フロンの冒険・その三
どうしても設定を話しているような形になってしまう。三人称にも挑戦してみたい。
異世界転生系よりも転移系が好きなんです。自分も経験してみたいから。
読んでいただきありがとうございます。
「すまないね。探索も終わったばかりなのに、こちらの都合で時間を取って貰って」
「別に今日は疲れてないからな。疲れていたり、面倒だったらそもそも無視してるわ」
俺の言葉に苦笑いを浮かべるレグルス。その動作一つ一つが様になっている。まるで話に聞く王子様みたいな奴だよ。
「そう言ってくれると気が楽だね。あんまり時間を使うのも悪いし早速本題に入らせて貰おうかな。少しついてきてもらってもいいかな」
「おう、そうしろついでになんか奢れ『流星の剣星』」
「…ホントに面白いなリトは」
「『ピエロ』でも良いぞ?」
「…あの時はすまなかったね。気を悪くしたなら謝る。君の名前も知らなくて『ピエロ』の名前は有名だったから…。まさか目の前に立っていた人物が『ピエロ』だとは知らなくてね」
「気にしてないよ。むしろ気に入ってるわ『ピエロ』って格好よくない?」
「ただ、僕の方はその呼ばれ方はあまり好きじゃないから止めてくれると嬉しいかな」
「おっけー、人の嫌がることはしてはいけませんってばあちゃんも言ってたから止めてやるよ」
話してる最中に歩き出したレグルスについて行く。そのまま大通りを外れると人の通りのほとんど無い路地に出る。
路地の先には空き地があり中央にはベンチも備えつけてあった。
「兄ちゃん気をつけろよ、あいつ兄ちゃんの事を狙ってるかも……」
俺の隣でアルトが心配そうな声を出す。
「そんなわけあるか。あいつの恨みを買った覚えなんて………無いわけじゃないがあれくらいでわざわざ闇討ちするほど小さい男じゃないだろ」
「んーそれでも、気をつけてね」
「了解」
アルトと離れ、レグルスに続いて空き地に入る。先に空き地に入ったレグルスは空き地のベンチに座ると隣を叩く。
「少し座って話をしたい。隣でもいいかい?」
「許可取るくらいなら聞くんじゃねーよ。ほら、さっさと話せ」
空き地の中央のベンチに二人で座る。あたりは静かで人の気配もない。
「話って何なんだ?手っ取り早く済ませてくれ」
「うん……君には、姉さんから手を引いて貰いたい」
「………は?」
隣に座っているレグルスを見る。ふざけているようには見えん。と言うかこいつはそもそもそう冗談をいうタイプでもない。
「君が姉さんを気にかけているのは分かってる。だけど僕は姉さんには危ないことをして欲しくない。早く安全な家に帰って貰いたいんだ」
「えっと……」
「もちろん君にも対価は払う。姉さんの事を見て貰ったお礼と使わせてしまった時間。君が望むなら僕は君の力になる」
「いやいやいや、ちょっと」
「頼む!姉さんから手を引いてくれ!」
隣に座っていたレグルスが立ち上がり俺の目の前まで移動する。そのまま膝をついて頭を地面に……。
「ちょっと待て!おいちょっと待て!」
……つけさせるわけにも行かないのでとにかく隣に座り直して貰う。
いきなり土下座とか止めてくれ、イケメンの土下座とかもはや脅迫だ。
「すまん、レグルス。お互いにどうやら認識がずれてるところがあるみたいなんだが、少し確認したいんだけどいいか?」
「あぁここまで来たら僕も腹をくくろう。何でも聞いてくれ」
「そんなに覚悟決めることじゃないけど……とりあえず、お前の要望は姉さんから手を引いて欲しい……で、合ってる?」
「そうだ」
「姉さんって、誰?」
「フロスト姉の事だよ。今日一緒に森に行っていただろう?」
「………」
………おっけー、おっけー、つまりあれだ。このレグルスが、フロンの言っていた弟と言うことか?
レグルスを見る。身長は俺よりも少し高い、肩まで伸びた金髪は光に反射して輝いている。
顔立ちも整っていてまさに王子様の手本のような綺麗な顔をしてる。スラリとした体つきだが筋肉はしっかりついていて一流の剣士であることは疑いようのない。俺がこの街に来るよりずっと前からこの街で活躍していて周囲からの信頼も厚い。
「………」
対してフロン。身長は俺の胸届くか届かないくらい。髪の色も薄い水色がかっていて顔出しはまさしく子供。華奢で力仕事には向いていないのが一目で分かる。この街に来てどれくらい経つかは知らないがそこまで長くはないだろう。
二人の並んだ姿を想像してもよくて親子、いや、そもそも全く似ていない。
「え、ホントに?」
「何を聞きたいかは分からないけど正真正銘フロンは僕の姉だよ」
大真面目にうなずくレグルス。
「いやいやいやいや百歩譲ってもお前の隠し子っていわれた方が納得できるわ!え?弟?姉?あり得ないだろ!?」
「僕が言うのも何だが少し落ち着いてくれリト。あと姉さんが隠し子なんて止めてくれ。それを言うなら僕の方が……」
「あぁもうそういう重い話は言わなくて良いけど、えー……まじで姉弟?」
「マジだ」
………ま、まあここでこいつが俺をだますメリットも分からないし騙すならそれこそ親子とでも言ってくれた方が納得できる。しかし、あのちんちくりんフロンとレグルスが姉弟か…。
「いや、待てよ。ならなんでフロンの方は気づいてないんだ?そもそもレグルスのパーティーに入っていたはずだろう?」
そもそも俺とフロンが一緒にいるのは昨日酒場でレグルスのパーティーからフロンが追い出されたからだ。弟ならフロンは気づくはずだろ。
「それは…」
「長くなりそうなので私から説明させてもらいます。フロスト様とレグルス様が一度も大きくなってからに会ったことがないからです。それに、レグルス様も偽名を使っていますから」
「どんどん情報量を増やすのは止めてくれよ……」
気づいたら空き地の入り口に全身黒い服装をした白髪の爺さんが立っていた。
爺さんはゆっくりと此方に向かって歩いてくる。
「なぁ……レグルスあれ誰?お前の知り合いだろ?」
「僕の師匠だよ。お世話係といった方が良いかな。いつもは変装してジルバと名乗って貰ってる」
「え!お前のパーティーメンバーの!?」
「そのジルバだよ」
「うそぉ」
レグルスのパーティーメンバーは三人組、剣を扱うレグルスに魔法使いの格好つけ坊ちゃんのカリス、そして万能型のジルバ。
俺の知っているジルは高身長の褐色イケメンだったんだけど……。
「フロスト様とレグルス様は幼い頃は二人一緒に育てられました。それはそれは仲がよく、フロスト様の後をトコトコとレグルス様はついて行ったものです」
「ジルバ、簡潔に説明しろ」
「しかしお二方が大きくなるにつれ、二人を競い合わせ、より強い次期当主を求める!という周囲のアホな意向に押され離れて暮らすことを余儀なくされたのです。と言うか先走ったのです」
「その話……聞かなきゃダメ?」
目の前まで歩いてきた爺さん改めてジルバが説明しようとするけどこれ以上厄介事に巻き込まれるのは勘弁して欲しい。
「ああ、ここまで来たら君にも事情は説明しておきたいからね。あとジルバ、ちょいちょい口が悪くない?」
「もうお前嫌い」
「レグルス様とフロン様はハープ地方の有力者であるマロン家の跡取りです。レグルス様の本当の名前はマグル・マロンと言います」
「お前、何でレグルス何て名乗ってるんだ?」
「え、格好いいだろ?」
「まあ、格好いいな」
「しかし、家を継げるのはどちらか一人、レグルス様は優秀でした。フロスト様と違い幼い頃からその力を示され周囲からも時期主はレグルス様だろうと言われておりました」
「お前、見るからに優秀そうだもんなフロンと比べたら」
「フロスト様は良くも悪くも年相応で有りましたので……しかし、レグルス様は姉上であるフロスト様の事を考え早々に家を抜け出したのです。自分が居なければ正統な血筋である姉が当主を継げるだろうと………そして、たどり着いたのがこの街でした」
「まさかジルバがついてくるとは思わなかったけどね」
「当たり前です。このジルバ、レグルス様を一人にするはずがないでしょう」
二人でにこやかに話してるけどいきなり訳も分からない情報を教えられたこっちの身にもなってくれ…。
「お前ら、血が繋がってるわけじゃないのか?」
「ああ、姉さんと違って僕は拾われたんだ。だからマロン家の正統後継者は姉さんを置いて他にいない」
「……お互いに面倒臭い勘違いしてるんだな」
「どういう事だ?」
「気にするな。こっちの話だ。お前らは関係ないよ」
「……さてリト、簡単にだけど僕たちの事情は分かってくれたかな?」
「さっぱりわからんかった」
俺の言葉にまた苦笑いを浮かべる。
「此方としてもいきなりこんな話をされたら混乱するのも分かる。君の聞きたいことを一つずつ答えようか」
「あー、……そもそもお前らいくつなんだよ。フロンなんて見た目10にもなってないぞ」
「僕たちは今年で16になる。ちなみに家を出たのは三年前の事だよ。姉さんと最後にあったのは八年前かな」
「……それが一番衝撃だよ」
こいつらが何かしらの事情持ちと言うことは分かった。一般人でもない。ハープ地方の跡取り息子に娘ってことだな。
「この話を聞いた俺が狙われたり、お前の頼みを断ったら何かしらのお家騒動が何かに巻き込まれたりするのか?」
「はは、それはないよ。そもそもお家騒動なんてたいしたことを出来る身分でもないしね。この頼みは純粋に僕自身の頼みだ」
「まぁ話を聞く限りお前がフロンの事をえらく大事にしてるのは分かった。何でそこまで大事にしてるのか理由まで知りたいとは思わん。だけど気持ちは伝わった」
「なら」
「それを踏まえた上で、すまないが断る」
「………」
レグルスの顔に不快感は感じられない。どちらかと言うと困惑してる様子だ。ジルバの方は静観の姿勢を取っている。
「理由を、聞いてもいいかな?」
「別に対した理由でもないぞ?」
「断られた身としては気になるからね」
「簡単だよ。フロンが家に帰ることを望んでないみたいだからな」
「っ、姉さんは外の世界がどれだけ危険なのかも知らないんだ!このまま大きな怪我をする前に家に帰った方が姉さんの為なんだよ!」
「知ったこっちゃないね」
「………」
「ならお前が直接伝えれば良い。なんで赤の他人の俺がそこまで心配しなきゃならん」
「それは……!」
だんだんとレグルス雰囲気が険悪になっていく。念のため体をベンチから少し浮かせて何があっても良いように待機しておく。
「お前がフロンのこと考えてるならお前が伝えろ。俺を面倒くさい伝達役で使うなそもそもフロンは……」
今日のフェルムルの森でヨモジの葉を探している最中に俺はフロンになぜそこまで頑張るのか理由を聞いてしまったから。
『なぁ、フロン。レグルスも言ってたけど俺もお前は向いてないと思うぞ?てかそのよだれ拭いたら?』
『ならタオルの一つでも寄越してよ!…それに、リトもそう思うんだね』
『まぁな、今までの動きを見ても根本的にお前は体を動かすことに慣れていない。こればっかりは才能がものを言う』
『……はぁー分かってるよ。お母さんからも家を出て行くことは反対されたし』
『…それ、俺が聞いていいのか?』
『せっかくだから聞いてよ。……僕がここまで来たのは家族を探すためなんだ』
『………』
『弟が居るって言ったでしょ?情けないんだけど僕は弟の顔もあんまり覚えてないんだ。最後に覚えてるのは怪我をさせちゃった思い出だけ』
『何だ、腹違いか何かか?』
『そ、そこまでデリカシーのない質問は初めてだけど…。そう、弟と違って、僕は拾われた子供なんだよ』
『へぇ』
『きょ、興味なさそう』
『そりゃお前が捨て子だからって何なんだって話だしな。それでなんだ、あったことがない弟でも探しに来たのか?』
『会ったことはあるよ。昔は私の後をメソメソしながら着いてきてたんだよ。なのに会っていないうちに弟はいつの間にか旅に出てるし、分かれた後一回も会ったことないのに僕に家を任せるなんて言ったらしいんだよ?信じられない!…僕の気も知らないで』
『どうでも良いけど、探す当てはあるのか?』
『…………』
『マジかよ。考えなし?ひどいな』
『う、うるさいなぁ!ちゃんと考えてるから!…弟はマグルって言うんだけどマグルって呼ぶといっつもフロン姉!って後ろをついてきてね…』
『ホントかよ………あ、後ろ』
『へ?…っひゃあ!またこいつぅうう!』
『頑張れ頑張れ~』
あの時は簡単に聞き流していたがレグルスの話で繋がった。カレサレ野でレグルスが俺を睨んでるように見えたのも家に帰って欲しいフロンが俺の後ろにいたからだろうな。
「なんだお前ら面倒臭いな」
「ま、また罵倒」
「言っとくけどお前の頼み事に関しては聞けないな。どうしてもフロンに帰って欲しいんだったら直接お前から伝えろ」
「……はぁ、まさか頼み事をしに来て説教されるとは思わなかったよ」
「説教でも何でも無いだろ、当たり前のことを言っただけだろ」
「当たり前、か。それが難しいんだけどな」
「難しくねぇよ。家族なんだから」
さっきまでの険悪は雰囲気はすでにない。どこか力の抜けたような表情のレグルスは相も変わらず苦笑いを浮かべている。
「だけど確かに僕は考えすぎていたのかも知れないよ。ありがとう、少し考えるよ」
「お礼なんて食えないもの貰っても困る。酒場で奢れ」
「え?」
「昨日の酒場だよ。ギルのおっさんたちと飲んでるから後から来い」
「いや、僕は」
「分かりました。必ず向かわせましょう」
「ジルバ!?」
俺の誘いを断ろうとしたがレグルスの後ろにさっきまで控えていたジルバの返事に驚く。別に絶対服従って訳じゃないんだな。あの爺さん。
「おう、話が分かるじゃないか。場所は分かるな?」
「ええ」
「んじゃあ先に行って待ってるから、ちゃんと有金持ってこいよ」
「ちょっと待ってくれジルバ!僕は行くなんて一言も」
「レグルス様、何時までフロスト様と会わないつもりですか?」
「い、いや」
「正直、私も面倒臭いです」
「めんど!?」
「ぷっ」
ジルバのいきなりの発言にショックを受けるレグルス。思わず笑ってしまう俺。
レグルスは動揺したままフラフラと立ち上がる。
「何だ?どうしたんだよジルバ!?」
「フロン様がこの街に来て、レグルス様とパーティーを組んでから二ヶ月、いつ切り出すのかと待っていたらまさか一度もまともに話をしないとは思いませんでした。対応はすべて私かカリス様任せ、自分はほとんど会わず昨日に至っては暴力沙汰まで発展したとか……」
「ジ、ジルバ?」
「正直さっさとお互いに話し合えば良いんです。次期当主だろうがそんなもの後から適当に誤魔化せるんですから」
「ジルバ……」
「リトさん、先に行っておいて下さい。私も後からレグルス様と一緒に向かいます」
「おう、よろしく~。レグルスも後でな」
「…………」
未だにショックを受け動揺してるレグルスを放ってジルバに手を振りさっさと俺は空き地を後にする。俺の頭は一つのことで一杯だった。
「今日は奢りになりそうだな。……よし」