り、口溶けは柔らかくかといって弱くもない。普通のエールでは味わえない熟成された旨みが一杯に広がる。飲み物のはずなのにまるで濃いつまみを混んでいるような口当たり……口から喉へ、喉を通り胃の中で弾ける。……こ、これは、胃の中で味がする!?いや、そんなわけはないがそう錯覚しても可笑しくないくらいに一切が俺の体を満たす。まるで今まで飲んでいたエールが川の水と変わらないくらいに感じる。これを飲んでしまったら明日から俺はどうすれば良いんだ!今日の疲労が瞬く間に抜け、頭がスッキリとしてきた。
「これが……プレミアムエール……」
「「「「ごくっ」」」」
いつの間にか俺の飲む姿を見て四人ともつばを飲む。その四人の姿を俺は見つめ返すとにっこりと笑い店員さんを呼ぶ。
「プレミアムエール、四つ、追加で」
「「「「!?」」」」
「かしこまりまーした!」
すぐに四人の前にプレミアムエールが並ぶ。恐る恐る四人ともプレミアムエールを手に取る。
「リ、リト…お前って奴は…」
「今日の出会いに、乾杯」
「「「「!…かんぱーい!」」」」
ガシャンッ!
人の金で飲む酒はうまい。
その後もしばらく飲んでいると酒場の入り口から見覚えのある金髪とその仲間たちが入ってきた。
「お!レグル~ス、こっちこっち」
「レグルス!?」
俺がすぐにレグルスを席まで呼ぶとさっきまでのニコニコと飲んでいたフロンの顔が曇る。
「あぁ、それにしても賑やかだな。ギルさんたちも一緒に飲んでいたのか」
知っていたくせに初めてのように言いながら俺達のテーブルに座る。というかジルバに関しては本当にさっきの爺さんなのか?何時もの褐色イケメンだ。
「あん?レグルス?何でお前がここに居るんだ」
「今日はレグルスの奢りでな。ついでにおっさんたちも奢って貰え」
「え、いいのか?」
何時もならまだ酒場にいない時間帯のレグルスたちがここにいるのを訝しむも奢りと聞くやいなやするニコニコと座って貰うおっさん。しょうが無いね、奢りには誰も勝てない。
「リトと約束してしまってね。今日は僕が持つよ」
「いいねぇ、太っ腹じゃないか!」
大所帯になってしまったので大きな10人がけのテーブルに移動する。全員席に座り、おのおのが好き勝手に食べたいものを頼む。
「おぅ、ジルバ、お前がこの前言ってた遺跡のこと…ありゃあ間違いない、未到達の遺跡だ。お宝もあるかもな」
「ギルが言うなら間違いないな。今度アタックに行くか。俺達とお前たちとで」
「俺達だけじゃ不安だし、もう少し外から様子も見てみる。せめて入り口とその周辺だけでも安全を確認しておきたい」
「頼んだ。もし行くときには声かけてくれよ」
「了解だ」
「カリス、いい加減その恰好止めたら?みっともない」
「だ、誰がみっともないんだ!かっこいいだろ!この天をつくようにまっすぐ伸びた2本の角、我のこのマントだって特注品だぞ!ラリアこそそんなに胸元開いた服着て…ぺったんこのくせに!」
「……あんたは言ってはいけないことを言ったわ。上等その服燃やし尽くす!」
「落ち着け、ラリア、カリスも。こいつがぺったんこなのを気にしてるのはしってるだげぼろっ!」
「ギオン、あなたとのパーティーも今日までみたいね、今まで楽しかったわ」
「あわわわわ!ギ、ギオン大丈夫?」
「カリス、あなたが気にする必要は無いわ……あなたもすぐにギオンの所に送ってあげるから」
「あわわわわ!ジ、ジルバ!助けて!」
わいわいとみんなが話しているなかフロンとレグルスだけが無言で向き合っている。
「…………」
「…………」
「お、おいリト、何であそこはあんなに無言何だ?」
「あー、昨日フロン、レグルスのパーティー抜けさせられたんだよ。気まずいんじゃない?」
「あー……」
見かねたギルが俺に理由を聞くも理由が理由なだけに複雑そうな顔をする。パーティーを抜けさせることは決して悪いことではない。パーティーというのは自分の命を預ける必要がある。そのパーティーの中で不誠実な事や明らかに周りと実力の合っていない事はズレを生む。
そして、一瞬の判断を求められる状況ではそのズレがパーティーの崩壊、引いては自分の命を奪うかもしれない。
パーティーを抜けさせることは決して悪いことではない。そのため抜けさせた理由を聞く事も暗黙の了解になっている。
「レ、レグルス?」
「なんだ」
「あの、リトから聞いたんだけど、僕に貴重な薬を使ってくれたって……この服も、レグルスが買ってくれた服が凄く良い物なんだって!……ありがとう」
「………フロン」
「なにかな」
「僕は言ったはずだぞ?フロン、お前は向いていない。速く家にでも帰ったらどうだ?と」
「…そんなの、レグルスが決める事じゃない」
「確かにフロンの意思は僕の決めることじゃない。だけど僕はフロンだけのことを考えて言ってる訳じゃない」
「?どういう事」
「今はリトと一緒にパーティーを組んでいるそうだな」
「そうだけど」
「ならリトが一日で稼ぐ金額を知っているか?」
「それは…」
「知っているなら今日リトの稼いだ金額は?フロンと一緒にパーティーを組むことでリト自身の生活の質が落ちるかもしれない。落ちなかったとしても実力の合っていないパーティーはいずれパーティー全体の危険を誘う」
「………」
「おい、レグルス、お前言い過ぎじゃないか?」
「ギルさん、貴方ほどの人なら分かっているはずです。やりたい、だけでやっていけるほどこの世界は柔じゃない。才能が不可欠だ。今日は生き残ったかもしれない。けどフロンがこのまま続けていたら必ずどこかで命を落とす」
「…………」
「フロンだけなら良いかもしれない。だけどそのときに一緒にパーティーを組んでいた者、リトの命まで危険にさらすかも知れない」
「……っ」
「改めて言おう。フロン、君は家に帰るべきだ」
「おいおい、ちょっと待てよ」
2人の言い合いを黙ってみていたけど、2人だけで話し合うかと思ったらいつの間にか俺を出汁に話してるじゃないか……それは気に食わないね。
「レグルス、お前、一般論に逃げるんじゃねぇよ」
「リト、君には感謝してる。この機会を作ってくれて」
「そんなことはどうでも良いんだよ。俺が言いたいのは俺を出汁にして話を変えるんじゃないって事だ」
「……」
さっまで騒いでテーブルも静かになり俺達を見てる。
「いい加減さっさと言えよ。僕は君の弟ですよって」
「………へ?」
「………え?」
「「「「は?」」」」
「あ」
やべ、言っちゃった。